闇で光で復讐者にて


ニューヨークの特異点から戻ってきて数ヶ月、テスラからの一方的な違法マスター契約をさせられたエクレールは結局彼の所業に振り回されつつも諦めて。カルデアのスタッフの一人であり、ニコラ・テスラのマスターであり助手という立場に落ち着いた。

マスターになったからといっても彼女は藤丸立香のようなマスターではない。生い立ちはもちろん、元々スタッフであった彼女に戦場という名の現場経験はなく、あの若いマスターのようには残念ながら強くはなれず。カルデアとの契約から、彼女はあくまでも魔力供給はテスラを繋ぐためのマスターとしてだけで、テスラも必要があればカルデアの指示に従い素材集めの周回などを手伝うこととなった。

契約先が変わったというのが今の簡単な関係性の変化であるが、もう一つ変わったとすればあのニューヨークの一件から二人の関係は恋人のようなものだった。素直になれずに恋人と言えないテスラとそれを理解して受け入れるエクレールは周囲からみれば立派な恋人関係であり、彼らも自分達からは言わないもののそれを認めてはいた。

そんなある日のこと、彼女は新しい英霊召喚の席に立ち会っていた。
召喚のために必要な聖晶石が溜まっていたことや、今日は誰か呼べそうな気がする。という謎の勘を働かせて昼食の席で偶然同じ席になったエクレールは「じゃあ私も立ち会うね」と返事をするのはカルデアのサーヴァント記録係の一人ゆえに当然のことだった。
仮にサーヴァントが喚べなくても記録はつけなければならず、彼の勘も中々に優れたものであるため、もしかすると。と彼女は思いながらランチのロコモコ丼を食べては念の為、昼からは召喚の手伝いに行くとテスラに一声かけて召還室に同伴した。

広々とした部屋の中に魔法陣や観測機など様々なものが並んでいる。
召喚の為には安全のためにスタッフ達も召喚室に集まり、それぞれ緊張した面持ちとなる。サーヴァントとの新規契約の確率は非常に低いが万が一にも来た際には緊張感が走る。
カルデアの召喚システムとして、縁があり、その上で互いに同意しなければ契約は完了しないという聖杯戦争の召喚システムよりも安全かつ人道的であるため安心だが、彼女は藤丸立香の後ろでマシュ・キリエライトと「どんな人が来るだろうね」とサーヴァントの記録を残すタブレットを片手に話をした。

「じゃあ始めます」

召喚用の媒体となる聖晶石三つを決まった場所へ置いて、召喚用の魔法陣の前に立つ藤丸立香は令呪を宿したその手を掲げて詠唱を始める。
告げる── と静かに彼の声が響くと、明るい部屋から電気が落ちて魔法陣に光が宿る。神秘的な青白い光が部屋の中を覆うようにして最後の言葉を告げると三本の強い光が部屋の中に流れた。

概念礼装ではなく、サーヴァントの反応だと思う時、エクレールは手元のタブレットの魔力反応や波形からみて、そのクラスが"アヴェンジャー"であると思うやいなや、部屋の中の灯りが赤黒いものに変わる。異様な空気と室内であるのに雷鳴が鳴ったのを聞くと緊張感を感じる。

召喚機から眩い光と共に時空が裂けるかの如く室内に雷霆が落ちると共に黒い空気を纏いし英霊が一人そこにいた。

「……ウソ」

そう呟いたのはエクレールで思わず足に力が入る。
現れた黒いスリーピーススーツを着た一人の男は名乗りをあげた。

「アヴェンジャー、ニコラ・テスラ、堕ちた天才だ」

低いその声を聞き間違えることはない。
癖のあるブルネットに毛先は出力が落ちたような落ち着いたネオンブルー、スーツがよく似合う体躯の良さに、伏し目がちなその瞳が召喚したはずのマスターではなく、その背後のエクレールに向くと彼はその哀愁を含んだ空気を少し和らげた。

「少年よ!先程の雷霆はなんだ!過剰な電気エネルギーと私の助手への危機を察知したのだ……が」
「は、博士……」
「ン?なんだエクレール・アヴニール」

あなたじゃ……ないです。とエクレールが呟いた。
明かりの戻った召還室のドアをこじ開けるようにして現れたのは強い電力と、自分の助手につけたバイタル管理などをしているラピスラズリのブレスレットから違和感を検知したからで、アーチャーニコラ・テスラは目の前の前の光景にそれはもう彼の好敵手が見た時には笑ってしまうような間抜けな顔をした。

