そりゃあもう心底惚れてる、好きで好きでたまらなくて大好きで本当は彼女しかいないとわかっていた
「好きだ」
そう言葉を伝えた時、彼女は目を丸くしてから照れくさそうに笑みを浮かべて冷たい手を取って返事をした「私もヘイルマンのことが好き」と
本当にかわいい彼女だ、健気で律儀で少し照れ屋で少し褒めれば目に見えて喜んで、スカートがいいといえばスカートを着るし、長い髪が似合うといえば髪のケアをしっかりするし、兎に角健気な彼女に夢中だというのに彼女はいつも照れつつもいうのだ
「好きだよ」
これは天罰だと思った、オメガの民が地球から追い出され母星がギリギリの中で生きていることは天罰ではなく運命だが、彼女の件に関しては明らかに自業自得だった
彼女はある日何も言わず姿を消したのだ。
きっかけという原因をヘイルマンは理解していた、彼女が居なくなったと気付いた数日前、彼女と街で顔を合わせたのだ
ヘイルマンが他の女の腰を抱いているところだった。
一応、彼のあるかないかは分からない名誉のためにいうとヘイルマンに浮気癖があるという訳では無い、彼は彼女の好意の上に胡座をかいていたのだ
付き合う以前からリングの上にいるヘイルマンを熱い眼差しで眺める彼女の瞳は本当に心地よく愛おしいもので彼はそれに恋をした、付き合い始めてから彼女の小さな独占欲と嫉妬心があまりにも愛らしくて彼は子供じみたイタズラ気分でファンサービスを彼女の目に見える範囲で大袈裟にした
「勘違いされて嫌われるぞ」
マリキータマンの忠告にヘイルマンは「だいじょーぶ、あの子も分かってるって」と軽い返事をしたのだ、下唇をきゅっと噛んでどうしようも無い手でスカートを握って眉を下げて見つめるのならば帰ればいいのにいつだって彼女は待っていた
平気な顔をして試合終わりにヘイルマンの家に行っては彼女はヘイルマンの膝に向かい合って座っては胸元に顔を寄せて「今日もとってもかっこよかった」「素敵だったよ」「やっぱり私ヘイルマンの戦ってる姿が好き」「大好きだよ」と甘い言葉を吐いてくれるのだ
全身に駆け巡る喜びという名の甘い電流を受けてはこのかわいい嫉妬小悪魔をもっともっと困らせてやりたいと願う彼の行為は一線を踏み越えはしないが過激になった。
それが原因だとヘイルマンとて分かっていた。
連絡が取れずに慌てて彼女の家に行きドアをノックして、夜になっても帰ってこずに心配で彼女の家の大家に問いかければ「彼女なら引っ越したよ」というものだからヘイルマンの心中は穏やかで居られなかった
広いオメガの星の隅々まで走り回って探す頃には何が原因なんだか分かりもしなかった彼に呆れた仲間たちは最終的に泣いて酒に溺れる彼に深いため息をついて口を揃えて告げた
『お前のせいだろ』と
お前が彼女を傷つけた、分かっていて女遊びをしていた、ずっと彼女は我慢をしていた、あれ程忠告してやったのに、あれだけ彼女は耐えていたのに
「じ…じゃあお前らはナマエちゃんの居場所知ってるのかよ」
そう問いかければ彼らは綺麗に口を揃えて「知ってても教えるか」というものだからヘイルマンはその日から何もかもがつまらない世界に変わった
彼女がいた時は世界の全てがキラキラとしていて心地よかった、負けることも知らないし悲しいことも嫌なことも半分に分かち合えたし、嬉しいことは二倍になった
二人でよく足を運んだアイスクリーム屋も、彼女が好きな雑貨屋も、初めてデートをした場所も、ヘイルマンにとって全てが苦しいものだった、こんな事になるのならばしなければよかったんだと感じた。
しかしながら時間はそんな彼を置いて進んでいき、ヘイルマンも引きずりはしたもののオメガの星のことや自分の使命を考えてはいつまでも下を向いていられないと足を進めるしかなかった、例え彼女が隣にいなくても…
地球での一件を終えて、ようやくオメガの星も再建し、久方ぶりの平和を感じ明るくなったオメガの民の顔を見ては嬉しそうな表情を浮かべるアリステラは酒が入っていたのかパイレートマンに話をしていた
「ナマエも戻ってきたら良かったんだがな、向こうが気に入ってるらしい」
数年ぶりに聞いたナマエという単語にルナイトと飲み比べをして心地よくしていたヘイルマンは思わず机の上に立ち上がり「アリステラ今なんて!」と声を荒らげたのだ
