「ふざけるんじゃないわよ!!」

本日ヴァルハラ、天気は晴天、気温二十五度。
いつもと変わらぬ快適な春のような心地よい中で響いた怒声に中庭の側を歩いていた神々は思わず足を止めて目を丸くしながら穏やかな空気を変えた怒声の聞こえた方へ視線を向ければすぐにまた穏やかに微笑んでは歩みを進めた。
中庭には心地良さそうに日向ぼっこしている大量の猫たちと、その中心となる場所には二人の神がいた。一人は髪を結ってゆったりとしたタンクトップにゆるいパンツスタイルにサンダルで棒付きキャンディを咥えた男神、そしてもう一人は男神の胸下ほどの身長しかなくミニのチャイナ服を着た少女のような身なりの女神。
ぎゃいぎゃいと怒っている女神とは正反対ににやにやと笑っている男神、全く持ってはたからみれば何事かと思うものの、彼らをみた他の者達は口を揃えて「また釈迦様とナマエ様か」と微笑ましそうであり、中庭に寝転ぶ猫たちもその喧騒を無視して寝たり欠伸をしたり木々で爪とぎをしたりとしていた。

「今日という今日は許さないんだから!」
「おーこわっ、許さなかったらどうすんのナマエちゃん」
「ちゃん付けしないでよ!」

騒ぎ立てる彼女に対して釈迦は楽しそうに笑っては彼女の頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でるためますます彼女は怒ってしまうものの、釈迦は自身の手の中のお菓子を「まぁまぁそう怒らずこれ食べて落ち着きなって」といいながら彼女の口の中に放り込めば彼女は簡単にそれを咀嚼しては目を丸くして満足そうにするため、釈迦は微笑んだ後。彼女を抱き上げては中庭の大きな木の下で彼女を抱えて横になるが彼女はまた怒ったように声を出すが、心地よい日差しと木陰に柔らかい風に次第に瞼が下がっていき、中庭にいた猫たちも次々と二人の傍に集まってきたかと思えば丸くなる。

「ほらもう眠いっしょ?昼寝しちまいな」
「私本気で怒ってるんだから、あなたって本当適当でだらしな...ふぁぁ眠たい、ちょっと寝る」
「うんうん、また聞いてあげるからおやすみ」

話をしている間にすっかりと瞼を閉じた彼女に釈迦は微笑ましそうにみつめてはその髪を撫でる姿は愛おしい者をみるように優しいものであり、釈迦は自分の顔の近くに来た猫をみては「ごめん今おたくの主さんに両手使ってるから撫でれねえや」といえば、猫はつまらなさそうな顔をしつつも二人の間に暖を取るようにして眠ってしまい、釈迦はその温もりを感じながら気分良さそうにしつつ大きな欠伸をして昼寝をするのだった。

◇◆◇

ナマエと釈迦が出会ったのは少し前のことだった。
高飛車で高慢で神たるわという気持ちの強い下級女神のナマエはいつもその後ろに大量の猫を連れてヴァルハラで過ごしており、大抵の神々はその猫の大群に道を開けていた。
ある日のこと、ナマエは親友の零福とヴァルハラの議会の中庭で過ごしていたときのことだった。

零福は七福神をまとめた一柱の神であり、人々に幸を与えるためにと生きてきた神であるが、純粋な彼はかつて人の不幸を吸い上げ続け苦しんだ過去があった。それが周囲に知れ渡る前から、はるか昔から知り合いであったナマエは彼のよき理解者であり、そんな幼い彼を守るような姉のような立場で親友として仲良くしていた。

「うう...不幸だ、最悪だよ」
「なによもう、またなにか落ち込んでるの?全くちょっと話し合いするだけなんでしょ?あなた主神様たちと並ぶくらいの代表神のひとりなんだからシャンとしなさいよ!
「でも僕なんて」
「いつも言ってるけどそういう根暗なの大嫌いなの、ほらうちのコの肉球でも揉んでちょっとは元気になりなさい」

二人が過ごす中庭はまるで猫の楽園とでもいうように猫たちで溢れており、ベンチに座っていた二人の足元や横などありとあらゆる場所に様々な種類や模様の猫たちが過ごしており、彼女は自分の足元にいた三毛猫を抱き上げると零福にピンクの肉球を見せつけてやり、それを触るように告げると恐る恐る触れた零福は「気持ちいい」と嬉しそうにするため彼女は自信満々な顔をしたときだった。

「おっ!まじで気持ちいいねぇ」

そういって彼女と零福の前から三毛猫を奪ったのは一人の男だった。
彼は口元に棒を咥えては猫を抱き上げて肉球をぷにぷにと握ってはご満悦であり、猫は突然のことに簡単に男の手をすり抜けていってしまう。
そして彼の視線はベンチに座る二人、特に零福をみつめてはにんまりと笑って「零福ちゃんじゃ〜ん」と馴れ馴れしく声を掛けたかと思えば、か細い零福の背中をバンバンと叩いて、また落ち込んでいるのかと笑って聞くため隣に座っていた彼女は目を丸くするも、その男神はナマエと零福の間に強引に座ってきては足元の猫たちが邪魔者が来たと言わんばかりに逃げ出してしまうため、それまで友人と過ごして気分のよかった彼女は次第に眉間にシワが寄っていくとついにベンチから立ち上がり男に向けて指を差した。

