厄介なものを残されたものだと常々感じた。
──ソレがやってきたのは祖母が亡くなり四十九日を過ぎた頃だった。
バタバタと忙しく日々を過ごした頃、ある一通の手紙が入っていた。
シンプルな茶封筒の割には政府機関の名が記載されていた。
なにか悪い冗談だと笑いたくなるものの、封筒の雰囲気や開封後の中身を見てみれば残念ながら本物だった。

母は幼少期に居なくなった。
父の手で育てられ、大人となり、祖父母は母方の祖母だけとなるほど大きくなった、父も亡くなり、ついに先日、祖母は百三歳にして亡くなった。大往生である。
無駄に広い祖母の自宅を片すのは大層な手間であり、綺麗に片付いた家でも物というものはそれなりにある。使えそうなものをもらい、不要なものは捨てる。
借金もなければそれなりにはお金を残しておいて貰えたことに感謝して、生前からの手筈通りの葬式もした。

祖母の自宅を片付けるのは仕事をしつつとなれば、それなりに時間がかかってしまった。いつまでも広い家を置いておく訳には行かない、他の兄弟や従兄弟もいない、誰もこの立派な日本家屋を引き取ることはない。もちろん自分も……と思いつつ、立派な化粧棚の中身を開けていた時、見慣れないブローチのような、なにかが見えた。
小さな桜模様の金で出来たブローチには小さな文字が入っているがよく見えなかった。
そして片付けをしていく中でわかったのが、今の状態への理由へと至る。

───つまり祖母は"元審神者"だったらしい。

初めにそれに関連するものを見た時には大層驚いた。
審神者──薄らとこの世界の人間は名前を聞いたことがある。
だがしかし、ほとんどの人間はそれをフィクションの存在だと思うだろう、彼女も同様だった。
実際、彼女が審神者というのを知ったのは幼少期に読んだ漫画からだったのだ。大人になり実際にそういった機関や存在があるとは聞くが、それは俗にいう、CIAやMI6やKGBのような、現実だが非現実な組織のようだった。

自分には関係ない世界というのは人間みな、そういう反応をするのは当然のことである。
だからこそ、彼女は祖母が正式な審神者であったという書類を見つけてしまった時、驚くのは無理もなかった。
元より祖母は遅くに結婚をして、母を産んでいた、母も遅くに彼女を産んだが何処か居なくなった。

「そうです、つまり、あなたの母方の家系は審神者の適性があり、お祖母様もお母様も審神者でございました」
「……それで次は私ですか」

黒いスーツの男がにこりと笑った。
年々審神者適性のある人間は少なくなっている状況であり、適性を持つ人間は一人でも多くということだった。
居なくなったと思っていた母親は審神者をしていたが数年前に亡くなった。祖母は過去に審神者をしていたが能力が落ちて辞めざるを得なくなった。
愛想の良さそうなスカウト担当の政府の男と祖母の自宅の客間でお茶を飲みながら話をする。律儀に送ってきた封筒と同じ内容のものや、これまでの彼女の経歴、普通であれば犯罪だといえるプライベートなものを相手は悠々と出している。

「年々審神者が減っておりますが、如何せん相手の兵力は多いのです、近年は審神者も高齢化でして……」
「だから、このように手厚い対応をされているんですね」
「はい、悪い話ではないかと」

特にあなたには、と言われてしまう彼女は否定出来ない。
審神者という存在は政府の監視下に置かれ、その自由をほとんど奪われる。歴史の改変を目論む敵から守るために活動するのだから仕方ない。その代わりに不自由はさせないと言われる。
例えその人が前科持ちだとしても───もちろん、彼女は前科は無い。だが借金はあった。それなりに生きてはいけてるがギリギリの生活。騙されたと言っていいだろう。

「判子を押すだけでいいんです、それにあなた自身が戦う訳ではありません、あなたは"審神者"として"彼ら"を上手く使うだけです。もちろん、初めは簡単なところから」

なにも悪い話じゃない、国の事業の一貫、そうして審神者へとなった。

とはいえ、審神者は生まれ持った才能がすべての世界であった。
彼女──ミョウジナマエには、残念ながら才能がなかった。持ち前の能力のようなものが強くないのだ。平均的な人よりも少ないが、審神者の資格はあるという微妙なライン。
念の為に測定器というもので、審神者に必要な神力─しんりょく─とやらを計測した結果がそれであり、微妙な顔をされたことを彼女はよく覚えている。
それでも人は必要で、彼女はまず祖母と母が使用していたかつての審神者の屋敷へと案内された。そこがどこで、どの時代なのか、などといったことは全くわからない。万が一にも襲われないようにという理由で、SFのようにありとあらゆる時代や場所を行き来するためのドアのようなものもあるが、驚く気も起きなかった。

「おはようございます、主さま」
「おはよう、こんのすけ」

目覚めて直ぐに視界に入ったのは、まるでマスコットキャラクターのようなキツネ、こんのすけと名乗ったそのキツネは審神者をサポートしてくれる存在かつ、政府ものやり取りなども行ってくれる連絡係も一役かってくれていた。
重たい身体で起き上がり、早速と着替える。以前住んでいた家のものはほとんどが持ち運ばれてきており、服などに困ることはなかった。適当にシャツとスラックスを履いて、仕事をする時と大して変わらない服装。
上級の審神者であれば立派な着物を着ているそうだが彼女は最底辺のしんじんだ。もちろん、能力を高めるための神衣などもあるが、それを日頃から着ていてもどうしようも無かった。

「おはよう、同田貫」
「今日はなんだ」
「いつも通り別の審神者のところへ、手伝いにいってもらうことになるわ」

フンッ……と鼻を鳴らすような態度で睨みつけていたその視線を逸らして背を向けるのは、同田貫正国だった。
そうだ、彼女は彼しか維持できないほど力がなかったのである。
初めの測定器での能力からして、二、三人はいけるだろうと思っていたものの、初めに呼び出した同田貫正国(以下、彼を同田貫と呼ぶ)以降は呼び出しても、そのまま維持することを出来ずにしてしまう始末で、さらにこんのすけに命じられ(理由は審神者がそばにいる方が神力が強くなり能力が発揮しやすいから)同伴の上で同田貫と敵の対峙に同伴したが、散々な結果となり、応援に駆けつけた他の審神者に救われた。

その際に救ってくれた審神者は彼女よりもずっと年下の学生で、自分では新人だというが、その後ろには資料でみたことのある三日月宗近や鶴丸国永などといった面々が並んでおり、危うく同田貫が破壊寸前となったのだ。

