あれから半年──交合いを経て変わったことは多い。
神力は結果的にやはり開通が上手くできていなかったようで、交合いをすることにより安定した普通の審神者同様の能力を発揮できるようになった。
同田貫に彼女はもう一度修行に言ってみないかと打診してみたところ、彼は嬉しそうに「いいのか?」といったため背中を押した。立派になって帰ってきた日には泣いてしまいそうな気持ちとなった。
政府から交合いを経て能力を開花させた例はまさに数十年ぶりのこともあり、しばらく問題がなければ定期接触を測るなどの研究に付き合って欲しいといわれたものの彼女もそれには断りを入れた。
「……ッ…ぁ…は、ぁ」
息を吐いて前を見つめると同田貫は平然とした顔でその身を離した。
あれから能力を発揮できるようになったとはいえ、安定感は本当はなかった。不慣れな点が多いからだろうと彼女も理解しつつ、日々審神者として学んでいた。
神力とは目に見えない神との繋がりの力。
元々持っているものが多いため、それを開花させた彼女には他の審神者に比べてその能力について不慣れだった。供給が不安定になると刀である彼らに影響が出てしまい、体調不良のようなことはもちろん、酷い場合には人の形を維持出来ずに強制的に刀に姿を戻してしまうほど。
その為、同田貫との接触は結果的に止められていなかった。
以前のように身体を繋げるほどではなくとも、接吻程度のことをした。正直なところ、それも含めて寝室を共にしているところもある。ほかの仲間たちもそれを理解してくれているが、彼女はそれについても申し訳なさを感じていた。
「今日は調子悪ぃな、もう一回しとくぞ」
「う、うん」
神力の流れは未だによくわかっていない。
刀である同田貫たちには目に見えてわかるものらしく、それを確認してもらい必要な分を安定供給し合う。本当に必要か分からないとなった彼女だったが、川の流れのようなものだと同田貫は説明した。
優秀な審神者は真っ直ぐと勢いの良い流れができるが、彼女のその神力の流れる道には数多の岩のようなものがあり、それが邪魔をして道を止めるのだという。それに関してどうにか出来ないかと相談はしてみたものの、生まれ持ったものであること、下手に手を入れると神力の流れが強くなるため完全開通はよくないと政府側からも指示を受けた。
もし必要なことがあるなら交合いなどで様子を見ること、いまの所はそうした接触が無くても問題はないでしょう。と一蹴された彼女はそれで納得するしか無かった。
「ッ……」
同田貫の唇がまた寄せられる。
抱き締められ背中や腰に添えられた手は逃してはくれない。
舌が入り込み互いの唾液が交わり合う。
まるで恋人のように深く長い口吸いは触れるだけの接吻とは違い、深く長く互いを感じ合うように舌を絡ませ互いを求め合う。同田貫の肺活量についていけずに次第に息苦しさに胸を叩くと名残惜しく離れていき、同田貫は口元を拭いながらも彼女を抱き留める手を離さなかった。
一度、接吻で完全に腰を砕かれたことがある。修行から帰還後の同田貫が消耗が激しかったからと言って口吸いをしたものの、その激しさについていけずにやられてしまったのだ。
巧みだったわけでもないのに、ただ同田貫のあの時のギラついた目を見てしまった時に彼女は抱いてはならぬ思いを抱き、腰砕けにされたことを恥じてしまう羽目となったのだった。
「も、う……終わり、でいいでしょ?」
「ああ、こんくらいなら大丈夫だ」
ようやく離れた同田貫に口元を拭いながら問いかけた彼女に同田貫は返事をして先に部屋を後にする。審神者の部屋として最奥に与えられた彼女の横の部屋が同田貫の部屋だった。
眠る時だけ同じ部屋で過ごす事にしていたものの、一人残された彼女は唇をなぞる。これは安定供給のためだと言い聞かせつつも、自分の中に宿る欲望を感じては押さえ込む。それはあってはならないと思っているからだ。
彼女の持論において、刀が審神者を慕うのは武器の本能だということ。
もちろん全員が全員、そうではないが、彼らは初対面の際から基本的に審神者という存在をよく慕ってくれる。普通の人間ではそうはいかない距離感、そして他の本丸や審神者の話を聞いていても審神者と刀剣が恋仲になる話は少なくは無い。
元より外部の接触が少ない上に刀剣男士はあまりにも美しい。ともなれば普通の人間と恋をできなくなるのも無理はない。審神者は若い人が多いのだから理想も高くなる。そして刀剣男士は審神者への情を与えてくれる。そうすれば近侍といった特別隣にいてくれる相手を思う気持ちは出てくるだろう。
