スカウトされる



人生って本当に最悪。
そう思ったのは目の前の一枚の紙だった。

日本から韓国に来たのは学生時代KーPOPアイドルにハマったことや美容やコスメといえばこの国だったからだ、実際のところ日本からは近くて一風違う街並みや人に惹かれて留学を経て最終的に就職先も韓国、大した学歴はなくても日本語・英語・韓国語が話せるとなれば外資系の取扱のある就職はそれなりに有利で韓国でいう学歴戦争や就職戦争なんかには一つたりともあたること無くシード権を貰ったかのように余裕で生活をしていた。

もちろん新卒から入社した会社は楽ではない。
他の新入社員と比べて外国人であることや三ヶ国語話せるが故の仕事の増え方なんてものはとんでもなかった。
毎日電車で一時間揺られ、残業三時間の生活をこなして三年目、正直なところ上手くはいってない。

両親を不安がらせたくないから明るく振る舞いつつ毎日ラーメンとキムチとウィダーインゼリーを食べて誰もいない暗いオフィスで一人だけ残って残業をする。
留学の頃の経験が生きると思ったが仕事になれば簡単なわけがなかった、元より引っ込み思案で意見もあまり言えない、いつも背中を丸めがちで愛想笑いしか出ない自分は上司の「あれ?これって今時セクハラ?」なんていう馬鹿みたいな言葉に「へへっ」なんて苦笑いをする。

同じ同期で会社一のイケメンだといわれるキムさん(この会社にキムさんは三人いる)によく声をかけてもらって助けてもらったところ女子の反発を食らってしまい、そこからはお先真っ暗ルート。
10ほど離れて結婚と出産を終えたバリキャリ先輩たちからは哀れみのための助けは受けるものの根本的な助けは当然してもらえる訳もなくデスクの上には毎日嫌がらせで置かれた仕事の山だった。

「こんなことなら日本に帰ったら良かった」

別に追っかけていたアイドルはみんな兵役にいって活動休止、美容についても以前程の熱量なんて今の忙しさでは現れない。
というよりも日本における韓国は夢見がちなのだと内心文句を吐いてしまう、結局美醜に関してもその人の関心で住んでいるから綺麗になる訳でもない上に元より母親譲りのくせっ毛は夜になればやはり今日もフワフワと毛量を増している。

そんなある日のことだった。
こわ〜いお兄さん達が座るソファの向かいに座っていた、隣のデスクの方では明らかに怒鳴り声が聞こえてくるがこの時だけは韓国語なんて分かりません!というフリをした。
だがしかし目の前に出された書類と向かいの席の男性はまるで任侠映画さながらにタバコに火をつけて優しく目を細めた。

「なにも取って食おうって訳じゃない」
「は、はい」

よくいうよ会社終わり入口で待ってたくせに!と内心吐き出すがそんな啖呵が切れる訳もなく背筋をちょっと伸ばすだけ。
テーブルの上には一枚の紙、その紙の一番上には【차용서】と記載されていた、日本語に直すなら【借用書】つまり何かを借りたらしい、しかし彼女はこの国に来てこうした紙にサインをした記憶はアパートの契約書、携帯の契約といった程度で大してなにか大きな買い物をしたり、ましてや借金なんてするわけも無かった。

「読めるよな?今更日本語版用意するのも大変なんだ」
「えっと、はい⋯」
「これ君の名前?ミョウジナマエ」
「そうですね」

名前・住所・電話番号
それぞれが記載されたものに記憶はなかったが情報は古いものであり数年前の留学の時の住所や電話番号であると気付くがその頃は尚のことこんなものにサインするわけがなかった。
しかし自身の名前の上に書かれたサインと指印された部分を見た時、彼女はその名前に見覚えがあった。