「ちょっとあんたさっきから何よ!私の猫を急に奪って許可もなく肉球を触るかと思えば、次は零福のことをバンバン叩いちゃって、失礼すぎるわ!!」
「え?俺ぇ?まぁ別に零福ちゃんも気にしてないからいいじゃん、ね?」

突如として声を荒げる彼女に対して男は目を丸くするものの自分の隣の零福に問題ないだろう?と伺うように聞けば零福も小さく頷くがそこには少しの困惑があり、ナマエはますます眉を吊り上げた。

「この子はそういうのに弱いからいえないだけよ!てかあんた何者よ!零福(この子)はあんたみたいな変な奴が気軽に触れていいような子じゃないのよ!全く不敬過ぎる、名乗ってみなさい」
「釈迦だけど」

釈迦...と名乗られると同時にその場で静かに時間が流れた。
沈黙であり、彼は平然とした様子であるが彼女は頬を引きつらせては更に声をあげて相手の胸を小突いた。

「不敬!不敬!ちょ〜〜不敬よ!!釈迦様を名乗るだなんて、仮にあんたみたいな無礼な奴が同姓同名だとしても同じ神なら速攻その名を変えるべきね!なんて恥知らずなのかしら」
「いや本当なんだけど...つか君がイメージしてる”釈迦”って逆にどんなもんよ」
「そりゃあ釈迦様といえば仏教の開祖様よ、いつだって仏のように穏やかに微笑んでいて後光がお差しになって、凪のように静かで美しくてお上品で、蓮に乗って常に完璧な方よ、つまりあんたとは正反対ってわけ」

恥を知りなさいという彼女に釈迦と名乗った男神は肩をぷるぷると震わせては笑いを堪えたような顔をするものの彼女の猫耳のようになった髪が小さく揺れて、さらに目の前で足を組んで男をみつめるが「服装からして神々しさがないのよ」と文句を吐くが、相手の服装は黒いタンクトップに着崩した僧服のようなものを着ているがその服装は到底尊い上位神にはみえず、そのサンダルやサングラス姿をみては最悪の嘘つきだと感じた。

「で?そういう猫ちゃんは誰なの」

挑発的に見上げてくる相手にナマエは鼻で相手を笑うなり、足を広げて再度相手に指を差しては見下ろすなり近くにいた大量の猫たちがのそのそと彼女の側に集まってくる。
短いが上質な絹や糸で出来た神衣のチャイナ服にヒールの音をわざと鳴らした彼女は目の前の釈迦と名乗る無礼な男にハッキリと名乗りあげる。

「私は中華の猫神ナマエ様よ!こんな無礼を働いたこと普通じゃ許さないんだから、精々猫の祟りに怯えて眠りなさい」

さぁもう行くわよと零福の手を引いて足早に猫と共に去っていく彼女の背中をみつめた釈迦は一人残されるとベンチにゆったりと腰掛けると、一匹の黒猫が彼の膝の上に乗っては丸くなり始めた。

「なにあれ、超絶おもしろいじゃん」

それは釈迦にとっては強烈な出会いであり、二人の運命はそこから大きく変わった。

「全くあの男神、本当に無礼だったわ。零福も平気?あなたは見た目以上に強いんだから嫌なことは嫌って言わなきゃダメなのよ、まぁでも私が守ってあげるからいいんだけど、それにしてもさっきのやつ釈迦様を名乗るだなんて失礼しちゃう」
「ナマエ、でもさっきの」
「いいのよ零福、あなたは優しいから庇おうとしてるんでしょ。でもあんなやつ優しくしなくていいの、今度会ったらガツンといってねこまんまで追い返してやるんだから」

さっきのは本物の釈迦だよ...という零福の声はナマエには届かず、零福は困り果ててしまいながらも自分を守るためにと息たかだかにする彼女に対してそれ以上いえるはずもなく流してしまうものの、数日後それは最悪の形で彼女が彼を知ることになるのであった。

◇◆◇

それは神々の会議でのことであった。
末端の女神であるナマエは隅の席に座っていた。会議という名のお偉い方の話を聞くだけの時間、何百何千何万といる神々の中の意見など特になく、彼女はこの無駄な時間を過ごすくらいならはやく自分の宮殿に戻り猫たちの世話をしたいと思いつつ膝上に寝転ぶ猫を撫でていれば、そばに控えていた猫もさすがにつまらないと感じた様子で彼女のそばから抜け出して何処かに行ってしまう。

