「デート?」

夕飯と風呂も終えた夜更けに突如告げられた言葉に目をまるくした彼女はヘイルマンが呟いた単語をオウム返しした
デートというのは恋人たちが出掛ける時の別称で、恋人というのはヘイルマンとナマエを指していた、一ヶ月の休暇の末に彼女の家に寝泊まりをするヘイルマンは週五日きっちりと仕事をする彼女の休みの日に二人で出かけたいといったのだ

「そーそー、オレ意外とこの星のこと知らねぇしさ、ナマエちゃんのが詳しいだろ」
「まぁ、そうだけど行きたいところはあるの?」
「いいや?二人でなら何処でも」
「じゃあ家で良くない?」
「オレに対して冷たくない?一緒に出かけたくなかった?」

彼女の態度に少しだけ寂しそうに問いかければ彼女は慌ててそういう訳では無いと否定をしたものの口をまごまごとさせては消えそうな声で呟いた

「前みたいなデート服が…ないから」
「前って?」
「だからヘイルが好きそうな服がないの!」

その言葉にふと何度か覗き見たことのある彼女の今のクローゼットに確かに以前とは真反対だったな…と思い出しつつもヘイルマンはそんなことを気にしているのかと笑ったが彼女は頬を膨らませて顔を背けるものだから、しまった回答を間違えたと慌ててご機嫌取りをするも彼女は真剣な声色で告げる

「私がどれだけヘイルマンに好かれたくて好みの服とか調べたか知らないからそんなこと言えるの」
「……それってさぁ、ナマエちゃんオレのことすげぇ好きって意味?」
「……ッッ」

いよいよ彼女の顔が赤く染ってボンッと音でも立てそうな程になれば彼女は近くのクッションをヘイルマンに振りかぶっては「バカバカ!」と声を上げるものだから、それはもう可愛くてたまらないのだ。

しかしながらデートはしたいから好きな服装で来てくれ。と約束をして一日だけホテルに泊まったヘイルマンはデートの前日、彼女がどんな服装で来てくれるのだろうかと考えてはかわいい服装でも、クールな服装でも、敢えてセクシーでも堪らないな。と感じては頬を緩ませて暴れてはベッドに落ちてしまうほどだった
ヘイルマンは以前よりも彼女に深く恋をしていたのだ。

デート当日・約束の三十分前に到着したヘイルマンは落ち着きもなく人混みを眺めていた、今日の彼女はこの人混みの中からどのように出てくるのか楽しみで堪らなかったからだ。
待ち合わせ場所付近の時計が十五分前頃になれば聞きなれた声で名前を呼ばれ「ナマエちゃん!」と嬉しそうに声を上げるヘイルマンは振り返って直ぐに動きを止めて見下ろしてしまう
黒を基調とした服装の彼女は今までのデート服とは全く違っていた、黒のシースルーのトップスに膝までスリットの入ったロングのマーメイドスカートにレザーのパンプスとジャケットに黒のベレー帽、しかしながら小物はゴールドに統一されており、カバンは小さくその服装に見合ったものだ

「好みじゃないでしょ?」

恥ずかしそうに巻いた髪を撫でる彼女の耳についた小さなイヤリングは透明感のある水色であり、人差し指の指輪にも似たような水色の石が輝いていたことに下手な考えだと思いつつも考えてしまうのだ、自分なのかと

「すげぇ好みだよ、かわいい」
「そう?ありがとう」

久しぶりにスカートを履いたと笑う彼女の言葉にデートだから。と言われる度に胸が高鳴ってしまうのはそれが数年ぶりのデートであることもだが、それを関係なしに彼女とデートできたことが嬉しいからだった。
完全に彼女にデート先を任せてしまっていたヘイルマンは水族館に行こうと誘われれば言われるがままに彼女と電車に揺られてはオメガの星には無い水族館に目を奪われた
地球はオメガの星よりもずっと自然と生き物に溢れたもので彼らが知らない生き物もずっと多くいた、それはナマエもヘイルマンも目と心を奪われるもので夢中になって眺めた

「綺麗でしょ?」
「…あぁ」

大きな水槽を眺めてそう言って笑う彼女に普段のヘイルマンであれば「ナマエちゃんのがかわいいよ」といえたが薄暗い水族館で水槽の光に反射してキラキラと光る彼女を見ては何も言えなくなってしまう
短い髪も以前と違うクールな格好も、正直なところどうでもよかった、ヘイルマンにとってナマエさえ居てくれればもうそれで良かった、けれど好きな人の好みや好きな人のために…という気持ちも理解出来る彼は否定はしなかった

