『愛だなんだという前に体も心も違い過ぎた』

愛だ恋だのくだらないと思っていた、それについて俺はまずそうした感情を知らなかったからだった、地球に来てから仲間内でも人間なんざにそうした感情を持つようなやつが出てきた時は流石に呆れた。
いくら女がいいとはいえ種族問わずもここまで来たらケッサクだ、笑い話だ、俺はメガトロン様だけに、デストロンの為だけに生きるんだとそう本気で思ってたし、人間の女がそんなにも俺を狂わせるだなんて思わなかった

「本気で愛し合えると思った?」
「俺は本気だ」
「そう…なら残念、一方通行の本気の愛なんて」

破滅しかない。
そういわれた時、俺のスパークはチリチリと音を立てた、本気で好きだったんだ、こんな人間の女のことを…馬鹿らしいほど

出会いはデストロンにやってくる人間の女が助手として連れてきたことだった、信頼出来るし頭もいいし腕もたつからとメガトロン様に説明して受け入れられた女を初めはとても気に入らなかった
何故なら人間だから、しかも女
人間なんてのは俺たちよりも脆くて小さくて簡単な計算だって機械を使わなきゃならないような脳みそだ、俺たちに搭載されたコンピューターとは全く違う作り
スタースクリームは特に参謀でメガトロン様への反骨心も強いもんだから、そりゃあもう毎日毎日鬱陶しい程に文句を吐いたし俺も多少なりとも同意していた

「ってのになんだあれ」
「意外と話があったらしい」

廊下から見えた仲睦まじい二人の姿に何事かと隣のサンダークラッカーに問いかければ簡単に返事をされる、あの気難しいスタースクリームが?人間と?有り得ない
けれどそこに助手の女はいないんだと思っていれば足元から「ちょっとごめんなさい」といわれて見下ろせば手の中に黒色のドリンクを手にした女がいた

「あらまだ二人仲良く話してるみたい」
「スタースクリームにあの女は何を吹き込みやがったんだ」
「さぁ?普通に仕事の話をしてただけだとおもう」

プライベートには興味が無いから。と短い返事を返す女に思わずスタースクリームはあんなタイプじゃないし人間なんてのは馬鹿だから相手にしないのに珍しいと自然とこぼす頃にはサンダークラッカーはその場を後にしていた
女は二つ持ったコーヒーと呼ばれるドリンクの片方を飲みつつ俺の話を聞いては人間とトランスフォーマーの違いについてを真面目に聞いた

「スカイワープって真面目なんだね」

初めて言われた言葉に思わず目を丸くしてまう、真面目?ってのはどういう事だ、俺は大体あまりいい言葉で褒められたことは無い
ジェットロンの一人、スタースクリームの兄弟、スタースクリームが優秀でサンダークラッカーが世渡り上手で俺は……

「褒められ慣れないって顔してる、でも本心で言ってる」

こいつと話をする時にサウンドウェーブの様にマインドスキャンの能力があれば俺はずっと可笑しくならなかったかもしれない、スタースクリームがあの女にのめり込むようになれば二人の邪魔をしないようにと助手の女も出来るだけ外に出てきてその都度俺が偶然顔合わせをしてしまうから話をした
その頃には案外俺も人間、正確にいえばこいつが嫌いではなくなっていて人間の文化や文明をちょっとずつ掻い摘んでは新しい刺激を得た、テレビに映画にゲームに漫画に雑誌、人間が作るジェット機もまた悪くは無いとこいつを送るついでに夜中の博物館を見に行ったこともある

「あっちの車は…そっちのは…」

入れないからと外から眺めてはその小さな指先で飾られた車の車種を次々と答える、ジェット機や戦闘機などは知らないくせに車には妙に詳しいことに俺は多少つまらなくて「ふぅん」と興味のない返事をすれば足元の女は俺を見上げてはクスクスと楽しそうに笑った

「つまらないって顔してる」
「地面を走り回るような奴らに興味ねぇんだ、空を飛ぶ方がずっといい」
「確かにスカイワープはいつも自由に飛んでて綺麗」
「きれ……それって俺にいうセリフかよ」

本当のところは悪くは無いと思った、俺たちのビークルモードは戦闘機だし、それが空を飛んで綺麗だと言われたら人間には分からずともいい褒め言葉だ、相手が異性ならそれこそ口説き文句だがこいつは知らないんだろう

「知ってるよ、でも口説き文句というより思ったから言っただけ」

私はなんでも思うことを口にするタイプだからといって俺の足に足をかけて器用に登ってきたこいつは子供みたいで俺は思わず「あっ」だか「おい」だか言葉にならない言葉を洩らしては、いよいよこいつは俺の顔を覗き込むように登ってきては無邪気に笑っていう

「ジェットロンで一番かっこいい」

本当に馬鹿なことくらい俺だってわかってる、けれど俺をそうして素直にいってくれたやつなんて長い年月の中でそう多くはなかったからその三日月みたいに細められた妖しい瞳で「スカイワープが一番だよ」「素敵な人」と甘い言葉を囁かれて唇を重ねられれば俺は簡単に堕ちた。