「(あっ、ちょっと会議中はまずいから帰ってきなさい!)」

いくら人の多い場所とはいえど万が一にも怖い神のところにいけばどうなるやらと焦っている間に抜け出した黒猫は真っ直ぐと進んでいき、代表神や主神たちの席までいくことにナマエは顔を青白くさせるが神々は気まぐれな猫を特に気にせず、反対にかわいがろうとしている中で、まるでもとからそこに用事でもあったように一人の神のもとにいくと猫はその者の膝の上で丸くなるため顔を青白くさせること、議長のゼウスが一人の名前を呼んだ。

「釈迦、そなたの考えはどうなんじゃ」

そういって視線が向けられたのは猫を膝に乗せた神であった。
それは先日彼女が散々罵倒した相手であり、彼は先日同様に棒付きのキャンディをガリガリと噛みながら「うーん、俺はなんでもいいかなぁ」とのんびりというが、彼の座席札には”釈迦”と書かれており、ナマエは「う...うそ」と顔を青白くさせる頃、まるで糸が引かれるように互いに視線が混じり合い、目と目が合う時、彼は楽しそうに笑った。
それはもう、こうなる未来を見透かしていたかのように。

会議を終えた彼女は出入り口で猫を抱えては珍しく陰鬱とした表情をしており、通り過ぎていく神々は猫がかわいい、子供がいたのか?などと珍しそうにつぶやきつつも去っていき、ちょうど人波が去っていく時、彼女は顔を伏せていれば足元に見たことのあるサンダルが止まる。

「あれナマエちゃん?」

それは先日と変わらぬ軽い声であり、ナマエはびくっと肩を震わせては胸元でサビ猫を抱きしめる腕に力を込めては震える声で返事をした。

「おっ...お久しゅうございます”釈迦様”」
「うん、てかさっきそっちの猫ちゃん来たから返すわ。いやぁいい暇つぶしと癒しになったよ、めっちゃいい毛並みしてんね」
「ご無礼を働いてしまい申し訳御座いません。我が家臣をお褒め頂き恐悦至極でございます」

彼女はすっかりと背中を丸くして頭を下げると釈迦はすっかりと態度が小さくなってしまった彼女につまらなさそうな顔をしてそのつむじをみたあと、自分の腕に抱いていた彼女の黒猫をその背中に乗せてやると彼女は「え!?なに!?」と驚いた様子であり、すぐに慌てふためきはじめ、上位神に弄ばれているのだと気付きつつもどうしていいのかわからずに背中の黒猫に対して早く降りるように命じるが黒猫は毛づくろいを始めることに釈迦は出来た家臣だと声を出して笑うがナマエは次第に声を大きくしていき「ちょっと降りなさいってば!」と下げていた頭を上げようとすると猫は飛び降りてしまい、彼女は勢いよく釈迦を見上げてしまう。

「全く私のいうことをちっとも聞きやしない、最近の態度は目に余りすぎるわ、本当にあんたたちって子はいい加減にしないとおやつの煮干し減らすわ...あっ...釈迦、様」
「やっとこっち見たな。ナマエちゃん前とえらく態度違うじゃん」

ナマエは自分が下級女神であるため彼と目を合わせることさえ不敬であると理解していたというのに、思わず目を合わせたことに驚いてしまうが釈迦は目を合わせるなりにやりと笑っては彼女の態度の違いぶりに「流石猫」と意地悪にいうが彼女は苦虫を噛んだような、それはもう申し訳なさそうな複雑そうな顔をしていたが釈迦はなにも言い返してこない彼女の頭に手を置いてはその整えられた髪を乱した。

「いやぁまじでこないだは面白かったよ、俺のイメージって...ププッ、てかこういうこといっちゃなんだけどラグナロクみてなかったの?まじで面白すぎるっしょ」

会議の時の顔もまじおもしろかった、てか釈迦”様”ってなに、猫なだけにやっぱりそういうの得意なんだ。などと彼女をからかってはその小さな頭をぐりぐりと撫で回す姿に彼女は次第に自分の内なる怒りゲージが溜まるのを感じた。
そして釈迦が「あー面白すぎる」と散々笑って涙を拭う頃、彼女は小さく震え始めたことになにかと思ってみていれば、彼女はついに火山が噴火するように釈迦の手を払い除けては大きな声を出した。

「そうよ!!ラグナロクなんてみてないわよ!親友に何かあったら心配だもの、だからあんたみたいなやつが釈迦様だと思うわけないじゃない!!なによヘラヘラした態度!本当に腹立つ顔と態度してるわ、あんたみたいなのが仏教の開祖なんていわれて信じるほうがどうかしてる!てか私のこと気軽にナマエちゃんなんて呼ぶわ私の部下のこと好き勝手撫で回すわ、ほんとにっ……」

