アレキサンドリア・ミートはまだ外が薄暗い中微かな物音に目を覚ました、隣に眠る彼が王子と呼び慕う相手は大きないびきを立てて寝ていた為また彼のうるさいいびきのせいかと思いもう一度布団に入ろうとしたが部屋の隅で何かが大きく動いたのがわかった
こんなボロ小屋にまさか盗人でも?と怪しんだミートは即座に起き上がり近くにあった新聞紙を丸めて声を張り上げようとした直後である

「ただいまスグルちゃん!」

そう言って突然小さなミートに与えられた衝撃は痛みではなくどこか柔らかく心地よい香りであり彼は驚いていたものの、そう声を上げた相手も「あれ?」と間抜けな声を出したあとにふと暗闇の中、10cmにも満たない距離で胸元で抱きしめていた彼を離して顔を近付けてはじっくりと見つめた

大きな瞳に小さな顔、ツンとした鼻先に心地よいシャンプーの香り、正しく彼女は綺麗な大人の女性でありミートは思わず頬を赤らめたのもつかの間、スグルちゃんと彼女が呼んだことに疑問を覚えていれば彼女は薄暗い部屋の中の騒がしいイビキをする布団を見つめては近付いた

「おーい、おーいスグルちゃん、おはよー、朝だよ?」
「むにゃあ…もう、食べれんわい」
「ちょっとー、スグルちゃんってば、おはよー、朝なんだよ」
「いやぁでも、あと一杯だけ牛丼特盛でぇ……ッなんじゃい!」

プカプカと鼻ちょうちんを膨らませて間抜けな寝言をいうキン肉マンにその女性はムッと頬を膨らませては鼻ちょうちんをポケットに入れていたソーイングセットの中にあるまち針で簡単に割ってしまう
バチンッ!!と音を立てると同時に物理的に飛び起きたキン肉マンは慌てて辺りを見渡してはまだ外が暗いことに気付いてはもう一度布団に入ってしまう

「あ〜もう、ちょっと起きてよスグルちゃん」
「なんじゃい私を起こさないでくれ、あと10時間は寝るぞ」
「せっかく愛しのナマエが帰ってきたのに無視するの?」

まるで駄々を捏ねた子供のような彼女の態度だが傍らで聞いていたミートは"愛しの"という単語に思わず顔を青ざめさせる、もしや彼女と王子の仲は親密なものであるのかと感じたからだ。
数年間ともにしていたはずがそれを知らないなど恥ずかしいばかりだと思ったがナマエという単語を聞いて肩を揺らしたのはキン肉マンであり、彼は起き上がってはジロジロとその女性の頭から足先までみつめた

「……ナマエではないか!」
「きゃっ、スグルちゃんただいま」

あのキン肉マンが美女相手に照れることも無く積極的に自分から抱き締めに行くとなるのはこれは相当なものだと青ざめる理由は、ミートはキン肉マンを王子だと呼ぶが彼はもう"王子"ではなくたったからだった
物事が落ち着くまで相当な時間を有したが彼はキン肉族の王となり、美しい妻ビビンバと共に生活を送っていた、しかし息抜きにと時折地球に来てはこうしてキン肉ハウスでゆっくりと過ごす休暇もある
ミートは目の前で熱い抱擁をする二人を思わず引き剥がしては慌てて相手の女性に頭を下げた

「申し訳ございません、キン肉マンことキン肉スグルはもう結婚しておりまして、過去のことに関してましてはもう今は」
「どうしたんじゃミート」
「どうしたって、王子…いえ、陛下が女性に自分からハグするだなんて、それもこんな綺麗な人にってことは過去になにかあったんでしょう?」

あぁもうビビンバ王妃になんといえばいいのやら。と頭を抱えるミートだが残された二人はようやく腕を離して隣に座り合い手を取り笑った、まるでその姿は子供同士が無邪気に手を繋いでいるような様子だ

「変な勘違いしないでくれミート、ナマエちゃんは私の幼馴染みだぞ」
「そうそう、5歳からずっと大親友なの」
「ここ数年は世界旅行で日本にいなかったからなぁ〜絵葉書はずっと来てたからちゃんと取ってあるんじゃ」

そういって立ち上がったキン肉マンは棚の中に入れていた小さなアルバムを開いてミートに見せるため、確かに不定期にやって来ていた絵葉書があったがそういう事なのかと理解をして彼の隣に座る幼馴染みといわれたナマエをみつめた

「お互い忙しくて中々会えなかったけど活躍はずっと見てたんだよ、ミートくんのことも」
「そ、そうですかありがとうございます、僕てっきり二人が恋人だったのかと勘違いしました」
「スグルちゃんとは無いよ、私たち本当に大親友だもん」