その事にアリステラ自身口を滑らせた。と言いたげな表情をして仲間達も隠したげな表情を浮かべた、あの日彼女が姿を消して数年が経過していてもヘイルマンの気持ちは変わらなかった、それだけは彼等も評価してやるべき所だと口にはしないが感じていた
机の上に乗るなというギヤマスターの言葉にここはアリステラの城であり下品な行いをしてしまったことに謝罪をしつつもヘイルマンはやはり落ち着きもなく彼に「ナマエが今どうしてるのか知ってるのか」と弱々しく呟いた
どうやら知らなかったのは本当にヘイルマンだけであったが、仲間達にとってヘイルマンもそしてその恋人だったナマエも平等に友であったのだ
「貴様がナマエを泣かすから吾輩達は敢えて何も言わなかったんだぞ」
怒り心頭だと言わんばかりに青筋を立ててヘイルマンを見下ろすパイレートマンは特に彼女をかわいがっており、顔を合わす度に「いい女だ」「お前より吾輩の方がいい男だぞ?」と声をかける程で、それが冗談だとしてもいつもヘイルマンはハラハラしていた
かわいい彼女だった、長い髪をいつも巻いたり指通りよく真っ直ぐに櫛を梳かしたり、フワフワとした女の子らしい服装をしていてまさに彼女はヘイルマンにとってかわいらしい自分の宝物だった
「いら……あぁ久しぶりヘイルマン」
違う女かと見違えるほど彼女は長かった髪をバッサリと切って、見慣れないカジュアルなパンツスタイルをしていた
「カキカキ……久しぶりだな。」
「注文は?」
「え?あっ…ええっとそうだな」
まさか地球で働きながら生活をしていたなんてとヘイルマンは内心呟いた、街のどこにでもあるアイスクリーム屋で働く彼女は恋人が来たという表情ではなく普通の客が来た時と全く変わらぬ態度で淡々と説明をした
オススメといわれたフレーバーをひとつ頼んで会計を進める彼女を見下ろしてはいつも好きなつむじが帽子に隠されていることが非常に残念でままならなかった、一つだけ空いたピアスも雰囲気の違うメイクも何もかもが彼女を別人だと言わせるようだ
「なぁナマエちゃん今日この後よかったら話せねぇ?」
「いいけど私まだ仕事中だし遅くなるけど」
何時間でも待ってやろうじゃないかと思い喜んだもののまさかそこから四時間も待つことになるとは思いもよらなかった、静かな店舗を一人で回してるらしい彼女は慣れたような客を捌く時の笑顔は多少張りつけたものかもしれないがやはり彼が見てきた笑顔で、そうした何気ないことが過去の二人をさらに思い出させてはヘイルマンの心を締め付ける。
すっかりと外は暗くなりお金の計算をする彼女がレジを締め終えては未だに店内の二人用の席に腰かけたヘイルマンをみてはなんとも言えぬ表情をした後に「着替えてくるね」と告げて彼を遺しバックヤードに引いた
エプロンと帽子を外しては慌てて乱れた髪の毛を整え直してリップクリームを引き直す、別にこれは彼のためじゃない…嘘だ、本当はヘイルマンの為だがそれを胸の底にしまい込んではカバンを片手にバックヤードを出ればまるで心待ちにしている。と言わんばかりに彼は立ち上がりバックヤードのドアを見つめていた為、交わった視線を大袈裟に逸らすように背中をみせてバックヤードのドアの鍵を閉めた
「(ダメだ……かわいい)」
そんなことを彼に思うあたりまだ自分は感情を捨てきれていないのだと感じたナマエは緩む頬をグッと引き締めては振り返った
「何処かご飯に行く?」
「この辺りに詳しくないんだけどなんかいいとこあるか?」
彼女が離れて二・三年は経っていた、彼女は慣れたように大衆居酒屋のメニューを片手に注文をしているのを見てはすっかりとこの地球の生活に馴染んでいるのを感じてはヘイルマンは内心心苦しかった
自分の知らない彼女が出来上がっていることが辛いのだ、別れ話をしなかったもののヘイルマンとてこの関係がどう足掻いても恋人でないことは分かっている、反対に今彼女に「オレ達まだ恋人だよな?」と情けなく聞いて「違うよ」と素っ気なく言われることも、「オレは別れたつもりは無いぞ」と告げることも恐ろしくて出来なかった。
「レモンチューハイでよかったよね?ビールがいいなら交換するけど」
「いや大丈夫…てかビール飲むんだな」
「飲み会とかで慣れたせいだよ」
昔は酒もほとんど飲まなかったし、甘口なものを好む彼女の変化がやはりまたヘイルマンを置いていくように感じた