「この水族館ね、デートスポットとして有名だったの」

彼女の言葉に周りはカップルだらけなのだからそうだろうな。と思っていれば手を繋いでいた彼女は照れくさそうに笑った

「ずっとヘイルマンと来たいって思ってた、正直叶わないって思ってたからすごく嬉しくて私浮かれちゃってる」

目を細めて無邪気に笑う彼女にヘイルマンはどうしてそんなに素直に言えてしまうのだろうかと思っては胸が締め付けられた

「オレもスゲェ浮かれてる、また隣にナマエちゃんが居てくれるから…嬉しいんだよな」
「沢山デートスポットがあるから、一緒に行ってくれる?」
「当たり前だろ、オレたちの星でもたまにはデートしたいケド」
「そうだね、勿論だよ」

薄暗いカップル達の水族館を二人は堪能した、カフェに行ってソフトクリームを食べたり、イルカのショーを眺めたり、南極コーナーに行ってはヘイルマンの方が冷たいと笑い合い、それは紛れもなく過去の二人と同じものであり離したくないと思うばかりだった
彼女のいない日々は何も楽しくなく、どこに行っても何をしても感じられないほどだが、地球で彼女に再会してからはまた世界は輝いていた
繋いだ小さな手を優しく力を入れて握れば見ることも無く手を握り返される、その優しさが心地よくて堪らない。

「なぁナマエ、好きだ」

静かな水槽の前でそう言葉が胸から溢れれば彼女はヘイルマンを見つめ返した、次の言葉を待っていたのだ
ヘイルマンはいつも不思議だった、何故か彼女は自分の行動をいつも見透かしているようだった、何をしたくて何を言いたくて…というのを知っていて彼女は黙ってそれを待ってくれる

「うん」

時間がかかっても優しい声で短い返事をして、子供の話を聞くように待ってくれた

「オレがしたことは許されねぇし、今ここでこっぴどく振られたり夢だったって言われても仕方ないと思ってる、それでも好きでさ…もう二度と離したくない」
「それで」
「……結婚しよう」

思わず本音が溢れてしまったとヘイルマンはハッとしては水槽の前でイヤリングを光らせた彼女は髪を撫でながら返事に困っていた、当然のことだ、再会してスグによりを戻して言うことが結婚などこれ以上の重たさと面倒くささと女々しさはないだろうとヘイルマンも思った

「あぁ悪ぃ今のは「いいよ」…へ」

思ってもない返事に驚くヘイルマンだが慌てて彼女に本当にいいのかと問いかけようとするも先に彼女は真っ直ぐと彼を見て言葉を続けた

「そうだなぁ…お互いのこと考えて来年にしよっか、それまでに何かあったらもうおしまいね」
「絶対ない!」
「本当に?」
「本気で」

必死に彼女の言葉に返事を返したヘイルマンは喜びだけが残されていた、彼女はある意味プロポーズを受けてくれたということなのだから。
小さな手がヘイルマンの手を取りくすぐるように優しく指を絡めては照れくさそうに笑うのだから彼はもうこれ以上なんと言えばいいのかと悩ましく思いつつハッと何かに気づいては大股で館内を歩き始めてしまい、彼女は小走りでそれについていった、何処に行くの?なにかあったの?と問いかければ振り向いた彼は当たり前だと言わんばかりに答える

「婚約指輪買わなきゃなんねぇだろ」

今すぐ行かなきゃまるで無くなると言わんばかりの彼の勢いに彼女は大きく目を見開いて驚いた後に微笑んでしまう、お互いに何処までも愛し合っているのにどうして互いにくだらない時間を過ごしたのだろうと思いながら。
いや…無駄な時間ではなかった、そこには確かに二人の思いを整理させるための時間であり、互いを感じ合えるものだったから。

「ねぇヘイルマン、私欲しい指輪があるの」
「あぁなんでも買ってやるさ」
「あなた色の綺麗な石がついた指輪がいい」

薄い水色のダイヤモンドだろうかと考えてはヘイルマンは「いくつでも買ってやる」といっていよいよ水族館の出口を抜けてしまえば今から始まる長いデートを想像して苦笑いを浮かべる、一つだけでいいと言って
それが二人をもう二度と切り離さないモノならば例えおもちゃの指輪でも白詰草でも構わないと思いながら、喜び興奮して表情を緩める彼の横顔を眺めながら歩幅を少し大きくさせて歩き出すのだった、夫となる彼とともに。