輪廻転生を繋ぎ止める


重い瞼をやっと押し上げたのに辺りは暗澹、で覆われ音一つしない。
ここが無の空間だろうか?輪廻転生の輪から弾かれてしまった私はいつまでここに居ることになるのだろう。
ふぅと息を吐き出し何もない空間に腕を伸ばす。

「へ…?」
誰かの手が腕に絡みつき力強く私の体を引き上げる。
視界が白に覆われ、あまりの眩しさに私は両目を閉じた。

***

「何がなんやらさっぱりだね」
足元に纏わりついている熱に問いかけても答えが返ってくるはずもなく、私は場所に居た時のように大きく息を吐き出した。

白を基調としたシンプルな部屋、それが私の住まいだ。
あの服はどこにしまったかな?と段ボールの群れに向かうと後を追うように響く鈴の音。

「すぐ戻るからそこに居ていいよ"三成"」
愛猫はにゃーと低く鳴くとまた足に顔を擦り寄せる。
艶々とした毛を優しく撫でてやれば嬉しいのか先よりも高い声で鳴いた。
光沢のある茶色の毛、滅多に甘えてこないツンツンとした性格が彼を思い出させるからと我ながら単純すぎる理由で飼おうという気になったなと思う。

「…やっぱり一目だけでも見たかったな」
転生するには死んでから50年の月日が必要だという。
私が死んだ時、三成は二十そこいらでそれから天命を全うしたとしたら…私が彼に会うときはしわくちゃのおばあちゃんかもしれない。(まず会えるという確信すらないのだけど)

突然視界の隅で三成が蹲った。
まだご飯には早すぎるしどうしたのかと抱き上げた瞬間あの世界で最後に見た光に負けず劣らずな光に包まれ、また瞳を閉じる。

「なんなの今の…」
変わらずそこに居る三成がみゃあとひと鳴きしてお風呂場に駆け込む。
洗ってほしいという意思表示なのだろうか?そう言えば久しく洗ってなかったなぁ。
少し待ってね〜と三成に声を掛けながら浴室の扉を閉めた。

***

「有り得ない。これは夢かね」
「明後日の方を見て現実逃避するな」
現実逃避したくなる私の気持ちも察して欲しい。
この世界の誰が可愛い三成(猫)が湯を浴びた瞬間三成(人間)になると思います?
咄嗟に目を隠したから三成の全裸を見ずには済みましたけれども!

「ごめんやっぱり意味が分からない」
「世の中知らぬ方が良いこともある。それより俺にも衣服をくれ」
今がどれだけ暖かい時期といえど流石に長時間全裸というのは宜しくないだろう。
ましてやあの三成となれば。

「近所のウニクロで買ってくる!サイズはMでオッケー?」
「お前に任せる。だから早く帰ってこい」
くしゃみをもらす元愛猫の為に全力で駆ける紫月の顔は今までのどんな瞬間よりも輝いていた。


prev next
[back]
極夜