その日の夜、彼の手入れをしていた際に「あんたみたいな主だからな、こうなって当然だ」といわれてしまえば、ポッキリと心が折れかける。というかほとんど折れてしまった。
しかしながら、辞めたいの一言で辞められるわけもない。審神者を辞める方法はほとんど無い、神力を失い審神者として機能しなくなる。または死亡する。そんな二つが主な理由。それ以外の理由はほとんど無いだろう。

あれ以来、唯一の刀剣男士である同田貫との仲はあまり良くない。
仲間を増やすことを目標に頑張ってはいるものの、やはり全くダメなようで、時折上手く行きそうになるが意地はできない。
審神者の数は想像する以上に少ないため、一人でも維持出来るだけでも凄いことだとこんのすけは褒める。彼?は本当に優秀な存在であり、癒しだった。

それでもキツイのは同田貫の態度だった。
審神者は若い人や信心深いタイプほど力が強いともいわれている。生憎と彼女の家系はそうした神との繋がりのある家系ではあったらしいが、当の本人はそうしたものに、一切の興味も関心も抱いていない。おまけに悲しいことにそこまで若くもない。
年老いている訳では無いが、現役学生の審神者をみてしまえば、あの輝きはないといえる、取り戻すことは不可。
そうしてなんの努力もなく知識もなく明るさも何も無い人間に対し、戦を好む同田貫にとって不満が出てしまうのは勿論仕方ないことだろう。反対にそれがあるからこそ、申し訳なかった。

彼からしてみれば知識もなく戦場に連れられて、さらには殺される一歩手前。その上、毎日派遣される先の審神者はみんな自分の主よりずっと優秀で、仲間も多く活き活きしている。居心地の良さもずっとあるだろう。

「ハァ……やっぱり私、向いてないのよ」

やめたい。なんていっても聞いて貰えないのは分かっている。政府が出してきた書類はその人の全ての生活を保証するという名目で、全てを奪うという意味だったのをよく理解しているからだ。
そのうち開放される……祖母の様に能力を失い、不要だと認められる、その時まで待てばいい、そうしてに気付いた時には年を老いてしまっているのだろう。
いっその事、精神でもおかしくなれば開放されるのかもしれない。審神者が精神をおかしくすることはほとんど無い。刀剣男士とどんな関係になろうとも政府は問題視しないともいっている。何故ならそれがその人に必要で、審神者として働くなら問題はないとされてるのだという。

ほんの少しだけ論理感は消えている。
そんな場所で正常な精神など、誰がどう判断するのかを彼女にはわからなかった。

「また、だめ……か」

一日に何時間も掛けて新しい刀剣男士を呼んでみる。
しかし、そこにはただの刀だけで同田貫のように姿を表すことは出来ない。あくまでも彼らは付喪神。刀にはいるが、同田貫のように姿を与えねばならない、それが審神者の仕事だが、どれだけ頑張っていても小さな光が灯るだけで何もならない。
他の審神者に演習の際に聞いたこともあるが要領を得ず、同伴していた同田貫は他の刀剣男士達と話をしているのを見ては申し訳なさばかりが募る。

「おい」

背後から聞こえた声に振り返るとそこには同田貫がいた。
午前中は一番神力が宿りやすいといわれる部屋で今は無機物のような刀を相手に頑張っていた。小さな刀は乱藤四郎という短刀だという情報を得た。他の審神者に一度合わせてもらったことがあるが、親しみやすい相手であり、正直短刀は小さな子供のような見た目なこともあり、かわいらしく取っ付きやすい上に情けない審神者にも優しかった。
同田貫でなかったら……と思うことも無くはないが、それはかんなてないようにした。彼も同じことを思っているのはわかっていたから。

「昼飯の時間だ」
「もうそんな時間?ごめんなさい、すぐ行くから」
「別に急いでねぇよ、適当にしてろ」

飲食に関しては不要だともされているが刀剣男士は基本好む。
また好まずとも神力代わりにもなるとされるため、同田貫には食べてもらうようにしてもらっていた。
彼女、同田貫、こんのすけ、の三人だけの屋敷内はとても広く物寂しい。本来は溢れんばかりの刀剣男士がいるはずなのだから無理もないだろう。食事や家事などは必然的に交代になった。戦をしたがる同田貫だが一人では出撃が出来ないため他の審神者から応援を受けて派遣するような形になっていた。
おまけに怪我をすれば手入れが必要なため、毎日というわけにもいかない。演習だけはさせてもらっていたが、それも朝から夜までという訳では無いし、同田貫は一人で六人を相手する場合もあり、見るのも知るのも嫌だったが何も言わずに戻ってくる。

「午後から出る、洗い物とかはあんたがしろよ」
「うん、気をつけていってらっしゃい」
「あんたに言われなくてもわかってんだよ、てめぇの心配だけしてろ」

そういってご飯をかきこむ同田貫との生活は男女二人だというが大層気まずいものだった。
それが一年、二年、三年も経つと、同田貫も文句はいわない、諦めているところがあるのは分かっている。あからさまではないし、元々そういう性質だと言われてしまえばそうだが、彼は元から彼女に対する愛想はないし、きつい眼差しを向けてくることは多かった。
彼女が他の審神者から刀剣男士の話を聞いたり紹介をしてもらう度に、同田貫が睨んでくることは彼女自身理由を知っている。何年経っても他のやつを呼べないくせにといいたいのだろう。

「ご馳走様でした」
「美味しかったよ、あと洗い物しておくから、鍛錬してきていいよ」

気付けば彼一人だけ強くなっている。
だがしかし、近頃同田貫は明らかに苛立っている。
無理もない、こんのすけや他の審神者に説明をされたが彼は修行をすればさらに強くなれるらしい。数日間の修行の末に強くなる刀剣男士は大変貴重であるが、その分、審神者の神力についてもさらに求められることとなる。
強くなりたいはずの同田貫がそれを求めないのはひとえに負担になるとわかっているからだろうと彼女も理解してきた。だからこそ、申し訳なさを感じつつも考えた。

「同田貫、少し話をしてもいい?」
「……あぁ」

ある日、彼女は同田貫の部屋へ行った。
本来、刀剣男士一人の専用部屋はあまりないのだが、人がいないため、必然的に彼一人の部屋となる。
入口で戸惑っていると彼は「入りゃあいいだろ」という。悪い相手ではないが互いにもう三年も過ごしていながらも微妙な距離感だった。
沈黙が流れると同田貫は明らかにむっすりとした顔をしてしまう。彼はハッキリしている性格だ。特に悪い話ではないだろうと彼女も考えての事だった。

「修行の話なんだけど、行きたかったりする?」
「……そりゃあな、でも現実面考えりゃ無理なことくらい俺もわかってる」
「それは他の刀がいたらでしょ?別に居ないし、もし同田貫が行きたいならいいと思ってるんだけど」

