輪廻転生を断ち切る
※悲恋 暗い
私の頬から滴っているのは涙かもしれないし、ただの雨水なのかもしれない。
それにしてもこの時期の雨は冷たい。体の芯まで冷えてしまいそうだ。
「紫月」
戦いだ風が運んできた声はこの世で一番愛しく、憎むべき男のものだった。
俯いていた視線を上げれば今にも泣きそうな悲痛を体現したような顔をしながら唇を噛み締める三成の姿。
…こんな顔死ぬ間際まで見たくなければさせたくもなかったけど状況が状況だ、仕方がない。
「俺は、お前を殺したくない」
「相変わらずあまっちょろい考えしてるね」
「武器も構えず総大将の俺と言葉を交わしているお前が言えたことか」
ごもっとも、と鼻で笑って曇天の空を見上げる。
「人は死んだら皆生まれ変わるんだって。今の世で恋人や配偶者だった人とは兄弟になるらしいよ。だから夫婦間でよく交わされる来世でまたって言葉は嘘の塊なんだって、三成知ってた?私はそれを聞いた時、絶望した」
いつ命が散るとも分からない戦国乱世でやっと大切な人が見つかったと思ったら敵同士で、互いが互いを殺し合うような立場になってしまったのに来世でも幸せにしてくれないの?って。
「私たちが生まれ変わって兄弟になったらどっちが上なんだろうね?こんな生意気な弟は嫌だな」
「俺も紫月のような無頓着な姉はお断りだ」
くすくす笑いながら口元に手をあてがう。指は恐ろしく冷えきり、唇の体温を奪い去ろうとしている。
ひとしきりに笑った私は懐から短刀を取り出してそれの鞘を投げ捨てた。
「来世で兄弟として生まれ落ちて三成と愛し合えないのなら私は転生の輪から外れます」
何をする気だ、と訝しんだ視線を向ける三成を前に短刀を自分の腹に突き立て、歪に唇を吊り上げる。
「…自害した者は永久に転生出来ないんだって。さようなら三成」
もし聞いたとおり私が転生出来ないなら本当に今生の別れだ。
三成が来世でどんな人になるのか見たかった。
どの時代でも変わらず異性から熱い視線を集めるもののその性格で大半の人から嫌われてしまうに違いない。
今と何も変わらなそうだと人知れず笑みを零す。
「…ご…めん、ね」
下がってくる瞼と眠気に耐えられず瞼をゆっくりと閉ざしていく。
私の体を揺さぶる三成の体温を感じながら私は意識を手放した。
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極夜