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ろくに睡眠も取れず、重くてショボショボする瞼を擦りながら渡されたピンクの可愛い制服に袖を通した。
この制服を見た時点で何故私は何も思わなかったの…と後に私は自分の察しの悪さに大きな溜息を吐く事になる。
事前に聞いていた荷物は前日から鞄に詰めている。一緒に登校する約束をしている彼に迷惑を掛けてはいけないし今日は早めに出よう。
鞄を肩に掛けお父さんに先に行くねーと声を掛けてから目と鼻の先のお店を目指す。
取りあえず店先で待っておこうと立ち止まり腕時計を見る。遅刻とは程遠い、たっぷり時間は有り余っている。
「ふあぁ…おはよう菜乃ちゃん早いね」
噛み殺しきれずに出た欠伸に口を覆いながら現れた遊戯君に釣られて思わず私も欠伸を漏らす。
おはようと返しながら眠気からかしきりに瞼を瞬く彼に言葉を続けた。
「夜ふかししてたら身長が伸びなくなっちゃうよー」
「いつも早く寝ようと思ってるんだけど気付いたら夢中になってて…」
私のイタズラっぽい笑いにへにゃりと力の抜けた笑顔を向ける遊戯君。何が彼をここまで熱中させて、深刻な睡眠不足に陥れているんだろう…?
首を傾げ透き通ったアメジストの瞳を見つめながら問うと、次第に彼もまたイタズラっぽい表情を浮かべてゆく。
「完成するまでは内緒なんだぜー!」
凄く気になるけど、無理矢理聞けるほど親しい間柄でもなければそれを聞きだせるような話術も心得ていないし…。
悔しさとそれが一体何なのか綯い交ぜになりさぞ酷い顔になっていたのだろう。
遊戯君は悪戯っ子のような笑顔を仕舞い込むと、昨日から何度も見た穏やかで優しい顔で再び口を開いた。
「なんてね!なくしちゃったら大変だし学校で見せるよ。じゃあ行こう?」
「(遊戯君は優しい人だ…)」
昨日挨拶に行ってほんの数十分喋っただけのほとんど初めまして状態の人間の案内を快諾してくれて、初登校でガチガチの私の緊張を解そうとしてくれたに違いない。
自分より少し下にある心優しい彼に知られないよう笑みを浮かべながら私達は学校に向かって歩き出した。
***
先生の後ろを付かず離れずの距離を保ち追従する。1-Bと書かれた教室内がざわついているのは事前に私(転校生)が来ることを聞かされていたからだろう。
先に教室へ入って生徒達に静かにするように!と注意していた先生が視線を投げてくる。
入って来いと言う意味だと察した私はいつも以上に早い心音を刻む心臓を落ち着けるように胸の上に手を置いて深呼吸を一度。
革靴を鳴らし騒がしい教室に飛び込めば外から聞こえていたざわめきと視線が頭のてっぺんから爪先の全身に向けられて気まずさに視線を彷徨わす。
瞳がある一点で釘付けになった、というよりも私を凝視する紫の瞳と視線が絡まった。
やや間を置いて微笑を向けてくる彼には見覚えがありすぎた。何よりその髪型は今のような喧騒の中でも一際目立っている。
先生の間延びした声を右から左に聞き流しつつ私も遊戯君の視線に応えながら口元に緩いカーブを描いた。
今日から始まる新しい高校生活はどうなるのだろうか。
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極夜