同田貫は黙ってしまう。
予想では喜んでくれると思ったが彼は黙りこくった。

「俺を他に出すためか?」
「他って、応援?まぁ……その方があなたも嬉しいでしょ?いける任務も増えるし」
「それで他のヤツのところに俺を渡す気だろ、武器は増やさなきゃなんねぇからな」
「ちょっと待って、同田貫なにか勘違いしてる、あなたを強化して他の人に譲るとか、そんなこと考えてるの?」

とんだ勘違いだというものの、同田貫はどうやらそう思っているようで酷く怒っていた。主である彼女の前に立ち、しっかりと見下ろして睨みつける。
怖くなってしまうものの、同田貫のことを思えば、それもいいのかもしれないと思った。自分のところにいても仕方ない。政府にその旨を伝えれば彼を別の本丸へ移動させることもできる。そうなれば彼は思うように戦に出ることも出来る。

「私はあなたをこの本丸で縛りたくなんかないの」

戦をする彼をみれば、どれだけそこが彼の望む場所なのかと分かる。手入れをする度にほんの少し悔しくも喜ばしそうな彼は武器としての喜びを素直に感じているのだろう。
だからこそ、必要なことをしてやりたかった。
何本か打った刀の付喪神を呼び出すことはできなかった。ほかの審神者に譲ると直ぐにその刀は姿を表した。こんなにも情けないことを続ける方が苦しいとも思った。そして同田貫を縛ることも。

「俺はあんた以外を主とは認めねぇよ」

そういって部屋から追い出された彼女は小さく息を零した。
泣きたいのに泣けない、薄い襖の向こうには同田貫がいるからだ。
廊下を歩いて部屋に戻り、どうすればいいのかと考えても答えなどは出ない。ただいつも通り時間だけが過ぎるのだった。

「主さま、政府からの入電です」
「珍しい何かな」

四年目になろうとする頃、政府から連絡がきた、内容はシンプルでこれ以上の結果が出ない場合、審神者を辞めるということだった。もちろん、そうなれば同田貫は刀解処分となるのだという。
彼女自身、随分長く時間を貰ったことはわかっていた、しかしどこか解雇されないとあぐらをかいていたのかもしれない。

「こんのすけ、政府に入電を直に入れたいんだけど」
「はい、お待ちくださいませ、お繋ぎいたします」

手紙でのやり取りでは無理だと判断して直接電話をすることとなり、話をしたものの、やはり一刀のみでは意味がないこと、仮に一刀で与えられる仕事があったとしても、それは審神者の能力あってのもので、彼女にはない以上、二人ともお役御免の可能性があるとされていた。
話を一通り聞いたあと座椅子に深く腰掛けた彼女は悩んだ。同田貫だけでも…と思うが、政府はあくまでも彼らを武器にしか考えないという判断だった。
審神者の能力不足は仕方ない、もし継続を考えるようであれば資料を詳しく送ります。といわれた彼女は数日後送られた資料を拝見しては頭を抱えた。

「同田貫、話があるの」

夕食を食べながら声をかけると視線だけが向けられる。
ここ数ヶ月、じっくりと資料を読み、彼女は審神者の能力についてしっかりと学び試した、しかしながら、やはり能力は低かった。
そして最後の手段について彼女は考えて彼に相談することにした。

「この本丸を閉鎖する可能性があると政府に言われたの、私の能力が低いから」
「いよいよか、まぁ人間のあんたからしたら長かったか」
「そうね、長い時間を貰ったから、私はあなたに情がある」

決していい関係ではなかったが悪い関係でもなかった。
衣食住を共にしているのだ、最悪だったなら早くに切り捨てていた。
だが同田貫が決して彼女を嫌悪している訳では無いことはわかっていた。しっかりと自分の"主"として少なからずは認めていることは分かっていた。だからこそ、彼女もそれに答えたくて修行の話などを出したのだ。

「私だけの問題なの、私さえ解決できたらここを維持できる、だからね?あなたに意見を聞きたいの」
「今更何を聞きてぇんだよ」
「このまま、この関係を終わらせるか、それとも継続するか」

同田貫が箸を止めた。正確にはお茶碗の中身が空になったからだ。
少し目を丸くして驚いたようだった。無理もないだろう。彼女からはこれで終わりだお疲れ様、という言葉が来ると思っていたからだ。そしてその次に彼女の提案は嬉しくとも、それをどうする気なのかと彼は思う。

「継続たって、あんたの能力の問題なんだろ、数年一緒にいて何の成果もなかった、あんたの努力を俺ぁ知ってる」

彼らを呼び起こすために必要な力を得るために彼女もそれなりに努力し続けた。簡単なものから、それなりに厳しいものまで隣にいた同田貫もそれは見ていた。例えどんなに互いに距離を開けて知らぬフリをしていても、同田貫にとっての主は彼女だけだ。
同田貫も彼女が嫌いな訳ではない、反対に彼女自分の主だと認めているからこそ、突き放されたり見捨てられるのは武器としての本能が、強がろうとしても悲しみを覚えてしまうのだ。

「審神者の能力を……それに、あなた自身の能力を上げる方法があるんですって、もちろん、人や相性にもよるところはあるけど」
「なんだそれ」
「つまり、私たちが交合(まぐわ)うの」
「まぐ……」
「分からないわよね、その…ええっと、人間のね?男と女が、えっと…その」
「いや分かる、その辺の知識は一応知ってる」

待て待てやめろと同田貫は動揺した、明らかに動揺してお茶をひとくち飲んだが震える手で戻した、そして真っ赤な顔で動かなくなってしまう。
彼女も彼の動揺を深く理解した。無理もないだろう。いわば審神者と刀剣男士で性行為を営めというのだ。

理由がある。

まず、審神者の持つ神力と付喪神である刀剣男士が交わることで、審神者の神力が一時的または継続して活性化するということ。
さらに、審神者にもよるが神力とは、ある種の道のようなものだ。付喪神と呼ばれる"神"と交わることで、その道を新たに大きく開ける可能性があるということ。特に彼女の場合は能力が低いため、同田貫と交わることで神力の能力を強く開くことができるのでは無いのか、ということ。

ではなぜ、これが推奨されないか。
簡単にいえば"依存関係"になりやすくなるからだ。
禁止事項ではないが、やはり恋仲になれば特別になる。多ければ数百人もの刀剣男士との生活の中で乱れた関係を作ることはもちろん、特別視することは危険とされている。

しかし既に彼女と同田貫は二人だけだった。
今後の方針にもよるものの、そこは問題点にはならないだろうと思った。何故なら同田貫だからだ。戦ばかりの男臭い彼が恋人といった関係を求めるかといえば違う。強くなることを求めても審神者を求めることはない。あくまでも審神者と刀剣男士の関係。