テーブルの上に並べられた食事はどれもヘイルマンの好みのもので彼女は「これ好きだと思うよ」と告げては彼の皿に入れてやり、それを口にしてはやはり美味しいと口に合うようで簡単に食べてしまう
そうした所が狡いと感じてしまう。
いっその事彼女が何も無かったように忘れていてくれればヘイルマンも愛想笑いで誤魔化せたというのに、確かに二人には何かがあったということを簡単に教えられることがますます現実を知らせるようだった。
「星が大変な時に出ていってごめんね、アリステラ達とは連絡を取ってたから知ってたのかと思ってた」
「いいんだよ、何だかんだで無事にオレたちの星は元通り、いつ帰ってきてもいいんだぜ?」
「この星の居心地がいいからまだ当分はいいかな」
「カキ……そ、そうか」
弾まない会話にどうしたものかとヘイルマンが思う事を彼女はどう思っているのか何一つ分からなかった、焼き鳥の串から肉を外さずに食べる彼女は本当は別人なのかもしれないと言い聞かせようと思いつつ足を動かせばヘイルマンの膝が彼女に触れた
「悪い」
「ふふっ、いいの」
テーブルが小さいもんね。と笑う彼女にヘイルマンはもういっその事どうしたらいいんだと声を上げて泣いてしまいたい気分だった
彼女のようで彼女じゃない、けれどやっぱり彼女で、何年経っても好きでたまらないのだと感じた
食事を終えて口元を拭うところも、食器を下げる店員に感謝を告げるところも、ご馳走様でしたと小さな手を合わせるところも、あの頃と変わらないかわいい彼女なのだ。
外に出て寒さに身を震わせる彼女が横を歩いているというのに手を繋げないのはそうした関係じゃないからだ
静かに隣同士を歩いては何を話す訳でもないのは下手なことをいえば逃げられるからかも…と考えてだった
帽子を外して見える彼女の綺麗なツムジに今キスをすれば彼女はどんな顔をするのか、その小さな手を取って指を絡めれば昔のように笑ってくれるのか、淡々と歩く彼女がようやく足を止めて「ここが家だから」と言った時僅かにも期待してしまうのだ
『よかったら上がっていく?まだ話したいことがあるの』
「それじゃぁおやすみなさい」
現実は無情だ。
彼女が部屋までちゃんと入るのを見届けた後にヘイルマンはその場に座り込んでは頭を抱えた
「あぁ〜〜゛ちくしょうっ!オレの馬鹿野郎…てかナマエちゃんちょっとセクシーだったな」
「貴様〜〜ッ!!」
「ゲゲーッッ!!なんでここにパイレート達がっ!」
独り言を大きく呟いたヘイルマンに大きな足音を立てて現れたパイレートマンは勢いよくバックドロップを決めてはいつの間にか五人全員が揃っていることに本当に心配性な奴らめ…とヘイルマンは思いつつも、そんな彼に対してマリキータは「どうだったんだ?」と聞くものだから、彼はゆっくりと親指を立てた
「オレやっぱりナマエが好きだ」
と静かな夜に呟いた。
ヘイルマンが現れたことに驚きつつも嬉しさが勝るのは未だにその恋心が冷めていなかったからだ。
本来であれば彼への恋心などとっくに捨てるべきだと理解していながらもそれが出来ないのは彼にずっと片想いをしていたからだった、オメガの星で昔からリングに上がる彼に恋をしていた、軽口が多いが実力は本物でファンとして応援していると告げると照れ臭そうにしつつもちゃんと受け止めてくれるヘイルマンが素敵だと感じた
次第に恋心に変わり告白を受けた時の喜びを忘れることは無いだろう
「…髪の毛切っちゃったの勿体なかったかな」
湯船に浸かっては彼が好きだと褒めてくれた長い髪が無くなったことを少し後悔しては、期待してはダメだと言い聞かせた
その結果が今の自分であるならば彼を求めて苦しむのはやめた方がいいと言い聞かせなければ諦められない恋だった
いや…もう数年も諦めきれてないのならば意味など無いかもしれない、今日現れたヘイルマンも何かの偶然になだけで恋人としてではあるまいとその期待に蓋をした
「よっ」
「久しぶりだなナマエ」
翌日の閉店1時間前頃に昨日と変わらないように現れたヘイルマンはアリステラと共に来店した、美味しいアイス屋でナマエが働いているから連れてきたんだ。というヘイルマンの言葉に納得しては普段通りの接客をして彼らにアイスを提供しては特に話すことも無く仕事に戻る
