大切な人が亡くなった、どうせ彼は短命だろうし自分の傍では死ぬ事は無いと理解していた口だけでも理解していたつもりだったがそれが現実となった時全てのやる気を失ったと同時に不思議な事が起き始めた、もう仕事なんて辞めてやるサボってやると決めたその日消していたアラームがけたたましく響き結果いつも通り7時に起きて朝食まで食べた

「あれ指輪どこやったかなぁ」

あの人に貰った指輪を無くすのは特技だと言える程で出勤時間間際で泣きそうな顔で探していればコロンと音を立てて指輪が落ちてきた、今日は素直に出てきてくれたいい子だ

会社に行く途中走っていれば、何故かカバンを引っ張られたように感じて立ち止まったおかげで坂から降りてきた自転車の運転手は1人で壁に衝突していった、そんな様を見届けながら到着した職場で仕事をしていれば押し付けられた仕事は何故か元の人の場所に戻っていたり、セクハラ上司に連絡先をしつこく迫られたが何故か突然上司のスマホがコーヒーの中に落ちていたし、気になってたコンビニスイーツは最後だけ残っていて喜んだ
なんだあの人がいなくなったと言うのに意外といいことあるんじゃないかと笑顔がこぼれた

「そんなわけで伽羅くん、私も結構図太く生きれてるからね心配しなくてもいいんだよ」

可愛い部屋の隅っこに用意したツーショットの写真にそう言って夕飯を添えた、自炊は苦手だが見た目にそぐわず綺麗に食べてくれるこの人のおかげで私は無駄に料理は上手くなったしひとり暮らしも得意になった、昔野良猫を拾うように助けた男と人生をそれなりに分かちあって生きるとは思わなかったが彼が亡くなったという実感は未だに薄いなと思っていればチャイムがなった、こんな夜更けに来るなんて全くなんて非常識なんだと文句を言いたいが小心者には言えない

「はーい」

「すみません、ガスの点検に来たんですけど」

「うちのマンションはオール電化なんで関係ないんですけど」

「念の為確認ですから上がりますね」

「いや困りますけど」

帽子を深く被った明らかに怪しい男に慌てるこんな時に伽羅くんが居てくれたら助かるのにもう彼はいないんだ、どうする自分、警察へ通報するにも携帯がないぞと小さな脳みそで必死に考えているが答えは出てこない男が足を部屋に入れた瞬間玄関にあった花瓶が男の足に落ちた
おまけに外から小さなサイレンの音がした、慌てた男が逃げ出したお陰で助かり力が抜けて地面に座り込む、割れてしまった花瓶は百均だしまぁいいか…と許した反面本当に最近はついている
早速また写真立ての前に座り話しかけてやる

「私本当運がいいよ伽羅くんがついてくれてるみたいに、まぁ本当なら幽霊だし怖いからやめてね」

はははーと笑えば突然隣の部屋から壁を叩いたような音が聞こえた、え…怖くないかな隣の人居ないんだけどなぁなんて思いながら眠りについた


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本当にこの馬鹿女は舐めてやがるのか?
ぴーぴー泣きわめいてると思いきやニコニコと笑いやがる、この世に死後の世界があるなら自分は所謂地獄行きだと認識していたがそんなことも無く嘘喰い達の屋形越えを見送った、そしてあいつの行く末を見つめていれば見慣れた家に気やがった

「伽羅さんのことだけど」

はっきりと言わなくても理解する、死んだ後に相続人として選んでいたこいつにバイクの鍵や金を渡した、その後ふと気になってこいつを見ていれば泣くわ暴れるわキレるで馬鹿らしくてため息を零して、そう思いきやふと1枚だけ大切そうに置いていた写真立てを抱きしめて1人だけの広くしたベッドの中で小さく呟いた

「さみしいよ…伽羅くん」

あぁ泣いてんじゃねぇよイライラしやがる、結局有給なんぞ取りやがってこいつは1週間近く酒を片手に泣いて暴れていた、本当にろくでもねぇクソ女だ

「ぁっ…きゃらくん」

本当に最悪の女だ、恋人のマスかきを覗き見る趣味は流石にないので部屋から出てふと玄関から出られるのかと思いきや、そんなことは出来ずにこの女の近くでないと動くことが出来なくなったのは執着のせいなのか、兎に角こいつは昔から馬鹿みたいにヘラヘラ笑う馬鹿女だったはずがぴーぴー泣いてやがった
そしてある日有給も使い切ったこいつが仕事があるにもかかわらず

「もう休むもん仕事もやめて伽羅くんの遺産で遊んでやる」

本当にこいつに少しの知能を与えてやってくれ、憐れみながら眠りについたこいつのスマホのアラームを再設定してやれば翌朝不機嫌顔で起きた、そうだそれでいい
何だかんだと文句を言いたげだがしっかりと朝食を作る栄養の偏りのないこの女のそういうスキルだけは評価してやりたいものだが朝から指輪がないと叫ぶものだからまたかと思い近くにあったそれを落としてやれば嬉しそうに付けていく、外してんじゃねぇよクソが

「うわっ危なかったァ」

危機感というものが無さすぎてため息が零れる昔からガキみたいに猪突猛進に走り回って怪我をしなかったのが不思議なもので、自転車と衝突する直前にカバンを引っ張ってやれば不思議な顔をしたあとまた走り出す、だから走るんじゃねぇよ
気が弱い訳では無いが勝手に置かれる書類を元のやつの机に仕方なく投げ捨ててやればコイツはまぁいいかも能天気に笑った、生前から聞いてた上司にまた連絡先を聞かれウンザリしているのをみて思わずスマホを近くのコーヒーの中に投げ捨てれば楽しそうにバレないように笑っているがバレバレなんだよ、そしてコンビニスイーツを買って爛々とした間抜け面で帰っていく

「そんなわけで伽羅くん、私も結構図太く生きれてるからね心配しなくてもいいんだよ」

これで心配するなだと?そもそも心配してもねぇがよく言えたもんだと供えられた夕飯を食いながらみつめる、テレビを眺めつつ夕飯を食べてふとした時に泣きそうな顔をするが直ぐにやめてまた前を向いて食事をするこいつに何が出来るのか何をしてやればいいのか分からずに見つめた
それから夕飯も風呂も終えた部屋にチャイムがなった、馬鹿だからこいつはドアスコープを覗かずに危機感もなくドアを開けたらしい放置して流されていたテレビを見ていたが揉めたような言い合いに思わず玄関に向かえば如何にも不審者な見た目の男が部屋に入り込もうとした

『てめぇ誰の女に手ぇだしてやがる』

思わず唸り声が出たが相手に触れることは出来ないのを理解している為近くにあった安っぽいガラス花瓶を足に落としてやれば想像したより重たかったのか男が情けない顔をした
こんな馬鹿女なんざ狙ってんじゃねぇよ、外で空き巣予防と警察のパトロールの小さなサイレンが聞こえた為か走って逃げていった男に力が抜けたのか尻餅をついたあとに何を思ってか片付けることも無くコイツはリビングに戻り写真立ての前に座っていった

「私本当運がいいよ伽羅くんがついてくれてるみたいに、まぁ本当なら幽霊だし怖いからやめてね」

憑かれるじゃなくて憑いてるんだよこのクソアマと思いつつ壁を強く殴れば一瞬驚いた顔をしたあと機嫌よくガラス片を片付けて布団に入っていく
まぁもう暫くこいつの寝顔を見て、完全に泣かなくなれば俺も成仏できるのか?と思いながら今日もその寝顔をみて昔のように髪の毛を撫でた例えその手が触れられてなかったとしても。