振り回して振り回されて
▼▲▼
「それで答えは?」
アイリスという女との出会いは彼がこの世界に来て二週間ほどのことだった、慣れない世界に突然投げ出されたものの程よく生活環境を整えられそうだとスーパーでの買い物を終えた帰り道、薄暗い夜の住宅街で彼女は酔っ払いに絡まれておりそれを助けたのがジュランであったが彼はそのことを言われるまで覚えてはおらず、初対面は彼がゼンカイジャーとして活躍していた時だと思っていた
「大丈夫か?!ここらは危ないから早く逃げろよ!」
彼女にとってジュランはピンチを助けてくれるヒーローのように感じた、王子様と呼ばないのは少々似合わないからだ
しかしヒーローは特別なもので彼女をすぐ様乙女にさせた、そのまま彼女に振り向かずに戦った彼の背中を見て「ゼンカイ…ジュラン…さん」と呟いた彼女の言葉などその時のジュランに届くはずはなかった
そしてそれから数日後に彼女は駄菓子カフェカラフルにやって来た
介人に用事があってやってきた彼女はジュランをみるなり驚いた様子で奥の部屋の連れていき怒鳴り声のような悲鳴をあげたことは彼にとって記憶から消せないものだろう
「初めましてだよな?えーっと介人の友達か」
「そ…そうですけど、私あなたとは初めてじゃなくて」
「ん?こんなかわいいお嬢ちゃんなら忘れないんだけど…あー、この間助けた」
「そう!そうなんです、私ジュランさんに!」
ぎゅうっと強く彼の手を握ったアイリスにジュランは思わず驚いてしまう、人間の女というのはこんなにも熱い握手を交わすのかと感じて
しかしそれが間違いだと気付いたのは彼女と交流を交わして行く中で彼は理解した、何故ならアイリスはジュランへの好意を隠そうとしなかったからだ、それどころか…
「こんにちは」
「いらっしゃい、今はヤツデも介人もいないぞ」
「おじさんだけなの?よかった好きな人と二人きりの方が嬉しいもの」
「ばっ!」
丁度喫茶時間も駄菓子を買いに来る時間でもない暇な時間に新聞を読みつつコーヒーを飲んで挨拶をしたジュランは彼女の言葉にコーヒーを吹き出して視線をあげれば彼女はそんな彼に気にした様子もなく隣に腰掛けた
そしてピトリと肩に頭を寄せて彼を見つめるのだ
「おじさんは?」
「おっさんをからかうなよ!」
全くもってバッテリーに悪いと跳ね上がる機体のエラー音に落ち着きを取り戻そうと徐に立ち上がったジュランは彼女に飲み物のひとつを用意してやろうとするが彼女は小鴨のように彼についてまわった
それどころか背後から彼を抱きしめては嬉しそうな声を出すものでジュランはどうしていいものかと困惑した
「アイリス来てたの?」
「ヤッちゃんに介人おかえり、丁度会社帰るついでに寄っただけだよ、ジュランおじさんのお茶飲んだら帰る」
「本当にあんたはジュランが好きだねぇ」
「うん、私のヒーローだから」
それならアイリスもゼンカイジャーになったらよかったのにという介人の声に彼女は「絶対に嫌、仕事忙しいから」と一刀両断した
そうだ、彼女は大人でありながら子供のような態度でジュランを困らせる、それ故彼も彼女の「好き」を半分冗談に感じていたもののそれでもしっかりと異性を感じる彼女に意識をせざるはいないのが現実である
「冗談じゃないよ」
「いや、だから」
「本気だってば」
だからこそジュランは目の前の彼女にどう対応すればいいのか分からずしどろどろな態度で誰もいない店の中で押し迫られていた
普段通りの彼女の好きを聞いて彼は冗談もいい加減にした方がいいと言ってしまったことに彼女は腹を立てたようで椅子に座る彼の膝の上に乗って逃さないというようにみつめた
簡単に男の膝に乗るなだとか、触れるなだとか、いい香りがするだとか、柔らかいだとか、様々な言葉が頭に浮かんでは消えていくも彼女はそんなこと以上に彼への好意の言葉を言い続けた
「本気がダメなら、なんならいいの」
疲れきったようにジュランの肩に顔を置いて腕が背中に回されてしまっても彼はその体を抱きしめ返すことが出来ずにこの娘をどのように説得してやればいいのかと悩みつつ自分なりの答えを告げる
種族差、年齢差、経験差など様々なことがあると彼はいうがアイリスは納得のいかない顔をしてジュランを強く睨み付けた
「種族差ってキカイノイドと人間のカップルは沢山いるじゃん、年齢差なんてこの間結婚した芸能人なんて45歳差だったよ、経験差ってなに?恋愛経験の話?」
「だから、そのな?俺じゃダメなんだって、俺なんて」