ふとアリステラが出ていこうとするのを眺めた彼女は店員としてありがとうございました。と挨拶をしようとするもアリステラは彼女を見て「夜が遅いからアイツに送って貰うんだぞ」といって出ていってしまう
その言葉を聞いたナマエは目を丸くしてヘイルマンを見れば彼もどうしたものかと言いたげな表情で「まぁ…送っていくか?」というものだから断ることも悪いかと受け取るしか無かった。
昨日よりも僅かに堅苦しくないのはアリステラが来店したこともあり彼の話をしていたからだろう、ナマエにとっての知らない地球に来たあとのアリステラの成長の話を聞いてはやはり彼らはいい意味で変わったのだと地球の温もりを知る彼女は感じた
「それじゃあ今日もありがとう、またね」
「夜ふかししすぎないようにな」
同じ家まで送っては変わらないように部屋に入ったナマエはヘイルマンの優しさに胸が溶かされてしまいそうだった
けれどその距離感は恋人ではなく昔の友人の頃のようだとも感じては寂しさを感じた、隣を歩くならば手を繋ぎたい。と思う自分の浅ましさがどうしようも無いなと思いつつそれでも彼が好きだと感じてしまうのは仕方の無いことだ
オメガの民は一度想うと永いのだから、それは遺伝子レベルなものだった。
「あれ?今日はルナイトとギヤマスターも?」
「久しぶりだなナマエ、相変わらずちっこいな」
「美味いアイス屋があると聞いて来たんだがナマエがいるとはな」
また次の日、ルナイトとギヤマスターを連れてきたヘイルマンに目を丸くすれば彼は「売上貢献」と冗談をいうものだから暇な店内であるためいいかと思いつつ普通通りの接客をしてはまた閉店までいる彼らを横目にここ数日ヘイルマンが来てしまうせいで僅かに身嗜みを整えていることに気付かれやしないかと僅かに怯えていた。
「それじゃあオレたちは先に」
「ちゃんと送って貰うんだぞ」
そして昨日同様店内に残されたヘイルマンをみては彼は楽しそうに笑って見つめ返すものだからナマエはどうしたものかと悩んでしまう
そうしてまた帰りを送ってもらい「じゃあな」と頭を軽く撫でられてしまえば頬が熱くなり、彼は懐かしい友人としてそうしてくれているだけなのだとナマエは湯船でお湯をブクブクとさせては悩んだ
「(ズルいなぁ)」
秘めた恋心を刺激されて揺らがない者などいないだろうに。と悩ましく思いつつ風呂上がりに滅多に使わない少し高いフェイスパックを開封しては、気分転換だと言い聞かせるのだった。
「ナマエ元気そうでなによりだ、アリステラから聞いたんだ」
「マリキータも来てくれたの?久しぶり」
次の日もまたやってきたヘイルマンにみんなで来たらいいのに…と思いつつも久方振りに会えたマリキータマンに思わずナマエはカウンター越しにハグをすればマリキータマンも嬉しそうにそれを返したが「いっ!」という謎の声が聞こえたのは気のせいだろう。
「いつも律儀にしなくていいのに」
またヘイルマンだけが残されてはナマエはバックヤードから戻っては遅い時間帯であることや、彼らも暇では無いことを理解しているためそう告げたもののヘイルマンは「カキカキッ遅いから心配なんだよ」といった
大きな身長差で歩幅も違うというのに小さな彼女の歩幅に合わせたヘイルマンの優しさは心地よかった、しかしながらその優しさが時として苦しいのも現実であるとナマエは感じていた
交際を初めて独占欲が芽生えてしまえば彼に近付く女性達が妬ましくなったのだ、優しいヘイルマンのファンサービスに苛立ちさえ感じて、周りに隠しているわけでもないが大きな声で「私は彼女なんだよ」と言いたいとさえ感じる程だった
「おやすみナマエ」
「おやすみヘイルマン」
そんな気持ちを彼はきっと知らなかったのだろう。とナマエは思いつつ部屋に入っては明日も彼は来るのだろうかと物思いに耽る
しかしながらやって来たのかナマエが彼らオメガケンタウリの六人の中でも特別仲の良かった一人、パイレートマンであった
「ムマーッここで働いていたのか、ヘイルマンに聞いていたが似合っているな」
「久し振りパイレート」
他の仲間たちと知り合う前からの友人であるパイレートマンは久方振りに顔を合わせたナマエをみては思わず表情が和らいだ
見た目に合わないかわいいフレーバーが乗せられたアイスのカップを手渡してはナマエは時計を見た後に入れ替わりで入ってきたスタッフに一言を告げてパイレートマンの座る向かいに腰掛けた