「政府は表立って推奨する方法じゃないし、審神者の能力のために…って方が少ないらしいんだけどね」

無理もないと彼女もそこは思った。
如何せん彼らは全員整った顔をしているのだ、それこそ全員が芸術品。同田貫の顔立ちについても彼女は素直にイケメンだといえる。
お陰で普通の人間にはもうトキメキも抱けないかもしれないと思うほど。
だからこそ、政府はそれなりに自由を与えつつも監視している。過去の事例で審神者と彼らの関係によるトラブルは少なからず起きていたから。

「もちろん、これはあくまでも正当な方法であなたとこの本丸を継続するための提案、一応政府にも掛け合ってるけどあなた一人なら刀解の方針みたいでね……別に今すぐの答えじゃなくていい、少し考えてみて」

時間はまだある。
政府側にもう少しだけ待っていて欲しいと頼み込み半年の猶予は得た。
長いようでとても短かった、どんな方法を試しても、様々な審神者にどうにか話を聞いてみても、そもそもその能力を上げることなど知らないものさえいた、いや、ほとんどの審神者はそんなものに困っていない。
何十人、何百人と、刀剣男士をしっかりと維持してやることができている。多少の能力をこの本丸が支えてくれているとしても、なにもない現場でしっかりと審神者の力が安定しているから、彼らは人の形を保ち、戦ってくれているが、彼女にはどう足掻いたも同田貫一人が限界だった。
強くなりたいと願うことも、戦をしたいと願うことも、すべてなにも叶えてやれない。嫌々初めて見たものの、やはり人間は情が湧く。それ自体はとても良い事なのだとこんのすけは言ってくれた。
そうした心の繋がりがあるからこそ、彼らはさらに強い力を得られるのだとも言われてしまうと、実際のところは一方通行のエゴであり、同田貫が求めるものなどなにもないはずだ。

同田貫に風呂に入ってもらい、その間に洗い物をしていたのに頭の中で考えが浮かんで消えない。色々と手を尽くしているが上手くいくのかどうかも分からない。
ハァ……とため息が出る、ここ数日それ以外なにもでない。

「おい」
「きゃっ!」

突然の声に驚いて思わず手にしていた洗い物が流しの上に落ちて割れてしまう。洗い物がまだ多く残っているのにその中で割ってしまったと、すっかり疲れきった顔で考えている間に手首を掴まれる。

「怪我してねぇか!」
「ええ、怪我は、してないけど」
「危ねぇから俺がする、あんたは風呂入ってこい」
「それは悪いから」
「いいから早く入ってこい、交合いでもなんでもしてやるから」

まるで駄々を捏ねる子供を追い払うようにいう同田貫は押しのけるように彼女を流し台の前から追い出す。そして顔も見ずにそういった彼は普段よりもずっと早い風呂だったと思ったがしっかりのシャンプーの香りがした。
そして彼からの言葉に驚きつつも、彼もそうした言葉が不慣れなのか恥ずかしそうにしているのが分かる。掴まれた手首を軽くさするとそれ以上なにも言えずに「じゃあ…おねがいね」とだけ告げて出てしまう。

──本気なのか?湯船の中で考える。
本気であの同田貫と交合う。つまり現代用語でいうセックスをするのか?
彼女は身体を洗った、目の前の鏡で自分の身体を思わず見つめた。

「なに期待してるの」

間抜けな自分の顔にそういった。
同田貫が応じるのは人間でいえば死にたくないからだ。最後のチャンスを棒に振って死ぬくらいなら足掻いた方がいい、きっと自分だってそうすると彼女は考えた。
それでも、少しは綺麗にしようと普段よりも丁寧に身体を磨いた。念の為にとムダ毛の手入れまでしてしまうと、自分がとんでもなく馬鹿らしいようであり、これはマナーでもあるのだと言い聞かせた、それはもう必死に。

湯船の中で必死に考えた。
彼らと肉体関係になる審神者は少なくは無いことは知っている。
だがそれは信頼関係の元でだ、能力の為にと肉体関係になったところでそれが一時的であれば意味はない。求めることは神力の開通だ。
こんのすけに依頼し、色々と政府の人間から調べてもらったところ、神力がそもそも上手く使えていない可能性が高いことはわかった。祖母は能力が弱まった、母は能力が強かった、家系として能力は十分に問題ないといわれているため、完全に自分側の問題でもあった。
色々と試したのに上手くできないのに、今回でも上手くいく保証はない、それどころか一時的な希望を与えてしまい、継続したいと願う同田貫と下手な関係を築いてしまえば自分が戻れなくなる気もした。

今回だけにしよう。

決してそれが一時的でもなんでも絶対にそうしよう。
そう胸に決めた、その方がきっと同田貫だって気持ちが楽になるはずだ。
そう思っていたが、想像するよりもずっと重く考えていたらしく、いつの間にか湯船で眠ってしまっていた。正確にいえば逆上せて気絶したのだ。

「死にてぇのか」
「ごめんなさい」
「こんのすけのやつが気付かなかったらあんた死んでたんだぞ」
「ごめんなさい、考え事をしてて」
「考え事は勝手だがあんたみたいなのでも死なれたら困るんだよ」

逆上せた際に助けてくれた同田貫はそれははもう酷く怒っていた。無理もないだろうと彼女も深い反省をした。彼自身どうなるかは審神者次第であるというのに、その審神者が死ぬ間際だったとなれば怒らない方がおかしい。
ごめんなさい。と何度も言葉にするが同田貫は布団の上に寝かせて、水などをちゃんと置いてくれており、寝巻きの浴衣まで着せてくれたらしい。これじゃ介護だというのに、彼は何も思わなかったのにだろう。反対にきっとムカついているのかもしれない。こんなにも弱い主であるということに申し訳なさを感じる。

「平気か?」

水を飲もうと起き上がると優しい声で問われる。
彼はぶっきらぼうだが決して見捨てるつもりはないらしい、彼女はソレを武器としての本能なのだろうと認識している。
だからこそ、その優しさが心地よくもあり、同田貫との距離が難しくともそれなりの生活を味わってきたのだ。

「あのね、同田貫、やっぱり私…色々考えてみたんだけど審神者やめようかな」
「……は?」
「あなたの事はどうにかして他の本丸で預かってもらったりしようかなって、政府にももう少し掛け合ってみたら、きっと救済処置はあると思うの、長く活動していた審神者がお年を召して亡くなってしまった時に残されていた子達が政府管理になったりとかって聞いてるし、多分色々話して同意をもらえたらいいと思うの」
「なんでだよ」
「同田貫からしたら短いかもしれないけど四年だよ、その間努力してなかった訳じゃないけど、上手くいってないし、ここ数ヶ月も色々試したけど上手くできなかった」

