十二月

ソープがコーヒーに口をつけては目の前のゴーストを見つめた、とても真剣な話であり彼は今日この日のために彼を態々この街に呼び出したのである
互いに兵舎での生活が主であり、基地から離れることも珍しいが一通り大きな任務を終えた現在ようやくゆっくりと141のメンバーは互いの自由を満喫しているのだ、勿論世間が思うような休暇では無い為あっという間に終わる休みだが彼らは特段気にしない、それがいつものことだからだ。

「ここは大きめのモールも映画館も学校もカフェもある、治安もいいしギャングやマフィアもいない」
「らしいな、パンフレットにも書いてある」
「わざわざ取りに行ったのか?」
「暇だったんだよ」

彼に誘われてやってきたが約束の時間まで随分と時間を持て余してしまったゴーストは程よい広さのこの街を探索がてら適当な場所にあった街のパンフレットをポケットに入れており、それをテーブルに置いてはソープはそれを手に取り「ギャングとマフィアについては書いてないからいい街だろ?」と冗談を言うものだからゴーストもマスクの下で微笑んだ
実際この街は他と比べても随分と穏やかで都会に近い割には犯罪や危険の香りはしなかった、聞きと背中合わせの彼らはそうしたことに酷く敏感でありそうした事は直ぐに雰囲気から察することが出来るほどだった。

「本当にいい街だ、人もいいし美味いコーヒーもあるし、ファミリー向けで単身者も少ない」

両手を広げて盛大にこの街のアピールをする彼はまるで地元の人間のようであったが全く違うことをゴーストは知っていた、これだけ熱弁する彼に対していよいよコーヒーが空になったゴーストは彼の悲劇について言葉にしてやった

「でも振られたんだろ」

その静かな彼の言葉にソープは思わずテーブルを勢いよく叩いては勢いに任せて立ち上がりゴーストを指さした

「そうなんだよ!あの女!」

口汚いがソープがそうなるのは仕方の無いことだと理解していた、数年の交際の末に目の前のソープことジョン・マクタビッシュは恋人に綺麗に振られたのだった
それも相手には新しいパートナーがいたというおまけがついての事だった、新しい家を見つけて恋人と暮らし始めようと思うと機嫌よく話をしていたソープの笑顔はまさに希望に満ち溢れていたが、今現在目の前で顔をテーブルに突っ伏す彼は弱々しいものだ
しかしながら彼らにとってそうしたことはよくある事だと言うのも残念ながら理解していた

「新しい生活が始まると思ったんだよ」
「落ち込むなジョニーよくある事だしお前はまだ若い、新しい恋人だってスグできる」
「新しい…か。今はそんな気にはなれないから呼び出したんだ」
「すまん、慰め方が悪かったな」

いいんだ、あんたの言うことは間違っちゃいないんだから。と返事をしたソープは落ち着いて椅子に座り直してはコーヒーを飲み干し指先は落ち着きなくトントンとテーブルを叩いた

「愛してたんだ、本気で…家の事だって互いに楽しく話し合ってたし上手くいくと思えた」

弱音を吐くように彼は呟く、恋人と新しい一歩を踏み出す予定が彼が長期任務から戻り新しい家を契約して直ぐに恋人は彼を捨ててしまったのだ。
基本的には明るく前向きなソープでも恋人となれば話は違う、どれだけ話し込んだのかゴーストは知らないものの彼がその恋人を愛していたのは本物だということは理解出来ていた、冗談を言える訳もなくただ静かに話を聞いて相槌を打てば目の前の男の顔がしっかりとゴーストを捉えてはポケットから取りだした鍵をテーブルの上に置いた

「きっとあんたも気に入る」
「…だといいがな」

そろそろ現場に向かうかと彼らは外の天気を見ては立ち上がる、出る間際にレジカウンターの前を通れば店員の女は顔を上げては「もう帰るの?」とソープに問いかけた、彼は新居に彼を案内するという話をすれば彼女はどうやら何かを知っているらしく難しい顔をしてゴーストをみつめた

「一応私からもお伝えしておくと、あれは彼の趣味じゃなくて恋人の趣味に合わせてるから驚かないであげて欲しいな」
「もう女を連れ込んでたのか?」
「悪い言い方はやめてくれバニラは俺のこの街で唯一の友達で案内人なんだ」

同意を求めるように慌てたソープが彼女を見ればバニラと名前を呼ばれた彼女はクスクスと笑っては「ええこの街のみんなの隣人よ」といっては手の中の赤い毛糸がようやく形を作り終えては長いマフラーに変わっていた
彼女は立ち上がりゴーストに向けてそれを差し出しては「少し早いけどメリークリスマス」といった
人から物を受け取ることはあまり無かった、それは基本的に信頼ならないものばかりであるからだ、目の前のこの女が好みに引っかかりつつ笑顔で愛想良く接してきても、もしかするとカウンターの下にハンドガンを置いているかもしれないのだ