またしても沈黙が流れた。
そしてナマエは顔を青白くさせた。自分がなにをいったのかを思い出しているからだ。いつもそうだった自分のプライドなどのせいで思わず感情が簡単に爆発してしまう。元々他の神々と無駄に交流をするタイプではない故に彼女は上位神とこうして話をするなどあまりないことではないのだ。だというのに釈迦は彼女の心に土足で上がってきたかと思えば勝手におもちゃのように扱うため耐えきれなかった。
彼女は完全にやらかしたと必死に今日で自分の人生が終わると感じる頃、釈迦は正反対に楽しそうに笑った。それはとても明るい太陽のような眩しい笑顔であった。

「その誰にでも同じ態度、媚びない感じ、めちゃくちゃ気に入ったわ、よし!俺達今日から仲良くしよ」
「...誰がするもんですか!!なによ軽々しく言ってくれちゃって、あなたのせいで朝から頑張ってセットした猫耳ヘアが台無しよ!あーもうむかついちゃう、絶対あんたが釈迦様なんて信じてやらない」
「様付け好きじゃないから呼び捨てでいいよ」
「誰があんたを様付けで呼ぶものですか!全く、次はないんだから覚えときなさいよ!」

ナマエは真っ青になっていたかと思えば次は顔を真っ赤に染めては逃げ出してしまい一人廊下で残された釈迦は大笑いしていればちょうど出てきた零服は腕に黒猫を抱えており「友だちになれた?」と聞くため、釈迦は彼の頭を撫でながら「うん、ばっちり」と返事をしたのだった。

◇◆◇

あの出会いからナマエのもとに釈迦は度々現れた、その都度彼女は威嚇する猫のように騒ぎ立てるが釈迦はどんな態度を取ろうと笑ってその頭を撫でたり、彼女の部下(猫)を勝手に抱き上げたりと日々を過ごす。
神を好まない、天上天下唯我独尊であるとされ彼を知る者は思春期だともいうが、ナマエという存在にとって彼はすっかりいけ好かない自分を舐めた態度を取る神の一人であると感じていた。

「ちょっとあんた聞いてんの!?さっきから私が真面目に話してるってのに」
「うんうん聞いてるよ、でもナマエちゃんもさっきからちょっとずつ瞳孔開いて追いかけてんよ?」
「そんなわけないでしょ、私がそんな……くだらない……おもちゃ……ニッ!」

木の下でのんびりとしている釈迦の前で説教をする彼女を気にせず彼はその場に寝転がる猫たちと遊ぶために近くで摘んできたエノコログサを手際よくフリフリと揺らしていたものの、他の猫が飛び付く前に手を出してしまったのは猫たちの長であるはずのナマエで、彼女は自分がしてしまったことに気付く頃、釈迦は目を合わせるなりニヤッと笑い「さすが猫神様」ということに彼女は耐え切れずに彼の胸を強く叩いては今日も今日とて怒りをあらわにした。

「全くあいつったら本当に嫌よね」

ようやく帰っていった釈迦にナマエは呆れたようにため息をつく。
釈迦が嫌なら逃げればいいが、彼はわざわざナマエのテリトリーとなる小さな神社まで来ては好きに過ごして帰っていくのだ、つまり彼は家まで来ているようなもので当初はそれに対しても怒りの声をあげたが自由を極めたあの男に彼女はもう諦めつつも毎日なんだかんだとからかわれては彼に怒鳴り声をあげる日々であり、そんな彼女の足に喉を鳴らしながら擦り寄ってきた猫は先程まで釈迦の膝の上で随分と可愛がられた様子であったと思い出して、彼女は膝を曲げてしゃがみ込むと猫を撫でる。

「あんた達もあんな奴に絆されてないでしっかりしなさいよね」

威厳に関わるんだからという彼女に猫は心地よさそうに腹を見せてうにゃうにゃと返事をするため全くどいつもこいつもというがナマエは結局のところ甘い女神だった。

しかしながら彼女はその見た目や自身の階級を問わずにプライドだけはエベレスト級に高かった。特に釈迦とは水と油のようなものであり、日頃から彼女をからかったり、どれだけ言われても堪えない彼の態度にナマエはいつか必ずギャフンと言わせる……と考えていた。
しかし釈迦ともなれば自分がどれだけ立ち向かおうと敵わぬことは理解していたナマエは今日も今日とてやってきた釈迦を猫の世話をするフリして遠巻きに眺めていた頃思い立ったのである。

それは釈迦が一人でヴァルハラの人気のない大木の下で横になって過ごしていた時。
彼の前に一匹の黒猫が現れた、猫の毛はすっかりと美しく手入れをされて太陽の光を受けてはキラキラと輝いており、金色の瞳は大きく宝石を閉じ込めたような輝きを宿して、釈迦と目が合うなりゆっくりと瞬きをしては「にゃあ」と鳴いた。

「こんなとこに猫なんて珍しいじゃん、ほれほれ」

起き上がる釈迦は手を伸ばしてやれば猫は近づいてすんすんと彼の手の匂いを嗅いだあと触れることを許可するように手のひらに頭を押し付けてやり、釈迦はすっかりとその猫を気に入りかわいがった。

