※俺たち…とは繋がってない別話


年老いてもずっと笑って過ごせる
若い頃の自分はそう思っていた、現実なんて厳しくて悲しくて悲惨なものだ、どんなに想い合って結婚しても現実私達は口も聞かなければ目も合わせない夫婦になった
どうせ向こうは何わかっていない、何が原因か覚えていない

「ただいま」

その言葉を聞いたら少しだけ安心して寝室に行く
顔を合わせたら多分泣きそうだった、もう何年触れていないだろう、もう何年キスをしていないだろう、もう何年一方通行の業務連絡を受けているのだろう、最初は小さな喧嘩だった物が大きく膨らんで意地になっていたものがいつしかそれさえ忘れて、私たちはそういう関係だった…と言わしめるようだ
それでも律儀に誕生日プレゼントや記念日のプレゼントだけはまるでサンタのようにひっそりと渡した、それだけが私たちの繋がりでギリギリ愛し合ってる証拠になっていたのかもしれなかった

そんな中後輩から一通の手紙が届いたご丁寧に三井寿・三井ナマエ様へと記載されている
シンプルなそれは結婚式の招待状だった、大学は別だったが高校は一緒だ
互いの後輩のため邪険には出来なかった、けれどどうしたらいいのか寿くんに声をかければいいのかどうかも分からなかった

「ただいま……ってなんだよ」
「…出しといて」

今年初めてかもしれない会話だというのに本当に可愛くない女だと自分を罵った、寿くんを前にすると素っ気ない態度が出てしまう、そして彼はそれに対して喧嘩腰に受けてとる
手元に残された手紙を何度か読み直した寿くんはそのまま夕飯を食べ始める、結果はどうあれどうせ手紙は出してくれたんだろうな…と彼の考えを察する

"出席にした"

案の定彼は予想通りの連絡を寄越してきた10月17日11時〜と律儀に教えてくれる彼にあぁ久しぶりに参列するからドレスどうしよう。なんて考えた
どうせ何も無い…なにも…多分…
結婚式前夜風呂場で1人剃刀を片手に全身の毛を剃った、手足も項も背中も手の届く範囲全てを、こんなことをしてるのは到底私だけで花嫁だって多分してないだろうな。なんて思った
22時過ぎ寿くんが帰宅した、多分飲み会の帰り、本人は気付いてないけど女の匂いがしていたけど怖くて何も聞けなかった多分一線は超えてない…というのが私の願望だった

「明日車で行くか」

寝る直前寿くんがそういった、お酒が飲めないということだろう私も飲まないでおこう、明日のお祝い上手く笑えるかな…なんて思いながら眠りにつく
今日も隣には体温がない、冷たくて寒くて広いベッドだった
翌朝早くから着替えとメイクをして近くの美容室に髪の毛のセットをしてもらい家に戻る、そこにはいつもとは違う結婚式に参列するためのスーツをした寿くんがいた、じっ…と見つめたら彼はぷいっもそっぽをむいた、どうせそんなもんだ
車の中でくらい何か話ができるかと期待した私が悪かった

「先輩来てくれてありがとうございます!」
「おう、お前も結婚かぁ」
「三井先輩のとこは結婚して長いですもんね」
「…まぁ、な」

円満じゃないなんて言えっこない、適当に会話に相槌をしても私たちに会話はない、そろそろ式が始まる頃になり参列席に戻り2人で隣同士に座った
少し年下の可愛い奥さんを貰った後輩は嬉しそうな顔でバージンロードを歩く姿を潤んだ瞳で見つめていた
懐かしいな私達もこうやって結婚式をしていた、あの時はドアが開いた途端もう寿くんは涙を溜めていて皆にからかわれていたっけ

「ねぇ泣きすぎだよ」
「仕方ねぇだろ…お前が綺麗だから」
「あーぁ泣き虫な旦那さんゲットしたなぁ」
「せぇな」

そんな会話をしていた、真っ白のタキシードがすごく似合っていて寿くんは本当にかっこよかった
初めて見かけた頃彼はまだ不良で色んな人と喧嘩をするような怖い人だった、そんな人と結婚するなんて思いもよらなかった

「好きだ」

まっすぐとそう言ってくれる彼の目が好きで、告白に頷いた、馬鹿じゃないからこの人が私を好きなことも薄々気付いていた
たくさん2人でデートをした、旅行もした、色んなことをした、幸せだった、それでも私の指には指輪がなかった

