これの続き
※桜木家過去捏造過多


ナマエと出会ったのは小学三年生の頃だった、生意気な春道と友達になって初めて家に遊びに行ったとき彼女はいた、母親を早くに亡くしている桜木家は花道の姉ナマエが母親のようだった
それが恋だとかどうかは関係なく、毎朝チャイムを鳴らす度に胸が高鳴った、きっと彼女が出てくるから

「あっおはよう洋平、花道もうすぐ来ると思うから中で待ってる?」
「うん、ナマエちゃんもういくの?」
「部活あるからね、あの子の事よろしく」

5つ年上のナマエは中学生で陸上部だった、何度か大会を見に行ったが彼女の走りはフォームが綺麗で早かった、お腹も足も見えてるユニフォームには少し気にもなるがそんな事どうだっていい
中学一年からレギュラーで普通の公立中学校なのに個人大会は成績優秀、そのうちあっという間に高校なんかからはスカウトが来ていた

「いらっしゃい洋平」
「また朝練?」
「うん、もうすぐ大きい大会あるし…あっ、お弁当洋平のもあるからね」
「いつもサンキュ」
「かわいい弟ですから」

そのうち学校全体が彼女を応援して花道も鼻が高いのかよく応援にみんなでいった、身長が飛び抜けて高くてスタイルが良くて綺麗な赤いポニーテールが揺れる、それだけで人々の目は彼女に奪われて記者やカメラマンなんてみんなナマエに夢中だった
そりゃあ華々しい学生生活が約束されてるもんだ、それでも父子家庭の桜木家で寂しい日もあったんだと思う

「お父さん…来てくれるっていってたんだけどね」

寂しそうにそう言うナマエの顔は俺の前だけだった
花道の前じゃ強くて優しくて少し怖いお姉ちゃん、だけど俺の前だけは小さな弱音を吐き出した、それはきっと自分が口の硬いやつで少しだけ達観してたからだろう
結果彼女の中学生生活は努力が実って高校は大きな私立校に推薦入学した、おまけに学費も負担してくれるというほどで花道といつもの俺たちみんなで小遣いを出し合って6人で食べるには小さすぎる4号のホールケーキを買ってお祝いをした

「姉ちゃんおめでとう」
「ナマエちゃんおめでとう」

少し涙ぐんだ彼女が嬉しそうにチョコレートのプレートを食べて

「ありがとう、でも今ダイエット中だからあとは食べてね」

なんていった、それが彼女の優しさでも馬鹿な奴らはいちごの奪い合いをしていた
その夜小さなアパートの一室でギャーギャーとファミコンをしてお菓子パーティーをしてみんなで雑魚寝をした、ふと深夜に目覚めると彼女はベランダで1人立っていた

「ナマエちゃん?」
「あ、洋平起きちゃった」
「風邪引くよ」
「ドキドキして寝れなくなっちゃってさ、お祝いすごく嬉しかったありがとう」

15歳の彼女は綺麗だった
齢10歳にしてこれが恋だと理解した、隣に立って二階建てのアパートから外を見ても何も見えやしない、冷めきったナマエの手が繋がれる

「ほら冷たい」
「びっくりした?」
「ビックリしたよ、高校になっても俺たち見に行くから」
「…うん」

嬉しそうに笑った、胸が高鳴った
朝に会うことはなくなった、ナマエの朝は早いから仕方がない、それでも律儀に俺と花道と父親への弁当は用意されていて、それを開く12時が楽しかった

「なんか洋平の方がでかくねぇか?」
「そんなことねぇだろ」
「いやでかいな、よこせっ」
「おいやめろよ!」

こうして彼女のことで親友と大声を上げてはしゃげることは楽しかった、何も無いガキってのはそんなもんだ
ナマエが高校3年になった夏前だった、練習中に膝をやったのは
これ以上陸上はできない、当然夏の大きな大会には出られるわけが無い、そしてリハビリをしても復帰はないと宣告された彼女はまるで死刑を告げられたようだった、それを聞いた花道が医者を殴って暴れるものだから病院からまとめて追い出された

「花道ってばそんなことで怒っちゃって、ははっ馬鹿だよね」
「……馬鹿じゃねぇさ、俺だって同じ立場なら医者のこと殴っちまうよ、嘘言ってんじゃねぇって」

花道は荒れたちょうど俺達は中学校に入ったばかりで不良の多いバカ学校だったから喧嘩に明け暮れた
毎日毎日ボロボロで花道は悔しかったんだと思う、何も出来ず優しい自分の姉が傷付く姿に耐えられなかったんだろう、同じだった
神社の初詣に行くたびに彼女は誰よりも長くお祈りをしている、絵馬に毎回家族や俺達のこと、そして陸上の事を書いていた
夏祭りの日、花火をみんなで見るなかで野間か誰かが花火が打ち上がるのと同時に「彼女くれ!」なんてでかい声を出して、そこからみんなの夢を大声で言い始めた

