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自分でもびっくりする程に疲れていたのか、いつも以上に全身を包むベッドの柔らかさにこれまで感じた事のない幸福感を感じた。
私の記憶が確かなら城之内君から最後のピースを渡された遊戯君はパズルを完成させて”彼”と会うことになる。
…あ、でも暫くは後の転校生みたいにもう一人の自分と記憶の共有は出来ないから会うって言い方はおかしいかな?
ベッドから上体を起こし左手のバングルを見つめる。父にこのバングルの詳細を問うてものらりくらりと躱され真相は分からない。
窓から差し込む月の光を受けそれはいつにも増して輝き神々しく見える。

「うわわっ!」
左手、もといバングルから漏れた眩い光が部屋を満たし包む。
今までにない事にパニック状態に陥っている間に光は少しずつ弱まっていき、左手のバングルは再び沈黙した。
もしかして………。

「もう一人の遊戯が、目覚めた?」
……まさか、ねと思いつつ掛けてあったパーカーを羽織って階段を駆け下りる。
時計は深夜と言われる時間を間も無く迎えようとしていたが、そんな事今は気にしている暇はないと飛び出した。
(お父さんが今日残業で助かった…)

***

「ゆ、うぎ…?」
ゆっくりと振り返った彼の額にはウジャド眼が浮かび何か一仕事を終えてきたように見えた。
昼間の穏やかで優しい雰囲気を微塵も感じない近付けば刺されかれない研ぎ澄まされた鋭いナイフのような瞳に他を威圧する重々しいオーラを纏わせていたが、私と分かるや否やすぐにそれを解いて口を開いた。

「こんな時間に女一人で出歩くのは感心しないな」
「あー……。遊戯君の首から下がってるのパズルだよね?完成したんだ良カッター!」
…我ながら全く脈絡のない話を叩きつけてしまった…。話を逸らしたかったのに一番触れてはならない千年パズルに触れてしまうだなんて自爆行為じゃない。
あっちもはあ?とある意味して当然な表情を浮かべた後俯いちゃったし!察しの悪い私の馬鹿ぁ!!

「お前、気付いてるんだろ」
「ナ、何ノ事カナ!?」
「目が泳いでるぜ」
ウッ!と息が詰まらせる私に彼はフッと口角上げて観念しなと付け足す。
これ以上どうしようもないと悟った私は大きく息を吐き出した。

「遊戯君とまるで雰囲気が違うから直ぐに分かったといいますか…貴方は誰なの?」
「彼を傷付ける者ではない。それだけは信じてくれ」
「分かった貴方の言葉を信じる。…ところで君の事は遊戯って呼んでいい?呼び分けは必要だと思うしね。私は菜乃って呼んでよ」
「お前…菜乃は驚かないのか?」
「顔に出てないだけでめちゃくちゃ驚いてるから大丈夫」
全ては円満に事を進める為だ。嘘を盛ってしまったが、この範囲なら容認されると思いたい。(もう一人の彼に無関心すぎるのも逆に怪しまれてしまいそうだしね)

「遊戯君には君のこと言わないから安心して。じゃあ、またね」
背を向け左手をフラフラ宙に漂わせている、といきなり手首を掴まれた。
彼の突然の行動に動揺しながら首だけ後ろを向ければ不思議な感情を宿した瞳の遊戯と目が合った。

「どうしたの遊戯。まだ何かあった?」
「あ、ああ…」
歯切れ悪く母音を発した遊戯をじーっと見つめること二分ちょっと。ようやっと彼が口を開いた。

「その、バングルは…」
「ん?」
「……いや何もない。おやすみ菜乃」
バングルから指を離した遊戯は自宅の扉の中へと姿を消した。
結局の所遊戯は何が言いたかったんだろう。何も検討がつかないまま、私も彼に倣って目先の我が家に向かう。
バングルが淡い光に包まれていた事に気付かないまま。


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極夜