「それでは指輪を…」

神父の声に立ち上がって小走りで式場を出た
私達の中に亀裂が生じたのはあの日だった
朝からどこを探しても指輪が見つからなかった、その指輪は初めて寿くんがくれたものだった、安い決して高価とは言えない代物だった、それでもそれが何よりも大切な結婚指輪だった

「寿くんも探してよ!」

家の中を探しても見つからないそれに苛立って寿くんに怒鳴りつけた
正直もう3日も探していた、見つからないものだとわかっているのにそう思えば思うだけ意地になって家の中をめちゃくちゃにした、それこそもう壁紙まで剥がす勢いだった
めっきり疲れきった寿くんは悪気もなく慰めの言葉を放った

「指輪くらい買ってやるからそう騒ぐなよ」
「指輪くらいって何それ、寿くんがくれたものでしょ」
「だからあんな安いのもういいだろうが、また買い直したらいいだろ」
「値段とかじゃないの!大事にしてたの」
「じゃあ無くすなよ!!」
「そんなの……ッもういい、その指輪貸してよ」
「ンだよ」
「つけないで」

最悪の記憶だった
あの日から私たちの関係は冷戦状態、何をどう足掻いても上手くいかず結局苛立ちが募る日々が続き指輪に無頓着な彼は喧嘩をした翌日から帰ってくるのが遅くなり、その割には体を求めてこようと擦り寄ってきた
それが尚のこと腹に立って冷たく触らないでよ。といってしまえばあの人もゆっくりとこの喧嘩を長引かせた
そして気付けばもう10年近く致していなかった、手を繋ぐこともキスすることも無くなった、よくこれで結婚生活が形だけとはいえ続いているなんて感心してしまった、所詮紙の上の関係だ
もう一度書き直せば私たちは他人に戻る

「大丈夫?」
「あっ、来てたんだ」
「いや俺は多分違うとこだよ」

会場の外に出てホテルのロビーの来客席に座っていれば頬に冷たいものが当てられて顔をあげれば同級生がいた、彼は別の人の結婚式に来ているのだという
自分と同じクラスでそれなりによく話していた、まさかこんなところで再会するとは…と驚いて昔の話に花を咲かせた

「ミョウジ…じゃなくて今は三井か」
「もう10年以上だけどね」
「あいつが羨ましいよ」
「そう?そんなにだと思うよ」
「いや、俺はずっとナマエのこといいなって思ってたから」

ごめんなさい、少しだけ心が揺らいだ
もしお酒を飲んでいたら、ここがお酒の席なら私彼について行ったかもしれない

「戻るね」

嫌な気持ちばかり、本当にそういう甘い言葉を発して欲しい相手はいつだって彼だった
なのにその言葉を言ってはくれない、ただ何かきっかけがあれば私達は変われるのに1歩を踏み出せないでいる
結婚式の席に戻って横目に寿くんをみれば無表情だった、私が今同級生に口説かれたよ…なんていってもどうでもいいんだろうな
誓いのキスをするメインの二人を見た

「恥ずかしいよなぁ」
「ふふ、でもなんか結婚式!って感じだね」
「…俺でいいのかよ」
「俺だからいいんでしょ」

結婚式の事前練習でそういっていた記憶が蘇る、涙がこぼれたけどこの涙は後輩達の為のものだと言い訳ができるもので安心した
結局お酒を飲んだ、車だからという寿くんの言葉も主催者の代行を呼ぶからという言葉で消えていった、結局私たちはお酒に飲まれた

「大丈夫か」
「んー。へーき」
「弱いのに飲みすぎだろ」

手を引かれた何年ぶりに私たちは手を繋いでいるんだろう、大きな氷をゆっくりと溶かされている気分だった
2歩先を歩く彼の背中を見つめた、もうあとは帰るだけだ駅までもうすぐという時にカップルが嫌に多く見えてふと考えたらホテル街が近いんだと気付いた

「帰りたくない」

お酒に酔ってるの
無視されても良かった、寿くんは足を止めて振り返った、やっぱりかっこいいなって思った

「どうするんだ」

彼は冷静な顔でそういった



「えっちしよ」

私達もそろそろ許し逢おうよ
何年ぶりにこんな場所に来ただろうと考えてしまう、やけに胸がドキドキして堪らなかった、適当なホテルの自動扉が開いて先にいるカップルたちはもうその場でするんじゃないかってくらい盛り上がりながらエレベーターに向かっていくのに私たちはまるで別れ話をするカップルのように静かだった
それでも黙って"禁煙"と書かれた部屋を押してフロントの窓口から鍵が出される、もう一度手を握り直されたその手は熱かった
昔はエレベーターの中で堪らずにキスをしていた、抱き合っていたのにそんなことなんて無かったみたいに私達は手を握っていただけだった、音を立ててエレベーターが止まってドアが開けばそこはもう如何にもなアダルトな雰囲気を醸し出す廊下だった