「お前親玉だったのか?次から次へと猫が来るんだけど」

気付けばあまり人の来ないはずのヴァルハラの大きな大木の下で猫たちが集まっており、まるで猫の集会所のようになっており、釈迦に遊ばれていた黒猫は少しだけその身を震わせた。
無理もない、それは猫に化けただけの猫神ナマエであるのだ。
彼女は日頃の釈迦の態度をみた上で、そしてどうすれば彼がギャフンといわせられるのかを考えた、その結果自身が猫になって彼がデレデレになった情けない態度を見せた時に元に戻り彼を驚かしてやるということだった。

「(まさに完璧、このヘラヘラ顔を崩してやるんだから……にしても相変わらず猫じゃらしが上手いっ)」

内心はそう思いつつもすっかりと猫として遊ばれていたナマエは他の猫たちよりも俊敏に彼が操るエノコログサを捕まえようとしては飛び跳ねたり走り回ったりと繰り返し続け、すっかりと体力を使い切ると釈迦の膝の上に招かれては彼の大きな手でいつも他の猫が撫でられてる時のように撫でられていた。

「どっかのいい猫なのか?マジでお前いい毛艶だねぇ」
「(当たり前でしょナマエ様よ)」

返事のできない彼女は「にゃあ」と小さく返事をしつつしっぽを揺らす姿は完全にリラックスをしており、日頃から彼の膝を奪いたがる猫たちの気持ちが理解できた、彼の足は広く大きいため快適で、さらに体温も心地よい、その上彼の休んでいる場所は人もおらず日差しは程よく、気持ち良い風と日陰がある、そのため猫としてはまさに昼寝に最適な場所であり、ナマエも本能的につい気を緩ませて釈迦にされるがままにしていた。
実際に彼の撫で方は猫をよく理解しており、耳の裏や顎下は勿論、ナマエの好む場所を的確に撫でるため、彼女は自然と喉を鳴らしては彼の上でリラックスをしているのを釈迦は目を細めて見つめていれば彼女を抱き上げて同じ目線の高さにしてはみつめる。

「本当かわいいね」

美人だと猫に対して褒める釈迦にナマエは目を丸くするが猫である彼女は完璧な姿であるのだから褒められて当然だと自信満々に目を細めてフンッと強気な態度を見せるなり黒猫になった彼女の脇下に手をいれて両手で抱き上げる彼は「ってことで吸わせてもらお」といいだした。

「(…吸う?え?あっ!それは!)」

猫好きであれば誰もがみな望む幸福の行為"猫吸い"
この世の最たる存在、猫の腹に顔を埋めて深く呼吸をするという行為はまさに人類が何世紀経っても幸福の象徴の一つであるといわれるほどで、彼女はゆっくりと近付いてくる釈迦の顔に慌て始めた。
当然淑女の腹に神であろうと誰であろうと顔を埋めるなど受け入れられるわけがないわけで、黒猫はその小さな身体を揺らし始めることに釈迦は気にせず顔を寄せようとするがついに耐えきれなくなったナマエはボフンッ!と大きな音と煙のさ中で変化を解いてしまう。

「っあ」
「あれ〜?なんでナマエちゃんが現れたんだ?」
「っ……釈迦、あんた……もっ、もしかして最初から」
「さぁ?どうだろね、でもかわいかったよ、俺の膝でゴロゴロにゃあにゃあ言ってたナマエちゃん」

まるで小さな子供を抱き上げるように抱えたままの釈迦からナマエは顔を真っ赤に染め上げては直ぐに彼の傍から離れて近くにいた茶トラを抱き上げては背中を見せて逃げ出してしまう。

「あんたなんか大嫌いよ!!」

大嫌いなんだから!!と捨てセリフを吐いて出ていってしまう彼女に釈迦は腹を抱えて笑う頃、近くの猫たちも呆れたようにゆっくりと主を追いかけていくのを眺める頃、一匹の白猫は釈迦の膝に乗ってきてはのんびりと昼寝をする。

「本当お前たちの主さんはかわいいな」

一生飽きないよと笑う釈迦が彼女を気に入るのは当然のことであった。
彼は神という名の高慢な存在を好かなかった。
運命などというものを押し付ける存在であり、そして媚びへつらわれることも彼はすっかりと好まなくり、反対に自我を持ち、自己のためにと幸福へ足を進める者を彼は好ましく思い、かつて自分のわからなかった零福について釈迦が好むのは不器用だったからだ。

そして新たに現れたナマエという存在はまさに釈迦にとってなによりも自分を楽しませてくれる存在であるとした。
初対面から釈迦に対しての態度も、会議で知った時の態度も、けれど変わらない根本的な姿、真面目で正義感が強くてそしてからかうと楽しい彼女は釈迦が長年生きてきた中でもまた新しい存在であった。