「これ君の友達だろ?」

学生時代に良くしてくれた友達のひとりだと思い出す彼女は「はい」と返事をするがまだ意味を理解していなかったが男の一言で状況は変わった。

「借金してるんだ、それで君がこの人に何かあった時の保証人になってる、探すの大変だったんだぞ?日本に帰られてたらもう無理だった」
「へ?あ⋯えっと、なん、ですか?」
「だから借金だよ、君の友達が数年前に借金して保証人が君だって」
「本人はどうしたんですか?私こんなのサインした覚えなんて⋯」

絶対にないとは言いきれなかった。
学生時代はまだ読むのは得意ではなくて難しい長い文章は特に友達に教えて貰っていた、その中でこの書類にサインしていた元友人は率先して優しくしてくれていたのだ、だから仮に彼女がその友人に適当なことをいわれてとにかく書類にサインを。といわれでもしていればサインしていたかもしれないのだ。

「本人は去年シャブで亡くなった、他にも借金してて全部こっちがまとめて引き受けたんだ、返してくれるよな」
「い⋯いくらですか?」
「5億ウォン」
「⋯は?」

日本と韓国の物価はあまり変わらない、億という単位がつくがその実日本円では凡そ5000万円だ、しかしながら新築の家が一軒買える値段など就職三年目程度の彼女が持ちうるわけが無い。
書類と男を見比べて彼女は愛想笑いをした、男もまた楽しそうに笑顔を見せた、二人の笑い声が楽しそうに部屋に響いた頃、目の前の男はタバコに火をつけて一服吸うと告げた。

「日本人は真面目だから有難い、毎月20日が取り立ての日で月々500万ウォンだ」

そんな金額払えるわけが⋯とひと月の給料でも足りないといいたくなる彼女だがふとドアが開き連れてこられたその辺に居そうな普通の男が服を無理やりに脱がされて殴られている姿を見てここは闇金融であり、今この場をやり過ごして警察にでも駆け込むしかないと考えながら「わかりました」と返事をしたが男は彼女の身分証明書のコピーを見せた。

まるで逃げても追いかけていくと言わんばかりの態度で⋯

ハァ⋯と深いため息をついても状況は変わらなかった、手に持たされた借用書のコピーは変わらず、両親に相談をするとしてもそんな大金が存在するわけが無い。
当の本人は身体を売ってクスリをして亡くなったということを聞いた時、そんな相手には思えなかったと思いつつ家に帰ってはそのままの姿でベットに転がる、悪い夢なら良かったと思いながら。

次の月の二十日、彼女はきっとあれは夢なんだと忘れそうになっていた時、家の前には見覚えのある男たちが立っていた、あぁこれは現実だと理解した時、彼女は男達と共にATMにいき貯金していた口座から約束の金額を相手に渡した、ここ数年で必死に貯めた貯金だがそれはたったの数分でATMから他人に渡ってしまう。
次の支払いのこと、親のこと、仕事のこと、様々な考えが彼女の頭を支配する頃、仕事も多忙を極めて深夜に帰ることがザラになり、ふと電車が通り過ぎたのを眺めた彼女は自分が乗っていなかったことにようやく気付いた、どうすれば借金を返せるのか、支払いが過ぎればどうなるのか、警察に行きたくても実家もバレていればどうしようもないの逃げ道の無い迷路に迷い込んでいると感じる時、地面をを見つめていた彼女の視界に黒い革靴が入り込む。

「こんばんは」

心地よいアナウンサーのようにハッキリとした声をする男性だと感じつつ彼女は顔を上げた、2回目の支払いはギリギリ出来たもののどうすればいいのか分からず切羽詰まった彼女の顔はきっと不健康で最悪だったかもしれない。
男はスーツ姿にトランクケースを片手に持っており、いかにも上等な企業に務めてそうな会社員に見られた、見た目からして営業⋯セールスマンのような男に売り付けられても何も買うものは無いのだというように視線を逸らすと電車はまた一本通り過ぎた。