403号室、それが私たちの決戦場だ
寿くんの高校の引退試合よりも緊張してきた、部屋に入ればベッドとソファとテーブルとテレビだけのシンプルなもので懐かしさを感じた
大学生時代私たちは実家暮らしだったからラブホテルによくいった
ドアを閉めた途端にキスをされるようなせっかちさはもう残っては無いらしい、少し残念だと思いながら痛かったパンプスを脱いでコートを掛ける
先にお風呂のお湯を張ってくれた寿くんが戻ってきてコートを脱いだ
私達は無言でソファに座った、1人分の隙間を開けて、スマホを触ったりどうでもいいフードメニューをみたりこのホテルの案内なんかを眺めていればあっという間にお湯は溜まったのか小さな音楽が流れた

「風呂入ってこいよ」
「うん」

一緒に入ろうって言えたら可愛いのにそんなことも言えない、服を全部脱いで風呂に入る体だけを丁寧に洗って、崩れたメイクももういいかな…って外してしまう、昔は彼の前でスッピンなんて有り得ないと思った
けど喧嘩が続いていたら綺麗にする努力も面倒くさくてそんな可愛げもどこかに落としてしまった、結局下着と部屋に備え付けられているバスローブを身につけて風呂場から出て声をかけようとした

「あがっ……」
「ん、あぁ」

寿くんはテレビを見てた、ホテルのテレビってのは所詮そういう大人の番組が流れているのだが寿くんは何を思っていたのだろうかちらりと見えた彼のそこは大きくなっていて、私じゃダメなのかもしれない…と今になって思った
酒に酔った勢いで10年も拒絶した女に誘われて出来るものなのか?そもそも彼は私に恋心をまだ抱いてくれてるのだろうか、そんな悩みが浮かんでは消える、テレビを消してスマホで検索をする
"レス 解消" "久しぶり H " "嫌いな人 セックス"
自分で検索しておきながら傷付いた、殆どいいことは書いていない、そもそも私たちのセックスは20代前半で止まっている、30半ばじゃ全然違うはずだ、改めて自分の体をみてなんの魅力もないな…と唖然とする

「なんかあったか」
「え、ぁ、ううん」

ちょうど上がってきた寿くんは頭まで洗ったらしく髪を濡らして出てきた、腰にタオルをかけていてちらりと覗けばテレビを見てた時のような膨らみはない
無言だった、隣に座られて何を話していいのか分からない、どうして喧嘩なんてしたんだろうと思えた

「無理にしなくていい」

1人分空いた席はあまりにも大きな私たちの心の溝のようだった
思わず寿くんの胸を叩いて押し倒した、こんなにヒステリックな私最低だと分かってる

「けど……けど…受け止めてよ」

誘うのがこんなに恥ずかしくて勇気のいる行為だと思わないから、今拒絶されたら全部消えてしまいそうだから、見下ろした寿くんは困った顔をして起き上がって抱き締めた

「触んなって言われてもやめねぇからな」

じとりと睨むように言われる、懐かしいないつもセックスする時そんな目をしていた、抱き上げられてベッドに寝かされる、重たいとかそういうのを言わせる間もなく軽々と運ばれてしまい彼が未だに体を鍛えていることが嫌という程分かってしまう

「やめないで」

蚊みたいな声だった
それでも彼は優しく微笑んでおでこにキスをしたあと唇にキスをした、何年ぶりかなこういうの熱くて恥ずかしくて愛おしくて胸が苦しくなる
寿くんの薄いけど大きな舌が私の口の中で暴れる、まるで食べられるんじゃないかと言うほどに貪られて何度か歯が当たった、バスローブの紐をゆっくりと解かれて彼に久しぶりに下着姿を晒す

「この下着ってそういうつもりで着てたのかよ」
「違うし」
「残念」

ふっ、て笑う彼はやっぱりカッコよかった
そしてごめん、嘘ついた…ワンチャン狙った、寿くんが好きそうなパステルブルーの淡い下着はこの歳にしては甘すぎるんじゃないかってくらい可愛いデザインだった、フリルとかチャームとか好きじゃないけど寿くんは気に入ったのか指先で遊んでいた

