視界がぐわんぐわんと揺れた、まるで船の上に乗っているような気分で頭の中も視界も身体も全てが何処か地上から足を離れて浮かされているようだ

「ずっと傍にいて欲しいと、そう思うのが愛なら俺はお前を愛しているのだろう」

そんな女が望む言葉を本心から告げたのはきっとこれが初めてだと感じながらもあらゆる匂いが混じりあったこの部屋の中ではその言葉さえ甘いものではなく、嘔吐物のようにドロドロと汚く気持ち悪いもののように感じるのは彼に対しての感情が変わったからなのか、今自分の頭が狂ってしまっているからなのか分からなかった。

―――

マカロフとの出会いは数年前だった、上場企業の総合受付の事務員として雇われていた平社員に声をかけた彼を見た時、どこか不思議な魅力の男だと感じたのだ
隣に座っていた女性社員はロシア人なんて珍しいと楽しそうに話をして来たがなんとなく流したのは特に興味を抱かなかったからだ

「何か探してます?」

ランチタイムになりお弁当を片手に歩いていた際、ちょうどアポを終えたらしい彼が何かを探すように視線をさ迷わせていた事に自然と声をかければ喫煙所を探していると言われ、廊下の突き当たりを右にと言えば「スパシーバ」というロシア人でなくとも聞いたことはある単語を発して言ってしまった彼の背中に同じ言葉をオウム返しをした時点で彼の術中にハマっていたのかもしれない。

そうして気付けばマカロフと恋人としての時間を過ごすようになり彼の本心が分からないながらも一年二年と交際を続ける中で彼が本当に自分を愛しているのだと彼女は気付いたのは彼が自分の仕事を隠すこと無かったからだ
いつからかデートには第三者の送迎が付き、個室のVIP専用のレストランで食事を取り、何かがあれば銃を持つ男がそばに居た

「早くしてくれ、恋人を待たせてるんだ」

そう自然と告げるマカロフの前では椅子に縛り付けられた血だらけの男が一人、後ろから見ていても分かるほどの拷問を受ける姿に思わず顔を背けるものの誰も彼女を気にしなかった
骨の折れる音、炙られる皮膚の匂い、絶叫に、許しを乞う声、まるでフィクションの世界が目の前にはあるのだ、スクリーンの中の映像と違うのは音も匂いもそこにある全てが現実だと思い知らせることだ

遂にマカロフの望む情報を吐き出した男は解放される訳もなく、簡単に頭に銃弾を受けて絶命した、白いハンカチで手を拭いてナマエの前にやってきたマカロフは何も無かった表情をしてはレストランの話をするものだからナマエは自分が可笑しくなるように感じた
気付けば彼の隣にいて、様々な世界を見せられては元の職場もやめて彼が与える仕事をこなす度に正式な報酬を受け取りつつもその金が酷く血で汚れていることも理解している。

「こんなことを言うのは気恥しいが他人に対してここまで感じるのは初めてだ」

照れくさそうに告げるマカロフの言葉が本心か建前かは理解できなかったしする気もなかったナマエはベッドの中で愛される度に彼のくるくると変わるその顔に背筋が震えた

マカロフと過ごす中で気が休まったことは一度もなかった、ふとベッドの中で目を覚ませば彼は大抵腰かけて携帯で誰かと連絡を取るその表情はまるで現実から遠く離れたもののようで、その冷たい眼差しがいつ自分に向けられるのか恐ろしくてたまらなかった

聞きたくない言葉がいくつも聞こえた
薬、人身売買、児童買春、政治家への揺さぶり、武器の調達、民間人、殺せ
いくつも聞いてきたことのある単語が普通になってきてしまえば気が狂ってしまうのも無理は無い
そんなある日マカロフは何も言わずにどこかに行った、よくある事でまた数ヵ月後には帰ってくると思っていたが彼は帰ってこず飽きて捨てられたのだと彼女は考えてその家を後にした。

―――

新しい土地、新しい仕事、新しい人間関係
全てが順調だった、懐かしさすら感じる小さな会社の事務員をして、朝9時から夕方17時までの仕事は随分と楽で、不穏な話はひとつも聞かない
時折誰かの不倫の話を聞く程度で誰かを傷つけることや誰かを殺すことなど聞くはずのないものだった
約一年ほど働いているその職場の定時の時計が鳴り全員が帰ろうとする際に一人の男に声を掛けられたナマエは夕食への誘いを受けた、誠実そうな優しい普段とはタイプが違う相手は好みでは無いものの悪い気は無いと二つ返事の了承をしては週末の夜の食事相手として時間を過ごした

