新しい家
いつも通りの朝だった。
テスラが目覚める時には大抵パートナーである、レディ・レジーナは早くから家事をしているため、テスラはパジャマ姿で廊下を出ては階段を降りるとダイニングテーブルには朝刊が置いてあった。
テスラはそれを片手に窓を開けると、心地よい天界の朝日が燦々と照らしており。窓から見える広い庭の家庭菜園をしていた小さな畑にはエプロン姿の一人の女性が朝から切磋琢磨に働いていた。
「おはようレディ」
「おはようございますテスラ様、すぐ朝食に致しますね」
かご編みの平ザルを持った彼女がテスラの声に眩い笑顔を見せて返事をするため、テスラは「ゆっくりでいいよ」と返事をしてはキッチンのコーヒーメーカーにマグカップを二つセットする間に、自分も用意をしようと顔を洗って、二階に上がって着替えをして戻る時には家に戻ってきたレディが朝食の用意をしていた。
テスラはネクタイを締めながら階段を降りてはレディを見ては、嬉しそうに頬を緩めて近づいては準備に忙しい彼女の腰に手を添えて額にキスをすると「まだ準備中ですよ」と笑って告げられることに「いい香りがするから」と答えてはコーヒーメーカーがすでに仕事を終えたのを確認して、二人分のコーヒーをそれぞれのコースターの上に置いて席に着く。
テーブルの上にはレディの手編みで作ったバスケットの中に焼きたてのパンが並んでおり。朝から豪勢といえるような量の食事が並んでいた。パンもサラダもヨーグルトもフルーツも卵もベーコンも一通り並んでいるが、当初のテスラは多くないか?と思ったもののレディは生粋の肉体労働派の人間であるために「身体が資本ですわ」というため、テスラは彼女との生活ではそれを食べるのが当たり前となった。
三食きっちりとした食事と休息も労働。
自分なりに健康を気にしていた生前だったが、テスラはレディとの生活の中で生前に彼女がいればあと百年は健康に生きられたかもしれないと思いつつ、朝から焼きたてのバターロールを食べるとじゅわりと口に広がるバターの香りがテスラのニューロンを活性化させる。
「今日は一日、第二共同研究室で過ごすから、ランチやティータイムの誘いはそちらまで頼めるかな」
「もちろんでございます。私は午前は図書館へ行ってまいります。午後はポモナ様の果樹園にお呼ばれしておりますのでそちらにも行ってまいります」
互いの一日の予定を話をしつつ朝食を終えると二人で片付けを行い、身支度を整えてジャケットを羽織ったテスラは玄関先でレディと唇を重ねると短い挨拶と共にカバンを片手に出掛けていった。
朝の空気は心地よいものであり。
テスラは朝から満たされた空気の中でレジーナと出会った公園を通り過ぎて、いつものヴァルハラ人類研究所へと足を進めていた時、ちょうど公園の十字路となった道の右手側から見慣れた男がいた。
──エジソンである。
どうやら朝から欲しかった本を取りに開店前の本屋に行って、本を買ってきたらしく、嬉しそうに本を見せてきたことにテスラもなにやらと思いつつ、読み終えたから貸してくれといえば二つ返事の了承が来た。
「それにしても毎日通勤に時間がかかるだろ、いっその事二人で研究所の移住区に引っ越してきたらどうなんだ?」
「No.あそこは狭すぎてレディに合わないから却下だ」
「ベッドは二つはいらないから条件にはピッタリだ」
からかうようなエジソンの言葉に思わずテスラは困ったような顔をするが、エジソンはクスクスと笑いつつ、テスラが策士のように思考を張り巡らせて一つのベッドでレディと過ごしている事実を思った。
「でもレディの家も広くは無いんだろ?二人で住むにはいいかもしれないが、家庭持ちと言うなら考えるのもいいかもしれないぞ」
申請やらなんやらが面倒だけどな。とエジソンがいえばテスラは考えるような素振りを見せるため、年上として、そして既婚者であったゆえにエジソンは先輩風を吹かせては笑ったものの、その笑みは午後に終えることとなった。
十五時のベルの音はそれは魔法のベルのようだ。
学校のチャイムのように、聞こえてくると慌てて全員が手を止めて紅茶とお菓子の香りにつられて一箇所に集まる。
テスラがその日いる研究室のみの特権ともいわれており、当初はさすがにテスラだけには悪いとなったものが次第に全員分。となったレディにさすがに労力がかかることもあるとして、テスラの分のおまけ程度に留めるようにみんなが告げたため、いまや十五時のおやつは特別な権利者のみとなっていた。
「そういえばここ最近のスコーンの味がさらに良くなったように感じるが、レディは腕をまたまたあげたのかのぉ?」
「昨日食べたマカロンも完璧な味わいでしたし、その前に持ってきてくれたパンもお店レベルでしたね」