「これいいな、気に入ったまた着てくれよ」
「またみてくれるの?」
「みせてくれねぇの?」
「…気が向いたらね」
「その気にさせてやるさ」

それだけの事、本当にただ私たちは触れ合ってるだけなのに自然と涙が溢れてきた、結婚式なんかより全然愛おしくて重たくて幸せだと思った

「あっおい、やっぱ…嫌だったか」

寿くんは酷く焦った顔でそういった、そうじゃないと首を横に振るのが精一杯で情けない自分の顔が見られたくなくて思わず手で顔を隠したのに彼は直ぐにその手を退けて顔を見てくる、すっぴん三十路の泣き顔なんてみないでよ

「ちが…嬉しくって」

だからどうにか私は声を出した、こんなに好きな人に触れられることが幸せだと思わなかった、まだセックスもしてないのに本当に笑いながらどうでもいい会話をしているだけなのに
そしたら寿くんは私にキスをした、ちゅって高い音を奏でて

「俺も今嬉しいよ」

ずるい
かっこよくて、優しくて、馬鹿で、意地悪で、誰よりも好きだと思えた、彼の指にはあの日の指輪はなかった
それがまた少し寂しいような気もして彼の頭を掴んで胸に抱き寄せる

「もうシたい」
「…あのなぁ」

呆れたような嬉しそうな顔、少しため息をついてまたキスをされる、私たちの10年を埋めていくキスが気持ちよかった
ブラジャー越しに胸に触れられて、彼の手が大きいことを感じた、ブラを少しずり下げて胸に触るものだからお気に入りになったこれをまだ痛めたくはなくて背中を上げてホックを外してベッドの外に落とした
電気を消すのも、部屋に流れるよく分からない洋楽を消すのも忘れてた、寿くんは私の胸に吸い付いた赤子のように胸に顔を埋めて形を変えていく、気持ちいいというか触られてるなぁ…なんていう感覚、それでも愛おしさが募っていく、ふと彼の右手が太ももを撫でて降りていこうとするのを感じて慌てて止める

「あのさ寿くん」
「ン?」
「私がシたい」

そういえば驚いた顔をしていいよと返事が来た、ベッドの上にある大きなクッションに背中を預けた寿くんは長い足を伸ばしてまるでマッサージを受ける人みたいなポーズだった
改めてテントの張ったそれをみてごくりと唾を飲み込めば「エロい女」なんてからかい混じりの言葉が聞こえた、タオルを外せば先走りがダラダラになったソレがあった、血管が少し浮いていて赤黒くて皮の剥けきったそれがいやらしく部屋のオレンジライトに照らされて私は自分のお股のところがぎゅうっと締まるような感覚を感じていた
1.2回しかしたことのないフェラは気持ち良さよりも眼福だと過去のこの人は言っていた、暗に言えば下手ということだったのだろう

「おぉーすっげ」

ちゅうっと彼の先端にキスをしたあと口いっぱいに頬張ればなんかおじさん臭い台詞が聞こえた、正直欲求不満な時期は何度もあった
特に女は生理の前後になるとホルモンバランスの関係でそういう欲が増す場合も勿論あって、私はそういうときにスマホで眺めた、小さな画面の中で性行為をする男女
フェラをする女性を何度も見た、だからそういうのの真似をしてみた、何度か頭を前後にしたあと疲れてきたら離してキャンディみたいに舐めていたでっかくて雄臭いこれを早く私のナカに入れて欲しかった

「なんかエロくなったよな、俺以外と寝てたか」
「んっ、なわけない、じゃん」
「ハァッ…だよな、じゃあなんで上手くなってんだよ」
「……勉強した」
「どこでだよ」

無駄な会話も多くてそれがまた私たちの新しいセックスのようで面白かった、若い頃は欲に濡れていて会話も何も無くベッドになだれ込んで終わったあと2人で飲み物を飲んでようやく会話をするくらいだった、互いに大人になって余裕が出来たんだろうな

「ふまほっ」
「おッッ…やべっ」

眉間に寄った皺がエロいなぁ、AVの人みたいに玉を食べてやった寿くんって少しばかりMっぽいから喜びそうだなと思えば案の定だった、少し足があがったのを見逃さない
片手で玉を優しく触れてもう片手で根元をシコシコと扱いて先端に早く出してと願うようにジュッジュッと下品な音が経つほど絞っていた