「スカイワープ」

静かな廊下で俺の足を止めさせたのはサンダークラッカーだった、こいつはどうにも言い難い表情で口をもごつかせるものだから何かまたスタースクリームについての事なのかと思った
サンダークラッカーは仲間想いだが無口だったり流されがちなところがあるから悪い風に思われるところもある、機体の色と同じで空みたいに溶け込むような奴だ

「なんだよ」
「俺がいうのもなんだけどな、あの人間はやめてた方がいい」
「なんでだよ」
「理由は上手くは言えないんだが、なんていうか兎に角だよ」
「意外とお前も人間嫌いだったんだな」

理由がないのに否定をするだなんてやっぱりこいつも俺たちと同じ兄弟なんだと思って嬉しくなった、スタースクリームも俺も人間が嫌いだったがサンダークラッカーは口にしなかった、人間の捕虜を捕まえてきた時の世話は大抵こいつがさせられるくらいにはデストロンの中でも人間を受け入れていたのかと思ったが本当はそうじゃなかったのだと知ると妙な絆を感じる
しかしサンダークラッカーはバツの悪そうな表情をするから本当に難しいのかと不思議に思って「言いたいならいえよ」といえば、やっぱり難しい顔で「悪ぃ上手く言葉に出来ないんだよ」というから変なやつだなと思った

「この間家族で動物園に行ったの」

俺たちの仲は以前より深まってこいつに【家族】がいると知った、けれどそんなことも関係なくキスをしたし二人だけの時間も過ごした

「でもやっぱりスカイワープと行くともっと楽しいかもって思ったの」

そして言葉にだってしてくれる、指輪だとか結婚がとかそんな見せかけだけの表面上の繋がりを人間は大切にしているようだが俺たちの種族は長命故に精神的な繋がりを深く求め大切にしている。
だからこそこいつがどれだけ他の人間の男に惚れてようが、他の人間の男のモノといわれてようがどうでもいい、隣に立ってるのは俺なんだから

「難しい顔してどうしたの?」
「いや、俺だったらもっと楽しませてやれると思ってたんだよ」

だってお前の男は空も飛べないワープも出来ない身長だって二メートル以上もないし戦えもできない普通の男だろう?と笑えばこいつはフフッと笑った、そうした含み笑いも好きで俺も薄ら笑いで返事を返しては重ねられた手にスパークが和らいだ
唇を重ねて、手を繋いで、愛し合っていると互いの異なる目を見つめては感じるのにそれ以上は無いと思えたのはきっと互いの種族が違いすぎたからだ、トランスフォーマーはパートナーとして認めればそいつを何処までも深く愛するものだが、人間は短い人生に何人もそのパートナーを見つけては出会いと別れを繰り返す

「なぁひとつ聞いていいか?」

興味本位だった。
きっと真っ直ぐと俺の願う言葉を言って貰えると本気で思っていたからこそ馬鹿な俺は聞けたんだろう。

「なぁに」

綺麗な唇でそう音を紡ぐこいつに問いかける

「俺を愛してるか?」

きっと周りは俺を笑うだろう、けど俺は酔っていたんだよ、ジェットロンなんていう部隊にいてスタースクリームなんていうリーダーの横に立っている中でいつだってジェットロンの一人スタースクリームの兄弟機なんて肩書きを無くしてくれるこいつの隣にいて足元を見失った
そしたらこいつは俺に向かって笑っていうんだ

「有り得ない、愛してるのは家族だけ」

貴方はただの友達。
そう言われて次々とこいつの言葉を聞いていた時に俺のブレインは酷いエラーを発していた、悪びれもなくまるで天気の話をするように淡々と話をして、そして最後に俺に向けてこういった

「人間と機械は子供が作れないんだから、愛があっても意味は無い」

スタースクリームの女が連れてくる奴だと思った、頭の良い奴ってのはそういう風にできてることを俺は知ってたはずなのに人間だから、俺に優しくしてくれたから、特別だと思ったから勘違いしていた

「子供が出来たら俺はお前の特別か?」

我ながら情けない言葉が地面に落ちれば女はキッパリと告げた

「機械に恋する程飢えた恋愛はしたことが無いから」

廊下を歩くあの女を見つめた、澄ました顔で研究室で難しい話をしていた、スタースクリームもいつの間にか何処か気に入っていた女と少しだけ別の距離を作っているように感じられた
俺のブレインはエラーを吐いていた、出来ればもうあの女をそのカメラアイに映すべきじゃないと理解していてもどうしても難しかった、俺たちは一度愛したらそいつだけなんだから仕方ない…短い命で沢山の愛を知る種族と長い命で一つの愛しか受け入れない種族。
そうして俺たちのちぐはぐな部分が何処か噛み合ってしまうからこんな想いを味わうんだと思えた、ふと合った視線にスパークが肥大してその後すぐに掴まれたように締め付けられる感覚を味わった
女はなんの興味もなさそうに視線を逸らした、その指には眩いシルバーの指輪が飾られていた、俺のものじゃない、下らない男の所有物という証だ。