「メリークリスマス」

けれども彼は受け取った、笑った時に潰れて細くなった目のせいか持ち上げ慣れた口角のせいか心地良さそうな唇のせいか、はたまた彼女から香る優しいバニラの香りのせいなのか

「かのゴーストさえ、バニラには負けたな」
「それはあの女のあだ名か?」
「いいや?本名さ」

ケイト・バニー・バニラ

あの店にピッタリの名前の店員なんだと店を出て歩くソープは告げた為、マフラーを巻いて数十メートル後ろの看板を見ては納得する、看板にはカフェバニラと書かれていたからだ、どうやらあれが彼女のメインルームなのかと理解しつつも巻いたマフラーからはコーヒーと微かにバニラの甘い香りが感じられる。
瞼を閉じれば彼女が微笑んでいたことに近頃自分があまりにも女に接点がなかったゆえなのかと考えてはまるでガキのようだと内心言葉を吐いては足を進めた、地面にはまだ雪は積もっていない。

店を出て数百メートル先にあったマンションの中に入るソープの後を続く、比較的最近できたばかりの綺麗な八階建てのマンションは全てが埋まっている様子でその人気を伺える。
エレベーターに乗り込み八階のボタンを押しては「入口の管理人もだし、エレベーターもだが安全面が高くて人気なんだ」とソープは言った、この辺りは大学生も多いため安全面を気にした親からしてみても安心な物件なのだろうと感じつつ音を立てて止まったエレベーターから降りて彼の後を続いた、どの部屋もドアの前にはリースが飾られており、そうした物からこのマンションに住む住民がどうした存在かを少なからず察してしまう、つまりは平和な場所ということだ

「ここだ」

角部屋で立ち止まったソープは鍵を差し込みドアを開けたあと後ろに立つゴーストをみつめては指を立てて眉間に皺を寄せていう

「俺の趣味じゃないからな、絶対に勘違いするなよ」

念を押すほどとは…と若干驚きつつも「大丈夫だ」と普段の彼のセンスを知っている為返事をしてドアを開けた途端にビーズ暖簾が飛び出した途端にゴーストはそりゃあもうソープの趣味ではないだろうな。と言われずとも理解しては招かれるがままに足を踏み込んだ

「これは…まぁ…お前の趣味じゃないだろうな」
「全部あの女の趣味だったんだ、家具も何もかも向こうがいいって言うやつにしたんだ」
「値段は…とは聞かない方がいいな」
「同情も出来なくなるだろうから聞かない方がいい」

そこまで酷いのかと思わず苦笑いをしては2LDKの部屋をひとつずつ確認する、原色とエスニックが入り交じった部屋はまるで異国のようだがゴーストは彼の元恋人の写真を記憶の中から手繰り寄せてはどことなくその傾向はあった。と察した

「見た目はいい女だったのにな」
「性格も悪くなかった、浮気してるとは思わなかったがな」

ゴーストの言葉にソープは返事をしつつリビングに置かれた広いソファに腰掛けては「言うなよ」と暗い声を漏らした、以前の任務での移動の際に彼はゴーストにそれはもう嬉しそうに帰ったら彼女と同棲が始まるんだ。と鼻息荒く熱弁した
彼は恋人に随分と惚れ込んでおり寂しい日を過ごさせることを申し訳ないと感じる程であった
ゴーストからしてみてソープは文句なしにいい男で、彼を射止めた女というのも悪いやつじゃないだろうとは感じていた
実際普通の男と付き合っていたならば浮気もされなかったのかもしれない。
彼らのような特殊部隊に所属する軍人には自由などあってないようなものなのだ、何ヶ月も家を空けるし戻ってきたかと思えば挨拶もままならずに別れを告げる、子供が生まれてもその成長を見届けられず気付けば成長していくだけ…というのは普通のことなのだ

「それでこの部屋は中尉のお眼鏡にかないそうか?」
「そうだな…広いキッチンにクローゼット、床下収納もあるし内装以外は悪いところは無さそうだ」

その言葉にはソープも同意しつつ今更その家具を自分の家に持ち帰る事など出来ないため不要なら処分すればいいと伝えたがゴーストは反対に擬態するには丁度いいと感じた
テーブルの上に音を立て置かれた二つの鍵を手に取る前にこの家に彼自身が住んだらいいのではないかと伝えた、ここは都市部までも悪くない距離で治安もよく生活に不便は全く無いものだ、恋人との生活ではなくなるが今後の先を考えれば彼の方が…と思うもののソープはその言葉に心底うんざりとした顔をした