「なんの用事でここにきたの」
「外交のためだ、オメガと地球は和平協定を結んで今は兄弟関係だからな」
「そう…」
「ヘイルマンが気になるのか」
素直にそう言われてしまえばナマエは思わず動揺した顔をするもののパイレートマンに隠し事ができないことは知っていた、星を出る前にナマエはパイレートマンに散々ヘイルマンのことを相談していた
友人の…しかも女性の悲しむ姿に毎度パイレートマンは許せない気持ちを抱きながらもナマエはどうすれば自分に振り向いて貰えるのか。などと考えていたのだ、そんないじらしい彼女を苦しめるあの男を何度リング上で理解させたことやらと考えてしまうほど彼女に寄り添った
「…忘れようと思ってここに来たのに、まさかお店まで来ると思わなかった、だって今更だし」
「それはすまない、アリステラがな」
「ううん、いいの、私がまだ未練たらしいだけだし、彼は私のことなんてもう何も思ってないってわかってる」
みんなの優しさで彼と過ごさせてもらっているだけだという彼女に違うといってやりたかったがそれを言うのは彼の役目でないことを知っていた、全ての原因はあの男自身であり何かをするのならばヘイルマンが動く他ないのだ
万が一にもナマエが彼を諦めて新しいパートナーを探したり、新しい生き方をするというのならば友人としても応援してやるつもりだが、彼女の瞳にはまだ未練がたっぷりも残されていた
「今晩飲みに行くか?」
「いいの?もうすぐ終わるから久しぶりに行きたい」
たまには気を紛らわせてやる為だとパイレートマンは笑いつつどうしようもないこの二人に終止符を打ってやるかと考えたのだった。
本来アリステラの側近としての仕事はマリキータマンとパイレートマンの仕事だ、だというのに珍しく「今日は用事があるからたまにはお前が手伝え」という横暴気味な頼まれごとのせいで一日が潰れてしまったヘイルマンは少々機嫌が悪かった、本来ならばナマエの店に行って少しくらい話をしたいと思っていたのにそれがなくなったからだ
仕事を終えて地球滞在中に泊まっているホテルの部屋に戻っては酷く静かな場所で暇を持て余す頃、部屋の電話が鳴りフロントからなのかと電話をとって直ぐにヘイルマンは顔色を変えて部屋を飛び出した、オートロックのルームキーも忘れて。
「ヘイルマンが悪いの、女の子の腰なんて抱いちゃって、写真撮るだけのくせに」
三杯目のビールで目の据わった彼女を見てはパイレートマンは予想通りだと感じつつ酔って自分でも分からない事をしているであろう彼女に「すまんトイレだ」と告げてその場を後にして電話を借りた彼はヘイルマンに連絡をして「ナマエが酔ってるぞ、連れて帰ってやれ吾輩に家は分からないからな」と告げて電話を切った十五分後綺麗に現れたヘイルマンには呆れてしまうほどだった
「泣かせた時にはジョリーロジャーの判決も無しにセントエレモスファイヤーを掛けてやるからな」
と彼は告げて店を後にしたパイレートマンは本当に世話焼きな性格だと自分自身でも感じつつその寒さに小さくため息をこぼした、上手くいくようにと口にはせずに応援しながら。
「ナマエちゃん?」
「ヘイルマン…どうしたのここで」
「パイレートの野郎に呼び出されたんだよ、まさか二人で飲んでるなんてな」
悔しい気持ちがありつつもこのチャンス自体を与えてくれたパイレートマンに感謝しつつ、まだ飲むのかと聞けば彼女は首を横に振って帰ると言った
「きゃっ」
「うおっと」
「…ごめん、ちょっと飲みすぎたかも」
「だな、送っていく」
立ち上がった彼女が躓いたことに慌てて手を差し伸べれば照れくさそうな表情をすることさえヘイルマンには嬉しいものだった、久しぶりに触れた彼女の体は相変わらず柔らかいと感じては自分が下品な奴だと感じて反省をしつつ会計も済んでいたその店を出ては小さな歩幅に合わせて歩く
何を話すわけでもなく、ただ肌寒さだけが二人を刺激していた
ここ数日毎日送り届けてくれるヘイルマンに対して様々な話をしたいと思いな絡も話題は右から左に消えてしまうのは未練を無くさなければならないと彼女が感じているからだった。
「パイレートと何話してたんだよ」
「普通に最近何してたかって話だけだよ」
「ふぅん……」
