薄暗く惨めな気持ちにまでさせてきそうな静かな牢の中、一日の労働を終えて与えられた充電スラブに寝そべり早々に明日になれと願うように意識を落とそうとした際彼はふと思い出す、自分の名を呼ぶ者の声と顔を
たかだか4.5年という彼の人生にとっては数秒程ともいえよう時間だがあの時だけは彼をただの荒んだレッカーズではなく少なからずまともにしようとしてくれた、眩い日差しが彼女のよく焼けた小麦色の肌を更に刺激してウェーブ掛かったカッパーオレンジの髪がきつい風に揺れる中彼女は満面の笑みを浮かべる
「飛んでっちゃいそう」
そういった彼女にそうだな。と返事をする
自分たちの1/10にも満たない綿毛のような体重なのだからそう思う他ないのに冗談だったらしい彼女は「飛ぶわけないだろっていわないんだね」という、答えがあるなら聞かなくていいだろうと思いながらも「重たいからか?」と冗談を返せば頬を膨らませた彼女が拗ねたように金属の足を蹴った、小石が当たった程度の感覚に思わず口角をあげれば彼女はしかめっ面をして意地悪だと告げた
「もういいから戻るぞ」
「うん、連れ出してくれてありがとう」
「礼はエンジェックスを1クォークでいいぞ」
「それはプロールにでも頼んでちょうだい」
オルトモードに切り替えてドアを開ければ入ってきた彼女はその血肉の通った心地よい体温のある身体を預ける、目的地に向かうまでの道中で休息がてら降りた星は自然が豊富な割に生き物が見当たらず絶好の休息所兼物資の補給場所になった
そのうちここも戦場になるだろうと予見しながら走っていれば窓を開けた彼女がつぶやいた
「ずっとこうして平和ならいいのにね」
平和なんてもう数年みていないだろうにいう彼女に、400万年以上見ていない彼は平和というものが分からないと思ったことだろう
「そしたら皆で大きい家でも立てて住もうよ、そうだなぁレッカーズって看板立てて農作物でも育てて道の駅で売ろう、まるで老後の田舎暮らしみたいなね」
「隠居生活だろ」
「そう、まぁそれでもいいけど…でもきっと無理だろなぁ」
その言葉に何も返事はせずに内心同意した戦争が終わる気配なんて見当たらないからだろうと思っていれば彼女は異なる回答を出した
「みんな大人しくしてくんないし」
確かに縛り付けられることはことごとく苦手な連中ばかりだしな。と思い出せば彼女はインパクターのハンドルを握り顔を寄せた彼女の吐息がかかることが不快よりもくすぐったく感じる
「でもさ、インパクターは私のそばにいてね、そうじゃなきゃ
寂しくなっちゃうから」
「クソ」
嫌なものを思い出させられたと悪態ついた彼は古びた充電スラブを軽く叩いた、嫌な音がしたがどうせ旧型なのだから壊れていても不思議ではないと言い聞かせて今度こそ眠りにつく、全くここは嫌な場所だ無駄に考える時間ばかりがある