仕事が嫌いだ
というよりもなによりも向いていない、そもそもこの"種族"自体に向いていないとアイリスは自身の生まれを否定するように溜め息をこぼした
仕事用の電子パッドには今月の業務成績表が張り出されておりスクロールをしても見当たらず一番下までいってようやく見つかった事に納得さえしてしまう、最後に"仕事"をしたのはいつだったかと思いつつも彼女はどうしようもないと言い聞かせて小さな棒状のスナック菓子を口に含んだが満足感はあまりない
ベンチに座りどうしたものかと思っていれば腕につけていた通信機が甲高い音を奏でた

「はい、アイリスです・・・ええ、はい、畏まりました直ぐに向かいます」

珍しいこともあるものだと思いつつもいい報告ではないだろうなと本部からの連絡に彼女は苦い顔をして手に持っていたアタッシュケースからリング上のブレスレットのようなものを取り出して宙に投げればそれは大きく広がり異空間を発生させた
さらば地球よ。とアイリスは涙は出ないが別れを告げて数ヶ月ぶりの母星に足を運んだ
惑星 ヘルデビル それが彼女の母星である、様々な種族が其の星には住んでおりアイリスもその1人であった、久方ぶりに見る地球の生き物とは異なる姿の仲間達に懐かしさを覚えつつも好きだったエネルギードリンクショップにてジュースとスナック菓子を買った彼女は街を眺める、自分と似た種族の者たちをみては劣等感に苛まれてしまうが彼女はその溝を埋めることは出来ないと自分に言い聞かせて両手の飲食物を口の中に放り込んでは空になったものをゴミ箱に投げ捨てた・・・が残念なことにそれはゴミ箱の縁に当たって弾かれてしまい、仕方なく歩いて捨てることにした
ふと横を通った同種族の笑う声を聞いて彼女は顔を俯かせ早く本部に行こうと慣れることの無い高いピンヒールのブーツをどうにか鳴らして歩いた

「地球に配属されてたアイリスです、スキュアさんに呼ばれて来ました」

受付にそういえばスーツを着こなした彼女はすぐ様確認後三階へどうぞといってエレベーターに続くドアのロックを解除してくれた
久しぶりに来たなと相変わらず派手な洋館風の建物内に圧巻されるアイリスはエレベーターに乗り込んだ、やはり本部なだけはあって人々は大抵肌が見えない服を着ているのをみて彼女は思わず自分の肌を隠すように腕を前にして背中を丸めた

「スキュアさんアイリスです、入ってもよろしいでしょうか」

三度のノックと共に声を出せばドアは自然に開かれる、部屋の真ん中にはアンティーク調のデスク机と革張りの椅子、そしてその背後には大きなモニターが何台も映されており各自の仕事の姿が映し出されていた
丁度モニターを眺めていた大きな翼を持ったパンツスーツ姿の彼女は振り向いたと思えば手招きをした、アイリスはこのスキュアという上司が好きであった
何かと世話焼きで優しく、けれど甘いだけでは無い彼女の隣に慌てて並んだ

「仕事があまり上手くいっていないようだね」

女性にしては低いハスキーボイスを持つ彼女の声にやはりその事かとおもわず視線を下げれば まぁ君の場合はそういうタチだからねと慰められ胸が少しだけ軽くなる

「だがね、ウチも穀潰しを飼い続けることは難しいと社長が仰ってるんだ」
「そ、そんな社長が」
「とはいえ私も簡単には首を縦には触れないから会議をしたんだ」

会議・・・決して自分だけの議題ではないことは理解している、アイリスのような成績が極端に悪い者は少数だが確かに居るためそれらが話に上がることは至って普通である、ごくりと唾を飲んだアイリスにスキュアは話を続ける

「地球は私たちサキュバスにとっての主な取引相手のひとつだが派遣されてる子達も多くてね」
「そうですね、私も第一希望で出したのが通ったのは本当に奇跡だったと思います」
「それはだね・・・私が通したからなんだ」

流石スキュアさんと言いたいところだが彼女は至って真面目にそして少し悲しいような顔をしていた、本当に申し訳ないんだけどねといいながらモニターの映像を変えた
そこに映るは大きなロボット達が戦っている姿でありアイリスも彼らの存在を知っていた、彼らのおかげで赴任先の地球は大変な目にあったことはここ最近の出来事であり今もまだあの星は混沌と戦っている最中であった

「トランスフォーマーですよね?」
「うん」
「あの、まさかっていうか、まさか」
「そう彼らがキミの次の仕事相手だよ」
「無理でしょ」

無理でしょ
頭の中に浮かんだ言葉は素直に吐き出されていた、アイリスの言い分もわかるがどうしようもないらしく、スキュアはそのまま彼らの生態等についての説明をはじめそしてデータは送っているから見るように。と念入りに告げたそして最後に強く抱き締められ思わず涙が出そうだと思っていれば聞き馴染みのある音が背後で聞こえた

「それじゃあ健闘を祈る」

肩を押されてアイリスはワープホールの中に突き飛ばされてしまう、あぁ魔王様どうしてと彼女が思っても仕事なのだから仕方がない、社会人とはそういうものなのである

大きな音を立ててワープホールから放り出されたアイリスは大きく尻もちをついて、いてて・・・と声を上げた、落ち着いた頃ようやく視界に捉えたのは大きな廊下である、完全にサイズが彼らのものだと察して思わずため息がこぼれる中でもしっかりと仕事用のアタッシュケースを持ったアイリスはどうするべきかと考える
毎度仕事と称して雑にワープさせるのはいいがその後のことを本部は何も考えていないと文句を呟いていた頃ふと視界の隅に大きな何かがみえた黒い金属の物体に顔をあげれば眼帯のようなものをした一体のトランスフォーマーがいた