無言の空気が互いに苦しいと感じていれば間を開けてヘイルマンは楽しそうにいう
「オレのこととか?」
なんちゃって。と笑う彼が隣の彼女を見下ろせばそのつむじが小さく下がって顔を伏せるものだからそういう反応はずるいのでは無いのかと思いつつ言えなかった。
短くなった髪の毛のせいで首は寒そうで、やはり今日も変わらないズボンスタイルに目を奪われつつ、どこと無く違う彼女に寂しさを感じた
「ヘイルは…私のことを考えてた?」
静かな住宅地で二人の足音が鳴る中で問いかけられた言葉にヘイルマンは驚いてしまう、その言葉の真意をとみつめれば二人の瞳はカチリとパズルのピースがハマるように交わった
外の寒さが彼女の身体を締め付けるが、アルコールで思考の鈍った彼女は呟いた言葉にハッとして慌てて「ごめん今のなしで」と告げるがヘイルマンはそんなわけにいくかと「考えてた」と素直に告げた
この数年間で離れられてから忘れたことは一度もなかった、自分のせいで彼女を失ってまた取り戻したいと願う事はとてつもないわがままだと理解はしていたが止められなかった。
「ナマエちゃんのことしかオレ考えれてなかった…つったら?」
ヘイルマンは足を止めて質問に質問で返せば彼女は一歩先に進んだあと彼を見つめてはなんと答えればいいのかと悩んでいた
彼女とて同じ気持ちであるのだ、本当は来てくれた彼に迎えに来てくれた?と聞きたい気持ちも多少はあったが友人だと言われることが怖かった
恋人だった過去だけが残されて今の二人は何物でもないと再確認させられることが怖かったのだ
「地球での暮らしが楽しいってわかってる、オレよりいい男がいたのかよ」
短い髪にしてピアスまでつけて。まるでオレの知るナマエじゃない。と言いたげたヘイルマンの言葉にナマエはカバンを持つ手をぎゅっと握ってかれをみつめてた
「いるわけ…ないよ」
過去のことだと全て見切りをつけて捨てたかった。ようやく捨てて初めからやり直す手筈が整ったはずだと言うのに現れた彼にどうして今更と罵倒したかった
出て言って直ぐに迎えにきてくれたならば「ごめんね」「いいよ」といつもの様に抱き締めて終わっていたというのにそういかなかったというのは理由があるからだろうにと意地悪く考えてしまうのは仕方ないことだ
「ヘイルマンこそ、素敵な人がいたでしょう?」
「いる訳ねぇだろ」
「嘘だよ、私以外の子にもずっとデレデレしてた!いつもベタベタしてニヤニヤ鼻の下伸ばしてさぁ」
「そんなことないってオレはナマエだけ」
「じゃあなんで迎えに来てくれなかったの?」
地球に来て三ヶ月ほど髪の毛はまだ長かった、迎えに来るかもしれないし長い髪が好きだと言ってくれたから高いトリートメントやブラシを買ってこまめな手入れをした長い髪は誰からも褒められた
本当は短い方が好きだったのにヘイルマンが「オレ髪の長い子が好きなんだよな」といったから…そんな下らない理由だった。
耐えきれずに涙を溜めてそういった彼女にヘイルマンはどうしてやればいいのかと悩んでいた
全ての原因は自分でしかなかった、あの時もっと必死に探せば仲間達もきっと熱量を感じてすぐにい場所を教えてくれたはずだが勇気が出なかったのだ、万が一にも自分が要らないと言われたり知らない男が隣にいた時に耐えられないから
「ごめん」
それ以外に伝えられる言葉はなかった、大きな背中を丸めて俯いたヘイルマンの弱々しい声をナマエは初めて聞いた、リング上の彼は自信満々で軽口が多くて仲間内からも減らず口だと茶化されるほどなのに、そんな彼が気弱にそういったものだからナマエは思わず目を丸くした
「もし迎えに行ってナマエがオレ以外の男といたら…とか考えてる間に足が止まっちまったんだ」
ヘイルマンはよく夢を見た、たくさんのドアがある中でどこを開いても彼女がいない、ようやく最後のドアを開いた時、彼女は別の男と隣を歩いている姿であった
万が一にも彼女に本当に男がいた時、きっとヘイルマンは相手の男に手を挙げてしまうと考えるほどだった、散々自分が彼女を振り回しておきながらそんなことをするというのはとんでもない我儘であることは理解していたがそれでもその衝動を抑えきれなかった
「オレのせいだってわかってる、だけどナマエちゃんが好きなんだ…大好きで、愛してる…下らねぇ事で傷付けたことは分かってる、悪ぃ」