しかし、今ニコラ・テスラの前に見える光景は、黒いスーツを身にまとった自分にそっくりな男……いや、自分自身だと彼は嫌でも理解してしまう。英霊というのはクラス適性があればそのクラスで同じ人物が現れるのは当たり前のこととなっていた。
アーサー王やエリザベート・バートリーなど、代表例をあげると意外にも数が多い上に、実際問題並ばれてしまうと困惑さえ覚えるようなものだが、ニコラ・テスラは目の前に自分の姿があることはまだよかった。

それ以上に問題なのは、その自分が誰であるのか、そしてその自分が今何をしているのか。ということが重要であった。

アヴェンジャークラスのニコラ・テスラは数ヶ月前に問題を起こした元凶だった。
かつて観測者・アヴニールを殺してしまい、その世界を守る為にと別世界のエクレールを誘拐し、あまつことさえ彼女を道具として利用してカルデアに負かされた事件の犯人だったのだ。愛する人を失ったゆえに狂わされた男がアヴェンジャーになるというのは当然のことであるが、人間であったはずの彼も聖杯に見定められ英霊の座にニコラ・テスラの側面として登録されてしまったのだろう。

そして愛する人を失い。
喪服として着ていた黒いスーツを着たアヴェンジャーのニコラ・テスラは今現在召喚されて早々にエクレールを強く抱き締めていた。

現場に居合わせているスタッフ一同、マスター藤丸立香やマシュでさえ、これは修羅場……と嫌な予感をするのも束の間、アーチャーのテスラはあからさまに怒りを抱いた顔をしてバチバチと電流による火花を散らして、その長い足を進めては二人に近づいた。

「これはどういうことだ、我が助手よ、説明してくれ」
「えっと、藤丸くんの召喚でどうやらアヴェンジャークラスの博士が来てくれたみたい、です?」
「何故その私に抱き締められている」
「再会の抱擁だ、愛する人に会えたのだからするのは当然だろう」

そうだろうエクレールくん。と彼女を抱きしめているアヴェンジャーのニコラ・テスラは召喚早々に彼女を視界に入れるなり、それは磁石が惹かれるかのように真っ直ぐと歩き進めて、彼女の左手を取ると、アーチャーテスラのために存在する令呪の上にキスをした。

「久しぶりだエクレール・アヴニール、以前は君にとてつもない恐怖心を味わせてしまった。それを深く謝罪しよう。そしてこのカルデアに来た以上、私はこの漆黒の雷霆で君を守ると誓おう」
「え……ぁ、はっ博士?ニコラ・テスラ博士?」
「フッそうだ、君の博士だ、そして君を守る男だ」

存分に使うといい。と華麗に挨拶を済ませて手を引くと、その胸に抱き寄せたアヴェンジャーニコラ・テスラに丁度アーチャーのニコラ・テスラが現れたのだった。

そもそも相性はエジソンとテスラとはまた違う形でよくないだろうと思った。
思考というよりも、エクレールに対することにだが。
実際現在その予想通りとなり、召還室の中ではニコラ・テスラ達が啀み合い、それに挟まれているエクレールは非常に困惑していた。

「彼女は私のマスターだ!もう一人の私は少年に…いや、カルデアとの契約だろう、馴れ馴れしすぎる」
「馴れ馴れしいとは失敬な。私の契約先がどうであれ守りたいと思う気持ちに偽りはない。自分の助手……いや、大切な女性に対する思いなのだから構わないだろう?」
「なに?貴様は恋人がいただろう!」
「それは過去のこと、私は未来を進む男だ。そして私の未来(アヴニール)は現在エクレールだ」

左右から引っ張り合われるエクレールは思考停止してしまいそうだった。
アヴェンジャーのニコラ・テスラとして来た彼はニューヨークの特異点にて彼女を誘拐し、そして彼の世界を救うためのパーツにしようとして失敗した。そしてそうしようとした理由は彼が愛した人を失い、その結果世界が崩壊へと向かうのを食い止めるためだった。

アーチャーのニコラ・テスラからしてみれば自分自身でありながらも未来への歩みを止めた存在であり、そして何よりも目の前の黒い自分は最愛たる助手を抱きしめては簡単に愛を告げるものだから気に入らないことこの上ない。

バチバチと青と赤、白と黒の火花がチリチリと散っては召喚室の電気系統が悲鳴をあげていることに管理していた他スタッフから悲鳴が上がり、ハッとしたエクレールはとにかく喧嘩はやめて落ち着いて欲しいと宥めると二人は周囲を見ては一度冷静になろうとするが、互いの間にいるエクレールの肩にそれぞれ手を置いては自分の方へと引こうとするため彼女の身体が揺れる。