「そんなに私が受け入れられない?人間だから?」
「そうじゃなくって」
「本気で嫌なら私の事拒絶したらいいでしょ」
もういいよ…そう告げて立ち上がった彼女はテーブルの上に置いていた新聞紙を代わりのように投げつけて店を出ていってしまう、丁度入れ替わって帰ってきたみんながアイリスの態度を見てジュランがなにをしたのかを察してしまったのだった
その日の深夜ジュランは一人店の中で考えていた、アイリスという女について
どうしてそこまで自分を想ってくれるのかと思いながらも悪い気分でないことは確かだった、しかし彼女とは種族という大きな壁同様に年齢の壁も高くそびえ立っていた
万が一子供がいればこれくらいかもしれないといえるほどだろう、それは暗に二人の年齢差を感じさせるものだった
しかしアイリスも子供では無いこともまた事実でありジュランは頭を抱えていればふと足音が聞こえその先にはジュランとアイリスの友人である介人が寝ぼけ眼でみつめていた、顔を見るなり彼は苦笑を浮かべてお茶を入れ向かいに座った
「アイリスのこと悩んでるんだ」
「…そんなに俺ってわかりやすいか」
「大体ジュランが悩んでる時ってアイリスのことばっかりだから」
そういわれてしまえばそうだと思いおもわず深い排気を零してしまう
そして心情を告げた。彼女からの好意は嬉しいもののそれに応えられるような器量が自分には無いと
彼女はまだ二十代であり今から新しい恋愛、それが進化すれば結婚など人生が変わるものだが遊びでも自分がそこに踏み入るべき存在では無いのだとジュランは告げたあと黙ってしまう介人に年下に何を言っているんだかと申し訳なさを感じた
「アイリスは本気で好きだから全力でぶつかってるんじゃないの」
「だけど」
「ジュランはどうしたいんだよ、アイリスと付き合いたいとか一緒にいたいとかあるならそれでいいのに、難しいこといって逃げるならはっきり言ったらいいじゃん」
彼の言葉にジュランは呆気を取られたあと「今どきの若者って厳しいよな」と呟いた、介人は小さく笑みを浮かべてもう寝ると大きな欠伸をして部屋に戻ったのをみてジュランは自分の中で考えを固めた
次きた時は彼女の言葉に応えてみようと
しかしながらあの日以降アイリスがジュランの元に現れることはなかった、他のメンバーは街で見かけたやらお茶に行ったやらと交流があるというのにジュランだけがまるで彼女が消えたかのように会うことが無くなったのだ
押してダメなら引いてみろというわけなのかと彼は思うものの不満は積もるばかりだった、そしてあれだけ暇さえあればやってきていた彼女が来ないことは多少の不安にも変わる
そんなアイリスの事で頭が埋め尽くされたジュランは当然普段の生活もましてやゼンカイジャーとしても何処と無く抜けてしまいそれをみたヤツデに彼女の会社と家の場所を教えられた
(って俺はストーカーかよ、いや違うちゃんと話がしたいだけで)
大きなビルの入口でしどろもどろとしていれば丁度定時退社で出てくる社員達が現れ背筋を伸ばしてみつめているものの彼女は見えなかった
それから一時間が立っても出てこないアイリスに不思議に感じつつ待つこと数時間、目当ての人物はやつれきった顔をして出てきたことにジュランは慌てて駆け寄った
「アイリス遅かったじゃねぇか」
「へ?え?あっ、なんでジュランおじさんがここに…ってあっ、待ってこないで!」
凡そ数十メートルの距離でそう叫ぶ彼女にジュランは足を止めた、彼女からの強い拒絶の言葉に思わず奥歯を噛み締めて目の前を見つめては自分が拒絶したようなものなのだから当然かと思いいつものようにおどけた様子で帰ろうと考えた
「悪い悪い、通り掛かっただけなんだよ、帰るから気にすんな」
「違うの…暫く泊まり込んでたから、おじさんに見せられる顔してなくって」
「そんなこと気にしねぇよ、飯食ってんのか?」
「それはちゃんと食べてる」
確かに彼女の顔色はあまり良くないものでジュランは直ぐに何を食べてるのか問いかければバツの悪そうな表情でカップラーメンとウィダーインゼリーと答えるため彼女に足を伸ばしてその小さな手を力強く掴んだ
「おじさんなにするの」
「取り敢えず飯作ってやるから食え、明日は休みか?」
「いや休日出勤」
「ンなもん休め、俺が連絡してやっからこんなに顔色悪ぃのに仕事なんかしてられっかよ」
取り敢えず何食いたいんだ。というジュランにアイリスは驚いていれば身体は素直にきゅるる…と音を立てるもので二人は無言で顔を見合せた、そして赤く染る彼女に呆れたように笑みを浮かべて彼はその足取りでスーパーに寄って彼女の自宅に足を運んだ
