雨が止んで外は気持ちのいい晴れだった、ここ数日は酷い雨に見舞われておりロードワークとしづらいと愚痴を零していた為にこんなによく晴れるのは有難いものだった
それぞれの練習音が響く中でドアが音を立てて開いた
「こんにちは」
短いショートヘアが似合う切れ長な目の綺麗な女性に全員が思わず息を止めた、記者か?ファンか?誰だろうか…と思っていれば丁度バンテージを巻いている途中の鷹村が気付いた
「よぉナマエ!」
「こんにちは鷹村くん」
「鷹村くんなんて他人行儀に呼ぶんじゃねぇよ」
案の定女好きのどすけべ大王が動いたか…と思っていればその男は普段よりも随分と紳士的かつ、その女性も鷹村を知ったように話をしていた
練習の手を止めて一歩、青木、木村の3人は近付く、女性特有の柔らかい優しい香りがふわりと香り思わず顔の筋肉が緩んだ
「鷹村さん知り合いなんすか?」
「こんな綺麗な人知ってるなら教えてくださいよ」
「あぁナマエは宮田の姉ちゃんだよ」
「宮田くんのお姉さん!?!」
大声を張り上げたのは案の定一歩であり、ナマエ以外の男連中は思わず冷めた目で見てしまう、宮田の話になればこの男が暴走もとい興奮するのは当然のことだろう、宮田一郎の大ファンと言っても過言ではないのだから
「はじめまして宮田ナマエです」
柔らかく笑う彼女は弟とは違い柔らかく表情豊かな女性であった、姉弟とはいえ中身が似ているということは当然ないのだがあの無表情の少年には遠く及ばない穏やかな笑顔をしていた
「それで、何か用事があってきたんだろ?」
「ちょうど今2人が海外に行ってるでしょ?それで電話は高いから手紙貰ってるんだけど今回はお土産も貰ったから皆にもおすそ分けしようかなって思って」
「ドライマンゴーに…プリッツ?なんだ日本でも食えそうなものばっかりっすね」
「今は韓国にいると思うけど少し前までタイにいたからそれのお土産なの」
「にしてもすげぇ量だなぁ」
「私一人だから食べてるか心配されてるのかも」
「カレーもありますよ、タイカレーって辛そうですよね」
大きな紙袋から次々と出される土産品を広げては全員で眺める、小さな写真が1枚中から出てきたかと思いきや宮田親子2人の写真があり、彼女はそれを手に取ると酷く嬉しそうな顔をしていた
「心配か?」
「そりゃあもう、鷹村くんだって分かるでしょ」
「…まぁ、な、それよりその呼び方やめろよ」
「守ちゃん」
「姉ちゃんと同じ呼び方はやめてくれ」
「あらじゃあ守くん?」
「おう、それでいい」
随分と仲がいいのだと二人を見て全員話すのをやめて見つめてしまう、その間も二人は他のものには分からない二人だけの会話をしていた
話を聞くに大学生らしい彼女は学校の話しやら友達の話をしては鷹村もそれを楽しそうに聞いていた、そして気付けばベンチに座る鷹村の手を取りバンテージを巻いてあげている姿はまるで恋人同士のようだった
「なんか恋人みたいだな」
思わず呟いた木村の言葉に全員が静かに頷いた、二人は明らかにお似合いだった
「姉さんと会ってたんだって?」
帰ってきて早々それか…と鷹村は目の前の少年、とはもう言えない青年に思った
宮田一郎は自分の想い人の弟だ、それを抜きにしても長い付き合いのため弟のように可愛がっているつもりではあるがこの男は残念ながら超がつくほどの"シスコン"なのだ
「あー、まぁちょっとだけ顔合わせることがあったくらいだ」
「言ったよな、オレがいない間に会うのやめろって」
「お前の姉ちゃんにいえよ」
「言ってるけど姉さんは危機感がないんだよ」
一郎の言葉に鷹村は内心深く頷いた、彼の姉はあまりにもお人好しで優しくそしてそれ故に人に好意を抱かれやすい、初めて出会った頃彼女は鴨川ジムの前で2人の男性に声をかけられ困っていた
いい女に声をかけるのはわかるがジムの前では邪魔で仕方がない、声をかけようとした矢先動いたのは隣に立っていた一郎だった
「おい、何してんだよ」
殺気立った一郎の声に珍しさを感じ、そんなに苛立つことか?と思っていれば手を出そうとするため思わず首根っこをつかみ後ろに投げ飛ばしてしまう、今にも殺さんといわんばかりの彼に咄嗟に手が出てしまったのだ
