3.
8R 2分57秒
勝者 馬上たづな WBC世界女子バンタム級王者
ゴングの大きな音とレフェリーの大きな声が夢のようだった
最後の最後、エリザベスのジャブを掻い潜り胸元に飛びつき右のフェイントを入れ左のボディそこから更に死角の右がチャンピオンの頭を強く揺さぶり倒れ込んだ、綺麗な腰の入りとフォームはまるで教科書のような美しさであった
担架で運ばれていく女王の姿を見届けてたづなは力が抜けて倒れそうになれば会長に支えられる
「ちゃんと立たんか、ベルトを巻けんだろう」
「え…ぁ、そっか」
ベルトを賭けていたんだと今更になって思っていれば八木が相手から貰ってきたベルトを手に取って微笑んでいた
キラキラと輝くそれは誰よりも望んだものなのにどこか夢のようだった、腰にそれが巻かれて会長の手で肩車をされれば国技館にいた観客達が一斉に大声を上げた、あぁそうだ私王者になったんだと思っていれば一人の男がマイクを片手にリングに上がってきた
それはたづなのよく知る男、鷹村守だった
全員が息を呑んで2人を見つめた
「言いてぇことがあるんだろ」
普段の鷹村の試合終わりであればゴミやら物が投げられるが生憎とたづなの試合であり、全国民は鷹村が彼女にだけはどこか違うものを持っているのをしっている
まるでみんなが親兄弟の気持ちで2人をみつめて唾を飲んだ
「えっと…あ、そうですね、人前だなんて恥ずかしいから戻ってからじゃ」
たづながボロボロの中で恥ずかしそうに言えば観客のひとりが「今言えよ!」と叫びブーイングか歓声か分からない声が飛び出していく
それに対して困ったようなたづなはわかったと大きく叫んだ、そして深呼吸をして鷹村をみつめた、何を言うのかと思った時だった
「私と結婚してください」
"世界王者同士の結婚!?婚約ベルトを片手にプロポーズ"
たづなはあの試合にて肋を2本折っていた、おまけに口の中もズタズタで目も大きく腫れており最低3ヶ月は休みだと言われてしまった
翌日の新聞を見てみれば案の定昨日の試合で記事は大いに盛り上がっており苦笑いを浮かべるが隣の男は酷く不貞腐れた顔をしていた
「鷹村さーん、拗ねてますか?」
「拗ねてねぇよ」
「怒ってますか?」
「怒ってねぇよ」
「じゃあ」
「オレ様がどうしてプロポーズされたんだよ!!普通はこっちがするもんだろうが」
狭い部屋の中で彼の怒号が響いた、思わず耳を塞いでみつめれば彼は酷く怒っておりたづなは困ったように眉を下げた
だってしてくれなさそうだし。とは口が裂けても言えない、それにどうせするのならば貢ぎ物を用意しておきたかった、その中で鷹村のようには何本もベルトを取れる気配は無いため今回に当てたというわけだがどうやらずいぶんと王様は機嫌が悪いらしい
「私と結婚いやですか」
「なわけねぇだろう、じゃなくてオレ様がするのが普通だってことだよ」
「そんな男が女がだなんて言わないでいいじゃありませんか」
彼は亭主関白気質だからどうしてもそこが気になるのだろう、甲斐性がないと思われたくないし女にされるだなんて男のプライドが許さないのだろう
「じゃあプロポーズします?」
そういえば彼はぐっと息を呑んだ
たづなは姿勢を正して座り直して目の前の男を見つめる、彼はあーやらうーやら唸って悩んだ後たづなをみつめた、どうやら決心がついたのかもしれないがその後すぐに力が抜けたように体を緩めて横になる
「いいわ、お前からの方がオレ様にゾッコンだってアピールしやすいしな」
折角彼からの言葉が貰えると思っていたのにと少しだけ残念に思いながら彼の身体の上に登る、そして顔を寄せれば優しくキスがされて髪を撫でられる
「プロポーズなんて柄じゃあないが、オレ様はたづなだけが好きだからな、精々その証を守り続けろよ」
「はい、鷹村さんが引退するまではずっと守り続けますよ」
たづなが自信満々にそういえば彼は嬉しそうに笑ってたづなを抱き締めた
ようやく本当に彼の隣に並べたのだと強く想って背中に腕を伸ばした、誰にもこの席は譲らないと誓って、二人の仲を示すように部屋の隅に乱雑に置かれたチャンピオンベルトたちは小さく光っていた