本当に色々していた。
同田貫が他の本丸に応援にいったりして開けている間も、そうじゃなくても呼び出されたからと一人で審神者の本部にき、色々の検査をしたり試した。引退をした審神者からの話も聞き、人には人の限界というものがある、その上で政府が不足する審神者を少しでも増やしたいが為に……という苦言に近い言葉も聞いていた彼女は自分がただの限界の可能性もあることも考えた。

そこに彼を付き合わせるのかどうかも。

「あなた達は付喪神だけど、ちゃんと感情があるのは分かってる。私にどんなことを思ってるかは分からないけど、私はあなたにちゃんとした場所で望むことをさせてあげたい」

だから無理しなくていいと彼女が告げると同田貫は静かになってしまう。
彼は感情を極端に荒らげるタイプでは無い、かといって隠し続けるタイプでもない。普通だと思う。人間的である。だから時に苛立つこともあれば、心配することもある、不器用なその姿が好きだと感じる。人として。

「俺はあんた以外を主として認める気はねぇ」
「それは知ってる。でもそれはあなたが刀であることを誇りとしているからでしょ?義理だとかそういうものなら」
「違う、俺はあんただから主だと認めてんだよ、あんたの為なら折れてもいい」
「折れたらいいなんて、そんなの言ったらダメだよ」

同田貫は決して彼女を嫌いではなかった。
自分とは違う不器用な人間だと思っていた。彼らが審神者を特別に想うことはよくある。付喪神だと言おうと感情を持ち互いの言葉を話し合う者たちが惹かれ合わないことがない。
同田貫にとって、どれだけ周りが優秀だとしても、彼女だけが自分の主であると心に決めている。忠義なのだ。彼女の行く先について行きたいと願っている。戦を望んでいても、それが彼女の負担になるなら望まない。ただ自分を優しく労り大切にしてくれる"主"を想うのは当たり前のことなのだ。

「あんたが審神者を辞めたいならそれでいい、俺のためなんて考えるな、人間の命なんて短いんだ、今ならあんたも望んだ形に戻れる」

本当は辞めたかった。
責任感だけで仕方なくしているノーのいえない日本人精神なだけだった。
けれど彼女は同田貫の表情を見ると気軽にそうはいえなかった。彼と過ごした時間は審神者として上手くいけなかった。同田貫との関係はほかの本丸の審神者や近待をみていれば、良くもなければ悪すぎるわけでもない、ただ生活を共にしているだけで、そこにはほかの者たちのような絆はなかった。

「私、上手くあなたの力になんてなれないかもしれない」
「あぁ、だろうな」
「審神者を続けたいというよりも、あなたが望むことをさせたい」
「戦ができりゃなんでもいい、ごっこでもな」

そんなこといわないでと言おうとする前に彼の手が優しく布団の上に置かれる。

「あんたが主であるなら、なんだっていい」

その言葉を聞いてしまえば、それ以上を告げることも出来なかった。
ただ出来ることは目の前の彼にちゃんと応えられるようにすることのみだった。
数日の時間を貰い支度に取り掛かった。出来うる限り審神者の能力を開花させるため、必要なものを用意し、必要なことをした。同田貫は数日他の審神者からの依頼で離れてしまっていた為、二人はまるで職務のように日々を過ごした。

これは儀式なのだと思う反面、人の感情とは常に強い愛情や憎しみで出来ているのだと過去の書物から感じられた。愛するが故に憎み、恨み、求めてしまう。
交合い──という名目上の性行為、刀剣男士は子を成すことは出来ない。彼らは神格のある付喪神であり、本来触れられぬ存在。
彼女の能力が薄いひとつの原因の中に"処女ではない"ということがあった。審神者の適性を持つ者は大抵神職や、そうした家系の出や関係者が多い。信仰心であるだろう。

彼女の母方の家系も信仰深い家庭だった。しかし母の代で途絶え、まるでそれを知らぬように育てられた彼女はそれが偶然ではないのだと感じた。曽祖母などのことは知らないが、もしかすればそうした関係者だったかもしれないと彼女は考える。能力が落ちた、またはなにか別の理由があった、そんなことで審神者を止めた。
前線に出るのは刀剣男士でも、審神者に危険がない訳では無い。
彼女の母は亡くなったのだ。審神者をしていた際に検非違使に襲われて。
実際に審神者を殺す方がずっと敵にとっては簡単だ。

「今晩、儀式をしようと思うけど大丈夫?」
「あぁ風呂に入んのなら逆上せんなよ」
「気をつけておく」

夕飯を共にした。
こんのすけには儀式をするから少し外して欲しいと告げていたため、広い本丸は完全に二人きりだった。
夕飯を終えると先に風呂に入った。本当に行うのだと自分に言い聞かせる。身体を見直してしっかりと洗う。"交合い"として行うことは政府にとっても数十年ぶりのことらしく、詳しい内容は実際に経験したことのある審神者に教えられた。どのような道具が必要で、どうすればいいのか。
全身をしっかりと洗い風呂から上がるとオイルを塗って身体に塗りこんだ。身体はぽかぽかと熱くなる。まるでリンパのマッサージをしているかのようであり、香りは心地よい花の香りであった。

「終わったから後どうぞ、終えたら寝床へ来て」

台所で洗い物をしている同田貫にそれだけを小さく告げた。
同田貫はなにも言わずに洗い物をしていた。
これが正しいのかは分からない。それでも彼は主であると認めている。それに関して彼女は"武器"だからだと判断していた。彼らは付喪神である。大切にされるからこそ強くなり、その力を発する。刀剣男士が審神者を想う気持ちが出来るのはヒナが初めて見た存在を親鳥と思うようなものだと彼女は思っている。
周りの審神者がどれだけ「愛」やら「恋」やらを語っても、それは夢見がちなロマンスではないかとも思うほど。
力ある審神者はみんな処女だったり、若々しかったり、厳格な信仰心を持つ者が多い。つまりは"神"に認められている。
捻くれた大人になった自分ではもう遅いような気もするのに、血というのは恐ろしい程にそれを許してくれぬのだ。
──そこまでいうならやめればいい、と誰かに言われた気がするが止められない、言い訳ばかりをする彼女も本心は自分の中の力があるのならと思っている。国のため?未来のため?自分のため?そんなことは分からなかった。

分からないまま用意を進める。
広い和室の寝室の中で最後の蝋燭に火を灯した。
ちょうどその頃、襖が開いて、軽装姿の同田貫正国がいた。
二人は目を合わせた、部屋の中にはいくつもの蝋燭がぼんやりと火を灯しており。かも不思議な雰囲気を漂わせた。

