道具が道具でしかないと理解していても其れが人の形をしていればどうしても情は湧いてしまうのだ
ゴーストは自分の胸ほどの高さの幼さの残る少女と並足立てて歩いているが互いの手には凡そ大人と子供が二人で歩くにしては不格好なものを持っていた、ゴーストは静かな廊下のある一室で足を止めては数歩先を行く少女がドアをノックした、数度ノックをしたが応答がなく少女は「あれ?部屋を間違えたかなぁ?」と声を出してはノックを続けた為面倒になったのか部屋のドアが開いたと同時に少女はカバンに入れていたFNP90を取り出しては男を男を撃ち殺した。
流れるようなその作業で少女は部屋に体を滑り込ませて中にいる人間を次々と射殺した、ゴーストは続いて部屋に入ると同時にショットガンを手にした男は少女に容赦なく撃ち込み被弾するのを眺めた

「奥の部屋にターゲットが逃げました中尉お願いします」

冷静な言葉にゴーストは彼女のことをそれ以上見ずに奥の部屋に向かい逃げ惑うターゲットを捕縛し、本来の目的を達成した
狭い部屋の中が血と死体で溢れその処理がされる中、ゴーストはソファに腰かけた少女を見下ろした

「平気か?」
「大丈夫です、それよりも今日の私何点ですか?」
「六十点だ、まだ甘い普通の奴なら死んでるぞ」

じゃあ私は普通じゃなくて幸福ですね。と少女は笑うものだからゴーストはそのマスクの下で苦虫を潰したように難しい表情を浮かべては彼女に手を貸して用意された車に乗り込んだ。

「また損傷があったって?」
「これでもマシになった方だ」

医療センターという名のCIAの特殊医療機関にて現れたソープは呆れた顔をしつつゴーストの隣に並んだ、厚いガラスを通して見える二人の視線の先には少女の腕が交換されていた、治療というよりもまるで機械を交換するようなその光景にも見慣れていたが医療担当者から「中尉そろそろ気をつけてもらわないと部品が足りなくなりますよ」と小言をいわれてはゴーストは無言を貫いてしまう

ゴーストが彼女と手を組むのは単独任務が主であり、それは彼が保護者であり師匠でありそして周りからいうと"フラロッテ"だからだった
二人で一人のように行動をするゴーストは目の前の人の形をした少女を機械として受け入れることが難しくなっていた

「私を殺しますか?」

初対面の際追い掛けていた国際的な武器商人が持っていた武器のひとつが"彼女"だった、SASの特別編成で用意した兵士を率いた中で随分な被害者を出してしまったゴーストが最後に追い詰めたのは彼女であった
武器商人を手に殺めたのは彼女でありゴーストは何故幼い少女がここにいてその男を殺しているのかと疑問を感じていれば「契約を終えると言われたんです」と彼女は答えた

「つまり彼女はイタリアの諜報機関の一つの兵器だったわけね」

もう潰れたものだけど。と一ヶ月後検査や調査の末に出た答えは彼女が所謂道具であったということだ、四肢が使えぬ死にかけの子供を洗脳改造し義体を与えて反勢力や諜報、暗殺に長けた組織の一人だったのだという
国が隠れてしていたことが表に出た末に解体となり、武器であった少女たちは"廃棄"されたがそれを拾われ様々な飼い主に飼われていたのだと少女はいう

「だからあなたが私の新しいフラロッテなんですよ、ライリー中尉」
「…ゴーストでいい」
「わかりました、ゴースト中尉」

あなたの命令で私は何処までも任務を全うします。とその歳では考えたくない程に綺麗な敬礼を見せられればゴーストは気分が滅入った、しかしながら兵器を手にして使わない者はいない、彼女はまるで雛鳥のようにゴーストに懐き彼の命令ならばなんだって聞いてみせると忠誠を誓った
時に彼の陰口を叩く者を、時に任務中に彼に手を出す者も、時に彼の命を脅かす者を、それは容赦なく暴力的に教え込もうとするのだ

「またドクターに注意をされました、人工皮膚の用意も腕のパーツ…なんだっけまぁいいや、これもお金が凄くかかるんだぞって」
「そうか」
「私一人に対して給料に見合わないほどお金が掛かってるから気をつけろと先日軍の人達が仰っていました、お金で補えるなら気にしなくていいのに」
「仕方ない、国が年間で使える金額は決まっているからな」
「でもお金じゃ人の命は買えないでしょう?いや買えるんですけど普通は買えないっていうか」

口数の多い彼女の名前を呼べばピシャリと口が縫われたように止まり、真っ白な医療センターの廊下で二人は立ち止まった、ゴーストは彼女を見下ろしては「プリンでも食べに行くか?」と呟いた
そうしてみると彼女はただの十五歳の少女である、綺麗なワンピースにまだ丸みのある顔立ち、少女から大人になろうと必死に成長するはずの体は投薬と義体によって阻まれた結果が今の彼女である、約二年過ごしているゴーストにとって歳を取らないような彼女を見ていると時折現実が辛くなるのだ

「この間キャプテンに会いました、書類上私は成人でもおかしくは無いからって葉巻を下さいました」
「吸うなよ、あいつのはキツイからお前じゃ咳き込むだろう」
「喫煙は否定なさらないですね」
「そこまで子供扱いされたいのか?」
「どうでしょうか」

私は子供ですか?大人ですか?と真っ直ぐに問いかけられればゴーストは言葉に詰まった、彼女は一体何者なのかと彼は答えられない、書類場の彼女は十五歳程だが話を聞く限りは成人を超えている可能性はある、しかしながら軍や国は彼女を兵器として扱うために子供で居させることにした、それも死者として

「私はそもそも人間なのでしょうか」

身体の半分が機械で投薬のせいで記憶の欠如もあり絶対に忘れないことは人を殺すことだけ、中尉はそんな状態だったら自分をなんだと思いますか。という無邪気な子供の声の問いかけにゴーストは目の前の紅茶が冷めていくのを眺めた

「中尉は優しいですね、私のことをどちらにも分類しない」

人は白か黒をハッキリさせたがる、しかしゴーストはこの世が全てグレーであることを理解していた、だからこそ彼女に対してもハッキリとした物言いはできずとも自分の中で彼女は少女であり人間の形をしている以上は人だった

「美味いか?」

ゴーストは向かいに座る綺麗なワンピースの少女が食べるプリンを指さして問いかけた、彼女はひとつ掬って口に運んでは「ええもちろん」と嬉しそうに微笑んだ

「それならお前はまだ人間かもな」

例え彼女が以前よりも味が分からなくなったとしても、その笑顔が張り付いていたとしても、嘘でも美味しいと言えるのならばそれはまだ"彼女"なのだと言い聞かせて、目の前の存在がいつか道具になるまではそれまでは例え彼自身が他人に甘いといわれようとも守れなかった家族のような目線を向け続けていたかったから
まるでそれは罪悪感を隠すようなものだった。


2025.0320