ナマエの手を取って必死にそう告げるヘイルマンはあまりにも弱々しいものであったがどうしようもなくかわいい人だと感じられた
彼は素直な人だ、それ故に目に見えてわかりやすい行動をして嫉妬を煽っていたことも多少なりとも理解はしていたが耐えきれなかったのだ、ヘイルマンはあの星の中でも特別な超人であるのだから平凡な自分など…とナマエが思うのは仕方ないことなのだ
「好きなんだ、今更だってわかってる…だけどもう一度チャンスが欲しい、恋人が無理でも友達からでいい」
一歩後ろに下がり片手を伸ばして律儀に腰を曲げるヘイルマンにナマエは静かに見つめた、目に見えて余裕が無いことは分かっていた、彼は今必死なのだ、母星が崩壊寸前の時のように…
誰にも背中を押してもらいきれずに悩みに悩み抜いた年数が経った今手離したくないともがいているのが目に見えた、ナマエはひたむきな彼が好きだった
軽薄そうな調子に乗りやすいと言われるヘイルマンの本当の姿は実に真面目な人であることをナマエは理解している、試合になればストイックに身体を絞り自分を強くする事に努力を惜しまない
だからこそ好きなのだ
「…てたっけ?」
「ナマエちゃん?」
「やっぱり私たち、別れてたの?」
ふと聞こえた声に顔を上げれば彼女は口元に手をやっては笑って問いかけた、少しだけ赤くなった瞳に彼女が泣きそうだったと察しつつもそれを言うことはなく慌ててヘイルマンは彼女の手を取って身体を寄せた
久しぶりに感じた彼女の熱と香りは変わることの無いもので、握った手は溶けてしまいそうだと思うほどだった
「別れ話もしてないのに」
自然消滅ってことだったのかな?という彼女にヘイルマンは犬のように首を必死に横に振って「してない!」と声を上げればそれは住宅街に小さく木霊した
「嫉妬しいで逃げちゃうし髪の毛も短くてズボンを好む私になったけどそれでもヘイルマンの隣にいたい」
今更ずるいかな?と眉を下げて笑う彼女にヘイルマンは必死に首を振ってついには彼女をその胸に堪らずに抱きしめた、小さくて柔らかくて心地の良い彼女はイメージチェンジのように見た目を変えたがやはり変わらないものであり胸の中の彼女を見下ろしては顔を寄せてその唇に…
「だめ」
「…ンでだよ」
「寒いから家に入ってからにしよ?」
「…それってさナマエちゃん、分かってるやつ?」
ヘイルマンの口元に指を添えた彼女が彼のキスを拒めば、彼はムッとあからさまに拗ねた表情を浮べるもののナマエは彼の大きな手に指を絡めては手を引いて歩き始めた
彼女の背中に悔しいやら恥ずかしいやら嬉しいやらと様々な感情を織りまぜた視線をぶつければ振り向いた彼女は何も言わずに微笑むものだから、あぁ彼女は変わった…以前よりもずっとズルくて可愛いい女になった。と痛感しては早足で彼女の家に向かってしまうのだった。
◇◆◇
ヘイルマンは自身の星で深い溜息を零しては自身の職務に手を付けられずに肘をついて悩ましくしていた
その場にはオメガの仲間達も揃っているがナマエは居らず全員がその深い溜息に苛立ちや呆れを感じるほどであり、数度目のため息の末に「ナマエちゃあん…」と呟いたことにいよいよ耐えきれずにテーブルを返したのはやはりパイレートマンであり両隣りのギヤマスターとルナイトは慌てて彼を抑えた
「ため息ばかりをつくなーーッッ!」
「仕方ねぇだろ、ナマエちゃんに会えなくて死にそうなんだよ!」
「キサマのせいだろうっ!」
その言葉には全員が同意しつつもまさかこのような結果になるとは…と思った
よりを戻したヘイルマンとナマエだが、地球滞在の最終日にナマエは共に帰るかと思っていたものの彼女は笑顔で答えたのだ
「私地球が気に入ってるから帰らない、オメガの星は好きだから旅行には行くと思うけど、ごめんね」
という短い返事だった、動揺し声を荒らげるヘイルマンだが船の出立時間だからと無理やりに連れていかれた彼はもう三ヶ月は地球に帰っておらず時折手紙でのやり取りをしているだけだった
外交が増えたオメガの仕事は以前よりますます忙しく、それは彼らが普段リングでどれだけ戦う超人だとしても星を代表する者としての重要な仕事は別に存在していたのだから仕方がない。
そんなヘイルマンにアリステラは書類の束を纏めては呆れつつもどこか微笑ましく声をかけた
