彼女はその日酷く落ち込んでいた、廊下の隅を歩きつつ涙がどうにか零れぬようにしつつ指先で拭いながら一歩ずつ進み治療室兼自室に戻ろうとした、くすんくすんと女の啜り泣く声は誰にも届かず壁に消えていこうとするがそれを許さなかったのは前から歩いてきた存在のせいだった
ゴウリュウは彼女を見るなりどんなに忙しくとも大抵声を掛けてやるため今日も何の気なしに声をかけようとしたつもりだったが相手の存在も気付かず涙を耐える彼女に顔色を慌てて変えた
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「え、あっゴウリュウさん…なんでもないです」
「なんでもない奴が泣きながら歩いてくるか、怪我でもしたのか?すぐに大帝様にお伝えせねば」
「平気だから大丈夫だから」
膝をついて彼女の顔を覗き込むゴウリュウに彼女は腕で徐に目元を拭い本当に大丈夫だというがそんな訳があるかとそうした時の察知する能力はデストロン一と言える程で引かずに彼女を見下ろした
逃げようと思うも足は動かずにゴウリュウはただ静かに見下ろしていたかと思いきや彼女の背中を優しく撫でた
「言いたかねぇ事もあるだろうがよ、泣く時くらい我慢しなくていいだろうが」
俺達は仲間なんだから相談事ぐらいは乗る、それが難しいのならば何処でもいいから散々大声で泣き散らして寝て起きて美味しいご飯を食べろという、そんな彼の優しさに彼女は耐えきれずにぽろぽろと涙を零すものだからこんな現場をほかの者に見られれば自分が彼女を傷つけたと勘違いされ大帝から直々に折檻されると思い慌てて抱き上げて彼女の部屋に連れ帰ってやる
自動ドアが開く途中だというのに忙しなく入ったゴウリュウは彼女をベッドの上に優しく置いては去ろうとしたかったが安心感からか更に泣きじゃくる彼女を放っておけるわけもなく床に座りその背を撫でた
「レオザックに…怒られちゃって」
絞り出した彼女の言葉にレオザックといわれ直ぐに察する、あの男は気に食わないことがあると誰彼構わず自分より下の者に当たる癖がある、特に人間で女で大帝からの寵愛を受ける彼女は苛立った時の標的になりやすいのは当然のことだろう男の風上にも置けぬ奴だと呆れながらも涙を零す彼女は今迄奴に苛立ちをぶつけられたことがないわけでもないというのにどういうわけか泣いてばかりいた
「怒られるったってお前さんが何かをした訳じゃねぇだろう」
「私のせいだよ、私がもっとちゃんとブレストフォースのみんなの怪我を直してたら今日の失敗は起きなかったって」
その言葉に今日のサイバトロンに敗北したのは何故だったかと思い出した時メインで指揮をとって活動していたライオカイザーの敗北であったがそこに彼女が関わってきているなどとは全く思えなかったが彼女はレオザックが以前大きく負傷した胸の傷をしっかり治さなかったせいでそこを狙われて合体解除に追い込まれたんだと酷く責められたのだという
それを聞きますますゴウリュウはただの責任転換でありどうしようもない苛立ちをぶつけただけじゃないかと理解する、だがしかしゴウリュウは困っていた、普段落ち込む部下たちを慰めることは慣れている、何故なら強い言葉で言い聞かせ酒を飲ませて肩を組めばいいだけで単純だったからだ、だがしかし彼女は人で異性でとてもちいさな存在である、そんな彼女が泣いて背中を丸める度にますます小さく見えていっその事消えてしまうのではないかと思うほどだ
彼女の背中や頭上をふわふわと彷徨う金属の手に気付いた彼女はそばに来て欲しいと願う、ゴウリュウは男をベッドに誘うなだとか普段であればいう言葉も出てこずに誘われるがまま人間一人にしてはあまりにも広い場所に腰掛けてやればまるで子供が甘えるように彼女は彼の膝に乗って強く抱き締めた
「おい、何してんだ」
動揺して思わず立ち上がり彼女を掴み距離を置こうとするのに彼女は腕を目一杯拡げてその金属の胸を抱きしめた、ひんやりとしたその機体が泣きじゃくって熱くなった身体には丁度よく思わず頬を擦り寄せる彼女にますますゴウリュウはどうしたものかと悩む
「あったくなってきた、優しいんですねゴウリュウさん」
「あ、あぁそりゃあ困った女に対してはな」
決して彼女のために機体温度を上げた訳ではなく、羞恥心や困惑など様々な感情で温度があがっただけだが言える訳もなくそう返事をすれば彼女はようやく泣くのをやめて嬉しそうに微笑んだ
静かな彼女の私室で感じる柔らかな身体と温もりや香り、全てがゴウリュウにとって未知のものであり守りたいとただ願ってしまう、もういいだろうと彼女を見下ろせば瞼を閉じて規則正しい呼吸をしており泣き疲れて寝るだなんてまるで子供だと呆れてしまいながらもそっと彼女の背中に手を回して顔を寄せる
「お前のことを傷つける奴は誰だろうとこの俺が許さねぇさ」
だからあまり泣かないでくれと彼は聞こえていない彼女に囁いて手のひらに感じる温もりを強く抱き締めた、恋や愛ではないただ仲間に対して当然のことだと言い聞かせ。
次の任務こそ失敗するなというデスザラス大帝の言葉に全員が勿論だといった、ブレストフォースと恐竜戦隊が一丸となりさらには大帝自らも出陣する今度の任務は大きく成功すれば莫大なエネルギーが確保されるはずであった、レオザックを睨みつける大帝の鋭いカメラアイに彼は当然ですと返事をしたときゴウリュウは口を挟んだ
「レオザック万が一失敗してもアイツに八つ当たりはするなよ」
「なに?」
アイツと呼ばれる存在である彼女を理解したらしいのは何もレオザックだけではない、彼女をまるで娘のように可愛がるデスザラスの目も光り睨みつけゴウリュウに何事だと問いかければすぐ様レオザックの顔色は青白くなる為これは仕返しだとして先日の件を話せばすぐ様首を掴まれたレオザックが「違うのです!」と叫んだ
「さっきレオザックが謝りに来たんですけど何かあったんですか?」
「さぁな俺ァ知らねぇよ、どうせ失敗して大帝様に怒られたからじゃないか」
「そうですか…いつもより豪華なお土産くれたから」
なに?と思わず彼女を見下ろせば薔薇の花束をくれたんです。と彼女はいうものだからいつも貰ってるのかと震える声で問いかければ嬉しそうに二つ返事されてしまいゴウリュウは二度と受け取るなというも彼女は不思議な表情を浮かべるだけだった、ふと治療室を見渡せば確かにそこかしらに花があるがまさかこれ全てあいつでは無いだろうな?と震える声で聞けば
「えぇレオザックからなんです、とっても素敵でしょう?」
素敵なわけがあるかとは言えず帰り際にそっと花瓶を落としてやる程度の意地悪をしたゴウリュウはレオザックをうらめしく思う
→