「よっ、ナマエちゃん」
「げっ、また来たのね…ってちょっと猫のおやつあげるのやめてよね、みんな食事管理してるんだし」
「相変わらず部下の管理が厳しいねぇ、嫌われない?」
「嫌われるわけないでしょ、私猫神よ」

この子達の親みたいなもんだからといいつつ釈迦は持ってきた猫のおやつは不要かと少し残念そうにすると、彼女は食事管理をしてる猫たちでなければいいから遊んでやって欲しいと言いつつ他の猫の世話をしていた。
日頃から釈迦に怒鳴りつけるような彼女に興味を抱いたのは中庭で零福を優しく慰めている姿のせいだった、零福が他人にそうして接していることさえ珍しいというのに、さらに正反対なタイプであるはずの下級女神と過ごしてることに興味を抱かないわけがなかった。

「お前たち愛されてんねぇ」

許可をされた猫たちに順番に均等におやつの煮干しをあげる釈迦は忙しなく走り回るナマエはいつも猫たちの世話にかかりっきりで、食事の世話にブラッシングに遊び相手にと一人で担当しているが、全員の名前をちゃんと呼び管理しているが、彼女の猫たちは百匹近くはいるというのに全くその姿には感心さえしてしまう。
特定の生命の神というのはいるが、ナマエの猫への献身というのは相当なもので、人は猫の奴隷とはいうが全くその通りで自由も無さそうに見える彼女を見つめる釈迦は思わず声をかけた。

「もっと他に人雇って世話させたら?神職希望なんて結構いるでしょ」
「嫌よ、この子達の親は私なんだから」
「親ってまたまた大袈裟な」

ははっと笑う釈迦の前にナマエが飲茶のセットを出しては自分と彼の二人分の点心を用意してお茶を入れるのは彼女が中華の女神であるゆえの癖でもあるのだろう。どれだけ釈迦を毛嫌うフリをしても自分の社に来た者をもてなすという姿も釈迦は好きだった。

猫の親であるという彼女に猫神であるからかと思っていた釈迦だったが、彼女は自分の膝に寝る白黒のぶち模様の猫を撫でながら少しだけ暗い顔をしては呟いた。

「私は猫神よ、地上界で苦しんだこの子達の為の」

猫神という名前だけで語れば猫を讃えるためなどと思われるがナマエは悲しみや苦しみの末に地上界で亡くなった猫たちのための神であった。
愛して亡くなった猫も、そうじゃなかった猫も、みんな彼女の社で埋葬されて天界に来たあと彼女のそばで幸せな第二の人生を歩んでいるのだとした。釈迦は確かに以前から彼女の神社にいる猫は全員が健康ではなく時には足を引きずっている猫や、包帯を巻かれている猫や、片目がない猫がいることを感じていた。
彼女は膝の上の猫を撫でながら「ここに来た子は誰になんと言われても私が見てあげるのよ」と小さく笑って告げる姿に釈迦は心から惹かれたと感じた、不器用でありつつも誰よりも優しい心を持つ小さな彼女、何になりという訳でもなくても釈迦にとって隣にいたいと思うようになったのは初めてのことに近い事だった。

「とはいえあんたは私の邪魔をしすぎなのよ、全く本当迷惑しちゃうんだから」
「とかいいながら追い出さないじゃん」
「そっそれはあんたの膝の上にその子がいるからよ!」

空になった湯のみにお茶を注ぐ彼女に釈迦は嬉しそうに笑った。
天界において、こんなにも無垢で優しい存在がいるのだと感じながら。

そして釈迦がそう思うようにナマエも自分が彼を受け入れてしまっていることを分かっていた。ヘラヘラとした軽い態度で現れて自分の傍で同じように猫を見てくれる彼を当初毛嫌いしていたものの、彼は決してナマエが本当に嫌だということはしない。
それは猫を軽視しないということだ、大切に扱い、ナマエがやめて欲しいといえば必ず守り抜いてくれる、そして何よりも彼を猫たちが気に入っているのだ、口では嫌だと言いながらも本心はそうではないことを分かっていた。例え彼が自分には遠く及ばない天界でも指折り数えられるような最上の神であるとしても。

「だから私はあんたのおもちゃじゃないのよ!」
「ははっ、ごめんごめん丁度いいサイズだからさぁ、お詫びにお菓子いる?」
「貰うわよ!全く……本当にムカつくわね」

だからこそ、彼女は自分自身が素直になれないことを自分でも嫌だと思っていながらも素直になれなかった。
気まぐれに現れては猫と遊んで自分とからかって、軽い態度をする彼のあらゆることが気に障ると思いつつもどこか嫌じゃないと思えて彼に強い声を上げてしまう。
自分の社にまで来る彼を持て成してしっかりと時間を過ごしたあと適当に帰る彼に「もう来ないでよね!」と見送る彼女はあの背中を見送る度に猫たちを吸いながら「最悪だわ」と自己反省を繰り返す日々で、そんな主を見る猫たちは今やすっかりとどうしようも無いと呆れた様子でありながらも適度に助け舟を出したりしつつ過ごしていた。

