彼の所有物に触れるなかれ

CCCで王様と契約した後、FGO次元に飛ばされたちょっと特殊な夢主


やはり当日まで彼には言うべきではなかったかもしれないなと自称天才を称する画家は深く反省していた。
片眉を吊り上げ、画家──ダヴィンチを睨みつける彼が大変不機嫌である事は火を見るよりも明らかであった。

「梓のことを奴らにも伝えていたのか」
「彼女をこれから一マスターとして扱い、レイシフトさせるには梓ちゃんの存在をきちんと提示しておかなければならなかった……それは貴方も理解してくれるね?人類最古の英雄王」
2017年12月26日を以て紅月梓と藤丸立香は役目を終える。
後に彼らに待ち受けるのはあまりにも莫大な詰問の数々だろう。

炎上冬木にて窮地に陥っていた藤丸立香とデミサーヴァント、マシュ・キリエライトを英雄王と共に救いそれから以後も人理の為に彼と共に幾度も次元を飛び越えてきた彼女……紅月梓の生い立ちは一切開示されておらず、依然として謎に包まれている。
如何なる状況下でも冷静に判断を下し、的確に敵を排除する。
あまりにも手馴れた手腕に当時カルデア職員内でも梓をどう扱うべきか論議が成された程だ。

「それで我に問を投げた……そういう解釈で相違ないな。しかし我が知るのは契約を交わした月の裏側での梓のみよ」
「以前少しだけBBが話していた事だね」
「仮にそれ以外で梓の事を知っていたとしても貴様らに語る義理立てはなかろう」
もしこの場にギルガメッシュのマスターである少女が居たのであれば「そんな言い方しなくても……ごめんなさい、ダヴィンチさん」とやんわり王を宥めてくれていたのかもしれないが、生憎梓は所用で席を外している。

……否。今考えるとこの状況になるのを想定していたギルガメッシュが上手い具合に言葉を並べ立て、梓をこの場から遠ざけたのかもしれないとダヴィンチは考えを改める。

「どこから現れたかも知れない梓ちゃんに深い興味と関心。そしてその能力を上手く使役出来ないかと目論んでいてもおかしくはない」
「我から梓を奪うつもりであればそれが如何に愚かしい行為か身を以て知らしめてやるほかあるまい」
下ろしている髪をくしゃりとかき上げた先にあるルビー色の瞳に映るのは査問団に対する明確な敵意……いや、殺意。
梓を我が雑種と呼び、何百、何千と所有する物の中でもとりわけ大切に扱っている所有物に誰とも知らぬ手が伸びようとしているのだ。
彼が憤怒しないわけもないだろう。

「我に命令を下し、またそれを承諾するのはもう一人のマスターでもなくこれから訪れる査問団の輩でもない。我が雑種、梓ただ一人と心得よ」
「だよねぇ……貴方ならそう言うと思っていたよ」
「分かりきっていることに時間を割くとは貴様らしからぬ事だな。要件が済んだのであれば……」
「やっと見つけた〜。ギルが珍しく私の作ったクッキーを食べたいって言ってくれたから、いつもより力を入れて沢山作ってきちゃった!!ダヴィンチさんも良ければどうぞ」
パタパタと軽快な音と共に駆けてきた少女はダヴィンチの姿を視認するなり皿に盛られた溢れんばかりのクッキーを予め用意していた包みに詰め込むと、彼女の手に握らせようとした。

「莫迦者。それら全ては我の物。第三者に譲り渡すことは許さんぞ」
「えぇ……。でもこんなに沢山あるんだし、流石のギルも食べきれないでしょ?ダヴィンチさんには日頃からお世話になって──きゃあ!」
「そういう訳だ。さらばだ」
有無を言わさず梓の膝裏と背中に腕を回し抱き上げたギルガメッシュ王は瞬く間に姿を消した。

去り際に浴びせられた絶対零度にも値する冷めた眼差しにダヴィンチは自身でも気付かぬうちに身震いをしていた。

極夜