独りの空間で

英霊強制退去後の夢主の独白
オリジナル設定としてマスターの記憶からギルガメッシュの記憶は消えています

昨日は重厚そうな金属……鎧がすれるような音。
一昨日は無骨ながらも私の頭を優しく撫でる手。
三日前は聞き慣れた人を小馬鹿にしたような高笑い<いいや、私はあの声を知らない>

──それなら今日は?

あまりにも広くなってしまった<何故広くなったなどと思うのか>無機質な部屋の隅にあるベッドの上で意識を覚醒させる。
室内はしんと静まり返り、物音ひとつ響かない。

右手に残る赤い奇妙な模様は間違いなく私が最近まで英霊サーヴァントを使役していた証に他ならない。
最も彼らが強制退去となってしまった今この令呪は何の意味も成さない、消したくても消えないアザ同然なのだが。

気が付くと右手の令呪を撫でるのが癖になっていた。
見れば見る程に焼き付いた令呪は国を統治する偉大な王が身につける冠──王冠を模しているような気がしてならない。
それなりに知名度の高い英霊を従えていたのだろうと今まで七つの特異点を共に巡ってきた英霊パートナーに思いを馳せる。
幾重もの苦楽を共にしてきた"彼"の名前はおろか、クラスさえ曖昧だなんて自分の事ながらおかしな話だ。

「私の令呪って立香くんのと大分形が違うね」
私の隣に佇む黒いモヤ……否、英霊はその言葉に喉を鳴らす。
……駄目だ。何度記憶を掘り返そうと試みても黒いモヤが何と返答したのか、冒頭の音すら思い出せない。
たった数日間の出来事だというのに私ときたら一体どうしてしまったのだろう。

ベッドに四肢を投げ出し目の前に広げた掌の刻印を見つめていると唇が勝手に音を紡いだ。

「ぎる」
その音がどうしようもなく愛しくて、恋しくて、切なくて。
突如胸を襲う空虚感(気付かないフリをし続けていた他ならない)に頬を伝う雫。
私がこうして童のように涙を流しているとすかさず雫を掬いとってくれていた人は、居ない。
堰を切ったように溢れ出る涙の片隅でちらつく眩い黄金と鮮血のように鮮やかな赤。

助けて。私を一人にしないでよ、ギル。

極夜