全くもってやらかしたと焦り抱くのは仕方の無い事だった、友人であるホランギの部屋に来ていた彼女はシャワーを浴びにいったホランギを普段通りに送り出してのんびりと自室さながらに過ごしていた時、ふと彼が普段つけている指輪を目にして、ほんの少し好奇心を抱いてしまったのだ。
「意外と身だしなみというか小物とかはこだわってるんだよね」
彼が愛用している二つの指輪と時計を見つめていた彼女は、ふと彼が人差し指に嵌めていた指輪を興味本位で自分の左手にはめてみたのだ。
しかしながら男性用であるためかやはり彼が着けていたように人差し指にしてみても案外緩く思わずくすくすと笑ってしまう、それでも他の指にもと試して見たところ事故が発生した。
薬指に遊びで嵌めた指輪は関節に引っかかり外せなくなったのだ、根元はブカブカだというのに関節部にはぴったりとしたその姿に彼女は聞こえてくるシャワー音が次第に小さくなり、外に置いているタオルを手に取っている姿を想像出来る様子に慌てた。
「なんか暴れてたのか?」
「へ?なにっ?なんのこと?」
「すげぇドタバタしてただろ」
「虫が出てきたから退治してたの」
丁度シャワーをあがった部屋主のホランギがスウェットのズボンだけを履いて頭をタオルドライしつつ戻ってくれば彼女は普段通り彼のベッドの上で寝そべって本を読んでいた。
彼女の言葉に虫がいたことに怯えるホランギだったが、それを想定した彼女はしっかりと対策をしておいたから。と宥めてやれば彼は落ち着いた様子でふぅ・・・と小さな溜息を零す。
「で?なんで手袋してるんだよ」
「それは・・・この雑誌に手の保湿の大切さが書いてたから」
背中に嫌な汗が伝う、あまりにも下手くそな嘘だと感じたからだ、しかしホランギは「なるほどな」と妙に納得したようであり、彼の部屋にあったファッション誌だったがもしや読めてない範囲にそうした事が書いていたのかと思い安堵した彼女は胸を撫で下ろす。
左手に着けた任務などで利用するものとはまた違う薄手の滑り止め用の手袋はあまりにも不恰好だがそれで納得したのならば御の字、反対にホランギがこんなに嘘を簡単に飲み込むということならばそりゃあギャンブルで借金を作ってしまうなと彼女は内心、彼の過去について改めて別の心配を感じた時、次のトラブルが発生した
「あれ?指輪がねぇな、知ってるか?」
「触ってないよ、どこかに落ちてるんじゃない?」
「探すの手伝ってくれ」
タオルで髪を乾かしつつ身に付けていたアクセを再度付け直すホランギは自分の指輪がひとつ足りていないことに気付き、彼女に捜索の手伝いを求める。
その言葉に二つ返事の了承をしつつも決して見つかることの無い状況に彼女は焦った「いやぁ実は私が着けてたんだよね、あっはっはっ」と言い出せばよかったのかもしれないが度重なる嘘、そして少なからずホランギを良く思っている彼女が遊びで指輪を嵌めたということをいうのは些か恥ずかしいと思ってしまっていたのだ。
結局見つからず、ホランギはシャワー前に落としていたのかもしれないと告げた、しかしながら万が一にも大切な指輪ならと彼女は恐る恐るホランギに指輪はなにか大切なものなのかと自然と聞き出せば彼は特段普段通りの様子で返事をする。
「いや別に、まぁそれなりにいい奴だったから勿体ないことをしたなってだけだよ」
「そうなんだ、なにかブランド物なの?」
聞くのではなかったと彼女は後悔した、何故なら聞いてしまえばそのメーカーや価格帯を調べてしまうからだ、案外身なりを気にするホランギが告げたメーカー名に彼女はその場で調べて1.10.100と指折り数えては青白くさせて即座に彼の手を取った。
「ホランギ!」
「な、なんだよ!」
「絶対かえ・・・見つけてあげるからね!」
大きく声を張り上げた彼女にホランギは目を丸くして「お、おう」と驚き気味に返事をすればそのまま彼女は今日は一旦部屋に戻ると行って出ていってしまい、その様子に彼はそんなに真剣にならずともいいのにと苦笑いをしつつもその背中を見守るのだった。
あれから二日が経過した。
未だ彼女の指から離れる気配はなく、彼女は酷く焦りを抱いていた、いっその事指を切断する方が早いのでは無いのかと引っ張り続けて赤くなった指を見て考えるが薬指が無くなるのは流石に・・・と考えを改めてホランギにどう説明すればいいのかと悩む日々を過ごしていた。