「(凄く優しい人だった、あんな人だったなんて…また誘ってくれるかしら)」

食事が済めば早々に改札まで送られ下心もなくさよならの挨拶を告げるその相手に自分だけがはしたないように感じてはもう若くないのに。と苦笑いをして自宅のアパートの階段を昇った
冷たい風が頬をくすぐり先程飲んだアルコールの酔いを覚ますようである、その浮かれた気分で鍵を挿すよりも先にドアノブに手をかければドアが開いた事に鍵を閉め忘れたのかと疑問を抱きつつ部屋に入った途端にその異常な空気感に思わず身を固めつつリビングにいけば暗い部屋の中には二人の男が見えた、身に覚えのある男はスーツに身を包みソファに腰かけては彼女を見て

「おかえりナマエ」

といったのだ
紛れもなく彼はマカロフであり、ナマエは悪夢のようだった
それまで足を浮かせるほど機嫌よくさせていたアルコールが簡単に抜けてしまいどうすればいいのかも分からずにいたものの「ただいまマカロフ」と声を掛ければ彼は笑みを浮かべた
窓際には銃を手にした男がおり、彼はナマエをみてはなんの反応も示さなかったが彼女は彼を見た事はあった、マカロフが特に信用する部下だということだ

「来るなら来るって連絡くらいしてくれてよかったのに、コーヒーでも入れましょうか?っていってもインスタントだし客人用なんてないけど」

カバンとジャケットを置いて狭い1LDKの部屋のカウンターキッチンで人数分のマグカップにコーヒーを入れて頭の中で必死に考えていればふと背後に彼が立っていることに気がついてしまう

「連絡を入れようにも以前の携帯は捨てていただろ」
「…そ、そうね、ごめんなさい」
「コーヒーの分量は覚えてるようで何よりだ、随分遅かったらしいがどこに行っていた?」

定時は17時だしいつもは遅くとも19時には帰宅してる。という彼にそこまでの情報を知っているのかと感じ嘘をついても仕方ない為会社の人に食事に誘われてたのだと素直に告げれば彼は相手の名前や住所を告げる為背中に汗が伝う

「抱かれたのか?」
「いいえ」
「抱かれたかったんだろう?ぐっしょりと濡れてるぞ」
「そんなこと…ッ」
「俺がいない間、誰とも"浮気"していなかっただろうな?」

背後から臀部を強く掴まれたナマエは思わず痛みに顔を歪めるものの必死に首を縦に振ればマカロフは満足気に喉を鳴らしては彼女の髪を掴み寝室に連れ込んではベッドに投げつけた
ベッドフレームに身体が当たり嫌な音がし痛みナマエは思わず立ち上がろうとするがマカロフは彼の背後からやってきた部下に何も言わずに手を差し出せば細い何かが手渡され、ナマエの腕を簡単に頭上のベッドフレームの柵に固定すれば先程受けとった細い何か…いや結束バンドで彼女の手首を縛り付けた

「マカロフ!やめて!なにするの!!」
「俺がいない間に逃げ出したことへの罰を与えねばならん、お前は俺とずっと共に居たんだから分かるだろう?」
「ねぇ嘘よね…マカロフ待って、嘘…いや、殺さないで」
「おかしなことを言わないでくれ、俺はお前を心から愛してる、殺しはしない…殺しはな」

部下から手渡された軍用のしっかりとしたアーミーナイフを手に持ったマカロフがナマエの黒いストッキング越しに足を撫でた、じたばたと暴れる彼女は彼が人を簡単に殺す相手だと理解しておりそれならいっそ銃でと願うものの彼は嘲り笑った
まるで自分の愛を信じていないのかと問いかけるような彼に自然と涙を零すナマエは「ごめんなさい…ごめんなさいウラジミール」と必死に声を上げた、その言葉を聞いてはナイフを足から離したマカロフは彼女の顔を覗き込み眉尻を下げて微笑んだ

「構わないさナマエ」

まるで遅刻をした恋人に対する優しい声のようだが背中はゾクゾクしていた、嫌な予感が脳裏を離れないのだ
実際マカロフの手は彼女の足から離れずに太ももから膝へ、膝から足首へ、足首からアキレス腱を撫でる