「電車に乗らないのでしたら、私とゲームをしませんか?」
「⋯ゲーム、ってなんですか」
「メンコをご存知でしょうか?確か日本にもありますよね」

先程から馴れ馴れしく話をしてくる男に聞きたいことは山のようにあった、なぜ日本人だと知っているのか、なぜ突然話しかけてくるのか。

「勝てば10万ウォン差し上げます」

なぜ金に困っていることを知っているのか。
きっと同じことを言われた人間はみんな同じ反応を示すだろう、彼女は当然男の提案に乗ることはなく新たにやってこようとするアナウンスに意識を向けようとしたが男はそれを引き止めるようにいう。

「ミョウジナマエ、日本人、学生の時留学してからこちらに就職、預貯金も少なく、現在は多額の借金をしてしまったようで困っているのでは?」
「なんで知ってるんですか、あなた何なんですか」
「ただ助けてあげたいだけですよ」

簡単なゲームでしょう?という男の声と同時に開かれたトランクケースの中には赤と青の正方形の折られた紙、そして10万ウォンずつまとめられたであろう札束、異常でしかない現状であるが彼女は何も言えずに男の顔を伺った。

「友人のような結末は嫌なんですよね」

その言葉に浮かんだのは闇金融の人間に見せれた友人の最期の姿だった。
到底本人とは思えぬ姿に変わった友人のようにはなりたくないと必死に金をかき集めている彼女は男の言葉に言い返すことは出来ず、ただ男の深淵のような瞳を見つめてはその提案を乗るしか無かった。
幼い頃、学校内で昔の遊びとして紹介されしたことしかないゲームに対してどうすればひっくり返るのかなど分からなかった、目先の欲に飛び込んだもののどうするべきかと思えば隣の男からは「遠慮なくどうぞ」といわれ勢いよくメンコを投げつけるがそれは床に落ちた赤いメンコに当たることもなく無意味に地面に叩きつけられた。

「緊張しましたかね」

クスクスと笑うからかい混じりの男の反応に顔が熱くなった、提案してくるのだから相当慣れているのだろうと思えばその通りであり、男は簡単に赤いメンコを手に取っては彼女が落とした青いメンコを裏返しては彼女に向かい微笑んで手を差し出した。

「10万ウォン頂けますか?」
「え⋯あっ、どうしよう5万ウォンしかなく⋯え?」

パシンと乾いた音が響いて何事かと彼女は男を見つめると彼は笑いながら「これで5万ウォン分です、掛け金がないなら体でもらいます」という彼が笑ったことに彼女は恐怖を感じては「ごめんなさい」と告げてカバンを抱え背中を向けて歩き出す、電車はもう何本も過ぎており終電は近くなっていた。

「支払日は確か三日後ですよね、あと⋯100万ウォンでしたか、ちょうど今ありますよ?」

悪魔の声だった。
彼女の心臓は高鳴っており、本能は逃げねばならないと分かっていてもその金があれば今月は生き延びられるのだと思えた。
改札に向かう階段に向けて一歩踏み出せば「一人の客あたり大体5万ウォンくらいですかね」と声が聞こえ、振り返ると男は笑っていた。
それが何を意味するのか彼女は理解しており歯を食いしばり男に駆け寄っては床に落ちた青いメンコを手に取った。

「⋯も、もう一勝負します」

頬が熱くなった、容赦なく男の手が頬を張る度に自分の何もかもが崩れてしまいそうになりながらもこの選択をしたのは自分だと理解する彼女は不器用にメンコを投げつけた。
電車は次が最終だとアナウンスを告げており、頬を張られる彼女をみても止める客も居ないほど人々は疲れ切っている。
五度目の頬を張られた時、彼女は足を崩してその場に倒れ込んだ、朝セットした髪はとっくに乱れきっていて疲れた彼女はこの理不尽な世界に泣き叫びたいと思うと男は彼女の顔を覗き込むがそれを拒絶した、しかし男は止めずに彼女の顎を掴み覗き飲んでは愉しそうに笑った。