ひとり暮らしの女子にしては些か汚れているが仕事の忙しい彼女のことだと納得して申し訳なさそうなアイリスにシャワーでもいいから風呂に入るように伝え押し込んだ後ジュランは手馴れたように食事の用意と掃除をしてやった
「こうやって子供たちのお世話もしてたの?」
「まぁたまにな」
「そっか」
彼の言葉に嬉しそうに箸を進めるアイリスと共にジュランも夕飯を共にし、食べ終えた皿を彼女が洗い終えたあと改めてリビングにて彼女はジュランの横に静かに座った
互いに話さねばならないことを理解していながらどのように切り出せばいいのかと悩んでいたのだ、内心言いたい事は沢山あるものの言葉は浮かんでは消えていく中ようやく決心したように声を出したのは同時であった
「おじさんからいいよ」
「それじゃあ俺からだな」
どういえばいいのかとジュランはそれでも悩んでいる頃頭の中にいた親友は全力だと告げた、そうだもう今は当たって砕けるしかないのだとジュランは思い勢いよく彼女を見つめた
「好きだって言ってくれて嬉しかった、けど俺はお前と付き合うってなるとお互いを比べて手放しに喜べない」
もっといい相手がいるかもしれない、キカイノイドだからやっぱり。なんて思われたくは無いとジュランは口にすれば彼女は黙ってその話を聞いた
「だからダメだと思うんだ」
彼の長い話を小さく頷いて聞き終えた彼女は俯いてしまい結局断るような形になってしまったとジュランは内心後悔した
頭を撫でて悪いと謝ろうとしたもののアイリスは顔を上げてジュランの手を取った
「それでも諦めたくない!ジュランより素敵な人なんていないから」
種族?年齢?他の人?全部どうでもいいと彼女は長いジュランの想いを投げ飛ばしてただ真っ直ぐと全力の言葉を全開にして告げた
「私が好きなのはジュランだから」
それが変わることなんてないと胸を張って告げる彼女にもうジュランは適わないと感じた、どうして彼女はこんなにも真っ直ぐなんだと嬉しながらも思ってしまう
ジュランの手を取り指を絡めて頬を擦り寄せた彼女は彼を異性としての瞳でみつめる
「女として見てほしいの」
それでもダメなら拒否しろというのは当然のことだろう、ジュランとて彼女に好意を抱いていた、けれど世間の目や自分のことを気にして拒絶し続けたがそんなものはとんだ些細なものだと彼女は嘲笑う
「おじさんって呼ぶの止めたら少しは意識してくれる?」
「いや…とっくに意識してるわ」
「じゃあ私の事好き?」
ここまで言われてしまえばもうジュランはこの女に白旗を振るしか無かった、元より勝てる気もしていなかったのも事実だが…
そんな彼の言葉に満足そうなアイリスは彼の金属の唇を奪って微笑んだ、何処までも嬉しそうに
暖簾をくぐって客が入ってきたかと思えば彼女は一直線に仕事をして気付きもしない赤いキカイノイドの店員の腰を抱きしめた
「アイリスここではやめろ」
「いらっしゃいの一言もないんだ」
「ここは家みたいなもんだろ、注文は」
そんな二人のやり取りを店にいたみんなは気にもせずに続けるためアイリスもあまり気にしないもののジュランは流石に人前ではと気恥しい表情を浮かべて彼女を席に座らせてメニューを渡せば目も通さずにコーヒーと言われるガオーンに告げれば彼は嬉しそうにアイリスへのコーヒーを注いで素っ気なくジュランに手渡した
「ほらよ…ってなにすんだよ、俺ァ仕事してんだぞ」
「じゃあこれも仕事ってことで」
「キャバクラじゃねぇんだぞ」
「カウンター越しじゃなくて隣に座ってるから?詳しいんだねおじさん」
「馬鹿っ違うっての」
相変わらず彼をからかっては楽しむ彼女は付き合う前と変わらない態度であり、それは二人が特別な関係になったからといって大きく変わらない証拠でもあるだろう
あっという間に飲み終えた彼女は立ち上がってお会計をジュランに頼み店を出ていこうとする直前でふと背伸びをして彼の耳元で声をかけた
「明日休みだから今日の夜は家で待ってるねジュラン」
「……いや、仕事終わりに迎えいくから」
「へへっそれじゃあ仕事戻ります」
じゃあね。と告げて出ていく彼女を見届けてジュランは思わず耳元に手を当てて深いため息を吐いた、全く若者にはついていけないと感じつつもどうしようも無い喜びを感じるものの直ぐに入ってきた小学生達はそんな彼のことなどつゆ知らずに元気な声で彼をまた物理的に振り回すのだった。
▲▼▲
- 56 -