「お前が俺の側から逃げ出したことはいい、しかしだ…情報を与えただろう?」

彼の絶対零度の声に思わず涙が止まる、それは彼女には身に覚えがあったからだ。
マカロフから逃げ出して半年後ある日彼女の家に見知らぬ男が二人現れたのだ、名前はプライスとソープであり、彼らはマカロフの居場所を知りたいと言った、マカロフからそれまで一切離れなかった女が逃げ出したとなれば放置できる訳でもない彼らは拷問にかけてでも情報を引き出すと告げられれば彼女はしがない民間人であるため命の為に自身が知り得る情報を彼らにすんなりと提供したのだ
実際彼女が教えた本来の居場所にはその頃マカロフはいなかったのだから何も問題は無いと判断をしたものの彼からしてみれば違った、愛する恋人の裏切りも自分のいぬ間に荒らされた場所も全てが彼の腸を煮えくり返すような苛立ちを感じさせるには十分だった。

「もう一度私を愛せるか?」
「…ッ」
「愛していると言っていただろう?」
「こんな人だと…思わなかった…」

普通の人だと思っていた。と泣きながら告げるナマエにマカロフは目を丸くしたあと背後にいる部下に目を向けては声を出して笑った

「どんな相手だと思ったんだ、お前を幸せにする王子様だと?」

幸せにしてやった、金に困ることは無かったし、傷つけもしなかった、ただ隣に居て見届けるだけで許してやっていたんだぞ。という彼に軍人でもないナマエはどれだけ言われても彼らに協力できるような事がないのだから当然だと感じられた

「どうして私なの、役立つならもっとほかにもいたでしょう」
「初めは誰でもよかった、だから君にした…だけどこの気持ちは本物だ」

本物だから追いかけるんだ。と蛇のような声を耳元で囁く彼はまた「愛せるか?」と言った、そんなことは出来ない、愛など彼にわかるわけが無いとナマエは感じていたのだ
マカロフは自分など見ていなかったとさえ感じた、だから広い邸宅に彼女を飼い殺し悲惨な世界を見せ続けたのだと信じた
その返答に無表情のマカロフはアーミーナイフを握り直しては彼女のアキレス腱に向ける、本気なのだと言わんばかりのどす黒いその目に彼女は彼を思い出しては必死に声を上げた

「嘘!!愛してるッ!愛しているわウラジミールッ、お願いだから許してもう二度とあなたから逃げ出さない!誓います!」

まるで祈りを捧げるようにそう叫ぶ彼女にマカロフは気分よく言葉を聞き頷いた

「よかった、なら誓いを示さなきゃな」
「へ……っあ"あ"あ"ぁ"いっ""あ"!!」

ベッドのスプリングや手首を繋がれたフレームが激しい音を立てた、暴れる彼女を傍に居た側近の男が押さえつけるものの彼女の声は誰も抑えず部屋の中…いや外にまで彼女の悲鳴は響いていただろう
切れ味のいいアーミーナイフは彼女のアキレス腱を簡単に引き裂き、骨まで届く程深く傷付ければ出血は激しくベッドの上を汚した

「シーッ、シーッ、まだ片方残ってるだろう?」

そういって笑ったマカロフの言葉などもう何も入っては来なかった
口元に手をやられてそういう彼のことも分からずに痛みに大粒の涙を零し、必死に呼吸をするがマカロフはもう片足にもまたナイフを充てる

「いや!いや、許して、ごめんなさい助けて助けて、何でもするからお願い」
「素敵な頼み事だ、聞いてやりたくなる、だが女の言葉は一番危険だからな」
「い"ぃ"い"ッ、ぐっ"う、ぅう"〜!!」

切れ味の鋭いアーミーナイフは簡単にアキレス腱を切り裂いた、あれだけ綺麗だった彼女の足からはしとどに赤い血が流れる様を見て痛みに声を上げることにも無視してその足を撫でて傷口にキスをするマカロフは心地良さそうだった

「あぁ全くそんな顔をするなナマエ、興奮するだろ」
「ヒッ、ヒッ…は、ぁ…う"ぅ"ッ、や"っ、あぅ"う」
「随分と痛がってるな、その様子なら141の拷問には耐えられないだろうに…可愛い奴だ」
「ゆる…ゆるして、ゆるしてヴォロージャ…おねが、おねがいします…私もう二度と離れない、あなたのそばに居る」

顔を覗き込むマカロフに必死に声を掛ける彼女にマカロフはまるで愛おしい人を見るようにその表情を緩めた、いじらしくてたまらないと感じられたのだ
人は死を直前にすると素直になるもので、どれだけ命乞いをされても何も感じないはずだったが恋人からのモノは違うと彼は感じて隣に立つ男を見つめた

