朝から校舎の入口がやけに騒がしかった
見知った顔の連中には「よっ!男前」なんてからかわれてなおのこと意味もわからずに人混みをかき分けて注目の的になっているそれを見た

【無題】

と記載されたそれは立派に"全国高校生フォトコンテスト 金賞"なんて文言が貼られており小さく新聞の見出しにもなっていた
その下には湘北高校2年4組ミョウジナマエ と記載されており、メインの写真には三井が3Pシュートを打つ姿だった、汗が飛んでコートのライトに照らされて静かな迫力がそこにはある、華があるとは言い難いが人の目を奪って離さない写真がそこにはあった

「ミョウジナマエ…あぁナマエちゃん?」
「なんだよ、知ってたのか」
「たまに来てるよ」

バッシュの靴紐を締め直したリョータがそういってすぐに出ていった、あいつに聞くよりかは彩子に聞く方が早いかと思い直して自身も早く用意をしてコートに出向きストレッチをした

「あぁナマエちゃんなら多分近いうちに来ますよ」
「よく来てるのか」
「カメラ部の…特にスポーツメインの子だから色んな部活回って撮ってるそうですよ、物静かな子ですけどね」
「へぇ知らなかったな」

そりゃあ2年も居なかったのだから後輩のことなど知る由もないかと思い練習をした
それから数日のことだミョウジナマエがバスケ部に来たのは

「あっほら三井先輩彼女が噂のミョウジナマエちゃんですよ」
「どうも」
「あっあぁどうも」
「今から休憩なんでお二人でごゆっくり」

ニヤニヤと笑っていってしまった彩子にそんなつもりは無いぞと言いたかったがそんなことを言う暇も与えられずに彼女は逃げていってしまった

「これよかったら三井先輩の分です」
「え…あぁこんなに撮ってくれてたのか」
「突然の事で驚きますよね、私スポーツカメラマン目指していて撮らせていただいてて」
「この間賞貰ってたみたいだな、おめでとう」
「あれもお伝えせずに申し訳ありませんでした」
「いやいいんだ、素人だから言われても嬉しかないだろうけど凄かったよ」

その時だろう、ずっと薄い表情の彼女が小さく微笑んで

「ふふ…よかった」

なんて言葉を漏らした、あっという間に落ちてしまった

「笑ったらかわいいな」

つい漏れだした言葉に慌てて自分の口を覆い隠せば聞こえていたらしいナマエは真っ赤な顔で見上げたあと「失礼します」と一礼して逃げてしまった
カメラ部は部員総勢5人、カメラを作ることから写真を撮ることまで様々な分野に精通しており、みな個人で賞を取ったり新聞に掲載されたりなど腕は確かなものだった
ナマエに関しては将来の夢としてフリーのスポーツカメラマンのため様々な部活や大会に出向いては写真を撮っては毎月新聞部やその部に写真を渡していた
実際にプレイしている身としては写真や動画を撮られることは少なく手元に残ることもあまりない為新鮮でよかった

「これ三井先輩のお写真です」

特にバスケには力を入れてる彼女は定期的に来ては1人ずつに写真を渡した、そこにはルールがあり必ず全員同じ枚数を渡すということだ
そうしなければ桜木のように少ないと文句を言うものも少なくないからだろう

「今回のも上手く撮ってるなすごいな」
「三井先輩は特に撮りやすいですから」
「モデルがいいからな」
「…確かに」
「じっ冗談だよ!」

ひとつ分かったのはナマエは意外と天然で抜けてる、こうやって冗談をいっても真面目な顔をする時は多く自分が恥ずかしくなりそうな時も多い

「でも三井先輩少し怖く感じられるかもですがイケメンの部類ですよね」

なんていうものだから早急に白旗をあげる、彼女には勝てる気がしない
あの日好きだと気付いてから彼女の横顔を見る日は多かった、特にカメラを構えている彼女はまるでコート上のプレイヤーのような熱中さとかっこよさをあふれ出たせていた
撮った写真を確認する際の指先と眉間のシワさえ胸を締め付けられてあぁ重症だなんて思えてしまうほどだった、彼女のカメラの腕は本物だ
そしてそれはまた別の日だ

「私三井先輩のこと好きです」
「は?え」
「バスケってパワフルなスポーツじゃないですか、だけど3Pシューターって唯一静かで綺麗で1人だけ世界が違うようで」
「あ、あぁそういうことか」
「特に先輩はコートに立つ時、シュートを打つ時もうリングしか見えてないっていうのがカメラ越しによく伝わるんです」
「俺もミョウジのこと好きだよ」

熱く語る彼女の言葉にそういえば彼女は嬉しそうに小さくはにかんだ、IHの結果は良くはなかったかもしれないが全力を出すことは出来た、それだけで十分だ
彼女の写真に映された自分はあまりにも綺麗で別人のように感じられた