「ずっと思っていました、いい表情をするな⋯と」
「⋯っ楽しいですか?私の頬を叩くの」
「無理強いはしてないですよ、あなたがこのゲームを続けているだけです」

情けなくてたまらずに彼女は自然と涙を零せば男は張り付いたような笑顔だったものをますます歪めて笑った。
化粧が崩れて頬を張られて赤く染った女の顔の何が面白いのかと聞きたくなりながらもこんなことをしている自分自身に耐えきれなかった彼女はぐすぐすと子供のように涙を零した。

「次で最後にしましょう、勝てば全額渡します、嫌ならどうぞお帰りください」

そういって男は頬を掴んだ彼女にやってきた電車をみせた。
帰った方がいい、お金ならどこかでまた借りてそれでどうにかすればいい、この男に惑わされない方がいいと言い聞かせた。

「何処に行くんですか!」

電車は閉まり、青いメンコは裏返された、男に手を取られ引きずられるように彼女は改札を出て人も減った深夜の街中の細い路地に連れられるなり男に壁に押し付けられ見下ろされた。
彼女よりも頭一つ分は大きな男はその屈強な肉体で押し込んでは彼女を完全に逃さぬようにしており、今から何をされるのか予想もしたくない彼女は男の胸や腕を押して逃げようとするが男は彼女の顎を無理やりに掴んでは唇を奪った。

「ん"ん"ッ!う"っ⋯ふっ⋯!」

長い口付けに彼女は苦しくなり自然と涙が溜まって落ちて、顎や頬を掴まれてこじ開けられた口内に男の舌が侵入し歯列をなぞり舌を絡められる、逃げようと抵抗する彼女の足の間に自分の足を滑らせてはさらにその身を覆うように密着させた。
舌を噛んでやろうと彼女がほんの少しの抵抗をみせようとすれば薄く開いた瞳からみえたのはより恐ろしいと感じる眼差しだった、このまま何をされるのかと傷付けられることを恐れて無抵抗になればようやく解放され彼女は呼吸を繰り返し、思わず地面にそのまま座り込んでしまう。

「楽しいゲームでした、これは私のポケットマネーです、困れば連絡を」

そういった男は座り込んだ彼女の膝の上に札束と名刺を置いてそのまま過ぎ去ってしまう、一体何があったのかわけも分からなかったが頬の痛みはまだ微かに残っていることや相手が飲んでいたのかコーヒーの味を今更口内に感じては泣きたい気持ちよりも終わったことに安堵を覚えてよろよろと立ち上がり大通りからタクシーを呼んで帰宅した。

数週間後彼女はカフェにいた。
椅子に座り一人アイスのカフェオレを飲んでいれば向かい側に座る男は店員に心地よい声でブレンドのホットと伝えたあと彼女を見て微笑んだ。

「連絡があってよかったです」

あの日渡された札束は二百万ウォンあり、先月の返済には十分に間に合ったものの貯金のそこが尽きている彼女はテーブルの上に名刺を置いた、黒い上質な紙の上には丸・三角・四角という三つのマークが書かれていた。
裏面には電話番号らしきものがあり、彼女は悩んだ末に掛ければ本人確認のような事をされ最後に言い渡されたのはこのカフェであった。
彼女は何を言い出せばいいのかと悩ましい表情を浮かべるが男は彼女が連絡をした時点で理由は明確であると理解しており、やってきたコーヒーを一口飲んでは微笑んだ。

「この仕事は簡単です、ただ頼まれた仕事をちゃんとこなせばいい」
「危険なこととかって」
「あなた次第です」

それでも彼女にはもう逃げられる道はなかった、数日前会社は突如倒産する旨を伝えられ就職難の韓国でまた新たに見つけるとなれば時間を有してしまうことも、その間に借金がどうなるかなど分かっていたからで、多少の危険も承知しなければならないのだと自分に言い聞かせていた。
街の電柱などに貼られている風俗店の広告を眺めて悩んだもののいつも財布に潜ませていたこの謎の名刺と目の前の男が与えた一瞬のことが離れられなかったのである。

