もう少し話そうか

何が起きたのかひかるには理解ができなかった。飲み干したはずのアイスコーヒーがまだ残っていたのかしら?でも薬師寺さんの話にうんざりして飲み干した記憶が確かにある。それに、確かに日は暮れていたはず。でも外に目をやると真っ白な空が広がっている。困惑しているひかるをよそ目に芽依はプリン・ア・ラ・モードを呑気に食べていた。
「貴女は……超能力者か何かなの?」
ひかるはふと我に帰った。そして自分が投げかけた間の抜けた質問に恥ずかしくなった。
「ハハハハ!」
芽依は乾いた笑い声を上げた。
「超能力って言うとあまりにも範囲が広すぎるなぁ、私は『元に戻せる』。ただそれだけだよ。」
ひかるは当然のように言い放った芽依の言葉が信じがたいものであるとはわかっているものの、事実飲んだはずのアイスコーヒーは最初出された状態に。もちろん芽依の分も、そして時間も。全て元に戻っていた。

「元に戻すと言っても戻された間の出来事は記憶されたままなんですね。」
「何を元に戻すかを指定できるからね。私はひかる以外を元に戻した。悪くない能力だろ?永遠にここでプリン・ア・ラ・モードが食べられる。」
「高価な食べ物を永遠に食べられるのは確かにいいですね。」
「それくらいしか使い道のない能力なのよね〜。」
あっという間に芽依は注文した食べ物を平らげていく。ひかるはその姿をただ見つめていた。

「あ〜やっぱり甘いものは最高ね。」
「まだ何か私にお話があるんですか?」
疲れているから帰りたいのよね。そう言いかけてやめた。
「本題に入ろうか。」
先程までのヘラついた顔つきとは一転して芽依が真面目な顔つきになったのを見て、ひかるに緊張が走った。何を言われるのだろう。
「ひかる、君は何かサークルの見学とか行ったかい?」
サークル、そんな話かとひかるは拍子抜けした。
「いくつか見学に行ったのですが面白そうなものはなかったので入る予定はないです。」
「因みにどこのサークルの見学に行ったんだい?」
「文芸部、心理学研究会、哲学研究会、ESSクラブ、語学サークル、後はボランティアサークルですかね。どれもイマイチだったので入るのをやめました。」
そもそも人文、文化系サークルは活動が制限される上に人も少ない、その上自分と同じレベルで話ができる人も居なかったこともあり、ひかるは自分に今後に大学生活を憂いていた。
「それじゃ授業後はどう過ごしているんだい?」
「工場でバイトしたり、病院のカルテ整理とかですかね。」
「そんなもの機械にやらせればいいのに、まだ人がやってるのか。」
呆れたように芽依は呟いた。
「ダブルチェックが必要なんだそうです。」
ため息をつきうんざりした顔でひかるはそう答えた。
「科学が進歩して便利になったはずなのに、なんだかおかしな世界だな。」
「本当そうですよ。便利なのか不便なのかわかりません。」
別に金銭面でに苦労はしていないものの、ただ業後にやることがないからという理由だけで高くもない時給でまるで機械になったように働いている現状にひかるは不満を抱いていた。

「じゃあ、私のサークルに入らないかい?」
「えっ?薬師寺さんはサークルに入ってるんですか!?」
あんなつまらない大学のサークルに満足するような人ではないと勝手に思っていたので、ひかるはとても驚いた。そんなに驚くことかい?と芽依は笑いながら言った。
「私が入っているのは回歴同好会だよ。」
「聞いたことないです。体験会とか開いてましたか?」
「いいや、別に。非公認サークルだからね。回歴同好会のメンバーは私一人だよ。」
「本当に意味がわからない人ですね。」
「意味がわからないから好奇心がそそられる。退屈な日々にうんざりしている君にとってこのサークルの存在は非日常的で、魅力的に映っているだろう?どんな活動をしているのか気にならないかい?」
芽依はニヤニヤしながらひかるに語りかけた。私の心を読んだのかしらとひかるはドキッとした。興味がないわけがないじゃない。彼女は少し間を開けてはいと答えた。

「回歴という言葉は知ってるね、まぁ散歩みたいなものだ。回歴をしている時に見つけた不思議なものや体験を記録していくただそれだけのサークルだよ。」
「でもそうそう不思議な物や出来事に遭遇することなんて無いような気がするのですが……。それにそんな無意味なことをしているのが国にバレたらややこしいことになりませんか……?」
「何が起きたって『戻せる』。それに、気づかないだけで不思議な物や出来事っていうのは意外とあるものだよ。」
「はぁ……。」
「イマイチピンときていないようだね。じゃあ今からサークル体験していくかい?返事はいらないよ。さぁ行こうか。」
「ええっ…!ちょっと…!」
芽依は荷物をまとめ、立ち上がりひかるの腕を強引に掴み喫茶店の出口へ歩き出した。
「強引に話を進めてすまないね、でもいい加減部員が欲しいんだよ。」
芽依は喫茶店を出た。
「待ってお会計…!忘れてます…!!」
「おっと、つい忘れていた。危ない危ない。」
芽依は急いで喫茶店に引き返した。お会計頼むよ、店員は5万円を請求した。
「もちろん今日は私が全部出そう。なんせほぼほぼ私の注文したものの値段だからね。」
芽依はモバイルを会計画面にタップし支払いを終えた後店内を後にし、それに慌ててついていくようにひかるも外へ出た。


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