「中尉…俺は引きずってるんだ、あんたからしたらたかが女されど女かもしれないが俺は本気で結婚まで考えてたんだ、だからこんな部屋になっても文句を言わなかった!!」
「お前が住むわけじゃなかったしな」
「あぁそうさ、たまにしか帰ってこないからこの家に耐えられると思ったがダメだ…部屋に入るだけでカーテンを選んだ時の記憶が出てくる」

こりゃあ案外マクタビッシュ軍曹は重症だったらしいとゴーストは遠い目をした、ソープは熱い男だ
それ故に今のこの失恋は相当堪えているのだと感じつつそれならば解約すればどうなのかと思い立ったことを口にすればソープの顔色は悪くなる、悪い予感がした、一歩間違えれば悪い言葉が出てきそうな気がする
これ以上Fから始まるワードを増やすのはやめている方がいいと感じた

「持ち家だ」
 F…
「どうしてそう予想を遥かに上回ってくるんだか」

呆れも通り越した、彼の愛は本物なのだ。
新品のマンションならばまだ売れるだろうにと思うもののソープはそれに対してもしっかりと借用書を取りだしてはゴーストに突きつけた
そこには購入後二年以内に手放した場合には購入額の二倍の金額を払わなかればならないのだという、賃貸でもないのに?と思いつつもこのマンションの大家はここが相当人気であることを知っていたのだ
それ故に簡単に手放すとなれば傷物になった部屋の価値は僅かにでも下がるとなれば取り立てねばならないのだから当然そうした契約書を書かせる

「よくそんなものにサインができたな」
「どうしてもここがいいって言われたんだよ」
「ジョニー…俺は男としてお前を尊敬するし哀れもう」
「ありがとよゴースト、しかし俺はここには住めない、だから丁度セーフハウス探しをしているあんたにどうだってわけだ」

そうだな…とゴーストは顎に手を当てて悩ましく部屋の中を見て周った家具や内装は好みでは無いものの彼の条件にはよく合うものだった
一般的に見える上に広く治安もよく質のいい一般人が住んでいるとなればカモフラージュにはピッタリだ
なかなか返事をしないゴーストに仕方ないと立ち上がったソープはキッチンの戸棚から一本のバーボンを取り出しはテーブルの上に置いた、チラリとそれをみたゴーストにソープは笑う、なかなか彼も駆け引きが上手いずるい男だと感じながら外が暗くなっていることもいいようにと出されたグラスに手を伸ばした。

大きないびきと共に目を覚ましたゴーストはふと視線を向けた先のソファで横になる友人を見つめテーブルの上の空になったバーボンをみて、昨晩は相当彼に付き合ったと感じた
お陰でそれなりにいいブランドのボトルは一晩にして一滴も残っていないのだから残念な程だった。
ソープの愚痴に付き合いつつも散々に聞かされたこの街についてを考えつつ彼はポケットに入れていたタバコとライターを片手にベランダに出ては、寝起きの温まった体には多少堪える冷たさを感じつつ火をつけた

「(静かな街だな)」

早朝と言える寒い冬の朝は薄暗いが心地よい空気だった、老夫婦や犬を散歩する者に通勤するサラリーマンに学生など、在り来りな日常を見届ける中でゴーストはふと目に止まった場所では女が一人看板を出していた

「こんな朝早くからか、働き者だな」

それは昨日足を運んだコーヒーショップであり、おなじ店員であった、彼女は看板を設置しては冷たい手を温めるように息を吐いており、その姿を思わずジッとみつめてしまう

「っ!」

短くなったタバコが彼の手に触れてしまえば思わず意識を戻され慌てて彼は外にあるアルミ缶のゴミを取り出しては火を消してその中に捨て、部屋に戻ればソープはまだ眠っていた
ふとコーヒーを飲みたいと考えるもののキッチンは空であり、引っ越したあとのインスタントコーヒーのひとつも無かった為にどうしたものかと考えてはやはりあの女の顔が浮かべば彼は仕方ないかとジャケット着てマスクをつけては外に出る。

CLOSEと書かれた看板にしまったとゴーストは感じて背を向けて歩き出すと同時にドアが叩かれた、そこには女が何かを話しており何事かと顔を寄せれば勢いよくドアが開き、彼の顔に勢いよくドアがぶつかった

「ごめんなさい!」
「…ッ、もう少し落ち着いて行動をしてくれ、折れたかとおもった」
「そんなヤワな骨してなさそうだけど、コーヒー買いに来たんですか?」
「そうだ、でも店はまだなんだろ?」

ドアに貼られたオープン時間までまだ一時間以上はあるとゴーストは店内にある時計を覗き見ていえば女は気にせずに「お腹すいた?」と声をかけるものだから、彼は多少困惑しつつも「あぁ」と言葉を返しては手を取られ店内に連れられた。