「このお香がね、いいんだって」
「ふぅん」
「蝋燭…っていうかキャンドルだね、これもそう、どれも儀式用のもので、神力が宿っていたりするんだって」

ふぅん……一枚だけ敷かれた布団の上で同田貫は興味無さそうに告げた。彼女は薄い白い浴衣を身につけていた。付ける意味もあるのか分からないほどに薄く、既に彼女の裸体はその薄い布越しに見えている。
髪を下ろす彼女はこんな行為をするのに、こんなにも用意をするのが少しだけ気恥ずかしかった。

「同田貫はこういうこと分かる?」
「交合うんだろ、多少の知識はな、シタ事はねぇよ」
「大丈夫、私が全部教えてあげるから」
「……主はあんのかよ」

その言葉に彼女は苦笑いした。
他の審神者ならこの歳でもないと言えたかもしれない、しかしそういう人たちは昔から審神者に憧れていたりもする。生憎と彼女は審神者になる気もなければ他の人たちと変わらない日々を過ごした。
彼女は三十路の女だった。多くも少なくもない普通の恋愛をして身体を重ねることもあった。それを彼らはどう思うのかと少しだけ考える。

「こんなんだから神力が少ないんだと思う」
「へぇ」
「同田貫はさ、刀剣男士でしょ?そういう気持ち、抱いたことある?」

ピロートークのようなものだ。少し話をして気分を変えようと、どうせ同田貫はこういう行為には不慣れで好き好みもしないだろう。だからこそ嫌な思いをさせたくはない。
これまで女性は幾人も見てきた彼にも好みはあるのかと思った。実際彼らは人と変わらない。食べて飲んで寝る。それを人よりも楽しんでいる人もいる。政府は刀剣男士を"モノ"として扱うが、実際に関わると人間と同じで、反対にモノとして扱うことの方がずっと難しい。
好きでもない相手とのこういう行為を気にしない人もいれば気にする人もいる。もし他に気になる相手がいるならその人を浮かべるといい。もしそうじゃなければ飼い犬に手を噛まれたように思うなり、悪魔を見たと思えばいい。彼女は同田貫にそういうが、彼は真っ直ぐと彼女を見た。

「気持ち云々は知らねぇけど、あんたとシにきた、それ以外考える気はねぇよ」

同田貫は気にしないタイプか、それならよかったと思い彼女も「私もあまり気にしないからよかった」と笑った。その作り笑顔は同田貫にとって少しだけ苛立った。

"交合い"は心を要する行為だった。
快楽を受けて与えて心を満たすという行為。ただ繋がり合うだけではダメだというのは些か困ったものだが、彼女は素直に受け入れた。
本来この行為は恋人や夫婦として実ったものたちのものだ。
それでない故にその振りをしなければならない。

「じゃあ始めましょうか」

その言葉に薄目で微笑んだ女に同田貫は心から欲情していた。
固く布団の上で正座をした同田貫に彼女は頬を撫でて顔を見つめた。
顔の傷を指先で撫で、ゆっくりと近付くと彼女は目を細めるが同田貫は開いていた。彼女の薄い布の下の肌色が気になった。
膝立ちをして同田貫の唇に自らの唇を重ねる彼女は甘い花蜜のようである。同田貫の薄い唇と彼女の艶のある唇が重なる。知識程度に理解する彼は頬を包んで口吸いをする彼女の腰を抱いた。肉付きは悪くない。
抱き寄せると女の身体が同田貫の身体に重なり、彼は無意識に腰から下へ手を回し、その手で女の豊満な尻たぶを掴んで揉んだ。
鍛え抜かれた肉体とは正反対故に楽しいのかもしれないと考えて、彼女は膝立ちのまま唇を離して、同田貫の肩に腕を置くと胸元に顔を抱き寄せた。まるで子を抱きしめるようであるが、同田貫の呼吸から、彼が興奮していることが分かる。

本能なのだろうか。
まるで初めて女に触れる人間の男のように同田貫の手が彼女の体を慣れたように撫でることに驚きつつも受け入れた。
同田貫は一度顔を離すと、彼の眼前には女の乳房がある。男と異なる立体的で柔らかいその脂肪をじっと眺める同田貫、やはり不慣れな男のようで愛らしい。

「好きにしていいんだよ」
「分かってる、けど分かんねぇ」
「したいって思うことをしたらいいの、ダメならダメってい…っ、う」

そういった途端に同田貫は薄い布の上から彼女の乳房に噛み付いた。赤子のように大きく口を開けて吸い付いて。右手で尻を撫でながら左手でもう片方の乳房を掴まれる。
赤子のように吸われる度に母性に似たなにかが溢れてしまう。両手で女の身体を堪能する同田貫をみると、戦場での好戦的な彼もまるで赤子のようであると思いつつ、黒い短い髪を撫でた。

「はぁ……あまぇな」
「よかった、オイルのおかげだと思う」
「細工が多くて大変そうだな」
「気に入った?」

一度声を漏らした彼にそう聞くと返事の声はまた乳房に吸い付くことにより消えてしまう。たっぷりと吸い尽くされて反り立つ彼女の先端を同田貫は指先で摘んでは弄ぶ。好奇心混じりの不器用な触れ方をしつつも、次第に慣れては舌や唇に指先をもって触れていく。
膝立ちの体制が次第にキツくなるのをみた同田貫は布団の上に彼女を寝かせた。たっぷりと胸を舐られた彼女は薄い布を張り付けて、その先端が同田貫を誘うように尖りを見せた。
すっかりとその気にさせられたような表情の女に、彼は自然と足を撫でてしまう。濡らしてしまいたいと思った。水でも掛けてしまえば、その布が肌に張り付いて、きっともっと、妖艶に、艶やかに、蝋燭の火に灯されて浮かされた彼女が見えると感じる。

「そんな顔するんだな」
「あなたも」

すっかりと戦場のようでいて、異なる興奮した目をする同田貫も十分色っぽい。顔の傷跡が彼をさらに"男"へと仕立て上げるようでいると、彼女は思わず彼に手を伸ばす。

「こっちへ来て、私も触りたい」

そういわれて断れるわけがない。同田貫は彼女に身を寄せると両手が伸びて彼の襟首を掴んでさらに身を重ねた。彼女の吐息が同田貫の耳に触れる。細い女の手がゆっくりと首を撫で、鎖骨に触れて、黒い浴衣の前を開いていく。

「本当に傷だらけね」
「いいだろ」
「ええ、素敵」

彼女は目を閉じていた。同田貫は肩肘をついて彼女を押し倒すかのような姿勢を維持して触れられるのを受け止める。浴衣の中に手が這わされて傷跡や彼の筋肉一つ一つを撫でると、耳元に唇が触れてしまう。
直接聞こえるワザと聞こえる接吻の音に同田貫の肩が揺れる。
彼女は目を閉じて同田貫の耳に何度も接吻をして、その音を小鳥が囀るように鳴らしつつ、彼の身体を次々撫でて、浴衣を乱して下ろしていく。部屋の中は部屋の端の無数の蝋燭のせいで暑く、すっかりと二人は汗をかいていた。浴衣が張り付いて、うなじや胸元が汗で蒸れる。お香の香りがさらに熱に混じって二人を溶かす。