「相変わらず彼女はかわいい、そう思わないかノーラン」
「…ですね」
「手を解いて足の治療をしてやれ」
「分かりました」

ノーランと呼ばれた男はただ無表情でナマエの手首の拘束を解き「痛むが我慢しろ」と告げてポケットに入れていた医療キットを取りだし針に糸を通した、痛みに身を縮める彼女はそれを見てもしや麻酔のひとつもしてくれないのかと絶望すれば彼はタオルを差し出して「噛め」と指示をした
もうこれ以上逆らう意思も残っておらず軍人である彼らの方がこうしたことには詳しいことを理解していた彼女は素直にタオルを噛み締めた

「いい声だ、俺がずっと好きな声」

そこいらのオペラにも敵わない程に美しい声だとうっとりと聞き惚れたマカロフは家の中に置かれたワインを飲みつつ待っていれば数分後ノーランはマカロフの横に立ち「終えました」と静かに告げる
この男のいい所はどんな指示でもちゃんと遂行するところだった
マカロフはテーブルの上に置いた長方形の箱を手に取り寝室に戻ればベッドの上の彼女は声も上げられずにぐったりと寝そべっていた、赤く染ったシーツがまるで芸術作品のようであり、自分が画家であれば彼女を描きたいと思えた

「大丈夫かナマエ」

まるで優しい恋人のように頬を撫でれば彼女はマカロフをみてはキッと睨みつけて彼の手を払い除ける、そうした態度を取ることは初めてのことであるが無理もなかった、マカロフから逃れようと立ち上がる気力があるもののアキレス腱を切られたことから痛みも含め動けぬナマエは声にならない声を上げて蹲る

「全く心配して声をかけたのに、困った恋人だ」
「ッッやめ、やめてっぐう"」
「久しぶりに会えたんだ、本当に他の男と浮気をしてないか確かめてやろう」

そう告げたマカロフは彼女が泣いていることも気にせずに脚を開いてはスカートの下のタイツと下着を無理矢理に剥ぎ取った、一切濡れていないそこを気にした様子もないマカロフはズボンのベルトを外そうとすればナマエは激しい抵抗をさらにさせて逃げ惑う為彼は笑みをやめて、リビングにいたノーランに視線をやれば彼は寝室にやってきては彼女を仰向けにさせて押さえ付けた

マカロフよりも恰幅のいい彼に抑え込まれて動けなくなったナマエは目の前をただ見つめることしか出来なかった、マカロフは箱の中から注射器を取りだし液体をそこにたっぷりと入れては慣れた手つきで指先で叩いた

「なに…するの」
「痛いんだろう?和らげるだけだ」
「嘘よ、絶対そんなわけない」

あのウラジミール・マカロフがそんな優しいわけが無いと散々目にしてきたナマエは怯えるも彼は気にしなかった
反対に暴れると針が折れると当たり前の話をしてくるがナマエはノーランの腕の中で必死の抵抗を示したが固定する彼は静かに「力加減を間違えればお前の骨を折るかもしれない」と告げた

ナマエは神を信じなかったことを後悔した、万が一にも自分が信じて祈りを捧げたことにより救われた可能性があるのならばそうしていればよかったと願うが無駄だった。

「そんなに怖がらずともすぐ終わる」

最近作ってる薬だがそんなに怖くは無いと告げる、淡々と効果をと語るマカロフの話は彼女の頭には入ってこなかった
彼がどこまで事業を広げているのかは不明だが知りたくもなかったその言葉にナマエは身動ぐごとに痛む足のせいで強い抵抗を出来ずにまるでベッドの上では芋虫のようであった
細い彼女の手を取り彼は手馴れたようにその腕に注射針を刺しては液体を注入した

「いや、あっ…あ"ッあっ」
「怖がらなくていい、いい気分になれるようにこれもやろう」

口をハクハクと開けて必死に逃れようとする彼女の口に小さなラムネのようなMDMAを入れてはその口を押えた

「併用するのはあまり良くないがイイキモチになりたいだろう?」

痛みも恐怖も忘れられるぞ。というマカロフの言葉にナマエは次第に身体の力が抜けて頭の中がぐわんぐわんと揺れる、視界が色を変えて目の前にいるマカロフさえ歪んで彼の声が頭の中で木霊する