「それでも宜しければ是非私たちと仕事をしましょう」

きっと良い関係になれると彼はワイングラスのようにコーヒーカップを小さく掲げれば彼女は何も言い返せないものの男の膝はテーブルの下で彼女に触れており、それはもう逃れられないのだと感じた。
店の前にいつの間にか止まっていたリムジンに乗せられて向かい側に座った男にこの仕事の内容や給料に場所にと詳細を聞き出そうとまともな感性で車が動き出し考える頃、ふと目の前のスーツの男をこれからなんと呼べばいいのかと上司や先輩となるのだからと考えて「お名前は?」と問いかければ彼はにこやかに微笑んだ。

「セールスマンとでもお呼びください、これからあなたと私はきっといいビジネスパートナーとなりますから、ところでナマエさんと呼んでも?」
「ええ、好きに呼んでください」
「ずっとあなたと仕事がしたかった、本来お声をかけるべき相手はどうしようもないクズでバカだったからあなたの様な聡明だが愚かな人間で本当によかった」

はい?と思わず彼女は広いリムジンの中で緊張した面持ちをしながら雄弁に話すセールスマンと名乗った男に目を丸くしてみつめた。
男は不気味に微笑みながら借金の権利がナマエに移ったあとゲーム参加者にする予定だったがあの日気が変わったのだというが何一つ理解はできずにいると彼はゲームを提案した、じゃんけんをして勝てば話をしてやるという二分の一の以前よりもずっと簡単なゲームだった。

一つ叩かれた
「始めはこちら側にするつもりはなかったんです」

二つ叩かれた
「真面目そうですし、こっちにも向かないことはわかってましたしね」

三つ叩かれた、頬が痛く視界が滲む
「でも泣き出すもんだから、なんていうか凄くキたんですよね」

四つ叩かれた、思わず涙がこぼれてしまうと彼は酷く嬉しそうに微笑んだ
「だから欲しくなってあの人にも相談したらいいと言われましてね」

五つ叩かれた、もうやめますと手を下ろして体を縮めてぐすぐすと泣くと彼が隣に座ることがわかった。
頬は酷く痛くきっと腫れていると気付いたが男は彼女の肩に手を置いて微笑むとその顔にはガスマスクが付けられていた。

「だから会社もちゃんと潰しておきましたし、あぁ住んでたアパートも確か来月から家賃が上がって生活が難しくなるっていわれてましたよね、真面目にしているのに可哀想に⋯でも借金はチャラになりましたよ、これから私と一緒に楽しく働きましょう、あなたもこちら側に来たらどうせ何処かで分かりますから、いや⋯無理か、搾取される側って顔だし、そうやって操り人形でいる方が好きそうだ」

白い煙がリムジンの中を覆う、ゆっくりと意識が薄れていく中で聞こえてくることにここ最近の不運は全てこの人のせいなのかと知るももう何も言い返すことも出来なかった。
彼の言うことは間違いではないこともあった、足を撫でられながら自分がレールの上を走ることを楽だと思うタイプだと理解していたからだ。
優しく顎を撫でられて何かが唇に触れる時、最後の最後に聞こえた言葉は楽しそうに告げる。

「これから是非よろしくお願いします」

瞼を次に開ける時にはきっと別世界が始まるのだと感じて目を閉じた。

「いいオモチャでしょう?」
「好きにしていいと言ったがそいつは中で働かせるぞ」
「私の部下として欲しいといったじゃありませんか」
「慣れてからお前に付かせる、それまで我慢しろ」
「⋯手は出さないでくださいよ、私のオモチャなんですから」

彼女が眠ったリムジンの中で運転席がみえるようになり、セールスマンが話しかけるが彼の上司ともなる男は女の処遇を決めており、そしてこの女がやはりこちら側ではないが従順であることは良い事だと認めてやった。

「それなら首輪でもつけていろ」

男の言葉にセールスマンは自身にもたれかかって意識を落とす彼女の細い首を見つめた、確かに首輪がよく似合いそうだとおもいながら自分の犬にしてやろうと決めて。
しかし残念ながら犬は犬でも誰にでも媚びを売るタイプだと、その時の彼は知らなかったのだった。