第二共同研究室までわざわざ足を伸ばしてきたガリレオや、作業の手を止めて嬉しそうに食すノーベルにレディはテスラの横で照れくさそうな顔をしつつも「オーブンが変わったからですかね」というため、新しく買ったのかとみんなが聞いた。特にエジソンは買うくらいなら自分が作ってやったのにと最新トースターの話を始めるため、レディは違うといった。
「お引越ししたんです」
──引っ越し。
二人はこの研究所から三十分ほど歩いた住宅地のレディが借りていた2LDKのアパートではなかったか?と思い出したあと、引っ越しとはまた何かと思うが、レディは西側の海沿いの離れた場所に住んでいるというため、一同は場所は理解できるが何故そんな場所に?とさらに疑問を感じつつ、テスラを見ると彼は静かに紅茶を飲みながら自身の研究の続きとしてノートを取っていた。
「もう二、三週間前くらいになりますでしょうか、素敵な場所なんですよ」
嬉しそうな顔をして話す彼女に引越しをしたなど聞いてもなかったと思うが、一同は西側の海沿いは基本的には住宅地や街からも反対だった。
ヴァルハラにおいて、基本的にみんな移住地は決められており。天界の人類管理を行っている管理者達に申請書や許可を貰わねばならないわけだが……と彼らは思っていればレディは「本当いきなりのことでしたから驚きましたわ」といい、テスラは「驚かせたかったんだ、いいだろう?」と仲睦まじく告げる為、周囲はざわつきながらレディに事の経緯の詳細を求めた。
それは数週間前のこと。
テスラは近頃帰りが少しだけ遅いことが多かった。
レディは研究が長引いているのだろうと思いつつ気にしなかったものの。
ある日の夕方。ちょうど出掛けていたレディといつもの公園で待ち合わせをして帰らないかとテスラが誘ったことにより、二人は帰り道を歩いていた。
レディは少しだけ用事に時間を取られてしまったもののテスラはベンチで鳩と戯れて待っており。テスラは合流すると彼女に今日は寄りたいところがあると告げるため、レディはもちろん二つ返事の了承をして、普段はあまり来ることのない道を長らく歩くと、西側の海が一望できる崖に来たかと思えば、そこには真っ白な壁に青い屋根をした一軒家と広い庭のある一軒家があった。
レディは誰かテスラの知人の家なのだろうかと思っていたが、彼女の手を取ったテスラは夕焼けの中で彼女を連れて家の前に行くとポケットから二つの鍵を取り出した。
家の前のポストには「ニコラ・テスラ」「レディ・レジーナ」という名前が書いてあることに気づいて彼女が驚く間にテスラは彼女の手に一本の鍵を握らせた。
「私たちの新たな一歩として用意してみたがどうだろうか?」
「どういうことですか」
「ここを我々の新たな家にしようレジーナ」
「そんな……こんな素敵な場所を?そんな私にはもったいないですわ、今の家で私は十分」
あぁ通うということですね。とレディは慌てふためいたあと納得する頃、海風が二人の頬を撫で、テスラは彼女の手を強く握り直した。
まるで夕焼けのような情熱をその瞳に宿したテスラは告げる。
「君と私の家だ、ここを拠点として生活するのはどうだろうか」
キッチンが狭く、オーブンも古いと言ってた、それに家庭菜園も今のベランダや窓際だけじゃなく、しっかりと小さな畑を持って本格的にできるし、育てたい花も問題ないだろう。
と、テスラがいうことにレディは驚いてしまいながらも、それが自分と彼が共に生活するために用意してくれたものだと感じては、やはり驚きを隠せなかった。
研究室は地下に別で作っているし、書庫も用意できる。二人で住むには大きいかもしれないがゆとりがあるに越したことはないだろうとテスラは熱心に語るとき、空は太陽を完全に隠して、夜へと変わると、天界の空は地上以上に星々の煌めきをみせており。その光に反射した海はスパンコールを散りばめたように美しく、テスラはレディの両手をぎゅっと強く握る時、レディは「光栄です」と返事をしたのだった。
「距離は以前と比べて少しだけありますが、本当に素敵なご自宅なんですよ」
地下付き二階建てで崖の上のため周囲に家はなく。元々は森であったが千年ほど前に別の者が住むために家が建っていたが前の持ち主はテスラに譲ってくれたのだという。
「ベッドは?」
「前の持ち主様がキングサイズのベッドを贈呈くださいまして、今はそこで寝ております」
「寝室はまた一緒なんだ」
キュリーの言葉にレディは広くなって満足と言いたげな顔をしてゆっくり過ごしていたが時計を見るなり顔色を変えた。
何せ午後からはポモナ神の果樹園で果物をを摘む手伝いをする約束をしており。お礼に果物をいくつかあげるとまで言われていたが、果実の女神なだけあり、やはり天界屈指の瑞々しさと甘さのある果物はテスラの好物の一つともなっていたため、レディは決してその約束は無下にできないとして後の片付けは彼らに任せるため、テスラに荷物は持ち帰ってきてもらうように告げて慌てて出ていったのだった。