「大会で優勝したい!」

ナマエの声は花火と共に弾けて消えた、絶対できる願い事いうんじゃねぇよなんて大楠が笑った、みんな笑った
だってそういうことできる人じゃん「あんた達みんな馬鹿だからちゃんと勉強しなきゃね」って教えてくれるし、学校も部活もあるのにバイトもしてた、休みなんて本当にないほど努力をしていた

「悔しいなぁ、私から陸上取らなくたっていいじゃん」

陸上頑張りたいから、なんて理由だけで長い髪を切った20cmくらい彼女の家の風呂場で切った、美容室に行くのは緊張するからなんて言うのは嘘だ節約のためだって知ってた、弟の花道に切らせたら何されるか分からないからと呼び出されてあぁ信頼されてるなぁなんて浮かれてしまった

「いいよ、俺の胸貸してやるからさ…泣いていいんだよ」

ナマエは俺の姉貴じゃないから
抱きしめた、胸の中なのに声を押し殺して肩を震わせて泣いていた、こんな時くらい大声で泣いたっていいのに彼女は健気で強かった、背中を撫でて彼女の短い髪をみつめる、何も言えなかった
本当は「好きだ」と言いたかった、泣いてるその顔にキスをしたかった、その寂しさを悲しさを埋めるように肌の温もりを感じたかった

「洋平は本当に優しいね、花道の友達でよかった」

目を腫らして鼻先を赤くしてまだ少し涙の跡が残る顔でナマエは言った、それ以上言えるわけが無い

「俺もナマエが花道の姉ちゃんでよかったよ」

そう言うしかないだろう
翌年彼女は返済無しの奨学金制度を使って大学に行くことになった、神奈川の中でもトップ10に入るほどの学力で陸上の代わりに勉強に熱を込めた結果が出たらしい
けれど人生ってのは本当に最悪で秋頃に父親が亡くなった、持病の発作で自宅で倒れていたという、本当は花道が気付いて医者を呼ぼうとしたのに間に合わなかったのだという

「お弁当しばらく作れないや…ごめんね」

喪服を着たナマエがそういった、遠い親戚しかいない上に疎遠だという桜木家は二人でやっていくとナマエはいった
彼女は泣いていなかった、きっと2人とも辛かったんだろう、花道は葬式には出なかったらしい、それでいいんだとナマエは言った別れ際に挨拶さえしてくれたらいいと遺骨を抱きしめて呟いた
また胸の中で彼女は顔を埋めた

「洋平って安心感あるね、いつの間にか大きくなっちゃったしさ」

ハァ…と溜息をこぼした、そりゃあもう時期高校生にもなるんだからと思ったが伝えなかった、花道だってデカくなってると言うかこれからますますだろう

「置いてかれちゃうかもね」

自分の胸の中で顔を上げたナマエの唇にキスをした、互いに目を見開いて驚いた、ナマエは何も言わずに胸に顔を埋めたがそれは決して受けいれた訳では無いし恥ずかしかったわけじゃないと馬鹿なのに察した

「大きくなったなぁ…」

またそうやって呟くもんだから「男だからな」なんて言えば小さく笑い声が聞こえた
花道は荒れた、そりゃあもう神奈川の不良全員が向かってくるんじゃないかと言うほどに、そして俺達も付き合ったあの3人は理由は知らないが男の痛みには付き合える連中だった、そうしてく間に桜木軍団なんて変なあだ名までつけられて怪我をする度にナマエに絆創膏を貼られて「子供じゃないんだからさぁ」なんて文句を言われた
ナマエは大学に通いつつも家庭を支えるために高校生の時以上にバイトをしていた

「「あっ」」

その声は夜の繁華街に消えた、お互いに目を合わせたが1度知らないふりをした

「お願い花道にだけは言わないでほしいの」

そういって両手を合わせて頭を下げるナマエにビールを飲みながら洋平は頭の中で悩んでいた、それは先日ナマエが父親ほどの男と腕を組んで歩いていたことに対してだ
詳しく問い詰めれば夜はキャバクラやスナックでバイトをしていると言い出した、そりゃあ大学生が中高生ほどの弟を養うのだから仕方がないことだろう、花道には工場の夜勤をしているとも伝えてるらしい、きっちりしてる

「別に変なことはしてないけどあの子絶対怒るから」
「俺が怒らないとでも?」
「…分かってはくれると思ってる」
「ご名答、でもさ…あいつも馬鹿じゃねぇと思うよ」
「分かってる、でもね花道には苦労して欲しくないの」