しかし二日ともなれば流石の彼女も誰かしらを頼るしかあるまいとコルタックの基地内の談話室に顔を覗かせた、誰かしら相談できる相手がいないかとちらりと中を覗き込んではそこにいるメンツが珍しく女性陣ばかりであることに彼女は安堵した、21時を過ぎた談話室は大抵誰かしらが酒を片手に話をしているものだが今日は安心出来るメンツだと近付けば彼女達はホランギとニコイチのような彼女がやってきた事に珍しいと顔を上げた。
「珍しいわね一人で」
「みんなこそ珍しいね、どうしたの」
「カリストがいいワインを持ってたから飲んでるのよ」
ローズとカリストにスティレットなど普段からよく任務を共にする女性陣、更にはヴァレリアまでもが談話室の広いソファに腰掛けてワインを片手に話をしており、彼女は酒を遠慮して「指輪が外れなくなったから助けて欲しい」と素直に悩みを打ち明ければ、彼女達はそんな事ならと二つ返事で彼女の手を見たあと思わず彼女の顔を見た。
「何も言わないで事故だから」
八つの目玉が彼女に向けられた、あからさまにからかい様な表情に本当にこれは事故であり他意はないと告げるが彼女達は二人の距離感の近さがただの友人な訳が無いと言っていた、それを指摘されれば彼女はあくまで仕事の関係だと言い返す。
「左手の薬指に着けてて事故・・・ねぇ」
「だから違うんだってば」
こんな時にヴァレリアがいるだなんて本当に最悪だと彼女は嘆きつつ彼女たちに手を取られて揉みくちゃに遊ばれるともう好きにしてくれと諦めてしまう、毎度の事ながら末子のように遊ばれるが止め方が分からない彼女は時間が過ぎるのを待つしか無かった。
「にしても本当ピッタリ」
「こんなに丁度ってのもまたねぇ」
「まぁでもこれよりもっといい指輪のが似合うだろうけどな」
好き勝手言ってなさいと彼女が天井を見つめて声を聞く時、ふと一つだけ明らかに低い男の声が混ざっており、聞き馴染みのあるその声に彼女は油を刺し忘れた機械のようにぎこちなく顔を向ければ自身の手を取っていたのはホランギであった、さらに言えば他のメンツは出口に向かっており「ちょっと待って!」と声を上げる前に出て行ってしまった。
全くなんてことだと広い談話室で二人きりになった彼女は自分の手を取るホランギに気まずそうに怒られた子供や犬のような表情で見つめれば彼は呆れたようだった。
「無くしたと思ってたのがこんなとこにあるとはな」
「遊んでたら取れなくなって」
「先に言えばよかっただろ、全く・・・外してやるよ」
そう言ってポケットから小さなソーイングセットの中から糸を取りだした彼は指輪と指の隙間に通しては「少し我慢しろよ」と告げてそのまま指に糸を巻きつけて手馴れたように指輪を外していく姿に彼女は手馴れたものなのだと関心を覚えて口にした。
「その指輪少し小さめのやつだからな、俺もたまに抜けなくなるんだよ」
「なのに買ったの?」
「いいデザインだったんだよ」
その言葉にその為に外れにくいものを買うのかと笑えば彼は廃盤だから仕方なかったんだといいつつ外れた指輪を自分の薬指に填める為人差し指に着けていたのにと不思議に思いつつこの騒動の謝罪をと告げようとする前にホランギに手を取られ赤くなった指を撫でられる。
「赤くなっちまったな、悪い」
「こんなくらい平気だよ、私のせいだし気にしないで」
「ここに指輪が欲しかったら今度買ってやろうか」
へ?と思わず顔を上げてホランギをみれば彼のサングラスには呆けた自分の顔が映っており酷く間抜けに見えてしまう、少しだけ互いに空気が流れてそれが直ぐに冗談だと気付いた彼女は「じゃあ今度露店で見たやつお願いしようかな」といえばホランギも「一番高いやつを買ってやるよ」といった、互いのその空気感を知らないフリをして二人は遅い為もう部屋に帰ろうと言って談話室から出たものの何一つ会話も出来ずに歩いた。
ふとホランギの右手の人差し指が彼女の左手の薬指に触れれば二人は何も言わずに一本の指を絡め合った、何も言えずに前を見据えればホランギはいう。
「いい指輪を買ってやるよ、露店の奴じゃないちゃんとしたブランドのやつな」
照れくさそうな彼の声に彼女は心臓が早くなる音を聞きながら「同じブランドのやつがいいな」なんて返事をすれば互いに絡めた指に力が篭もる、彼女の薬指には赤い指輪の痕が残されていた、まるで先約のように、そしてそれをみて彼は静かにほくそ笑むのだった。
2025.05.27
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