ポセイドンの居城・寝室にて。
ポセイドンは一日の職務を終えて夫婦の寝室へ戻ってくると、何やら物を片付けている妻の姿が見えた。
彼女は普段のタオル生地のような柔らかい普段のルームウェアとは違い、シルクのような滑らかな手触りのレーヨン生地の夜用のパフスリーブのロングワンピースのルームウェアを着ており、普段よりも少し落ち着いた雰囲気を見せていたがドアが開くなり顔を上げた。

「おかえり!今ちょうど引き出しの中片付けててね、懐かしい〜〜結婚式の写真とか沢山出てきたからみてたんだよ。みてみてメンツやばくない?てかみんなテンアゲ過ぎでしょ、マジであの結婚式大変だったよね」

もう随分と前だった。
静寂を好むポセイドンと反対をいくルナリアという二人の結婚式は実に華やかなものとなった。
ポセイドンの弟であり最高神ゼウスにより式は実に壮大なものに変わり、ルナリアの親友でありポセイドンの兄であるハデスやオリュンポス十二神はもちろん。ポセイドンの親戚関係は多いのは当然だが、ルナリアの家族となる兄が三十六人いると知った時、ポセイドンは静かに「そうか……」と返事したものの、彼女が三十六人も来るの考えるだけで頭が痛くなった。

しかしながら彼女の兄たちはそれ以上の悩みの種となり。
ポセイドンを見掛けるなり身分や立場も気にせずに警告をしてきて、三十六の異なる性質を持つ彼女の兄である男神たちも、ギリシャの神々も皆が揃って心からの祝福を挙げた。

「一週間くらいはパーティしたからもうめっちゃ疲れたよね、てか最後の方とかマジでヤバかった、ポセイドンもよく最後まで付き合ってくれたよね。案外ノリいいって言うかその場の空気を大切にするって言うか流石あたしの旦那さん、気遣いさえも神レベルでちょースマート」
「帰らせなかっただけであろう」
「そうかも?ほらほらみてよ、これとか暇だしゼウスがゲーム(殴り合い)しよとかいうから流石にダメってなって、やってたスマブラ大会の写真じゃん、意外とベルぴ強くて面白かったよね、まぁあたしのカービィしか勝たんって感じだったけど」
「逃げまくってたようだったがな」

結婚式のアルバムを開いて懐かしそうに嬉しそうに話をする彼女に後ろから覗き込むと様々な写真が貼り付けられて、どれも彼女が丁寧にアルバムに挟んではコメントをしたりコラージュしたりと、ポセイドンがそれまで持っていたアルバムとして実に華やかで騒々しいアルバムとなっていた。

ギリシャ神界はもちろんだが、他の各神界についても彼女が友人を続々と呼んだことにより、一体誰の式なのかと不思議に思うほどに世界各地の神々が集いギリシャ神界全体で祝うようなものになり、少しの間騒動になった。

あの海王ポセイドンが結婚した。
相手のことは特に言わなかったが大騒動となり、一週間の祝いの席は実に騒々しかったが、アルバムの中の彼女も、今それを眺める彼女も相変わらずキラキラとした表情で眺める姿は変わらない神々しさを持っている。
結婚式というのは最初だけで、メインの式を終えたあとは何十次回という程に会場なり内容なりが変わって祝いの席を繰り広げた。

「ブーケトスの写真めっちゃいいよね、でもまさかアレぴが取るとは思わなかったけど、アレぴが隣の女の子に渡したらあきらかに"恋"の目をしてたから、ちょっとあたしキューピットだったりしたのかな」
「ノーコンキューピットか」
「酷いっ!これでも肩は強い方なのに!でもギリシャだけじゃなくて印度とか北欧とか、戦乙女のみんなも来てくれたのはマジ嬉しかったなぁ、招待状送ったけど正直来てくれるか不安だったし」

その言葉にポセイドンは内心呼びすぎだと愚痴を漏らした。
本来はギリシャの身内だけを予定しており、その時点でもとんでもない式になるというのに「他の神界の友達もダメ?」と愛する妻に上目遣いで不安そうに言われてしまえば断れる夫がどこにいようか。
結局「好きにしろ」という一言のせいで殆ど全ての神界から主神級から下級神までやってくる式はちょっとした神々のパーティのメンツよりもずっと豪華なメンバーであり。妻を知らない一般神達はポセイドンの妻は何者なのかという話でしばらく話題は尽きなかった。