花道は未成年だ、それゆえ政府からの子ども手当というものも入るしひとり親家庭の手当も入り様々な保護はナマエも当然受けていた
けれどそれで生活を楽にできると言われればそんなはずも無い、大学の単位を取れるだけとって休みが取れる日は極力居酒屋と喫茶店のバイトを入れて早朝のお弁当屋さんにもいった、その上で夜も働くというのだから若さがあるとはいえいつか倒れてもおかしくは無いだろう

「あの子がもし好きなことをみつけたとき、我慢させたくないから」

その顔は姉よりも親のようだった、彼女のおかげで花道も父親を亡くした頃より落ち着いていた、好きな人を作ってはフラれてを繰り返してみんなで笑った
スナックのカウンターでナマエを眺めていれば彼女は色んな男に愛されていた、元から華やかで綺麗な人だからそりゃあそうか…なんて思っていた
結局諦めて納得した振りをしてスナックに通うようになった、とはいえ金のない中学生だ全部ナマエのツケで飲んでいた

「よぉナマエちゃん」

その中で彼女が一人の男に恋をする姿だってみていた
自分に向けるものでは無い優しい視線、その男の真似をしてタバコを吸っているのも全部知った、酒に強くないのにいつもグダグダになって酔いながら弁当屋に行って家に帰って花道を叩き起すのも
俺だけが全てを知っている

「ナマエちゃんさ、あいつ好きならアタックしたらいいじゃん」
「洋平は若いなぁ」
「そりゃあ中学生ですから」
「ケツが青いって言うんだよ、大人はねそんな簡単に好きとか言わないものなの」
「ケツは青くねぇし、大人でもないだろ」
「生意気いうやつはジュースでも飲んでなさい」
「あ"っ俺のビール!!」

本当はあいつが既婚者だからだろ?知ってるよ
いつもあの男は店に入る前に指輪をズボンのポケットに閉まってるのを知っていた、同じ銘柄のタバコを吸ってあの男の好きそうな話をしてカラオケのデュエットをしてるそんな彼女の横顔が好きだった
仕事を終えていつの間にか買ってた車の助手席に乗って家まで送られる、酒を飲んで少し頭がふわふわとしながらみる景色は好きだった

「ほら、着いたよ」

助手席のドアを開けるナマエの腕を掴んでまじまじと見つめる
髪伸びたな、綺麗なったな、メイクしてるからさらにおとなっぽいな、胸でかくなってんな、つか身長でけぇなまだ少し見上げてるもん

「好きだ」

言葉が溢れた、朝になろうとしていた、空は少しずつ黒から白に変わっていく
掴んだ腕を引っ張って抱き寄せて唇を奪おうとした時だった

「花道の友達のことそういうふうにみれないよ、ましてや年下なんて」

抱きしめられた、甘ったるい香水と嫌いなタバコの匂いが鼻にかかる、悲しいほどナマエの体温が心地よかった
もう次のバイト行かなきゃといって体が離された、残された俺は去りゆく車を見つめてため息を零す、残念ながら好きだ愚かなことにこの恋心は覚めなかった


「ほらこれが3P」
「「おおー」」
「おい桜木、姉ちゃんのがうめぇじゃねぇか」

三井にそう言われて怒鳴られてる花道とは反対に遊びに来たナマエはいつの間にかバスケが上手くなっていた
いや元から運動神経はいいから当然で、それと同時に流川と仲が良くなってる…というか多分あれは付き合ってるかもしれないな

「ねぇ洋平みてた?」
「みてた、うまいじゃん」
「洋平も得意だしさ、みんなでシュート対決しようよ負けたら……焼肉奢ってもらおうかな」

意地悪そうに笑うナマエにどうせそういって自分が金出すんだろ…なんて思わず呆れてしまう、少し遠くから流川の視線がバチバチに当たるのがムカつくがナマエの手からボールを奪ってやる

「いいぜ、流川も参加するか?」

そう言って視線を向ければメラメラと熱い炎のような熱が感じられる、元から勝てる気なんかしないが花道も流川がいると知ればやる気が出たらしく、シュート練習がてら全員で急遽始まったシュート対決、ふと隣に立つ流川を見上げて小さく話しかける

「ナマエのことなら俺のが付き合い長いからさ」

まぁ精々頑張ることだ、泣かせたら俺のところにくるだけだから…なんて言ってボールを投げても当然バスケ部じゃないから入る訳もなく、流川は綺麗にボールを投げ入れた

「ここまではな」

こりゃまた相当な奴だよ、なんて少し遠くの赤いポニーテールを見つめた、俺の恋はそろそろ終止符を打たねばならないかと察してるというのにナマエは楽しそうに手を振ってきた、今日の焼肉は少し塩っぱいかもしれないな