『こんな所にどうして人間が』
「あぁえっとよかった、貴方はトランスフォーマーですか?」
『私たちの言語がわかるのか?如何にもそうだが』
「あーごめんなさいあなた達の言語は聞こえるけど発音出来ないから地球の言語でも?」
「構わない、君はどこから来たんだ?」
「とある星からワープホールで、ところでここは?」
「ロストライト号だ」

まさかの星ではなく船かとアイリスは落胆してしまう、ワープホールは本部の許可なしでは発動しないためどうにか連絡を取って彼らの星に行くべきでは無いかと考えて慌てて通信機を起動するも電波が悪いのか繋がらなかった

「ダメかぁ、ここって電波ありますよね」
「そりゃあ勿論、通信機の故障か?みてみようか」
「ええお願いします、ところで私はアイリスです貴方は」
「パーセプターだ、しばらく帰れないのなら兎に角船長と話してみるか?」

パーセプターと名乗った彼にアイリスは仕方ないと頷いた、通信機は落下時にぶつけて壊してしまったのかもしれないと残念がっていたが彼はどうやらエンジニアらしくこれくらいなら直ぐに直せるだろうと言ってくれたことに安堵する、先にロディマスに挨拶だと言われアイリスはパーセプターに案内されるがまま手のひらに乗った、初めての景色に目を輝かせる彼女にパーセプターは思わず小さく笑む
彼女のサイズからしてはるかに大きなこの船は総勢二百名以上が乗船していたらしく、仕事をする分には丁度いい人数なのかもしれないと思っていればメインルームと書かれた部屋にようやく辿り着く、そこには四体のロボットもといトランスフォーマーがいた

「それがいってた例の"人間もどき"か」
「面白いな角や羽に尻尾まである」
「ワープホールから来たと言っていたがどういうことなんだ」
「それよりも検査が先じゃあないのか?有機生命体から病気を貰う可能性も無くはない」

各々好き勝手に言う彼らにアイリスは堪らずパーセプターの指に抱きついた、如何にも厳しそうな者やらちゃらんぽらんそうだけど自己中心的で横暴そうな者に新しい生き物への子供のような好奇心を向ける者や専門家として当然の意見をいう者など三者三葉というべきなのかアイリスは怯えていれば勢いよく尻尾が掴まれた

「ふぎゃあっ!何するんですか!」
「"人間もどき"のそれはアクセサリーじゃないのかよ」
「見てわかるじゃないですか、馬鹿なんですかあなたは」
「なんだよコイツ、オレはこの船の船長だぞ舐めた口聞くなら外に投げ飛ばすぞ」

奥歯をおもわず噛み締めた、やっぱり彼らは野蛮な種族で拾ってくれたパーセプターがたまたま優しかっただけなんだとさえ思ってしまいきつく睨みつけるがロディマスといった彼はふんと鼻を鳴らすような素振りを見せた

「君の所属惑星や種族などを教えて貰えないだろうか」
「惑星ヘルデビルの悪魔種です」
「そこなら聞いたことがあるぞ、傭兵から何から武器や戦争については何でもござれの惑星だ」
「それは同じ惑星の怪物族です、一緒にしないでくださいよ」

一等大きな青い機体に声をかけられ素直に答えれば、興味津々だと言わんばかりの顔をしていた腰に刀を下げた白い機体が知っていたらしく説明するもアイリスは一刀両断した、確かに彼女の惑星は野蛮だというものもいるがそれは惑星の半分だけでありヘルデビルは完全に二分割された惑星であった大きくわけて怪物種と悪魔種に分かれており怪物種は確かに戦争やら闇市やらという所謂悪行を生業としているが悪魔種は他種族のQOLの維持に手伝い等を生業にしている
その為アイリスはどちらかといえば"良い悪魔"ということなのである

「それで帰れないのかよ」
「通信機が壊れてワープホールを使用できませんので・・・本当の到着地はここだったのかどうか」
「なんだそれ・・・ったく仕方ないな、部屋は用意してやるがこんなサイズのはないよなマグナス」
「あぁそうだな、部屋自体は無理だが家具などは用意できなくは無いと思うが」
「置いてくれるってことでいいんですか?」
「まぁな、ところでお前はなんでここに来たんだよ」
「ええと主にあなた方の生活の質の改善のためですね」

そういえばロディマスと呼ばれていた彼は目を丸くしたあと笑った、オレたちの生活がこれ以上改善するのか?といえばマグナスと呼ばれていた者が平穏な生活が送れるならば是非いて欲しいものだがな。といった

「よかったなアイリス」
「本当にありがとうパーセプター、あなたのお陰だよ」
「なんだ早速パーセプターに懐いたのか?」
「ちょっともうやめてくださいよ」

黄色い指先でつんつんとアイリスを突くロディマスはまるで面白いおもちゃを拾ったようだった、ふとアイリスは手のひらで立ち上がっていたものの目眩がしてパーセプターの手の中で倒れ込んでしまい慌ててロディマスが注意された

「だ、大丈夫ですロディマスのせいじゃありませんから」

持病みたいなものだからとアイリスはいうもそのまま意識を手放した、最後に見えたのは白い眉間に皺を寄せたような顔をした一体のトランスフォーマーが慌てて抱き上げてくれているところだった