「ハァ……ぁ……」

同田貫は両肘をついて目を閉じた。
耐えるような彼の表情を見つつ、彼女の手が同田貫の下へと降りていき、帯も外さずに浴衣を割り、手を滑らせて鍛え上げられた逞しい太ももを撫でた。

「外し方が分からないからこのままでいい?」
「なにがだ」
「褌」

同田貫は言葉の意味を少し理解出来なかった。褌とは彼のその下を守る存在だ。なぜ彼女がそれを外すのか分からないと一瞬思ったがすぐに理解した。だがその場ですぐに外すことも、また教えることも彼の小さなプライドがその時はできなかった。
何も言い返さない同田貫の憤怒に手を添えると、すっかりとそこには男性のものがある。飲み食いはするが排便はどうなのかと思ったが人間同様だとこんのすけが教えたことを覚えている。
この儀式の前から遊び本意で人間と刀剣男士が行為をしたらと想像する度に、あんなにも美しい彼らの欲望を想像できなかった。

しかし、いま目の前にいるのは、ただの一人の青年のようだ。
神は自分に似た存在を作ったと聞いたことを思い出す。
彼らはその話とは違うが、それでも十分に似ていると思った。自分を組み敷いてきた男と同じ欲望を抱いた目をしている。
それが嫌な訳では無い。反対に安心感を覚えてしまう。
初めての人を相手にするのは同田貫が初めてでは無いが得意でもない。肩を震わせる同田貫の後頭部に手を添えて「力を抜いて、肩に顔を埋めてリラックスして」とセラピストのように導いてやると、肩の力を少し抜いて彼の重みを味わう。

「はぁ……ッ、ぁ……あ」

布越しに手のひらで包み込まれて刺激を受ける同田貫の声が次第に漏れて、彼の熱い吐息が肩に触れる。数回優しく撫でたあと、手のひらを離して、彼の内ももや腰を撫でるのに戻すと、熱の余韻を残した彼の物足りなさを感じた。

「ごめんね、でもだすなら別がいいから」

彼女もそれを理解して申し訳なさそうに眉を下げると、同田貫を転がして、彼の上に跨った。女は彼らの精を受け止めることにより力を得られる。男であれば彼らに精を与えて力を得られる。それがこの交合いの条件だ。
口ではなく、直接子を宿すその場所に得られる方がずっと濃く残るのだといわれている。であれば彼を受け入れるしかない。

すっかりと欲を孕んだ目をした自分の主に同田貫は自分の褌を外してやると、彼女は同田貫の帯を緩めて彼の浴衣を脱がしてしまう。美しい程の肉体を見下ろす彼女も興奮した。身体に塗りこんだ物も、行為の前に飲んだ薬も、全てに興奮剤に似たものが入っていた。だが、それとは別にこの熱に浮かされた彼女は同田貫の上に蛙のように跨り、彼の腹の上に手を添えた。
薄い布は汗で張り付いて、彼女の肉体を魅せつけて、布の下の黒い茂みが同田貫の喉を鳴らさせる。天に伸びた同田貫のそれは大層立派で、雄々しく美しさすら感じられられる。

「何もしてねぇのにいいのか?」
「先に下準備はしておいたから平気、痛かったり嫌になったら教えてね」
「本気で交合うのか」
「……うん、同田貫は私は嫌?」
「いいや、あんたならいいぜ」

あんたはいい女だから。
その言葉に救われる。彼が唯一の刀でよかったと思える。
慣らしていたことや、彼の姿に興奮して濡れていたことから、彼女は同田貫のモノを受け入れるのは簡単だった。しかし違ったのは全てを受け入れたと思った途端に脳天にまで走る快楽を感じたのだ。
人では味わうことの無いもの。なにか開いてはいけないようなものが開いたような心地。明らかになにかが違った。

「はぁッ…あっ……こ、れ」
「ぁ……クッ、これ……これ、が普通なのか?」
「ち、がう……ぁ……で、もこれ」

聞いていたことと違った。
強い快楽と高揚感を感じる時、その時、交合いが成功するのだと先人たちはいっていた。しかし明らかな強い快楽、頂きではないが何かが溢れていくのを感じられ、彼女はガックリと力が抜けて同田貫の上に座り込んでしまうが、それがさらに最奥へと彼を導いてしまい、互いにさらに苦しく歯を食いしばった。

「ど……っ、だぬ、き、ごめ……なさっ、ちょっ、とまっ……て」
「あぁ分かってる……分かってるけど……よ、ぉ」

気を抜くと持っていかれてしまいそうになると彼女はその身を震わせた。あまりにもこの儀式と相性がよかったのだろう。ありとあらゆる力が開放されるように感じた。それと同時に同田貫に対する快楽や感情が溢れて飲み込まれてしまいそうになる。
次第に力が抜けて、彼女は同田貫の上に這い蹲るようになってしまうとわけも分からずに彼の温もりが愛おしく心地よく感じられて、涙が溢れた。

「痛ぇのか?!」
「ち、がぅ…わか、んない、あなたと、繋がると……おか、しいの」
「なんだよ、平気か?止めるか?」

次第に慣れてくる同田貫は飲み込まれていく彼女に驚いてどうしていいのかも分からずにいた。ただ繋がり合う心地良さと愛しさと溢れる力を感じるのは確かだ。

「止めない、で……あなたが、いいの……同田貫……あなたに、抱かれて、いたいの」

交合いなど忘れてしまう。
涙を零して縋り付くように告げると同田貫は何かを考え決意したように自分の上にいる彼女を転がして、また上下を反対にさせると彼女の薄い布を脱がせては足を掴んだ。

「俺もあんたがいい、ナマエ……俺の主」

名前を知っていたのかと思うとますます心地良さに目を細めてしまう。
愛する人と初めてする行為のように幸せに満たされる。同田貫は腰を揺らして彼女の唇に自然と口吸いして、まるで知っているように行為を続ける。同田貫の首に腕を回して強く抱き締めながら、彼女は何度も名前を呼んでみると、同田貫は嬉しそうに目を細めた。

「ハァッ、あぁ……射精そう、だ」
「ん……ぅ、おね、がい……おくに、ちょうだい」

身体がひとつになってしまいそうだった。
同田貫の汗が落ちると彼女の身体の上の汗と混じり合う。
全てがひとつになる、この行為こそが本物の"交合う"という意味なのだと感じて、二人はその身を強く押し付けあった。
同田貫の低い唸りと共に放たれた欲望、その熱により脳まで響く快楽に似た、それが神力の解放なのだと理解しながら、二人は抱き締め合い、息を整えた。