◇◆◇

そんなある日、ヴァルハラ議会での会議に出向いたナマエは中庭で猫と過ごしていれば釈迦が現れ、いつものように小さいと笑われながら頭を撫でられることに「舐めるんじゃないわよ!」と声を荒らげた。
照れ隠しだと自分でもわかっている、そしてその照れ隠しが自分でもかわいくなんてないことも理解している、飼い主に尻尾を振る犬のような存在であれば素直になれるのに彼女は根っから素直になれず、自分を構い倒す彼を毛嫌うような態度をしてしまい、その都度彼に嫌われていないかと胸の内で小さな不安を抱えていた。

「そんじゃ会議終わったらナマエちゃん行きたがってた飲茶飲み行こうぜ」
「誰があんたと行くもんですか、まぁでも飲茶なら付き合ってあげなくないわ」
「じゃあ終わったらここで」

最後に優しく頭を撫でられることに慣れてしまったナマエはぽかぽかとした気持ちで一人残されるなり、足元のキジトラを抱きしめてその笑顔を隠しては猫を連れながら回廊を歩いていた時だった。
ヒソヒソと周囲の神々が中庭での様子を見ていたようでナマエを見下ろしては小さく囁いた。

「全く釈迦様になんて口を聞いているのか」
「猫神とはいえやはり野良猫、神のルールもわからないのでしょうな」
「所詮は獣、釈迦様の寛大なお心で許されてるだけで恥も分からないのよ」

ナマエは長い回廊を歩きながらヒソヒソと聞こえた声に聞こえないフリをした。日頃は二人だけであった故に他人から見てしまえば二人の関係は対等ではないことは明確で、ナマエは釈迦と話すことさえ本来は許されないはずだった。
ナマエは顔を伏せて聞こえないふりをして議会の自身の席に腰掛けては遠くに見える釈迦を見つめた、いつもと変わらぬ態度でも彼は自分とは遥と奥の席に座っており、それがゼウスであろうとオーディンであろうと変わらぬ態度で意見する。片やナマエは端の席で意味もなくただ座り終わりが来るのを待つだけ、他の数多の神々と同じであったはずだ。

議長であるゼウスの声と共に会議が終了するとナマエは何も言わずにその場を後にした、彼との約束を忘れたフリをして。

「全く本当自由なんだから」

あれから数日後ブツブツと呟きながナマエは境内の落ち葉を箒ではいていた。
何十匹もの猫がいるがその中でも彼女が目にかけて可愛がってる自由な猫が近頃全く帰ってきていないことに気付いていた。
どこかしらで遊び呆けているのだろうが日々忙しくしている彼女からすれば猫の手も借りたいという状態だが、今日も今日とて猫たちは自由に地面に転がっていた。

「で?かの中華の猫神ナマエ様ってのはとんだ約束破りだったとはねぇ」

そんな折、突如聞き覚えのある声がして、彼女は僅かに目を丸くして驚くとそこには普段通りの態度をした釈迦が立っており、彼の腕には一匹の白猫がいた。
ここ数日帰ってきていなかった猫であり、相変わらずの毛並みと態度で釈迦に抱き上げられており、彼といたのならよかったと安心しつつも箒を握る手に力が籠る。

「会議終わりに飯行こって約束したのにさぁ、ドタキャンはないでしょ、流石の俺もちょっと傷ついちゃったかも」
「……」
「なに?もしかしてわざとだった?普通に傷付くんだけど」

近付く釈迦にナマエは思わず一歩後ろに下がるが釈迦は答えない彼女に詰め寄るように足を進めながら問いかける。
事情があったのか、それとも嫌だったのか、本当に忘れていたのか、何にせよ待っていたのに現れたのは白猫だけであった。
小さな音を立ててナマエが足を止めてしまったのは気付けば拝殿の階段が後ろにあったからだった、しかし釈迦は気にせずに一歩また近付くと彼女の頬に手を伸ばした。

「なんか言われた?」

まるで見透かしたようにいわれたことにナマエは力が抜けて階段に腰掛けてしまい、あまりにも弱々しい彼女の態度に釈迦はしゃがみこんで、少しだけ目線の高い彼女の顔を見つめると箒を握った彼女は「別に」と返事をした。
釈迦には全てお見通しであり、まだそんな嘘をつくのかと少しだけ呆れて、彼女がその気で自分を遠ざけたいならいいかと諦める頃、彼女は消え入りそうな普段とは正反対の弱々しい声で呟いた。

「間違ってないもの。私とあなたが不釣り合いだって」
「不釣り合い?」
「ええ私は下級神だし、そもそも猫神だなんて猫臭強いし、あなたにいつも嫌なことばっかりいうし……」