「シャッター切る時の顔も、写真を見返してる顔も、全部綺麗だって思って……る」
「あっ……その見ないでください」

ただ褒め返したかっただけだ、別にやましい気持ちは何も無いけれどミョウジはまるでリンゴやトマトのように顔を首や耳まで赤くさせていた
そしてそれが伝播したように自身の体にも熱を持たせてくるものだからゴクリと唾を飲み込んでしまう

「三井先輩に言われると、なんていうか…特別嬉しくって」

これは自惚れてもいいやつでは?と思っていたが彼女は「それじゃあそろそろ別の部活見に行くので、三井先輩も頑張ってください」と告げて逃げられてしまった
よく考えたら今は休憩時間だったような…と後ろを振り向けば嫌ににやけ顔の後輩(バカ)が立っており勢いよく背中を叩かれからかわれ始める、うるせぇな彼女もいねぇ非モテ共め
おまけに彩子までにやにやとして「ナマエちゃん意外と人気あるんですよ」なんて言うもんだから思わず声を張り上げる

「そういうのじゃねぇ!」

今日1番の声が体育館に響いた
あれからミョウジはあまり来なくなった、というのはまぁ当然彼女はバスケ部以外にも行くしそもそも彼女のカメラの腕は高校生では止まらず普通に大人同然だったのだから忙しくて当然のことだろう
おまけに学年も違えば顔も合わせることも少ない
時折バスケ部には来ているらしいが写真を彩子に渡してすぐに帰ってしまうらしく、寂しさが出てきてしまい彼氏でもない俺が何を思ってるんだと思わず自身に対して激昂した

そんな中でまた校舎の入口に人だかりが出来ていた、女子の黄色い声に男子の冷やかしのような声に無視をしてその写真の前に立つ
"〇〇写真コンテスト 特別賞"と記載され写真が1枚Lサイズのものが張り出されていた、それは自分自身だったいつの日かの試合で自身の3Pで逆転勝ちをした時のものであり、汗だくの中満面の笑みを浮かべる自分がいた
そしてタイトルが張り出されていた

【恋】


「はぁ…っはぁ…っ、ミョウジはいるか」

2-4の教室に行けば小さな女子の黄色い悲鳴が聞こえる、今じゃあ学校中あの写真で持ち切りだから仕方ないだろう
だがしかしこれは本人に聞かなければならないことだった
同じクラスの女子たちにきいても分からずじまいで走り出そうとすれば奥の2-1から見知った顔の女子が意地悪く微笑んでいた

「ナマエちゃんなら多分体育館ですよ」
「さんきゅっ」
「ジュース奢ってくださいね」

最後の言葉は聞こえないふりをして走り出す、階段をおりて教師が走るななんて怒鳴り声をあげてくるのも無視して、そして体育館のドアを音を立てて開けばミョウジはそこにいた

「おはようございます三井先輩」
「あ…あぁおはよう」
「バスケ部のいない体育館って静かですね、初めて来たかも」
「なぁ」

いつもより大股で彼女に近付いた、カメラを持ったナマエはこちらにカメラを向けて音を立てて1枚写真を撮った

「カメラ越しじゃなくてもやっぱり三井先輩はかっこいいですね」

なんて彼女がいった

「写真見てきた、あのタイトルってその」

言葉のキレが悪い、肝心なところでしっかりと出ないのだ、俺が好きなのか?どういう意味なのか、俺だってお前のことが
そんな大事な言葉も全部理解しているのかナマエは顔を上げる、身長差があるから互いに見上げるのも見下ろすのもいつも辛くなる

「私の【恋】です、先輩が好きなんです」
「それは」
「最初は写真だから、カメラ越しだからって思った…けど本人と会って話して写真を見て思ったんです、私恋してるって」

カメラを胸に抱き寄せて彼女は頬を赤くして小さく深呼吸をしたのが目に見えてわかる、そして彼女はカメラに向けるような真剣な真っ直ぐな目をこちらに向けてその綺麗な唇を開いた

「三井先輩のことが好きです」



校舎の入口にまた人だかりができていた、今話題の現役高校生カメラマンと言えよう彼女がまた入賞したのだろう
慣れたようにその人混みの中に混ざって最前列の真ん中に立つ、背中を叩かれたり誰かのからかうような声が聞こえる中
目の前のLサイズの写真が1枚張り出されている、ご丁寧に〇〇賞 金賞なんて大層なものがまた記載されており、写真にはユニフォームを着た1人の男がいる

【無題】

と記載されて
機嫌よく放課後の練習をしていればコートの隅で1人の女子がカメラを構えて立っていた

「今日も順調か?ナマエ」
「はい、被写体がいいですから」

なんて彼女は笑った、遠くから「そこイチャイチャするな!」なんて声が聞こえてくるが小さく笑みが溢れる、それを逃すまいとシャッターの切る音が小さく響いた