その関係を否定するつもりはないが彼女はつけ込みたくないと思った。自分は人で彼らは刀、刀の本能や性質からくる感情を操るように取ることは、それは恋心を勘違いする子供を相手するようなものだと思っているのだった。
それでも同田貫には困る面がある。
彼との付き合いもかれこれ五年近くになろうとしている。
初めの数年、交合うまでの時間は二人きりだったが言葉も少なく距離が大きくも感じた。同じ家にいる他人とはまさにあのような感じだったのかもしれない。今よりもずっと冷たく距離があったわけだが、居心地が特別悪い訳でもなかった。
交合いを経て、修行から帰ってきたあとの同田貫は変わった。
強くなったことも勿論だが、本丸に人も増えたことも相まってか、明るくなり、よく笑うようにも感じる。それは素直に喜ばしいことであるのだが如何せん──距離感が近いように感じられた。
毎朝接吻をすることはもう仕方がないと思うようになったが、彼は肩や腰を抱くことなども増えた。特別文句をいえないのは初めの時に注意できずにタイミングを失ったからだ。一度その件を告げても「なにが問題だ?」といわれてしたうと確かに詳しくは理由を説明出来なかった。恥ずかしいという理由だけでは弱い気もしたからだ。
「考え事か?」
「ええ、ほかの本丸からの依頼遠征のメンバー決めとかね」
「俺は行かせて貰えんのか?」
「あなた向きだったらね」
台所でお茶を入れていれば背後からやってきた同田貫が抱き締めてくることは嫌いではなかった。反対にあんなにも甘えてこなかった彼が甘えてくるようになったことは関係が上手くいっているからだと彼女は思っていた。
同田貫の手が彼女の腹部を撫でるのを子供のいたずらを相手するように笑う彼女は同田貫が以前よりもはっきりと意見を告げてくれることなどもありがたいことで。彼は刀剣たちの中で隊長格になるのは不慣れだというものの、案外様にはなっていると思う。
「最近ぬるい任務ばかりだ、たまには湧き上がるようなヤツに行きてぇ」
「そうね、いくつか依頼があるから、その中で選んでみるわ」
喜ばしそうな返事と共に同田貫はそのまま軽く触れるだけの接吻をして離れていくのを見送った。本当に彼はそういうことが増えたなと思いつつも気にせずに縁側で一息ついているとニヤニヤとやってきた乱藤四郎が彼女が入れたお茶を一杯欲しいと強請り、遠くから見かけていた五虎退も近付いてくる。この本丸は基本的にゆっくりしている。両手でも余るほどの刀しかいないため下手に出陣できないことや、まだ来たばかりの彼らを鍛えている途中のため、もっぱら演習や応援などの助っ人要員で呼ばれる。
そのため当番の仕事も終えると暇を持て余す彼らは自然と審神者である彼女の元へ「主」と呼びかけながらやってくるのだ。
「ねぇねぇ同田貫とまた仲良くしてたんでしょ」
「またその話?好きねぇ乱、別に普通よ」
「まっさか!ボク知ってるよ、毎朝二人がキスしてるの」
子供ではないとわかっていても見た目がどうしても幼い短刀に知られることは申し訳なさを感じる。乱はこの本丸で同田貫の次に来てくれていた刀だった。いつも二人のことについて話しかけてくるものの、彼女は毎度違うと苦笑いして訂正するのだが、五虎退の虎たちが彼女の膝に乗ったり傍によっては匂いを嗅いでおり、五虎退は少しオドオドしつつも珍しく彼女に乱のように声をかけた。
「ぼくも二人がなかよくしているのをみました、さっき台所で……」
「あれは別にそういうのじゃないわよ」
「何してたの?キス?それとも?」
「ハグです」
きゃー!と普段のように少女漫画を呼んでいるような反応をする乱に照れくさそうな五虎退、先程の姿を見られていたかと苦笑いをしつつも遠征メンバーの話をしたりしていただけだと言うが、二人はすっかりとキャッキャッと楽しそうに恋バナをしている。
シャイな五虎退も乱の影響ですっかり恋バナ好きになってしまっているようで、彼女は言っても聞かないかと苦笑いをして好きに解釈するようにと思った。
彼からしてみると主と同田貫は恋仲、表立って口にしないのは秘密の関係。審神者と刀剣の許されぬ関係。などという考えを抱いているようで、実際に現世で販売されてるロマンス小説の中には審神者と刀剣をテーマにした作品も少なからずあり、人気があるのだというのは近頃知った話で、そんなにかわいいものじゃないのだがと大人として思いながらも訂正するのも面倒だった。