「はぁ……はぁ……なんだか、成功した、のかな」
「らしいな、俺もスゲェ何かを感じる」
「本当?よかった……一時じゃないといいけど」

すっかりとグッタリした彼女はよかったと安心して笑みを零すと同田貫は抱き締めながら「なぁ」と声をかけた。何かと彼女は目をやると、彼は気恥しそうにしつつも少しだけ楽しそうにした。

「成功したのか元気らしくてな、能力の開花のためにもう一戦頼めねぇか」

これはいいのだろうかと思いつつも、彼女は確かに一度でない方がいいのか?と考えつつ仕方なく受け入れてしまうと、気付けば二人、蝋燭の火が消えて、さらに朝日が昇るまで交合った。
交合うというよりも、それは同田貫の一方的なものにも近かった。

「ナマエ……ッ、ナマエ……ッ、俺だけの、主は、テメェだからな……ッ」
「んっ、ぁ…あっ…」

意識も朦朧とする中で同田貫は一心不乱に求め、そして二人は朝日登りきったあと、ようやく目を閉じて眠った。
目覚めた時、二人はなにも言わなかったが、同田貫は彼女を優しく介護してやった。しかしまるで彼は花でも咲いているかのようにも見えた。

結果的に交合いは成功を収めた。
大成功であり、彼女は政府から本丸の継続はもちろん、今後は第一線でも対応願いたいと言われるものの彼女は他に優秀な審神者が多いため、表の任務を任せ、彼女自身は何十人、何百人も刀剣男士を維持することは出来ないため、裏方の仕事を主にこなし、こじんまりとした少人数で活動をしていく方針で話をまとめさせてもらった。

「なぁなぁナマエ、今日の飯は?」
「お魚を貰ったから煮付けにするつもり」
「焼き魚にしろよ」
「あなた好きよね、乱はムニエルがいいっていってたけど、はい味見」
「ん、美味い」

あれから直ぐ同田貫を修業にいかせた。
彼はとても嬉しそうに新しい身なりで土産を片手に帰ってきては相変わらずこの本丸で大先輩として活動しており。
その後、数振り呼んで彼女は広い本丸ですっかりと審神者として活動していた。同田貫は修行を終えて。打刀へとなって以降、以前よりも随分とフランクで明るくなり、まるで他の本丸の審神者や近侍のような関係になれたと彼女は嬉しく感じていた。

そう……彼女だけ……。

「あのさぁ、主って鈍感なの?」
「なによ乱」
「同田貫って主のこと大大大好きじゃん」

去っていった同田貫を見届け夕飯の仕込みをしていれば、隣にいた乱藤四郎が呆れたように告げた。彼はあの後すぐに来てくれた一人であり、彼女の良き友人のようだった。
かわいいものが好きで明るくて、色々な話ができるが恋バナ関係は特に好きなのだと彼女は感じていた。同田貫との日々の話をした時には目を輝かせてロマンチックだと少女漫画を読む子のような顔をしていたが、彼女は同田貫はそんな人じゃないと笑った。

「彼はね、私を主として認めてくれたから、あんなに力になってくれただけ、あなた達が私を慕ってくれるのと同じよ」

武器としての本能なのか、仕える相手への絶対的な信頼と安心から来るのだろうと嬉しそうに話す彼女に、乱は酷く呆れてため息をこぼす。どれだけ伝えても彼女には分からないようだ。
同田貫は本気で主である彼女を愛している。でなければ名前を気安くは呼ばないし、自分たちの本丸以外の刀剣男士や男の審神者と話していると殺気は飛ばさないはずだ。
さらに同田貫の性質ではベタベタと触れることは好まないが、明らかに多い。先程も背後から抱きしめては餌付けしていたが、その姿は新婚のようにもみえるほど暑苦しく、短刀たちの一部では目を隠しあったりしてしまう。

「同田貫は特別よ、私の唯一の近侍だから」

そういった彼女の言葉を遠くで聞いた同田貫の頬は緩くなる。
彼女のことは彼も簡単な言葉では表せなかった。
初めの頃は本当に好きにはなれなかった、それでも時を重ねていくと彼女が努力している姿に小さく理解を示し、壊れた時には泣きそうになる彼女の涙を拭ってやりたいと思うようになった、それは確かに審神者に向ける感情ではない気もする。守りたいという思いと仕えたいという気持ち。
そしてそれ以上があるとしても同田貫は今で良いと思えた。

「そろそろ槍でも増やしたいところだけど、そうしようにもやっぱり力が足りなくて悩んでるの、他の子を別の本丸に託すか、別に今のままいくか」

審神者の部屋の中には布団が二枚敷いてある。
一つは彼女、もう一つは同田貫のもので、彼は毎夜隣で眠るようにしていた。彼女はそれを信頼の証だと受け入れるようにした、深い意味は考えないようにして。
暗い部屋の中でそう言われた同田貫は以前に比べても明るく冗談も増えたのは仲間が増えたおかげだろう。槍となれば同田貫とも合いそうな面々が多い、一人くらいはそろそろ欲しいが力が足りないかと不安になる彼女の頬を優しく同田貫の手が撫でた。

「また交合うか?」
「誘い方が下手くそだし、もう意味ないわよ」

あの時以降二人はなにもしていない。
毎度したところで効果があるかといわれれば違うこともわかっていた。
だから同田貫の冗談だと分かっている。刀は六振りしかいないがそれでも居心地はとても良い。

「今もいいけど、あの時二人で過ごしてた時も楽しかったと思うの」
「あんたの世話で大変だったけどな」
「酷いわね、今はみんながいるからマシでしょ」

今だからこそ、あの不器用な距離感もよかったと笑える。
同田貫もそれに同意して小さくはにかんだ。あの時はあまりにも静かで少し寂しかった、だがしかし、悪くはなかったなと思い出すと彼女の手が布団から出てくる。

「これからもずっとそばに居てね」
「あぁあんたが辞めたあとも居てやるよ」

例えこんな姿で無くなったとしても、ただの刀になっても、その短い人の命が終わるまではそばにいると同田貫正国は自分の中で約束して、その手を握りしめると彼女は目を閉じる。
ずっと変わらず、想い続ける気持ちを抱きながら、同田貫は目を閉じた。明日はじっくり手入れしてもらおう。膝の上に乗せられて優しく触れてもらえる。そんなことが好きだと言うことはできずとも、もう互いをしっかり理解していたから。
きっと彼女も同田貫の気持ちを理解して、明日は丹念に手入れしてくれるだろうと思いながら。

2026.02.24