月に一度審神者同士の定例会がある。
近隣の近い時代や場所の審神者同士、地区で区切られており話す内容はそれぞれの本丸の報告なのだが、慣れてしまった状況に大方の報告が終われば雑談となる。自分の本丸の刀たちの話が主となる中、数名の審神者が携帯や手帳に帯留めなどにつけてある小さなキーホルダーに目がついた。
どうやら近頃、現世で流行っているらしい刀のキーホルダーらしく、みんな近侍などのキーホルダーはもちろん、その本丸にいる刀全員分を集めているという強者まで様々。
今のところ、定例会をするメンバーの中には刀である彼らを嫌う人はいない。稀にいるとは聞くが、政府管理が厳守されている今、恋仲や家族に近い者は数多く居ても、彼らを嫌悪するまたはされるほどの悪い関係に至る本丸はない。
つまり審神者は彼らに対していい感情を持った人達ばかりで、彼女も自分の刀たちを想う気持ちがあるため、そうした他の審神者や本丸の話を聞くのは心地よい。

そうして定例会を終えた帰り道、お土産を買うついでにと一人でフラフラと現世の街を歩く。
現世──と言うとおかしなものだが仕方がない。夕方頃のため学生が多い街を歩いて、みんなが好みそうな和菓子をいくつか購入して包んでもらい、夕食までには帰れるなと話し込み、時間を取られたことを思いつつ帰ろうとすると、雑貨店の入口で足を止めた。それは先程の定例会でみんなが持っていた刀剣のキーホルダーだった。
以外にも若い女の子たちが買っているんだな、と思い通り過ぎようとするが人混みが綺麗に消えてしまうと思わず見つめてしまう。

審神者になるまで刀というものには一切の興味も知識も無かったが、自分の近侍──同田貫正国だけは数多の刀が並んでいようと一目でわかってしまう程となっていた。
丸い鍔に黒身の鞘、無骨でシンプルで無駄な装飾などないそれは一見地味にも見える。手のひらで収まる小さなキーホルダーは本物とは到底遠い見た目でも、手にしてみるとそれなりにしっかりとした見た目と重量をしてある。他のみんなもと考えるが値段を見ては少しだけ尻込みする。
そもそもこんなものを買ってどうする?また同田貫に揶揄うように笑われるだけではないのかと考えた、やめておこう……そう考えるのだった。

「この団子美味いな」
「そう?口に合ってよかったわ」

夜分遅くの審神者の私室、同田貫は土産に渡された黒ごま団子を食べながら部屋に居座っていた。いつもの事だ。互いに今日は静かな日だったと話をしつつ、お茶を啜るのは日課であり、今日の定例会の話などをした。
大抵の審神者は近侍を連れてくるのだが、彼女はほとんど同田貫を連れていかなかった。この本丸は刀が少ない上に同田貫はこの本丸一番の刀で、他の者の稽古から指導などを任せている。定例会に連れて行ってもつまらなくするだけの彼を連れていくのも悪かった。

「さてと、お茶も飲んだし報告書でも書いて寝なきゃダメね」
「じゃあ持ってくぞ」
「ええお願いします」

最後にひと仕事だと身体を伸ばすと先に座っていた同田貫が立ち上がり、彼女の仕事用の机をみた。いつも通りに紙の報告書や万年筆が置かれている中で、同田貫はひとつを視界に入れるなり思わず机に近付いて手に取った。

「あっ、それ」
「なんだこれ、俺じゃねぇか」

同田貫が手にしたのは夕方に彼女が見ていた同田貫正国のキーホルダーだった。質量がそれなりにあり、紙を抑えるのにちょうど良さそうだがキーホルダーとなったそれを文鎮代わりに使うにしても違う気がした。
同田貫はじっくりとそれをみると彼女は「定例会でね」「流行ってるんだって」「それで」と色々慌てたように説明をしては取り返そうとするも同田貫は片手で制した。

あの後、彼女は真っ直ぐ帰る予定だった。
しかし店から離れるほどあのキーホルダーが頭に染み付いて離れなかった。ぐるぐると悩む間に三十分もその場で留まった挙句、結果的に気付けば店に戻り買ってしまっていた──同田貫正国だけ。
買ったあと、妙に恥ずかしい気がした。恥ずかしがることはないと分かっていても、こんなものを買ってどうするんだと自問自答した。小さな袋に入れられたキーホルダーを取り出すと少しだけ気分は良くなり、帰宅後すぐに見えやすい執務机に置いてしまっていたのだが、案の定、本人の手に届いたらしい。