「まじっ、やべぇって…ナマエ、やめろって、ぁッッッく!」
「んッ」

音が立つくらい濃いそれが出てきた、口の中に広がる苦くてまずいなんとも形容しづらい味に驚いて飲み込んでしまう、慌てて寿くんがティッシュをもって来てもらったが思わず目を見れば

「おま…まじか」

というものだから引かれた、これはやっちゃった…AVの見すぎだと自分で反省したが寿くんはすけべな笑顔で

「エロくなりやがって」

といった、ベッドのすぐ側にあった冷蔵庫からサービスの水を飲んでから彼をみつめる
筋肉質な体はスポーツマンらしくて、整った顔は歳をとっても変わらない、意外と童顔なせいか彼は若く見えるし体のせいかかっこよくて見惚れてたら気付かれてしまった

「今度は俺の番だよな」
「いいよ、別に」
「触られたくないか?」
「そんなわけないよ」

ずっと触って欲しかった、沢山気持ちよくして欲しかった、寂しい夜を慰めて欲しかった、ずるい言い方しないでほしい
私の言葉を聞いて安心したような顔をする寿くんに心から好きだと思った、このままこの思いに溶かされて消えちゃいそうなほど
優しく寝かされて足を撫でられる、首元に顔を寄せられて軽く吸われる跡になってないといいけど年甲斐もないそんな行為さえ嬉しく感じた
下着の上から指が触れる、私だってわかってるもうそこがぐちゃぐちゃのドロドロで解さなくてもいいくらいだって

「俺の舐めて濡らしたのかよ」
「…だめ?」
「嬉しい」

ちゅうってキスをされる、下着を取り払われて指が私の毛を撫でて奥へと向かっていく、彼の指が汚れていくことが分かるけれど何も言わず彼は私の胸に顔を埋めて、私は小さく声を漏らした
表面をなぞるように撫でられて、早く欲しいと小さく足を開けば見上げてきた寿くんは小さく口角をあげた、いじわる

「んぅっ…ぁ」
「すげぇぐちゃぐちゃ、気持ちい?」
「…っうん、きもちい…ぃ、あ」

忘れてなんかないのか彼は私のいいとこばかりを責めてくる、1人でしても絶対に届かない場所を的確にトントンと撫でて彼の指がばらばらに私のナカを責める、グッと顔を寄せられて何度もキスをされて何度もイカされた、もうダメだからやめてと泣いても「かわいい」ってあんまり言わない言葉をいうから私は流された
もう何回目か分からないくらいイかされて、ぐったりとした頃にはシーツには水溜まりみたいな汚れがついていた、恥ずかしくてたまらない

「もうおしまいな」

まるで駄々をこねる子供にいうみたいに言わないでよ、私別に望んでなかったから。と目で訴えても知らないフリをされる
上体を起こして枕元にあるコンドームを取る寿くんの胸が眼前に晒される、鍛えられていて形のいい硬い胸だ、思わず手を伸ばせば

「うおっ!」

なんて驚いた声が聞こえてまた少し笑ってしまう、そういえば突然触れられるといつもこんな感じで驚いていた、そんなことまで忘れて私たちは何をしていたのだろうか

「ったく、手癖の悪い女だよ」

満更でもない君の顔が好きだ、ちゅっと優しく音を立てて私の頬にキスしてじゃれついた、その間にすんなりと付け終えたらしい彼が視線を合わせる、初めての頃はコンドームの付け方も全然分からなくて苦労したのに…全ての行動の過去を思い出す、それほどまであの日々に執着しているのか夢を見ているのか、分かりはしない
それでも今は

「いいか?」

私を熱い瞳でみつめて、どうしようもなく欲情した彼が愛おしくてたまらなかった
小さく首を振れば10年振りの熱がぎゅうっと押し込まれる、やっぱり久しぶりだったせいか痛かった、苦しくて重たくて少しだけ辛い、けれどそれ以上に幸せで涙がぼろぼろと溢れた
そんな私を見て寿くんは動かずにじっとみつめて抱きしめた

「やっぱりお前の涙に弱いよ」
「…ごめっ、すぐ止まるから」
「俺今幸せなんだけどナマエは」

私も幸せだよ、必死に言葉を紡いだ
彼は幸せそうに笑った、数分間私たちは何も言わず何もせず抱きしめ合った黙って溢れそうなほどの熱を失わないために抱きしめて手を繋いで互いの匂いと体温を確認した、ナカで少しだけ動いた熱が愛らしいと思えた

