カチカチカチ…トントントン…タンタンタン…とそれはリズム良くというよりも明らかに苛立ちを感じていると言わんばかりの音であり、音が広がる機内で全員が視線を背ける中でソープはチラリとギャズをみつめた
何をそんなに苛立ってるのか、何がそんなに彼をそうさせるのかと感じつつ、四人チームである為パートナーとなる筈のプライスが何かしら声をかけるだろうと感じていたのに掛けないことから余計にソープはどうすればいいのかと悩ましくしていた。

ふとギャズはポケットからタバコを取りだして火をつけるものだから狭い上に可燃物どころの問題では無いものが置かれたここでそんなものを吸うなと思わず声を掛ける

「何を苛立ってるのか知らないがここでタバコはやめとけ」
「そうか」
「そうか…じゃなくって、何苛立ってるんだよ、もう帰れるだろ」

帰ったら家に帰ってようやくビールを片手にサッカーが見れるんだからちょっとは明るい顔をしろよ。とソープの一言にまるで火がついたようにギャズは立ち上がりソープに対して声を上げた「そういわれてもう俺は半年以上家に帰れてないんだ!」あまりの気迫に思わず後退りをしても背中にあたるのは壁だった

「半年だぞ!半年っ!初めは一週間だったのが一ヶ月、一ヶ月が三ヶ月、三ヶ月が半年」

あのF…テロリストどもにF…カルテル共にその他色々Fなヤツらと、これがテレビであれば音を切られる発言をするギャズに思わずプライスを見つめて、なぜそんなに怒ることが?と声に出さずに伝えれば彼は左手の薬指を見せつけた

「家族に会えないのがそんなに辛いのか?案外家庭的だな」

軽く笑って伝えた言葉にぎらりと光ったギャズの瞳、プライスはやったな…と言いたげな顔でいればギャズは「当たり前だ!新婚生活を台無しにしやがって!このクソ野郎!もう141なんかやめてやる!!」と叫んだ、普段クールな男の暴れ馬のような一面をみては手は付けられないと羽交い締めにすれば顎を綺麗に殴られたソープは彼がこんなに情熱的な愛妻家だとは。と感じる頃同じく止めに入ったゴーストはジャーマンスープレックスをキメられた、お陰で帰りの輸送機の中はしっかりと揺れて四人は綺麗に嘔吐した。

「おかえりなさいカイ…ルっ、苦しいんだけど」
「苦しくしてる」
「疲れ気味ね」

苦笑いをした妻となったはずの彼女はもうルームウェアを身にまとっており、その姿から寝る直前だったかと苦い思いを感じる
ギャズがまだプライスと出会う直前、彼は恋人であった彼女にプロポーズをした、彼らしくロマンチックにレストランでしっかりと互いの未来を考えて幸せになろうと誓い合った、しかしギャズも予想外なことに141へのスカウトを受けてしまったこと、そして度重なる任務のおかげでようやく籍を入れたとしても帰らぬ日々を繰り返していた。

「普通の結婚生活が出来るとは思ってはなかったが、それでも君と過ごしたい」
「別に今大事に過ごせてるし大丈夫だってば、そんなに気になるの?」
「もちろん、こうして二人でソファに居るよりビデオ通話の方が長いだなんて最悪だ」

夕食を軽く終えたギャズは妻となった彼女にシャワーを急かされても「一緒がいい」と困らせてしまう始末であるが、彼女もまたそうして甘えてくれる夫であるギャズを愛おしいと感じられた。
交際していた頃の彼は今よりもずっとクールで冷静で手を引いてくれるタイプであるが、夫婦という新たな関係になった彼はタガが外れたような甘えん坊になっていた、それは離れる時間がより鮮明になった故なのかもしれない

「でも制服姿のあなたはとってもセクシー」
「そういわれると俺の気持ちが良くなるって分かってるのか」
「本音しか言えない女だって知ってるくせに」

楽しそうに声を上げて肩に顔を埋める彼女の顎に手を添えて、その唇を堪能するのは一体いつぶりなのかと考える、家に帰れず兵舎で過ごすことが多いギャズにとってひとり遊びもお手の物になりそうな程で、その度に彼女の唇や肌の温もりに質感を思い出していた。
しかし記憶というのはやはり朧気なもので、現実には勝るわけが無い、唇を重ねて離してと繰り返す度に互いの吐息が混じり合い瞳を見つめ合う

「シャワーは?」
「このタイミングで行かせるって今日はダメな日か?」

残念だがそれなら仕方がない。とギャズが背中に回そうとした手をソファの後ろにやれば彼女はそんなことは無いと言い、彼に顔を寄せて耳元で小さく呟いた「今日は出来やすい日だから、じっくり楽しみたいかと」と言ってみせることにギャズは目を丸くする
二人は元より未来を考えていた、タイミングとしては早くても長い時間を二人で過ごした身であれば結婚を機にその先に進むのも勿論喜んで考えている事だ。

そんな妻からのかわいい誘いに尚のことシャワーはダメだとギャズは彼女のシャツの裾に手を入れれば彼女もまたギャズのシャツを捲る、明るいリビングで余裕も無くすほど求め合うと思った時、現実を告げるようにテーブルの上の彼のスマホが騒がしく音を立てる。
1コール・2コール・3コールと鳴り響く中でも電話を取らない夫を見下ろした彼女は眉間に皺を寄せる彼をみては苦笑いをして退いてはリビングを後にしてしまう、その背中を見届けたギャズは心苦しさを感じつつスワイプしては「はい、こちらギャズ」と普段通りの返事をして直ぐに深いため息をついた

「悪い出てくる」
「帰りは?」
「明日になるかも」

本当なら一緒にベッドで熱を分かち会う予定だったのにと残念がれば彼女は「じゃあ元気が出るように」といって小さなランチバックを差し出した

「カイルの好きなもので簡単なサンドイッチにしたの、お腹空くでしょ?」
「……そういう事されると、行きたくなくなる」

ギャズは彼自身がそうした甘えるタイプでは無いことを理解していてもわざと口にして、ワガママな子供のような態度を繰り返した、それは彼女が決して口にしないからだ。
彼女は正式な彼の仕事を知らない、それでもこれだけの頻度で時間問わずにいくのならば生半可では無いことを知っている、命を落とす危険性もほかよりも高いことを知る彼女にとって「いかないで」という言葉は口が裂けても言えないのだ

「そういいながらいくんでしょ」

静かに告げられた言葉にギャズは抱きしめた腕の中の彼女の表情を考える、交際している時、何度か見た事のあるとても寂しい表情はいつまでも彼の脳裏から離れなかった
だからこそ夫婦という繋がりを求めていたものの、それが成功か失敗かは分からないと思うが腕のな彼女は顔を上げてはギャズの頭を乱雑に撫でる

「この家にずっといるから安心して、私はあなたの帰る家なんだから」
「あぁ…あぁそうだ」
「それにそんな貴方だから、愛してる」

さぁ胸を張っていってらっしゃいカイルと背中を叩いた彼女はまるで自分の母のようだとさえ感じる、そうした温もりこそが彼女をあいした理由であると感じるギャズは車に乗り入口にもたれかかって見つめる彼女に微笑んでは走り出す
ふとみえたフロントガラスに映った彼女の表情はみなかった、そうしなければきっと全てを放り出して家に帰ってしまいそうだったから、今の彼にできることは任務を早急に終わらせて是が非でも2週間の休みを取って新婚旅行にいくということなのだった、例えそれがまた半年経過したとしても、それこそが彼の一番の願い事だから。

2025.04.08