「おや、また渋い顔をしているようだね」
「渋い顔、というか若い子のノリについていけないというか」
「フフッ、君の方が随分と若いのに」
一人が来るともう一人、とでもいうようにやって来たのは石切丸で、彼女はそんなにお茶を入れてきていなかったと申し訳なさそうにするが石切丸は気にせずに短刀二人から彼女と同田貫の話を聞かされては、またそれかと微笑ましそうに聞いてやった。
以前より、そうした話を聞かされ慣れた石切丸はうんうんと流すだけで、彼女もそれを楽だと思っていたのだが、今日ばかりはどうやら違う。無理もないだろう。同田貫の彼女への触れる頻度の多さや触れ方はあまりにも彼らと違い、そしてそれを素直に受け取らない彼女を石切丸は密かに考えていた。
「そうやって二人が言うけど、同田貫と私はそういう関係じゃないのよ、石切丸もたまには言ってやってよ、あれは神力の安定化のためだし、同田貫はその手伝いだって」
「それは難しいね、神力の安定化はもう終わっているから」
石切丸は彼女のお茶を貰えるか?と声をかけると素直にそれを飲みさしだが…といいつつ差し出した。
石切丸の言葉に目を丸くした彼女に乱や五虎退は本気で気付いてなかったのかと目を丸く来て彼女を見るが、神力は審神者でもあまりわからないものなのだと説明をしてやりつつ、その中で彼女を見て微笑む「つまり君たちの接触はもうあまり意味はない、それは彼もわかっているはずなんだが」といったことに彼女は思考を停止させた。
こんのすけに頼み神力についての資料の取り寄せから自身の能力測定までを再度した彼女は頭を抱えた。
確かに神力は平均的で、特別なことは何もない、確かに接吻などの効力はあるがそれは数分程度のものであり、神力の道を開くことは基本的に一度のもので何度も行うものではない。さらに続けていても能力の限界はあるため、それほど接触は意味がないということ。
でなければ恋仲になった場合は神力が溢れてしまう場合もあるのだということに彼女は驚いて、こんのすけにも問いかけたが彼もまた「知りませんでしたか?」と聞く始末で、こんなことを神力目的でしている審神者の方が少ないといったのは政府側じゃないかと声を荒らげかけてやめた。
となれば、何故同田貫がこんなことをするのか分からなかった。
抱き寄せられることも接吻も全て不要なはずだが彼は毎日のように、それを求め行う。今朝も変わらずに口付けてきたはずだと思い出す彼女は心臓が高鳴るのを抑えられずにいた。
能力に関係がなければますます下手なことを考えて意識してしまうからだが、同田貫は素知らぬ顔で「神力の安定だ」といって唇を重ねるのだ。
その都度、女としての熱を密かに感じる彼女は自分の浅ましさに酷く悩んでいるのに、同田貫はあの頃から一切変わらない。必要だからしているというような態度だ。
数日悩んだ末に出た答えは本人に聞く以外はもうなかったため、彼女はある日の朝、いつも通り部屋の中で接吻しようとする同田貫の唇を制した。腰をしっかりと抱いて、雰囲気はまるで恋人同士のようだが、一体全体これはどういう事かと思いつつ目の前の待てを食らった同田貫に覚悟を決める。
「この行為、もう不要なんですってね、石切丸から聞いて調べたら本当に要らないようなことを確認できたんだけど、何か理由でもあるの?」
人の目には分からないものだ。
もしかすると同田貫なりに何かを考えてかもしれないと彼女もしっかり考えていた。そうでなければこの男がそんなことを求めるわけもない。ただの審神者を女としてみるなど、同田貫は有り得ないと彼女はある意味信じていたのだが、同田貫はあっけらかんとした態度。
「ねぇよ、したいからしてんだ」
素直になんの理由もないといって顔を寄せようとするため、彼女はさらに強く互いの間に手を入れて止めるが腰を抱いた同田貫の力は全力ではないが明らかに強い。
「したいからってなに?ちょっと神力の安定化が目的って」
「ありゃあ嘘だ、その方が接吻できるだろ」
「勘違いだと思うけど触れてくるのが増えてる気がするのは?」
「意識させるためだ」
理解が追いつかないと彼女は頭を抱えるが同田貫は彼女の手首を掴み見つめる。思わず足が動いて、二人は社交ダンスかのように一、二歩と下がってしまい、同田貫は自然と壁に彼女を優しく押し付けてみつめる。
「あんたに意識してもらうためだ」
「意識って……そんな男女みたいな……」
「そうだ、俺はあんたにそういう目で見られたい、俺があんたを"女"して見てるみたいにな」