「俺もお前と一緒になりたくてたまらない」
「ラジ、ミール…」
「五分くらいは完全に効くまで掛かるだろう、それ迄は仕方ない」

身体を這う彼の手は冷たく蛇が身体を撫でているように感じられた、生ぬるい体温の彼の手が全身を撫でては傷口に触れることに身体が痛みに悲鳴をあげて震えそうになるというのに不思議と痛みは彼の手に触れられる度に消えていくように感じられた
次第に焦点の合わない彼女が身体を震わせてうわ言を呟き始める姿を眺めてマカロフは唇を重ねた、安いアルコールの味とマカロフのタバコの味が混ざった口付けは次第に彼女を狂わせて往く、彼女の口腔内を確認するように彼の薄い舌が這いずり廻り歯を撫でていくと次第に彼女は拒絶するようにマカロフの肩を押した

「あ"…やぁ"…あ、う」

頭の中はグルグルとコーヒーカップのように回っていた、いいことも悪いこともそれぞれが頭の中に植え込まれるように流れて、次第にナマエは不安感に苛まれては痛みも忘れ蹲るとマカロフは彼女に対して子供のように優しく背中を撫でて身を寄せた

「大丈夫だ、身を任せれば恐怖は消える、お前は俺を受け入れていたんだ平気だろう」
「あ……ぁ…」
「ずっと共にいよう」

両頬を優しく包まれそういったマカロフの瞳はまるで深淵のようであった、次第に薬が効いてきたのかナマエはマカロフの瞳が宇宙のように感じられた、それは昔から感じていたことだ
彼の瞳は深い黒に近いもので深淵のようだった、それが今ではまるで宇宙のように小さな星々が輝いているように感じているのだ、焦点の合わない彼女の薄く開いた唇に自分のものを重ねて動けぬ彼女の上にゆっくりと跨り衣類を剥がしていく。

「あぁ変わらない肌だ」

綺麗なまま。と呟いて剥いだ衣類から覗く肌にひとつずつ口付ける彼は心地よさそうに笑っておりナマエは次第に彼のあがった口角に釣られるように笑った、喜怒哀楽のような何かの制御が効かないように彼女は「はは、あはは」と笑いながら涙を零せばマカロフはそれを理解しているように彼女の前髪を掻き分けて額に唇を置いた

「それでいい」

深淵の瞳が形を歪めた時、ナマエはあの時の恐怖を思い出した、人を人とも思わぬ彼の所業に取られた血染めの手
全てに恐れを感じた彼女はまるで夢から覚めたようにハッとしては目の前のマカロフの頬を思わず打ってしまう、バチンッと響いた乾いた肌の音と現実味が無いはずの目の前の現状と現実を教える手のひらの痛み。
頬を打たれたマカロフは打たれた側の壁をじっと見つめる頃、入口付近に立っていたノーランの足音が響いた事にナマエはパニックを引き起こしてしまう

「違う違うの、これはそのわからなくて、なんで、そのウラジミール、私っ」
「分かってる大丈夫だ、薬の効き目が悪かったのかもしれないな、安心してくれ」

俺はお前を戻すために来たんだから。といったマカロフはベッドの上で逃げようとする無意味な彼女の髪を掴みうつ伏せにさせては枕に顔を押し付けた

「ハァッ!…っんんんん""っっ!」
「自分を無くせナマエ」

そうすれば楽になれるというように首筋に小さな痛みを感じては何かがまた注入されることを感じる、頭の中が色を変えて次第に耳元で聞こえる彼の声が心地よくすら感じて枕を握る力が緩む、フワフワと夢心地で意識がぼんやりとしていけば「依存性はあるがお前なら大丈夫だ」というマカロフの声に依存性とは何に対してなのかも分からなかった

「ヴォロージャ」

ぽつりと呟いた言葉にマカロフは彼女を押さえつける手を緩めて背後から抱きしめるように体を寄せて彼女の頭や頬を撫でては「なんだ?」と優しく声をかけた。
それさえ心地よく感じてしまう理由は分からなかった、過去の彼は確かに自分を優しく愛していたことだけはしっかりと認知していた彼女は何度も名前を呟けばマカロフは同じように返事をしつつ彼女のスカートを捲りあげ薄い黒いストッキングを破り下着を下ろす時に彼は笑った

「漏らしたのか?」
「ごめ…ごめんなさい許して」
「怯えなくていい誰も怒りはしない」

ふとシーツや下着に含んだ水分は彼女の恐怖からの失禁であると悟ったマカロフは平気だと告げた、足も使えず好きにされる彼女が何処までも哀れであり愛おしくてたまらないのだ。
怯えきった彼女をマカロフは好んでいた、どう足掻いても自分の隣に立てないであろう彼女を染め上げることを夢見ていた、逃げ出すことも想定していた通りであり彼は自身の股座が痛い程にいきり立つことを感じ、彼女の腕を引いてベッドに膝立たせその顔元にスラックスから取り出したペニスを見せつけた