「コーヒーメーカーの稼働に時間がかかるから手で淹れる事になるけどいい?」
「オープン準備をしなくていいのか」
「機械のスイッチ入れるだけだから平気、サンドイッチ食べれる?」
「別にコーヒーを買いに来ただけだ」
「こうして誘われるの嫌だったりする?」

バタバタとカウンターの中に入った彼女が用意をし始めることにゴーストはコーヒー代だけを置けば女はカウンターに身を乗り出して彼の顔を見つめた、大きくまるっとした目と身体、思わず顔から視線を下げた先にはカウンターの上で重たそうに置かれた胸元にすぐに逸らしては彼女の目を見た

「嫌じゃないがそうされる道理もないだけだ」
「ソープがずっと言ってたの、今度俺の友達を連れてくるって、素敵な人だって言ってたから気になってて」
「あぁだから知ってたのか、仲がいいのか?」
「どうだろう、この街に来て初めてのお店がここで悩んでる時に声をかけたのがきっかけなだけ、私はいい友達だと思ってる」

ちょっと恋愛にのめり込む傾向があったみたいだけどね。と砕けた話し方をする彼女はコーヒー代をレジに入れてはカウンター椅子に座るように声をかける
ソープが軍人であることや、彼がこの街に来た理由も全て知る彼女は相当彼からの信頼を得ているのだと簡単に理解する、あの男は感じがいいものの誰でもかれでもベラベラと話す男では無いからだ
恋人の写真を見せてその上で家の相談までするとなれば相当彼の心を開いたのだろうと思いつつ、確かに目の前の彼女は人の心に入り込みやすい話し方、雰囲気を作っており人懐っこいという印象を受ける

「チキンとたまごのホットサンド、アレルギーは平気?」
「特に問題ないがいいのか?コーヒー代しか払ってない」
「平気、私の朝ごはんついでだもの」

コーヒーとホットサンドを出した彼女はゴーストの向かいとなるカウンターの中で椅子に腰かけてホットサンドを頬張っては頬を緩ませては自画自賛をした、その様子に食欲をそそられマスクをずらしたゴーストが口を開きホットサンドを口の中に入れれば甘辛いソースのついたチキンとマヨネーズとブラックペッパーの卵ソースが程よく混じり合う
美味い。と感想をいう前に女の視線に気付いては食べ方でも悪かったのかと視線を返せば彼女は微笑んだ

「かわいい顔して食べるんだな。って思ったの」
「か…そうか」

聞き慣れない単語だが意味は簡単に理解していた、そんなことを言われたことなど大人になってからは初めてだと感じた彼は首の裏が擽ったいと感じてしまう。

 隣に置かれたコーヒーを飲めばそれは明らかにコーヒーメーカーとは違う味であり思わず目を丸くして女を見つめた

「淹れるのが上手いんだな」
「でしょう?オーナーにも褒められた」
「あんたの店じゃないのか」
「ええ、私は雇われのアルバイトだから」

とはいえオーナーも殆どいないから一人で回してるのに。と笑う女のカップの中身はコーヒーではなく紅茶であったことに目を奪われる

「…紅茶が良かった?」
「あぁ当然だ」
「今度の朝来てくれたら淹れてあげる」

甘い声でそういわれてしまえばゴーストは無性に気恥しさを感じてホットサンドを食べ終えては静かにコーヒーを飲んだ、開店前の店で彼女は何を話すでもなくただ店の開店準備をしていた
レジの用意にテーブルの拭きあげにコーヒーや軽食の用意、ここはコーヒーショップというよりも少しだけレストラン寄りだと感じた
開店五分前になりコーヒーを飲み終えたゴーストは机の上にお金を置いて出ていこうとすれば足音が聞こえた

「忘れ物」
「サンドイッチ代だ」
「受け取らない、もし受け取って欲しいなら今度食事でも」
「……考えておく」

結局出した金を仕舞うという少しだけ間抜けな姿を晒しては店を出た、オープンとなった店に次々と人が入っていくのを眺めてはコーヒーとサンドイッチそれに彼女の甘いバニラの香りを感じつつ家に向けて歩いた

「(甘ったるい香りだ)」

好きにはなれないはずの香りを何故かどうも悪くないと感じるのはその笑顔が瞼の裏に張り付いたからかもしれなかった。

エレベーターを上がり出てきた家に戻って直ぐにリビングでは寝起きのソープが寝癖を手で梳かしつつゴーストを見つめては眉間に皺を寄せた

「バニラの店に行ったな」

まるで犯人を詰める刑事のような表情の彼に何故わかるんだかと思わず考えたものの「コーヒーを買い忘れた」と返事をしてソファに腰掛ければ背後から声が飛んだ

「ニヤケ面を隠せてないぞ中尉」

まさかそんなわけが…とマスクの上から口元を触れれば確かに口角は僅かに上がっていた、全く自分のことだと言うのになんてことだ。

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