そうこうしている間にナンパの邪魔をされた二人が鷹村に襲いかかろうとしたが秒でコテンパンにされてしまう、そして呆気を取られていた女性は慌てて身体を動かし近付くものだからハグかと思い手を広げた途端後ろに投げ飛ばした一郎を抱きしめた
「一郎大丈夫??」
「う…鷹村さんの馬鹿力め」
「これだから虚弱くんは」
彼女の腕の中で気絶をした幼い一郎を抱え2人はジムの中に入り挨拶を交わした、あまりいい出会いでは無いが自分を守るために行動した2人をナマエは責めることは無かった
一郎の5つ上のナマエは鷹村にとっては特別な女性になった
それからというものの彼女は出会う度に誰かしらを助けたり声をかけられたりしている、だが時にその優しさを逆手に取り付け入ろうとする輩から一郎は守り続けてきたのだ、それはどれだけ長い付き合いの鷹村とて例外ではない
「てかいい加減姉さんは諦めたら?」
「諦めねぇよ、お前こそ姉ちゃん離れしろよ」
「オレはいいんだよ」
「いい加減彼女でも作れよドーテイくん」
「女なんざ要らねぇよ、鷹村さんこそ他にいるなら姉さん狙うのやめろよな」
バチバチと火花の散る二人
せっかくの再会だというのに酷く荒れるのは鷹村とナマエが自分のいない所でえらく仲良くなっているからだ、海外にいる間手紙でのやり取りをする度に鴨川ジムに行った、鷹村に会った、晩御飯に行った、などというやり取りに思わず手紙を握り潰してしまったのだ
それから帰国後直ぐに鷹村の前に現れた一郎はこの様にかみついているのだ
「あら、2人ともこんなところでどうしたの?」
「姉さん」
「よぉナマエ、買い物帰りか?」
「守くんもこんにちは、一郎も本当守くんのこと好きだね」
「別に好きなんかじゃ…って待って姉さんなんで下の名前で呼んで」
「ふっ、宮田よ…いや、一郎…違うな、
義弟よ、オレ様とナマエはついに恋人って」
「守くんが下の名前で呼んでって言うから呼び始めたの」
「だと思ったぜ」
鷹村の話を他所にナマエは告げればフンと一郎鼻で笑った、まるで所詮アンタはその程度オレには叶わないんだよというように
苛立ちを感じつつも彼女の手から重たげなスーパーの荷物を奪い隣に並んだ鷹村は歩き始める、2人の住む家に向かい今晩は夕飯を食べて行く気かと察してしまう
「でも宮田くんがお姉さん思いだなんて素敵ですよねぇ」
「一郎は本当に優しくてね」
そして鷹村とは別の場所でなぜだか距離が近付いている者がいた
そう幕之内一歩である
ある日ナマエが嬉しそうに鼻歌を歌い用意をしているのを見た一郎は学校も休みなのにどこに行くのかと問いかければ「一歩くんとデートなの」なんて彼女は微笑んだ
どういうことだ、どういうつもりだと思い慌ててとある男に連絡をした、ちょうど昼寝をしていたらしい男は寝起き声だったがその話を聞いて慌てて起き上がり電話を切った
そしてそのくだんの男、鷹村守は大慌てでとある場所に電話をした
病院だ「間柴久美はいるか?」と聞けばちょうど電話相手は青木の彼女だったらしく休みだと言われ家の電話番号を伺い彼女にかける「幕之内さんと宮田さんのお姉さんが!?」間柴久美の恋敵は何も女だけじゃあない、1番の
恋敵は宮田一郎だと危惧するほどだ
そんな彼のお姉さんともなれば幕之内一歩もただでは済まないはずだと3人の男女はサングラスをしながらそんな2人を尾行し、ファミレスに入るのを追いかけた
「一郎ってば小さい頃なんてお姉ちゃんって言ってずーっと後ろついて来ててね?」
「えぇーあの宮田くんが?かわいい」
「あっ、一歩くん見たがってたからアルバム持ってきたんだよ」
「うわぁお二人ともやっぱり昔から顔が整ってるんですねぇ」
「本当うまいんだから」
「でも宮田くんがお姉さんのこと大切にする気持ちも分かりますよ、こんなに綺麗だったら心配しちゃいます」
なんだよく分かってるじゃないかと一郎は頷いた、もうこいつら宮田の話だけで1時間以上話してるじゃねぇかと鷹村、なんか距離近くない??と焦る久美
傍から見れば2人は仲のいい年の差カップルのようだ、童顔で年下の一歩と綺麗系で年上のナマエ、案外お似合いだ
「これってナマエさんですか?」
「あぁ高校時代の喫茶店のヤツだ、懐かしいなぁ」
「うわぁすごい可愛いな、メイド服ってやつですか」
「なんだか恥ずかしいなぁ」
「おい、どういうことだ?」