ねぇ?と笑い合う二人は息ぴったりで幼馴染みや親友では到底収まらないほどに感じられた
ふと彼女が告げた年齢の話を聞くからに地球に捨てられてすぐの頃からの出会いなのかと感じてはミートは自分の知らない王子の話を思わず強請っては二人はとても嬉しそうに彼に話をしてやった。

「本当に素敵な人ですねナマエさん」
「あぁ彼女がいたから今の私があるんだ」

気付けば時刻は昼近くになっており、ナマエはお昼ご飯の買い出しに行くからと出ていったのを見送ってはミートにそう告げるキン肉マンの表情はとても優しいものだった
ミートは確かにナマエと王子のその優しさや慈悲深さに寛大な心など二人が持ちうる最大の強さを感じては優しく笑みを浮かべて夜から朝にかけて思い出話によって散らかった部屋を片付けていた
しかしキン肉マンは手を止めて時計を見てはうーんと唸り声をあげたことに何かあったのかと小首を傾げたミートは問いかけた

「帰ってくるのが遅くないか?」
「まぁ確かにもう1時間くらいでしょうか…」

確かに近くの牛丼屋にいくだけであれば一時間もかからないが昼時だから混んでいるのでは無いのかと思ったがキン肉マンは落ち着きのない様子で、それどころか不安そうに両手を組んではウロチョロと歩き回る
女性一人で行かせることがそんなに心配だったのだろうかとミートが思いつつ「王子ってばナマエさんの対しては心配性なんですね」と微笑ましく笑ったものの彼はキッと鋭い目つきでミートをみつめた、まるでリングに上がった時のようなものだ

「な、なんですか」

まさかそこまで気分を害する発言だったかと驚くのも束の間に彼は眉をへにゃりと下げてその場にへたり混んでしまう

「そりゃあ心配にもなるわい」
「何故です」
「ナマエちゃんは、ナマエちゃんはなぁ」
「そりゃあもうめちゃくちゃ」

モテるんだ

「ただいま!牛丼屋さん行ったらすごくサービスしてくれて荷物多くなっちゃって困ってたらこちらの超人の方たちが助けてくれて、どこまで行くのか?って聞かれたからスグルちゃんのお家っていったら友達だからオレたちも行くよ。って来てくれたの」

明るい声と共に玄関のドアが開き見つめた先には最初に頼んでいた量の何倍ありそうな袋を手にした彼女とその後ろには見慣れた正義超人達が並んでいた。
彼らは照れくさそうにニヘリと笑みを浮かべては「さぁお嬢さん荷物はミーが持つから先に上がって」と既婚者であるテリーマンが声をかけてはナマエは早速靴を揃えて上がり手を洗いにいく「いやぁここのシンクは狭いから手が洗いにくいですね」「あぁオレとロビンにナマエさんの三人で並んだらぎゅうぎゅうだ」とその両隣を陣取る既婚者のロビンマスクとその弟子ウォーズマン

「こっちがスグルちゃんのだよね、サービスで超特盛にしてくれたんだよ」
「それでこっちがフロイライン、ナマエのだ」
「ありがとうございますブロッケンJrさん」
「なんだちっせぇ量だな、オレの分けてやろうか?」
「バッファローマンさんったら十分な量ですから」

小さなテーブルの上に買ってきた昼食を並べる彼女の横を即座に陣取ったブロッケンJrとバッファローマンはそれはもう浮かれきった態度ではあるがナマエは立ち上がりシンクに向かった

「あっ、ごめんなさい」
「いや構わないさ、お茶なら私が入れてあげよう」

人数分のお茶でもと急須を手に取ろうとする彼女の手に重ねたのはラーメンマンであり彼も普段の表情と変わらないが明らかに纏う雰囲気は柔らかく甘いものであった、全くあのラーメンマンまでもが…とミートが驚くものの隣にいたキン肉マンは思わず「貴様らー!!」と大声を張り上げた

「既婚者に遊び人にピュアな若人たちに若老人共、全員私の幼馴染みであるナマエちゃんに鼻の下伸ばして恥ずかしくないんかい!」

揃いも揃ったアイドル超人が情けないと喝を入れるものの全員がキン肉マンを真面目な表情でみつめたあとシンクにいるナマエをみて、もう一度視線をキン肉マンに向けてはにへらと頬の緩まった締まりきってない表情を見せた

「まぁまぁキュートな女性の前なんだいいじゃあないか」
「既婚者だが友人を作るのは問題ないだろう」
「遊び人ってのは失礼だな、本気かもしれないだろ」
「ピュアな若人ってのは悪口じゃなくて褒め言葉だよな、なぁウォーズマン」
「あぁ下手に他の奴らよりオレたちの方が安心感がある」
「若老人とは失礼な、大人の余裕というやつだ」