そうしてほとんどいつものメンバーで残されてしまうと、彼らは一斉にテスラを見たが、テスラは羽根ペンを胸に戻してはノートに書ききった数式に間違いはないと気持ちよさそうな顔をしていたが、それどころじゃないだろうと思った。
「テスラ、お前さっきの話は本当か?引っ越したって」
「ん?あぁちょうどいい物件が見つかって、元の持ち主も手放そうとしていたから手続きはとても楽だったから安心してくれていい」
エジソンは異様に震えていた。怒りに似たいつものようなものだが、何事かと思っていたがほかのメンバーもわなわなと震えていた。
何せ近頃テスラの個人研究室には普段は来ることのない建築の天才やら、家具のアーティストなどがきており、特に交友関係として深いエジソンはテスラが近頃建築についての相談を受けたことにより、なにか新しい依頼でも受けたのか?と思って答えてやってた次第だった。
「テスラさんからダイナマイトでも耐えられる素材の相談を受けていたのですが」
ノーベルが告げた。
「ワシはここいらで一番綺麗な星が見える場所を聞かれたぞ」
ガリレオが言った。
「そんなものじゃない、私はこいつにコンクリート製の家から元助手の建築士の紹介を任されたりしたぞ!!」
そう叫んだのはエジソンだったが、テスラは何も悪いことはしていないというような顔をして、何かと彼らをみつめるが、彼らはついにそんなことをしたのかと呆れて声も出そうにないと思っていたが、テスラは彼らに「勘違いしないでくれ」と一言断りを入れた。
「レディの自宅は素晴らしいが狭かった、騒音の可能性について以前から懸念していた、ここのラボだけじゃなくてもう少し広い自宅にラボを持ちたかったこともあるし、場所的にも悪くはない」
何も問題ないはずだとテスラは必死に言うものの、それはどこか言い訳じみても聞こえてしまうのは、それならこの近くでいいじゃないかといえるからだ。
それもレディの話では彼女の生活のためという部分が大きくも感じられた一同は真剣な顔をしていた
キュリーは「そういえばあの子、夕日の見える場所に住んでみたいって」ニュートンは「青い屋根の白い家がいいと」アインシュタインは「少し街から離れた場所で畑を持ちたいとか」
……と、口を揃えて言ったあとテスラを見る眼差しが増えるため、テスラは「助手のためだ!!助手が快適に生活を出来るようにするのも私の役目だ!」と声を張り上げては隣のエジソンの皿の上にあったマドレーヌを掴んで口に放り込むと、テスラはすぐに研究に戻るため、一同は椅子に座ったままいった。
「「助手には家買ったりなんてしないだろ」」
冷静なツッコミはテスラには入ってこなかったのだった。
そうして一日を終えて帰ってきたテスラは自宅に帰り挨拶をすると返事はなく、電気は着いているが人の気配もないため、もしや?と思い家の裏に行くと、海を眺めるレジーナがスカートの裾を揺らしながら立っていた。
「ただいまレディ、なにか見えるのかい」
「おかえりなさいテスラ様、いえ……綺麗だと思って少し見ておりましたの」
カモメの番が遠くで飛んでいるのをみる彼女は引っ越しをしてから毎日海を眺めており。純粋に昔から好きだと言っていたことを思い出しつつ、冷えるから入ろうと告げて家に戻り。二人は夕食を共にして風呂も二人で入って、広くなったはずの家の中でも常に同じ部屋で過ごしており。広くなったというのに以前の生活とは変わらず。
大きなベッドの中でもテスラは相変わらず彼女を強く抱き締めて髪を撫でると、テスラの胸に抱かれた彼女は眠気と戦いつつも起きているのを見て微笑ましそうに眺めた。
「レジーナ、この家には慣れただろうか?不満はないかい?」
「はい、とても素敵です。不満もないですわ」
ふわふわとした声で返事をする彼女に安心するとレディはテスラを抱きしめる手に力を入れて、ますます二人は広いベッドで密室する。
「あなたが隣にいてくれたら、家が小さくても、屋根がなくてもいいのですから」
そういって子供を慰める母のように笑った彼女にテスラはこの家を手にして、立て直しまでしたことはそれなりに手続として面倒だったことを自分の中でだけ思いつつ強く抱き締めた。
「私も君がいたらどんなところも都だよ」
けれどせっかくなら喜ぶ姿や色んな姿を見たいから。と付け足すテスラに全く困った人だと思いつつ、レディは心底嬉しそうにヴァルハラでの新たな家については深くは言及しない。
たとえ広さも身なりもなんだってテスラがいれば関係はないものの、それでも彼が用意したその場所は幸せ以外の何物でもないから。彼本人の温もりと愛に溢れた海沿いの白い家でニコラ・テスラの温もりと優しさと愛を感じつつ、レディは目を瞑り。二人は深い夢に落ちたのだった。
2026.6.24
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