「姉さんの高校の文化祭だよ…メイド服着てたんだよ」
「宮田さんのお姉さんが…」
一郎の記憶の中のその文化祭、ナマエのクラスは長蛇の列だった
学校一の美人がメイド服着て給仕してくれると噂が経てばそりゃあ男達は期待に鼻を膨らませた、一郎は姉の危険を感じてその列に並んだ
「これがその時のチェキだよ」
「なにぃ!テメェいつも持ち歩いてるのか」
「宮田さんもお姉さんもすごく可愛い」
久美と鷹村に挟まれ揉みくちゃにされつつも一郎の顔はどことなく誇らしげだった、彼の手の中のチェキはフリフリのメイド服を着て今よりもあどけないナマエが小学生の一郎を抱きしめている写真だった
おまけに「だいすき 一郎」と書いているのだ、この一言に関しては弟限定のためその場にいたヤツらはみんな泣いて悔しがっていたのは未だに記憶に残るほど気持ちがいい、そう所詮周りがどれだけ足掻いても最後に笑うのは
自分なのだ
「一歩くんと出会ってからは一郎も凄くボクシング頑張ってるから本当に嬉しいんだ、ありがとう」
「そんなっ、僕の方こそ反対に宮田くんのおかげで頑張れてますから」
「…一歩くん」
「…ナマエさん」
「「「あぁー!!手が滑った!!」」」
2人が手を強く握り見つめあった途端に周りに花が咲き始めまるで少女漫画のような空間に変わったが
隠れていたはずの3人がそれを阻止するべく一歩に向かって自身の注文していたコーヒーを投げ込んだ
「あら、みんな来てたのね…そちらの女の子は…えーっと、一郎か守くんの彼女?」
「「幕之内/一歩の彼女だ」」
「か、彼女だなんてそんな」
「こんなに可愛い子が彼女だなんて一歩くん羨ましい、お名前は?」
「ま、間柴久美です」
やばい…この女も飲まれかけてる、魔性の女に食われてる…ふと一歩をみればコーヒーまみれになっており一郎と鷹村を見つめており3人は一時休戦とばかりに慌ててファミレスのトイレに逃げ込む
「姉さんに変なことしてないだろうな」
「一歩テメェいつの間にナマエと2人で出かけるように」
「わーー!2人とも怖いですよ、そういう仲じゃありませんってばぁ」
質問攻めに合う一歩は二人の圧に今すぐに倒れ込んでしまいそうだった、なんだかんだと言い合う3人の中でふと一郎と鷹村は動きが止まり、慌てた様子で店内に戻った、当然2人の背中を追うように一歩も行ったその先には
「クミちゃんって看護師さんもされてるなんて立派」
「そんなこと」
「それにこんなに可愛いだなんて男性が放っておくはずないでしょうに」
「いやぁそんな」
「お兄さんもいるなんて素敵、きっと可愛くてたまらないでしょうね」
久美は堕ちていた、まるで借りてきた猫のように隣に座るナマエに褒め殺しされて顔を真っ赤にしているが悪い気はもちろんないのだろう
ブルブルと震えて彼女の言葉に耐えている、一郎は慌てて一歩に彼女を連れて逃げろ!言わんばかりに姉の手から久美を逃し2人の背中を見つめた
「もう折角お友達が出来ると思ったのに」
「その前に彼女が潰れそうだったぜ」
「そう?」
「にしてもクミちゃんは一歩のだからな、許してやってくれ」
「やっぱり2人ってそういう関係なの?いいなぁ…私も彼氏欲しい」
深いため息をついたナマエに鷹村はチャンスと言わんばかりにナマエの顔を覗き込んで手を取ろうとしたが一郎の手で簡単に叩き落とされる
睨み合う両者に彼女は声をかけてお会計を済ませて店を出る
「ほらもう2人とも帰ろう、今晩はハンバーグでもしよっか」
「オレ様は煮込みがいい」
「なんで鷹村さんが来るんだよ」
「いいじゃねぇか、なぁナマエ」
「2人も3人も変わらないしいいよ」
「変わるだろこの人馬鹿みたいに食うんだから」
「なんだよ虚弱くん」
すっかりと外は夕暮れになっており、ナマエはそんな言い合いをする2人の手を取って歩き始める
「ほら喧嘩しないよ」
そういえば2人はナマエを見つめて黙ってその手につられて歩き始める
一郎がナマエをみれば彼女は優しく姉らしい目をしてみていた
鷹村がナマエをみれば彼女は少し意地悪な女の顔をしていた
「大好きだよ」
その言葉に2人は「オレも」と答える
彼女にはまだまだかなわない
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