「てかやっぱこのケーキヤバくない?入刀の写真とかやばいくらい最高……てかうちの旦那まじでカッコよすぎる。あっ!あの時聞けなかったけどケーキの味どうだった?スポンジめっちゃ水色でめっちゃすごい顔してたけど美味しかったでしょ?」
「あの見た目は食い物には思えなくて当然だ、味はまぁまぁだな」
「ほんと?よかったぁ〜二ヶ月しっかり料理長たちのとこに修行にいってよかった」
「……アレはお前が作っていたのか」

ケーキ入刀の写真を見つめる彼女にポセイドンは知らなかった事実に思わず片眉をあげて問いかけると彼女は当然というように返事をしたが、写真に映っているウェディングケーキは五段の全部で三メートルはある高さだった。
その上、見た目はプロと変わらないもので純白のクリームたっぷりの花やリボンで彩られたウエディングケーキで中身のスポンジは濃い水色で、ケーキを切った時のポセイドンはその奇抜なケーキに彼女が頼んだものだからと納得したが、あの出来を自分で……と妙な感心を覚える。

結婚して理解したことは彼女が想像以上に家庭的だということだった。
元々料理をすることは知っていたものの、ポセイドンの妻……つまりは海の王妃となったというのの、下級女神の頃と変わらない態度で城の者に接してはた困らせたものだが、彼女が楽しそうに毎日食事を用意したり洗濯物を楽しそうに干している姿をみてしまえばポセイドンは何も言う気は起きない。
反対に城の者がそんな彼女をますます好意的に感じるということは彼自身口にせずとも誇らしいものである。

「これ三次会のうちの店の写真だ〜!みてみてあたし結構かっこよく踊れてるくない?お陰様であたしの足まじで子鹿レベルでプルプルだったけど、てか全然踊ってくんなかったよね?体幹いいし社交ダンスとか出来るんなら絶対ほかも踊れるのにさぁ、あたしもっと旦那さんと踊りたいんだけどなぁ」
「下らん雑魚の前で間抜けなお前を相手に滑稽な姿をみせる趣味はない」
「つまり……それってあたしと二人ならいいってこと?!」
「……」

そういって自己解釈をした彼女は心底嬉しそうに騒ぎ立てるもののポセイドンは否定もしなければ肯定もしない。二人だけなら多少は付き合わないこともないと思うからであり、彼女の手元の写真、二次会として選ばれたのは彼女がオーナーとして勤めている【クラブ・アトランティス】であった。
団体客にスタッフたちは振り回されながらも店はオーナー権限でと飲み食い踊りと二晩も過ごしていたが、ポセイドンは彼女が踊り続ける姿を眺めた。

煌びやかなダンスホールで囲まれながら踊る彼女を見ていると海の処女神ではなく、ただの普通の娘のようにも見えてしまう。
激しいライトの下で照らされる彼女がポセイドンを見る度に彼の心は小さな太陽の光を浴びたように感じる。疲れきってVIP席のソファで倒れるように眠る彼女は幼く、見かける周囲の者は彼女を無邪気な子供のような眼差しで見つめながらも口を揃えて「よかった」というのは、それほど彼女がポセイドンとの関係を悩み、結ばれたいという気持ちを周囲に伝えてきたからなのだろう。

一通り騒ぎ立て続ける写真が続く中でページが捲られると、そこにはただ二人きり、この城の中庭にてそれまでの写真とは一切違う、純白のドレスに身を包んだ彼女とポセイドンが向き合っていた。
何も言わずに写真を撫でる彼女にポセイドンも一番よかったと心から思うのは、盛大な結婚式パーティをした後、ハデスだけを呼んで結婚式をした時の写真だった。ゼウスを呼べばまた騒がしくなるという考えと、最低限の者だけで二人きりの式をしようといったのは彼女なりのポセイドンへの思いやりであり。

彼女も騒がしい結婚式は楽しかったものの、花嫁として完璧なる誓いを立てたかったと思っていたのだろう。盛大な披露宴の際には何着ものウエディングドレスを着た彼女だったが、その二人の式だけはレースの刺繍が美しいエンパイア型で長いトレーンのウェディングドレスであり。純白の刺繍は天界一の職人の手で一つ一つに祝福を込められていた。
ブルーとホワイトの薔薇に囲まれた中庭で彼女を待っていたポセイドンは現れた彼女に呼吸さえ忘れて見惚れた。
普段の姿もダンスを踊る姿もどんな格好でも似合っていた彼女を見てきた中でポセイドンは女神の風格を知った。下級女神であれど、彼女は立派な愛を司る処女の女神。

