夢を見るし憧れる、それは当然自分に縁のないものだから、ウエディングドレスだなんて夢のまた夢であり、それの手前でもある普通のドレスさえ来たことは無い、冠婚葬祭の葬は出ても婚とは程遠く一般的な友人と呼べる人達から来る招待状の出席に丸をつけたことだってない。
「あのドレスってさ、どれくらいするんだろうね」
「くだらない事をいうな、集中しろ」
はいはい。と隣で今回の会場の中を覗き見るニクトは仕事となるとその頭の中はいつだって冷静だ、言動こそおかしな時はあるけれどその引き金を引く時の彼の頭の中は多分無音で、だからこそ色んな部隊を出たり入ったりしては戦場を生きてるのだろう
突入命令が来ない上に引き金さえ引けやしないから暇で仕方がなくパーティ会場の女性達を物色する、あっ今あの男ワザとお酒を引っ掛けたとかあの女の人見え見えの下心だとか、老若男女問わず汚い金持ちを眺めては自分が着たことなんてないドレスを眺めてあっちがいいこっちがいい。と考える
「お前はひとつ勘違いしてる」
「なにを」
「あぁいう金持ち共はな、服よりも小物の方がずっといいもんをつけるもんさ」
「そうなの?」
服なんてたかが知れた金額だというニクトに詳しいのかと聞くとそれなりだと返事を返されるが彼もまた暇なのか隣で会場の中を眺めては客の時計や靴にネクタイにピアスやネックスレスのブランドをいわれる、身につけたことはなくても有名なものばかりだと知って冗談であの時計はどれくらいかな?と男の成金のような時計を聞くと、あっちよりあの男の方がいい時計を持ってる。と告げた
「ニクトってオシャレが好き?」
「詳しいだけだが、女とのデートの時はそれなりにめかしこむ」
お前は変わらなさそうだけどな。といわれるものだからプライベートでも顔を隠す人とはデートしない。といえば掠れて乾いた声が静かな部屋に聞こえた、そんなに面白いことなんて言っていないのにと思う頃、アルファチームが会場に突入するという声を聞きスコープを覗き込む
向かいの建物にいる私たちは所詮補助であるが気は抜けずにいれば会場は物の見事に銃撃戦に変わる、民間人は怯え逃げ惑い黒いスーツを着た男たちは案の定腰に携えたハンドガンやら、置いていたらしいサブマシンガンを取り出す
『ターゲットが外に逃げた』
「確認してる、こちらで対処する」
直ぐに返事をしたニクトは一度こちらを確認した後すぐに部屋を飛び出す、建物内を掛け下りる彼の音を聞きつつターゲットが外に出て車に案内されていくのを眺める頃ニクトが建物外に出たことを確認し発進した車のタイヤを即座に撃ち抜けば車を変えようとして外に出たボディガードをニクトは撃ち殺す、一人二人と手馴れてしていく彼をサポートしてはようやく鳴り止んだ銃声から「ターゲット確保」と声が聞こえる
思った以上にパーティ会場内の犠牲は出たが元より人に隠れることを好むターゲットであった為比較的少ない方だと思いつつ、度重なる人を殺す数を考えてしまうことに嫌気がさす
「まだいたか」
「どうして戻ってきたの」
「プレゼントだ」
そういって彼は手に持っていた物を差し出した、如何にも金持ちのパーティだと言わんばかりのゴールドのドレスにそれに合わせたハイヒールや小物、私は何を持ってきているんだと目を丸くすれば彼は受け取らない私に対して疑問を抱いているようで
「綺麗なものを選んだ」
と何も分かっていないようにいうがそうじゃなくて普通こんなものを取ってくるか?こんなのは窃盗だし最低だと言っても彼はもう仕事を終えてるせいか話が通用しないどころか自分のスマホを取り出してこんな薄汚い埃まみれの物置部屋に似合わないクラシックを流し始めた
「ほら早く着替えろ、パーティがしたいんだろ」
あぁもう呆れてしまうと思いつつも私はこんな頭のおかしな彼とパートナーとなって何年目なのか、良識も常識も欠如してきたせいか思わず受け取ってその場で恥ずかしげもなく着替えた、似合うか似合わないかはどうでも良くて酒がなくても私たちはこの世界に酔っていた。
差し出された彼の腕には見慣れないシルバーの腕時計がされていて、足を度々踏みながら慣れない社交ダンスに似た何かを踊る私たちは面白くて笑えてしまう、こんな形でしかドレスを着れないのに彼は「綺麗だと」いうものだから私はまだこの薬莢と死体が足元を埋める世界から出ていけない
2025.0326
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