「働き詰めだからな、これを地球に届けるついでに一ヶ月ほど休んでこい」
オメガの星の王としてそう告げるアリステラはまさにヘイルマンにとっては神の存在に近いとすら感じて瞳に涙を貯めた彼はアリステラの頭に飛びついては「愛してるぜアリステラ〜ッ!」と喜びの声を上げたのだった。
あの日地球に来た際に通い慣れたアイスクリーム屋の入口から店内を覗いてはヘイルマンは落ち着きがなかった、ガラスの奥の店の中には以前同様に働いている彼女がいてかわいい笑顔での接客をしていた
どんな話をするのか今日は予定は…と聞きたい気持ちをどうにか整理して店内に足を踏み込んでレジカウンターに立てば以前より少しだけ髪の伸びた彼女がいた
「あれ?ヘイルマンこっちに来てたの?」
「仕事ついでに、しばらく滞在になったからナマエちゃんに会いに来ちまった」
「ありがとう、まだ仕事だから待たせることになるよ」
「いい!いくらでも待つから」
待つことには慣れているからと言い聞かせて何も言わずに渡されたカップのアイスの中身はヘイルマンの好きなフレーバーが入っており、思わず目を見つめれば彼女は照れくさそうに微笑んで「新作、好きだと思うよ」というものだから彼は胸が苦しくなると思いつつお会計を済ませて座り慣れた椅子に腰かけた
「(ナマエちゃんいつもこんな気持ちだったのかよ〜〜ッ)」
しかしながらヘイルマンの心中は穏やかでは居られなかった、やってくる常連やら学生の男やら、みんな気軽に彼女に話しかけるものだから彼はその都度出ていきたくてたまらなかった
挙句の果てには連絡先を聞くものや渡す者、デート迄誘うのだからオメガにいた時はあんなことはなかったのに…と思いつつふと冷静に考えてはあの小さな場所で彼女がヘイルマンの女であることは全員が知っていたからか。と気付く
魅力的な彼女なのだからそうなるのは当然で仕方がないと理解しつつも苛立ちに店内の温度が下がってしまっていたことをヘイルマンは理解していなかっただろう。
「おまたせ」
仕事を終えてようやくヘイルマンの横に立った彼女はやはりシャツとパンツのシンプルな姿であり、それが仕事の時の服装なのかと感じれば案外嫌いじゃあないと思えた
再会してすぐの頃とは違い無邪気に話しかけてくれる彼女に安堵しつつも仕事中の男たちを思い出してはやはりどこか気が進まなかった彼に手を繋いでいた彼女は「機嫌悪いけどなにかあったの?」と何気なく声をかけた
「べ、別に」
「待たされてて怒ったの?」
「そうじゃない」
「やっぱりこういう姿好きじゃない?」
「めっちゃくちゃ好き」
「私の事やっぱり怒ってる?」
「怒ってない!」
声を荒らげて返事をしたヘイルマンに目を丸くしたナマエをみて、ヘイルマンはやってしまった…と冷や汗を垂らせばそれは氷に変わって地面に落ちてしまう
あまりの態度にどうしたのかとナマエは不思議がっていることに彼は素直に「…情けねぇ話だよ」と白状することにした
「ナマエちゃんが他の奴と仲良くしてるのが、すげぇ嫌だったんだよ」
オレ以外の奴に笑いかけたり話したりするのが、どうしようもなく嫌で自分の女々しさがさらに拍車をかけてムカついてしまうのだと自分の女々しさを告げるヘイルマンは羞恥心から彼女の顔を見れなかった
何も言わない彼女になんて情けのない男なんだかとヘイルマンは感じて謝罪の一言を告げようとするものの彼女の手がヘイルマンの頬を撫でた
「私の気持ち、わかってくれた?」
その言葉に彼女をみれば、彼女は愉しそうに笑みを浮かべていた、それはかつてヘイルマンが彼女に味わわせた想いだと気付いては彼は思わずその場に頭を抱えてしゃがみこんでしまう。
「…分かった、もう二度とそういう風にしねぇから、だからもうオレの傍から離れないでくれよ」
弱々しく呟いた彼に柔らかく眉を下げた彼女はしゃがみこんだ彼の額にキスを落とせば顔を上げたヘイルマンは滅多にそのようなことをしない彼女に目を見開いて見つめたあと慌てて立ち上がりもう一度…と言いたいものの目の前に見える彼女の家を見つめては手を繋いでくれる彼女を抱き抱えては慌てて目的地に向かった
もう二度と離さないように、その身体を大事に抱き締めて。
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