「……そろそろ動きたい」

やはり堪え性のないのは寿くんだった
からかう気は無い、私だってそのつもりだ、返事の代わりに彼の唇にキスをすればゆっくりと熱が動き出す、奥へ奥へと進められて規則正しくされるのが気持ちいい

「あぁっ、んっ、はぁ……んぅ」

私じゃないような高い甘い声が溢れた、最初の頃はこの声が恥ずかしかった、私のどこからこんな声が出るんだと思って恥ずかしくて声を抑えようとする度に彼は強く手を掴んで

「もっと聞かせろよ」

と今のように熱っぽい男の声で言うのだ、私はその度に彼を好きになっていった多分バレているがきゅうっと締まったと思う
それでも茶化さずに彼は何度も腰を振った、私も何度も声をあげた、彼の背中に腕を回して爪を立ててこれが10年分の時間を埋めるにしては優しくて少なくて足りなくて甘くて幸せだった

「好きだ、お前だけだ」
「っ、私だって…っふ、寿くんだけっぁ」
「好きって言えよ」
「ンっっすきっ、すきっ…っすきだよ」
「俺も愛してる」

ぎゅうっと強く抱きしめられて、要らないゴム越しに熱が注がれる
私達は愛し合った、10代の頃のように互いを求めた、少し違うのはそこには喧嘩終わりの優しい氷の溶けたようなぬくもりがあることだ
何度も求めて、果てて、互いの若さに笑った、2.3度と重ねた時ついに備え付けの避妊具がなくなってしまう、互いに試合をした時のような汗が全身から溢れる、私の上にいる寿くんの汗が落ちてくるのは不思議と不快に思わなかった

「今日は終わるか、それか…頼むか?」

女の子に聞くもんじゃないよ、女の子なんて歳じゃない私は恥ずかしさをどうにか押し込めたかった
1度額の汗を拭う彼の背中に足を伸ばして軽く横腹を撫でながらいう

「私は子供がいてもいいって思ってる」

そう言葉を零せば彼は本当間抜けな顔をした、口を大きく開けて目を見開いてもしかしたら向こうはそんなつもりないのかもしれないな…と今更思っていたら突然強く抱きしめられる、自分のガタイの良さを知らないから私は押しつぶされてしまいそうだった

「俺男3人がいいな」

いや、女の子もいいよなぁ…なんて小さく呟いていた、あっそういう感じなんだって思わず笑ってしまえば彼と目が合って互いにどちらともなくキスをした
あぁ幸せだな


あれから行為を何時間したのかは覚えていない、目を覚ました時に寿くんの声が聞こえて何事かと思えばフロントに宿泊に切り替えてもらったようだった
時刻はもう深夜で年甲斐もなくはしゃいだなぁと思いながら目を擦った時だった、何かが指に嵌っていた

「え」

無くしたはずの指輪だった、綺麗に輝く小さな石のついた紛れもなくあの日あの時無くした結婚指輪、同じ箇所に傷が入ってうち側には記念日が掘られているものだ

「…本当は見つかった、ベッドの下に落ちてたんだよ」
「どうして言わなかったの」
「"つけるな"って言われたから、返したくなかった、もし返しても付けて貰えなくなるのが怖かったんだよむ」

そんな事がないとは言えなかった、あの日の喧嘩は私たちに大きな溝を作ってしまったのだから、寿くんをみつめれば少し悲しそうな顔をしていた

「もう一度俺に誓わせてくれねぇか、病める時も健やかなる時もお前を守り通すって愛を誓わせてくれないか?」
「…私で…いいのかな」
「ナマエじゃなきゃダメなんだよ」

互いにラブホテルのベッドに正座をした、左手を伸ばせば彼の骨張った男臭い手が私の手を掴んであの日無くした指輪を嵌めた

「私も病める時も健やかなる時も愛し続けると誓わせてほしいの」
「あぁ俺以外なんて認めねぇよ」

あの日彼から奪った指輪を私は手放せずにいた、色気も何もかもほっぽり出して財布の中に入れていたお守り代わりの寿くんの結婚指輪を泣きながら彼の指に填める、ボロボロに泣く私を抱きしめた彼は「幸せにする」とあの日のようにいった
私たちの夜は長い、これから何度も過ごしていくのだろう。