濁った瞳をした彼女を見下ろしてはマカロフは何も言わなかった、彼女はもう全てを理解していると分かっていたからだ
血と涙と唾液でメイクを乱した彼女は何処までもマカロフを興奮させており、怯えつつも彼女はゆっくりと彼のペニスに手を添えて舌を伸ばす、瞼を閉じる彼女の長いまつ毛も息遣いも変わらないとマカロフはタバコに火をつけては腰をゆっくりとおろし慰める彼女を見下ろした

「ちゃんと教えてきたはずだ」
「…んッむ」
「あぁ…そうだ、それでいい」

とろりと蜜のように溶けた瞳を開いてマカロフを見つめた彼女は喉奥までゆっくりと飲み込み、頭を上下に動かした、部屋の中に響く小さなベッドの音と女の息苦しい声、タバコの香りと彼の香りが更にナマエの頭の中をぐわんぐわんと揺らしていけば彼女は次第に大胆に彼のものを慰める

「あぁっ…イイ、いいな」

特徴的な粘着質な彼の声が耳に張り付いては犬のように喜ぶ彼女は添えていた手を動かして彼が喜ぶようにと竿を摩り陰嚢を揉んでやった
微かに香る汗と混じった香水の香り、彼が自分を支配する雄だと頭の中に染み込むのは何故かと薄く感じつつも何処かやはり夢現で彼女はそれが自分に与えられた使命のように、娼婦のようにマカロフに尽くす
次第に彼の声が余裕を無くすようになり、彼女の頭を掴んで奥へ奥へと押し込める、息苦しさに自然と涙が溢れるものの苦しさの中には快楽が沈んでいると彼女は感じる

「そろそろ射精そうだな…っ、一緒に快楽を味わいたいか?」

マカロフの問いに彼女は無意識に頭を振った、ぼんやりとする思考は彼に言われる言葉全てを飲み込んでおり、快楽だけが欲しいと感じるようになっていた
彼女の濁った瞳を見つめて彼は「アンドレイ」とノーランを呼んだ、入口付近に待機していた彼はベッドに近付いては二人を静かに見下ろした

「ナマエを慰めてやってくれ」
「わかりました」

彼女の背後に立ったノーランは彼女の下着を下ろしては、薄らと濡れたその場所をただ無表情で撫でては出来うる限り傷つけないようにとか指を這わせる、久方振りに異性に触れられるその場所に期待してしまう彼女を見てはマカロフはその浅ましさと彼女の弱さにくつくつと喉を鳴らして頬を撫でた

「気持ちよくなるなら一緒がいいだろう」

目を細めた彼女がマカロフへの愛撫を続けようとしたもののノーランの筋張った指は彼女の筋を撫で、薄い蜜を掬って全体に撫でつける、ゾクゾクとした感覚が背中を駆け回り次第に意識が自身の下半身に奪われる彼女は愛蜜を期待から更に溢れさせればノーランは表情を変えずに彼女の腟内に指を挿入した

「ん♡…ぅ…」
「アンドレイの指は良さそうだが、しっかりと俺への愛も忘れないでくれ」
「ふ…う、ん♡」

自身への快楽に夢中になるナマエの頬を優しく叩くマカロフは楽しそうであり、ノーランはそんなマカロフに目を合わせれば彼は更に彼女を乱せと言いたげに挑発的に笑った、一応は彼の女であるこの女にと僅かながら考えつつもそれが彼の願いであるのならばとノーランは女を悦ばせる術を知っていた為より激しく、そして彼女の弱い所を探る

「ん"♡んん"ッ♡♡」

まるで漏らしたように濡れていると感じる彼女は自身の恥音にマカロフからの視線と知らぬ男に遊ばれる姿全てに興奮を抱いていた、必死に口の中のペニスを慰めねばならぬと理解していてもその思考は自身への快楽を上回り次第に何も出来ずにただマカロフのモノを口で咥えるだけで何も出来ず快楽を受ける

「全くナマエ、困った女だな…お前は言われたことも出来ないのか?」

冷水を掛けられたような声に彼女が快楽から意識を逃がしマカロフの言葉に意識を向けるも遅く、彼は手に持っていたタバコを彼女の開いた胸元に押さえつけた、鈍い肌を焼く音が僅かに聞こえた

「ッッ、ん"う"う"!!」

鈍い声を上げる彼女を見下ろしてマカロフはタバコを床に放り捨てて、声を上げつつもそれでも言われた通りにペニスを咥える彼女の頭を掴んでは腰を上げて乱暴に口腔内を犯した