「とはいえ彼女はここでは私の助手であり、マスターだ、同じ私でも貴様は少年の指示に従い精々周回要員として励むがいいさ」
「確かに少年は私のマスターだ、だがしかしスタッフである彼女を守るのもサーヴァントの使命だろう。それにマスター契約を移し替えることくらい私とて知らないわけではない」
「奇跡を起こす力があるとでも?」
「自分にあるものが、もう一人の自分に無いとでも?」

騒がしく言い合う二人を放置してエクレールは手元のタブレットで現れたばかりのアヴェンジャーニコラ・テスラのパラメータを確認し、情報を入力確認していく中で「確かに博士と同じスキル持ちですね、それもスキル1にある」と彼女が確認すると黒いニコラ・テスラは普段エジソンを煽る時にみせるような不敵な笑みを自分自身に向けては彼女を強く抱き寄せた。

「アヴェンジャーのクラスは特に執着が強い。つまり私が彼女をマスターにするということもやぶさかでは無い。それにエクレール……君も私に守られるのは嫌ではないだろう?」
「……は、博士」
「博士は私だ!そいつはただのニコラ・テスラ!!エクレール、君は私だけの助手だ、いくら私の顔が美しくとも簡単に見惚れるのは許可しない!」

──醜い嫉妬だ。
──なんだと?黒い私。

いつになったらなりやむのか分からない雷鳴のような二人の言い合いは激しさを増すばかりで、召喚を済ませた藤丸とその隣に立つマシュは困ったような顔をしつつも助けを求めても無理だと言いたげな顔をする。

無理もない、ニコラ・テスラはエクレールに対してだけは異様な程の行動力があるのだから。

そうして誰も助けられないと憐れみつつもその惨劇を面白おかしくみていれば、次第にエクレールを奪い合う様子は激しくなり、その内に彼女の手を掴んだ二人はまるでひとつのオモチャを奪い合うようになった。
左右に大きく揺らされて、声を張り上げてどちらが彼女を隣に置くかと美形の男二人が言い合う姿は少女漫画チックだった。
周囲はそれを面白おかしく見ているゆえにエクレールがいつもの様に「もう博士!私のために喧嘩しないでください!」いうのだろうかと予想していたが、流石に長引いてきたことや、頭上で言い合う二人に彼女が明らかに苛立ちを感じた顔をする。

「エクレール、君からもいいたまえ。君は私の助手だと!同じ私でもこのアーチャークラスの私だけが君のパートナーであると!」
「エクレール、君から言ってもいい。君は私のパートナーだと、そこにはマスターやサーヴァントではない、特別な絆があると」

なにおう!!と声を重ねていがみ合う二人にエクレールはついに口を開く。
何を言うのかと周囲が期待する時、それは二人を黙らせるのには十分なものだった。

「お二人がどのような考えをしてるかは知りませんけど、これ以上引っ張りったり喧嘩が続くなら、私はエジソンさんのところに行きます」
「「なっっっ!!」」
「博士たちが仲良くしなかったり喧嘩をするなら私は助手を辞めます、分かりますね?これは脅しじゃありません。カルデアにいる以上私ではなく本来の職務を全うしてください!」

でないとエジソンさんのところに面接に行きます。と静かに宣告する彼女は先程から引っ張られては手首も痛いし、仕事も進まないのだと不満が重なっていた。
力が抜けた二人に彼女は大きく息を吐き出しては歩き出して藤丸にタブレットを渡して、最低限のデータ入力はしたため、個人的な質問がある場合はそこに記載の上、ちゃんとカルデアとの契約書にサインを貰うように告げて召喚室を後にしてしまう。

召喚室の中央で残された二人の男たちは顔を見合うなり少しの間を開けてから飛び出した。

そこにはアーチャーとしての威厳ある姿も、アヴェンジャーとしての復讐に身を燃やした姿でもなく、ただのニコラ・テスラだけがいた。

「「あの男だけはダメだ!!」」

全く同じ言葉をいいながら駆けていく姿はやはり同一人物なのだと思いつつ、残されたマスターである藤丸少年はこれはまた大変なことになりそうだと苦笑いをしてタブレットをみては「あ」と声を漏らした。

ニコラ・テスラ
クラス:アヴェンジャー
別世界の偉大なる天才科学者
愛した人と人類の為に罪を被った"人"
弓の姿とは違うが根本的には同じ人類愛の強い博士
弓の自分とも科学的な話は合うため相性はいい
一部人物にのみ強い執着がある為、気をつけねばならない

新しいサーヴァントのプロフィール欄にそう記載された文字はたった数十分でも随分と知ったような書き方に微笑ましさを感じる。
これからの様子には少しだけ彼女は苦労するかもしれないが、カルデアは今日も安泰だと少年は思いつつ、新しい契約を祝うのだった。

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