全員が全員キン肉マンの肩を抱いては笑みを浮かべては「な?幼馴染みさん」と告げるものでこれだから一人で出て行かせるのは良くなかったのだと久方振りの体験に思わず全員を一人ずつドアから投げ飛ばしてやっていればナマエは「まぁ元気」と楽しそうに声を上げた
自分一人のことでこんなことになっているのにこの女性は…とミートが呆れているものの席に座り直したキン肉マンは「ナマエにはわからんからのぉ、昔からこうなんじゃ」といった

幼い頃から人柄と容姿にそのマイナスイオンのようなオーラから人が自然とよってくるナマエにはキン肉マンも酷く苦労をしたものだ
全員が善人であればまだいいが幼い頃は不審者にも声をかけられることが多く、大きくなればストーカーやら変質者などにも好かれる次第でキン肉マンが代わりに守ってきてやっていたが本人は全くその事に疑問を抱かないのだ

「スグルちゃん心配性なんだよ、私が彼氏出来た時もめちゃくちゃ怒ってたもん」
「あんな得体の知れん奴に私のナマエの良さなどわかるものか」
「まるで一人娘を持つ頑固オヤジですね」

あははと笑いつつナマエはお茶を乗せたトレーを片そうと立ち上がれば入口のドアが開きそこには黒い大きな影が存在した
そしてその後ろからは忍び装束を纏った者、六本の腕が生えた巨漢の男、そして真っ直ぐとした瞳の男が立っていた

「ゲゲーーッ貴方は!」

ミートが声を荒らげるのも束の間に顔を合わせて固まるナマエの手を取ったのは六本の腕で、その手は普段のリングとは打って変わったとても紳士的で優しい手つきであった

「麗しいプリンセス、私はアシュラマンというがあなたの名前は?」
「…ナマエです」
「ナマエ殿か、とても美しい名前だ、そしてとてもかわいらしいまるで貴殿は百合の花のよう、拙者はザ・ニンジャ以後お見知りおきを」
「生の忍者ですって!すごいよスグルちゃん!」

きゃあきゃあと手を取られて飛び跳ねるナマエは全くこの状況を分かっていないと思っていれば真ん中に立っていた男、キン肉マンソルジャーことキン肉アタルは部屋の中にあがりスグルの向かいに腰掛けた

「近くを通り掛かったから挨拶をと思ってな、そしたらちょうど2人とも顔合わせをしたんだ」
「そ…そうなのか、兄さんそれは嬉しいがナマエちゃんを離してやってくれ」
「え?お兄さんなの?はじめまして幼馴染みのナマエです」
「初めまして君にはお兄さんではなく"旦那様"と呼んでもらえたら」
「分かりましたアタルさん」

平然とした態度で座るアタルだがその膝の上には盗むように掻っ攫たナマエを座らせており彼女は驚いた様子もなくアタルの胸板に触れては「すごい」と興奮気味にキン肉マンに告げるものの彼は疲労困憊していた
普段ボケ担当を務めている王子がここまでツッコミに徹することはあるのかと驚きつつもそれもこれも全てを狂わすファム・ファタールであるナマエの恐ろしさなのかと感じた

しかしながら追い出されていたアイドル超人たちも駆けつけてはドアを壊さんとばかりに入ってきてはキン肉アタルの膝の上に乗せられたナマエをみては思わず指を刺しては猿叫した、ズルいだとかオレもしたいだとかてか昼飯は?だとか

「あぁもう騒がしい!誰にもナマエちゃん(うちの娘)は譲らんと言っておるだろう!そんなにというのならリングで勝負じゃ!」

こうなりゃヤケだと隣の部屋にあるリングに飛び込んだキン肉マンに超人たちは鋭い眼差しで待っていたと言わんばかりに行ってしまう
「少し待っててくれ、弟に認めさせてこようオレたちの結婚を」と告げて行ってしまったアタルに「頑張ってくださいね」と告げたナマエのマイペースさに驚きつつもセコンドにと呼ばれたミートは慌ててリングの縁に向かった

静まった部屋の中でナマエは入れ直したお茶をそっと静かに座る男に差し出した

「あぁ騒がしくて悪ぃな、アイツらキン肉マンの幼馴染みだからってからかいたくって仕方ないんだよ」
「いえいいんです、わかってますから…スグルちゃんにこんなにお友達ができて私とっても嬉しいです」
「そりゃあよかった、オレとも是非友達から始めて欲しいもんだがどうかな」
「ウルフマンさんでしたら是非…あっ、よかったらお昼ご飯食べちゃいましょうか」

隣の部屋で激しい音が聞こえる中ひっそりと静かに座っていたウルフマンは彼女とテーブルを囲んで静かに昼食を取った、さてはてどうしてこの娘さんにアプローチしてみせようかと考えながら。