「んごッ!お"ッ、ング、っぐぅ!」

彼女の思考は様々な感情に振り回されていたがその中でも恐怖と快楽が強く重なっていた、痛みは確かにあるというのアキレス腱を切られた痛みも先程のタバコの痛みもすぐに消え失せており、下半身に感じる快楽と口腔内に感じる苦しさだけが残された
激しくなるノーランの指にマカロフの乱暴な腰使い、まるで彼女は人形のように髪を掴まれて喉奥まで押し込まれれば圧迫された苦しさから胃の中の物が逆流する感覚を感じる、涙をポロポロと流す彼女を無視して快楽の並が強くなるマカロフは「あぁいいぞ」とまた声を漏らす頃、ナマエは彼の腰に手を回して許しを懇願する
しかしそれを聞き入れずに続けるマカロフにいよいよナマエは胃の中の物が逆流し口の中にペニスを入れたまま嘔吐したが急激な喉の締め付け感にマカロフは同時に射精してみせた

「ハハッめちゃくちゃだな」

自身のスラックスが汚れたマカロフは涙を零す彼女を見下ろしては嗤う、夕食に食べたものはまだ消化されておらず小さな固形物となったままで二人の様子をみてノーランは手を止めてやれば、マカロフは彼女の頬を撫でてペニスを口から離してやったが笑みを止めて「舐めろ」と告げた
彼の精液と自身の嘔吐物で汚れたソレは酷い香りをしていたものの彼女はその指示に従いしっかりと舌で拭う、小さく動く喉を見てはタバコを吸うマカロフは薬の効果もあり従順な恋人に満足気に眺めた

「アンドレイどうだった、ナマエは締まったか?」
「ええイラマチオとタバコの時に」
「そうかそうか、やはりお前はかわいい女だなぁ…掃除はもういいイかせてやれ」

マカロフはベッドに腰掛ければ適当にそばにあるティッシュでペニスを拭いて汚れたシーツを剥ぎ取った、ノーランはいわれるがままに動けぬ彼女を簡単に抱き上げて自分の膝に乗せてはマカロフに見えるように足を広げさせ指を沈めて彼女がより啼く場所を責めたてて
他の男の手で乱され、酷い顔をしつつも快楽に抗えずにいる彼女の乳房手を這わせて先程つけた焼き痕に舌を這わせた

「あ"ぁ"♡ん"ッ、ウラジミール♡♡」
「気持ちよさそうだな」
「う…ん♡きもちいい、すき♡あなたに、されるのがすき♡♡」

与えられる全ての感覚が心地よいとナマエが言えばマカロフは満足そうに笑みを返して、血が滴るその傷口を撫でてノーランの指を受けいれるその場所で主張する雌の核を指で弾いてやれば彼女は顔を上に逸らした
恰幅のいいノーランに抑え込まれた彼女は次第にノーランの首に腕を回しては「ヴォロージャ♡♡」とマカロフを呼んでは唇を求めた、しかしながら敬愛すべき男の女であると理解する彼は静かに顔を背ければナマエは眉を下げてしまいマカロフは「構わない、キスしてやれ」といった

「はぁっ♡あ♡あっ♡♡ック…♡」
「ッ…はぁ」

二人の吐息を聞きながらもマカロフは彼女の乳房と陰核を責め続けノーランも手を止めずにいれば、彼女は全身を震わせてマカロフの服を汚してしまう、ベッドの上の汚れを気にせずにマカロフは体を離して指先で絶頂を迎えても尚遊んでやれば、彼女の下はぐっしょりとシーツの色を変えていた

「潮まで吹いて余程気持ちよかったらしい、3Pが好きだったのか?いやらしい女になったな」
「あっ♡ウラジミールが、いい♡私の、ヴォロージャ♡♡」

ノーランは彼女の腟内から指を抜いて手を近くのタオルで拭えば彼女は軽くなったその身でマカロフの胸に飛び込んだ、足の怪我のためか上手く動けぬ彼女の姿に彼は頬を緩めて犬を褒めるように髪を撫で互いの衣類を全てベッドの下に落としては彼女を上に寝そべらせてその充分にほぐれたナカに硬くなったペニスを沈めた