「なになに?ポセイドンってばこの写真のあたしに見惚れちゃったの?まぁ自分で言うのもなんだけど綺麗だしね〜」

あははっと冗談混じりに告げる彼女の隣に立つポセイドンは静かに彼女を見つめた。

「あぁ綺麗だな、この時も、今も」
「は……ぁ」
「なんだお前が言ったのだろう」
「いやまぁうん……そうなんだけど、そうだけど、なんていうか本当デレるのが急っていうか。そんなのいきなりいわれるとすごい恥ずかしいっていうかなんていうか……」

ぶつぶつと呟き始める彼女に対してポセイドンは呆れたような、しかしどこか嬉しそうな表情が微かに滲んでしまう。
いつだって自ら積極的にする割に、いつまで経っても彼からの言葉には耳まで赤く染めて誤魔化してしまう彼女を素直に胸の内だけで愛でていると、強い視線を感じると眉間に皺を寄せた彼女がまたみつめており、何事かと思っていれば「ほんと昔からズルい」と悔しそうにいわれてしまう。

「なにがだ」
「こういう時ばっか本当甘い、昔のポセイドンってもっとあたしに冷たかったのに」
「……当たり前だ、お前はそんなナリでも余の妻だからな」
「そのナリって」
「間抜けな顔をして軽薄な態度を取りながらも余だけしかみれない純情さを持っていることだ」

否定できないものの口に出されるとやはり恥ずかしくなり顔を俯かせる彼女の肩に手を回して抱き寄せてやれば体勢を崩した彼女がポセイドンの傍に来て、彼は顎を掴んで自分に向けると真っ赤に染まる彼女がしどろもどろな態度で戸惑っており、呆れてしまうほどに何年経とうと変わらないと思いつつ顔を寄せてみると唇が触れる直前にパチッと小さな静電気が触れて、ポセイドンは眉間に皺を寄せてみつめる。

「まだこんなくだらないもの(加護)があったか」
「あたしだって知らないよ!いきなりちゅーしようとするからじゃん!」
「では口付けてやるから妙なことをするな」
「それはそれで覚悟とか出来てなっ!!あっ!!」

小さな静電気で反抗するかのように処女神としての加護が発動してしまう彼女に呆れつつポセイドンが無理やりに唇を重ねると何だかんだと静かに受け止められものの、唇が離れると途端に彼の胸に顔を埋める彼女に全く雑魚だと思っていると彼の服の裾が掴まれる。

「……ポセぴのバカ」
「バカはお前だ、妙な呼び方をするな」
「じゃあ他の呼び方してあげようか、ダーリンとか?ハニーとか?」
「他の雑魚と同じような呼び方はやめろ」

ようやく黙るかと思えばすぐに元気になってしまう彼女に呆れていたところ、彼女がポセイドンの呼び方について彼の胸の内で悩んだ末に最終的にはあっ!と声を出すため、ろくでもないだろうと思い耳を傾けると彼女は恥ずかしそうにしつつもポセイドンをみて微笑んでいった。

「あなた……とか?」

その時、ポセイドンの城が揺れた、裏の海は突如大きな津波が起き始め、地面が揺れることに彼女はすぐに真顔で自分を抱きしめている夫が起こしていることだと気付いては「ちょ!ちょ!ポセイドン落ち着いて!変な呼び方してごめんって!」と騒ぎ立てるものの彼は普段ラフなルームウェアを着ている妻がそのワンピース型のルームウェアを着ている理由も理解しているため彼女を担ぐなりベッドへと投げ飛ばしては自らも上がった。

「あの?ポセイドンさん?すごい怖い顔してるし、なんかめっちゃ地震起きてるし、あっ!つなみけいほうでてる!!やばい!!それはさすがに収めて!あの!あーーちょっっ!!」

無言で自分に覆い被さる彼に言葉を飲み込まれた彼女はそのまま夜の中に声を消されてしまう。
そうして彼女が猛アタックをして捕まえた激ラブダーリンこと夫となるポセイドンという男─神─はどうやら相当彼女に夢中であり、夫としても完璧な神であるのだったとさ。

END

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