「ふぅん、俺の……ね」

手の中でじっくりと眺める同田貫の表情は普段と変わらないが少しだけ口の端が緩まって彼女をみた。金色のような透き通る彼の瞳がじっくりと眺めるのを彼女は羞恥心を刺激されながらも隠すように、誤魔化すように、睨みつける形で見返した。

「なに」

文句があるなら言いなさい。からかいたいなら存分にどうぞ。と開き直ったような気持ちでいると、同田貫の表情は緩んで優しく微笑んだ。

「これだけか?」
「これだけって?」
「買ったのだよ、俺だけか?ほかのやつらは」
「買って無いけど」

そんなことを聞かれるとは思わずに目を丸くする。
本当はみんな見つけたものの、全員分買うほどの資金の余裕もなければ、飾る場所もない。極力無駄なものは買わないようにしている。もちろん贔屓するのは良くないが、この本丸において同田貫と彼女は特別な絆を持っているのは周知の事実で、誰もそれに文句をつけるものはいない。
だからこそ、同田貫だけ買うことは許されたようなものだと彼女は自分で思っていたが、彼はその言葉に「ふぅん」とまたいつもの様に興味なさげな返事をする。
しかし、それなりの月日を共にした彼女はその「ふぅん」が興味がないわけではく、少し考えているのだと言うのを理解していた。そして少しの沈黙の末に告げる。

「あんた、俺のこと本当に好きだよな」

こんなもの買って見える場所に置いて、こりゃあ相当惚れ込んでる。
そう言った同田貫はやはりいつものように少しニヤニヤと揶揄うような顔をする。同田貫はいつもそうだった。普段そういうことをしない彼女から特別だとわかるような態度をみせられると嬉しくなってしまうのだ。表に出さない時もあるが二人きりの時は完全に揶揄うような笑みをみせて指摘する。
だが同田貫はこれに対する回答を知っている、彼女はいつも「近侍だもの」というのだ。数年の付き合いで近侍は同田貫から変わったことは一度もない。初めての刀だということもあるが、それでも彼女にとって特別で、それに対して身をもって教えられるのがどうも嬉しい。
同田貫はいつも通りの反応をするであろう彼女の返事を待っていた。惚れた晴れたはあるけれど、それ以上の審神者と刀の関係もある。きっとそっちを取ると思うのだが、彼女はすっかりとしおらしく顔を逸らしては耳を赤く染めてしまう。

「……当たり前でしょ、私の一番の刀なんだから、好きに決まってる」

その反応は同田貫を固まらせた。普段は決してそういわない女だ。二人の間には肉体関係はある。恋仲であるが表向きそうしない。まるで二人は長年のパートナーのように静かな関係で、そうした愛情表現は少なかった。同田貫の前にいた彼女は恥ずかしさに耐えきれず、置いていた湯のみと食器をお盆に乗せて洗い場に持っていこうと逃げようとするが同田貫はその手を止めた。

「もういっぺん、言ってくれ」
「……どれを」
「一番だと」
「一番の刀だと思ってるわよ、だから買ったの、安心するし」

どうやらすっかりと嬉しさを味わった様子の同田貫は今にも花を咲かせそうで。彼女は素直にお守りにもなりそうだと感じていたことを口にすると同田貫はお盆を奪い戸を開けて、部屋の外の廊下にそっと置くなり閉めてしまう。

「報告書が残ってるわ」

部屋の端と端、彼女はそう呟いた。
同田貫の目は既にギラギラとしている。どうやらその気になってしまったようであり、彼女は慌てて言い訳をした、あくまでもこれはお守り、特別視はない、そもそも仕事がある、洗い物持っていこう、明日の朝は……。

翌朝、目覚めると同田貫が視界に入った。
腕枕をしてはどこか誇らしげな顔をしている彼は手の中のキーホルダーを見せつける。

「一番の刀だろ?」

彼女は思わずそれを奪うなり同田貫の額をキーホルダーの鞘の先端部分で突っついては「バカ」といった。それ以外の言葉は浮かばない。否定しようもないからだ。
たかだか自分のキーホルダーを買っただけであれだけ喜ばれてしまうと怒る気も失せてしまう。着替えをして廊下に出ると、昨晩の湯のみはしっかりと片付けられていたことに彼女は小さくため息をつくと、背後の同田貫はやはり桜の花でも散らしそうなほど上機嫌で「さて、今日も頑張るか」もわざとらしく背中を叩いてきた同田貫と共に部屋を出た。
数時間後、他のみんなにいわれて帯に同田貫のキーホルダーを付けていることをいわれた彼女は流石に彼を浮かれている。と判断せざるを得なかった。

2026.2.25