「それはだから、刀としての本能みたいなものよ」
仕える主への忠誠心を勘違いした恋心で、人にもそれはあることだと彼女は熱弁するが同田貫は彼女の顎を片手で撫でて、親指で唇を形取るように擦れる。柔らかくいつだって堪能していたくなる唇。華奢な女という肉付きと雰囲気はいつも同田貫を刺激する。
「あんたがそういうならそれでいい、でも俺はあんたにそうは思わない。だから接吻したいし、交合いたいと思ってる」
真っ直ぐと目を見て言われてしまえば言葉を失う。
同田貫ははっきりと彼女に好意を告げるのだが、彼女はそれにどう答えていいのかわからなかった。そもそも客観的に考えてここは職場のような場所、ある種は家でもあり、同田貫は家族であり対等だが部下であり、人ではない。
「それは、その、刀、だからっ」
「武器としての本能と"俺"自身の本能があんだよ」
「でもッッーー」
唇が重ねられ口を吸われる。いつものように激しく情熱的に優しく、まるで相手を本気で愛していると伝えるようなその行為はいつも彼女をかき乱し。同田貫の足が彼女の足の間に入ると股座を膝で刺激されてしまい、思わず逃げ出してしまいそうになるが同田貫は彼女の腰から尻へと手を回して、まるであの時の交合いのように激しく掴んで揉んだ。
「能力なんてハナからどうでもいいんだよ、俺はあんたが欲しいだけだ、これは武器ではなく"男"として、あんただけを欲しいと思ってる」
抱いて、潰して、愛して、泣かせて、求めてやりたい。
特別な関係として不覚を与えて求めたいと同田貫がはっきり告げることに彼女は何も言い返せず、しかし決して嫌だという感情はない。反対にこの数年彼だけと過ごしていたのだ、交合った際のあの時の感覚も眼差しもずっと覚えており、それを勘違いだと言い聞かせてきたが同田貫はもう隠す理由もないならと素直にいう。
「ナマエ、あんたは?」
「……わ、わたしは」
臆病であることはいつまで経っても変えられない。それでも同田貫の服の裾を握る彼女に対して彼は答えをしっかり理解して口角を上げるともう一度深く唇を重ねた。審神者と刀という感情以上をぶつけるように。
「五虎退、危ないからこの子達退けてくれる?」
「はい、すみません……あるじ、同田貫さんの匂いがしますね」
「え……あ、あぁ同じ部屋で寝てるから、かな」
昼食の用意をしていた彼女の足元で遊び回る小さな虎達を危ないから回収するように告げると慌てて回収する五虎退の嗅覚はいつも少し優れている。
彼女はそれに対して誤魔化すようにしていたものの、五匹の小虎は彼女の足元で困らせており、五虎退が慌てて回収するのを手伝う手が現れた。それは同田貫の手で、彼は一匹を五虎退の頭に乗せるとありがとうの返事を聞くなり彼女の背中を抱き締めた。
「飯は」
「今日はそうめんにするわ」
「怒ってんのか」
「怒ってないわよ」
そうしてやり取りをする二人を五虎退は見ていていいのかと困った様子でいれば、同田貫が彼女の肩に顔を置く位置の近くで彼女の首筋が見えては五虎退は思わず顔を赤く染めてしまうが同田貫はそれに気付くなり小さく笑うため、五虎退は慌ててその場を後にした、邪魔をするのは良くないと思うからだ。
「ねぇちょっと離れてよ、動きにくいんだけど」
「いいだろ、許したのはあんたなんだからよ」
「許したからって邪魔なのは変わらないわよ」
「そういいながら嫌じゃないんだろ」
そういった同田貫が彼女の顔を覗くと図星をつかれたというように顔を伏せた彼女がおり、同田貫は笑ってしまいたくなる。
「あんたずっと素直だよな、分かりやすすぎるぜ」
まぁそれもかわいいと言い残して耳朶にキスをして去っていく同田貫に彼女は耳元を抑えては許可するんじゃなかったと自分の中で声を上げた。結局負けたのは彼女だった。自分の気持ちを認めて同田貫の想いを受け止めたのだ。しかしながら、もう少し行動には規制がいるかもしれないと感じつつ、日課となった朝の口付けの感触も、触れられた腰の温もりも忘れられぬ彼女は結局二人の仲で密かに関係が変わったとしても何も言い返せないのだと感じては鍋の中で沸騰するお湯を眺めた。まるで彼女自身の胸の激しさを表すようだと感じながら。
そしてその夜、何かを察した彼らに赤飯を炊かれた彼女は何も言わずに顔を赤飯のごとく赤くして、どこか誇らしげな顔で横に座る同田貫に二人きりになってから文句を言うのだった。
2026.2.25
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