「お"ッッ♡♡」

久方振りに受け入れたはずのモノだというのにナマエの脳はまるでマカロフのものを慣れたように簡単に受け止めた、上に乗せられた彼女は身動きも取れずにマカロフの上でどうにか彼の為にと腰を揺らしても慣れぬ体位と足の不便さに出来ずに彼の胸元に顔を埋めた
何度か見た事のあるタトゥーに、新しく彫られたものもあり、会わない間の彼を感じてはぎゅうっ♡と腟内を締める

「そんなに俺に抱かれるのが嬉しいか?」
「うれ、しい♡♡すきっ…ヴォロージャ、さみしかった♡」

そんなわけがないとナマエはふと自分の口からこぼれる言葉と正反対の言葉が頭に浮かんだ、この男に人生をめちゃくちゃにされた、される未来をしっていたから逃げ出したはずだと言うのに耳元で囁かれる度にナマエの思考は彼を愛していると認識して意識を削がれる

「さみ…ッ♡し、く、ちがっぁ♡♡いやっ、や"ッ♡♡やだ、っ♡♡」
「おっと、またパニックになりかけてるな」
「あッ♡あっ♡」
「俺を愛していると言ってただろう?あんなにも隣にいたんだ」

俺だってお前を大切にしていたつもりさ。と呟くマカロフにそんなはずは無いと頭の中の言葉が響く、本気で愛していたのならば巻き込まず普通の道を生きようと思うはずだという考えを見透かすようにマカロフは彼女を抱きしめて「西のヤツらにお前も騙されてるんだ」といった
平和な世界をと彼らはいうがそんなことはないと、在りし日の我が祖国に戻し世界に均衡を保たせる、俺の隣にいて欲しいのはそれを理解して欲しいからだと語るマカロフは彼女に強く腰をぶつけた

「はッ♡あ、っ♡♡ち、が♡♡あっ♡や♡」
「薬の効果が中々上手くいかないか?それとも俺を愛してなかったのか?」

マカロフは彼女からペニスを一度抜いてはうつ伏せにさせて、まるで彼女を凌辱するように背後から穿った

「あ"あ"ッ♡♡」

女としての声を上げる彼女にマカロフは彼女の首に手を掛けて圧迫した、暴れ逃げようとする彼女に力強く抑えるマカロフは楽しそうに笑い声をあげては「締まるじゃないか」という
ペニスを突き立てられた圧迫感と、首を締め付ける感覚に意識が朦朧として次第に彼女の力が抜けて唾液が彼の指を汚しその瞳が白目を剥きかければパッと手を離す

「かっ!はっ…ハァッ…お""♡♡あ"ッ♡♡」

酸素を必死に取り込もうとする彼女の腹が空のペッドボトルのようにベコベコと動く様を見つつマカロフは腰を打ち付けて彼女の思考を次第に奪うようにと、何度も何度も首を絞め腰を打ち付けてやった

「あ……っ……あっ………♡」

死にかけた魚のようにベッドの上で力なく寝そべる首に赤い跡をつけた彼女を見下ろしては大人しくなった姿からマカロフは汗を拭いつつ腰を抱き寄せて人形を抱くように腰を揺らした

「ナマエ…俺の女、お前は立派な同志こいびとであるんだ」

こんなに想うのはお前だけなんだ。
そう語る彼の言葉などほとんど意識のない彼女には意味もなかったがマカロフはその薄く開いた唇にキスをして舌を絡めて、深い愛を伝えるように最奥で自分の子種を吐き出してやった
ドクドクと感じる身体の奥の熱の感覚にナマエは夢か現か分からぬ狭間を感じていた、じくじくと燃える足の痛みを感じながら二度と戻れぬ過去を想い、優しくマカロフに抱き締められながら目を伏せた

ふた目を覚ます時、まるで焚き火のような音がして目の前の見なれたアパートが燃えている姿を目の当たりする、隣に座るマカロフは彼女の手を握った時、ふと彼女は自身の左手に見慣れぬ指輪がはめられており、マカロフもそれに対となるデザインの指輪をつけていた

「これからまた共に過ごせるな」

そういった彼の言葉にじくりと痛む足を感じつつ彼女は何も言えずに顔を外に向けた、燃え盛った建物が崩れる様をみつめて彼女は彼と離れていた時間は一時の夢幻なのだと感じつつ目を閉じた、この男からは逃れられぬと覚悟を決めて

「ええそうね、マカロフ」

そう呟けば彼は静かに口付けをして微笑みかける

「そうでなければ次は切り落とすことになるからな」

その深淵のような瞳で彼は彼女の足を撫でて告げてやれば車は走り出す、何処に行くのかも分からないがきっとその先は地獄だと感じながら、彼女は彼の手を縋るように握るのだった

2025.0413