格が違いすぎるという言葉はナマエにとってそれ程までに胸に刺さってしまっていた。元より友達が多い訳でもなく七福神として知る前に零福と出会ったからこそ彼と仲良くしているが、彼と自分も対等な立場ではないが、釈迦と自分はもっと違う。
その上にナマエはそのような立場と周囲の目を受けながらも釈迦に対する小さくも特別な想いを抱いてしまっているという事実に密かに気付いていた、だからこそ、余計に胸が痛かった。
優しく彼に笑われる度に、自分が素直になれずに彼に罵詈雑言を浴びせる度に、彼の手に触れられる度に、この境内で二人きりでなければ許されないのだと感じてしまう。

「そんなことで俺とのデート来なかったの?」
「そんなことって」
「本当ナマエって分かんないよな」

他人の目を気にする割にいつもの態度をみせて、その態度の割には性格はとても繊細で優しくて、その性格は神の中でも随分と暖かい陽だまりのようで。

「俺マジでナマエちゃんしかみてないし、他の奴らの言葉なんか気にされてたら困るんだよね」
「気にするなって……え、私のことしかってなに?」
「いやそのまんまの意味、俺別に興味ない女の子のところに通いつめないよ?ナマエのこと好きだから来てんだよ」

生意気で優しくて繊細ですぐ怒って泣いて笑って照れて、なんでこんなにも煩悩まみれなのか聞きたいくらいに欲深い、そしてその欲深さがあまりにも愛らしい。
神々は常にその地位や名誉や権力の話をするが釈迦にとってそれほどくだらないものは無かった。そしてナマエ自身は自分がどの立場にいるのか理解はしているがそれが重要ではなく、ただ自分の仕事という名の命(猫)のことだけを気にしている姿は釈迦は大きなことだ。

「くだらねぇ奴らの言葉なんか耳にしなくていいって、それとも俺の言葉だけ聞けるようにしよっか?」

そういってナマエの髪の毛に隠された猫と変わらない耳に触れながら囁くと彼女の顔はますます真っ赤になり、釈迦は彼自身の中の煩悩が現れるのを感じては思わず口元を緩めて彼女に顔を寄せた。
そうすれば彼女はまるで紅葉のようにさらに赤く染っていき、釈迦が彼女の小さな顎に手を添えてあと少しの時、彼女はそばにいた猫を引っ掴んでは自分と彼の間に挟んだ。

「変態!バカ!煩悩まみれのダメ神!!なによ私がこんなに真剣に考えてあんたへの態度を改めてやらなくないって思ってたのに!あんたって本当最低!最悪!バカバカバカッ!!」

そういっていつものように声を上げた彼女が猫を釈迦に押し付けるなり立ち上がっては箒を片手に物置へと去っていく時も彼を罵倒し続けるため、それこそ彼女だと釈迦が笑ってその背中を見つめた。
結局ナマエは折れるような形で釈迦をいつものように本堂に招いて二人分のお茶を淹れてやり、お茶請けとして出した月餅を二人で食べながら猫たちがのんびりと転がるのを隣同士で見つめた。

「そういやナマエちゃん、これからも俺とこうしてくれんの?」

隣の彼女にそう問いかける釈迦は嬉しそうにすっかり好きな相手を見る眼差しだったが、彼女は彼に振り向くこともなく湯のみのお茶を飲みながらフンと鼻を鳴らした。

「あんたがうるさいし無理やり引っ付いてくるから仕方なくね」
「へぇじゃあこれからも引っ付いとこ」

ここって居心地もいいし天界の中の楽園だと笑う釈迦に馬鹿馬鹿しいと言いながらも誇らしそうにする彼女と目が合えば釈迦もナマエも小さく胸が惹かれあった。互いの肩が触れて釈迦の左手とナマエの右手の指先が触れる時、互いに何も言わずとも気づいてしまいゆっくりと目を閉じる彼女に釈迦は顔を寄せた。
あとほんの数ミリという時、触れたのは柔らかい何か、唇ではなくもっと弾力のあるもので、目を開くとそこにはナマエの膝に乗った白猫が釈迦の邪魔をするように唇を抑えていた。

「ちょっ、お前ら…っいいところなのに!」

まるで白猫を筆頭とするかのように次々と猫たちが釈迦の膝や背中や肩や頭に乗り始めては邪魔を初めて、彼は驚いていれば赤く染っていたハズの彼女は声を出して笑った。

「ふふっ本当、釈迦ってばこの子達に好かれてるのね」
「……まぁ、ね」

本当に一番好かれたい猫は目の前のボス猫のはずなのに、どうやら忠実なる部下たちが許さないというようであり、呆れて笑うと彼女も笑い返して二人はいつものように猫たちの遊び相手になった。
その場所で二人だけ、それは互いにとってどこまでも幸福であり、釈迦は隣の彼女から伸びた尻尾が自分に少しだけ触れることに気付いて猫を撫でながら彼女が甘える姿を堪能した、ゆっくりと少しずつ互いのペースで歩いていこうと考えながら。

2026.4.7