ようやく出来た とサイバトロン基地の研究室にて呟いた彼女は声高々に宣言し笑った、これでもう二度とあの金属の塊共…もといトランスフォーマー達に馬鹿にされないぞと彼女は思うなりその目の前の蛍光ピンクの怪しい液体を見つめた
しかしこれを飲めば理想の自分になれるというものだが本当なのかと自分の腕ながら不安に思いつつも試験管に入った液体をもう一度強く睨みつけなすがままよ。と勢いに任せて試験管の縁に口付けて液体を飲み干した


こんな事になるだなんて……嘘だ…ダメだ、おしまい-死-だ…
サイバトロン基地の中で縮こまる人間の女が一人、膝を抱え背中を丸め涙を零しそうになりつつ床にのの字を書きながら本当に一体全体どうしたものだろうかと悩んでいた

「アイリスっ!何処だ、デストロンの野郎めあの子の悪質なクローンなんて寄越しやがって」
「みたか?よりによってあんなデザインだ、悪意しか感じられないぜ、とっとと見つけてデストロンに返してやろう」

壁を殴る音と怒号に似た声に思わず身体がビクリと反応する、声の主は凡そ赤組代表アイアンハイドとクリフのコンビである、全くもってなんて発言だと高鳴る心拍数を落ち着けつつ立ち上がりバレぬように歩き出す、そして無駄に重たい二つの脂肪の塊を見下ろしまさかこんな事になるなんて…と改めて感じた

この事件が起きたのは物語冒頭の試験管のせいである
アイリスにはひとつの悩みがあった、サイバトロンに力を貸す優秀な科学者として日々を過ごす中一般人と比べてはトランスフォーマーとコミュニケーションを撮る機会が多い、それは敵味方問わずに
ある時ビーチコンバー、ハウンド、リジェなどといった穏やか自然組と山にピクニックに行こうと誘われ近頃そういった事をしていなかったなと思い出しては二つ返事で了承した彼女は嬉しそうに彼らとレジャーシートを広げて穏やかな時間を過ごしていた
そこに邪魔をしに来たのはデストロン軍団の生意気ジェットロンの三人であった、戦闘を行う中彼らは随分おしゃべりなもので互いを罵倒し合った、科学者かつひ弱な人間のアイリスは当然戦力外通告を受けていた為近くで隠れていたもののスカイワープに見つかってしまい捕らえられたのである

「はっ!サイバトロン共こいつがどうなってもいいのか?」
「クソっ卑怯だぞスカイワープ、アイリスを離せ」
「なんだお前らこいつのことが大事なのか?ちんちくりんのおと……おい、お前スカート履いてるけど女装癖でもあんのか?」

リジェの言葉を無視して素っ頓狂なことをいうスカイワープに はい?と聞き返すも彼はスカートを捲っては「お前すげぇ趣味してるな、男のくせに」などと呟くもので思わず固まった後に「いや女ですけど」と呟いてからがその日の たたかいは本格的に幕を開けた

「おい、スタースクリームこいつ女だってよ」
「ハッ、つくならまともな嘘でもつくんだな、こんな平たい胸の女なんざこの世にいない、俺は地球に詳しいから分かるぜ」
「おい二人とも人の趣味にとやかくいうな、今どきはその…ジェンダーなんちゃらがあるだろ」

黒、赤、青と並べて三人が好き勝手に言っては代わる代わるに彼女を奪って見つめてはやはり男だ、平たい、やら勝手なことをいう間に両軍が揃っていくものの地獄はそこから開かれた

「アイリスを返せデストロン!彼女は淑やかなレディだぞ!」
「なんだコンボイ、この女装娘、いや男の娘が好みなのか!」

いつの間にやら両軍のリーダーさえそう言っては殴り合いをはじめるものでふと自分を手にしていたつかれ顔のとんがり頭の青いジェットロンをみつめた

「君たちは女ってどこで判断してるの」
「え、胸だろ」

ふと彼女が視線を下げて見つめたそこには何も無かった、ただ平たい真っ直ぐな肉体、子供のような未成熟というわけではない、ただ無がそこにあるのだ、その日の帰り道ラチェットに乗せられながら彼女は呟いた

「女は胸ってことなのかな」
「巨乳は正義だって連中もいるからね、でも安心なさい私はアイリスの味方だからね」

そのような悔しい経験を味わった彼女はそれ以来デストロンから「貧乳」という大変不名誉なあだ名をつけられ、毎度会う事にそれを弄られたのだ、そして毎度その日の帰り道にサイバトロンの仲間たちに「貧乳はステータスだよ」と慰めを受け続けたのである
何たる屈辱か…全くもって彼女はこのポンコツな金属の塊共に一言ギャフンと言わせてやりたいと思い作成したのが件の実験薬
"巨乳な〜る"
であった、効果は単純その名の通りである。完成と同時に早速飲んだ彼女は自身の胸にはっきりと現れた二つの膨らみに「おぉ」と歓喜の声を漏らした、凡そ世間一般で言うべき巨乳の部類に入るサイズのそれを自身の手で触れてみては感動さえ覚えた、世間一般の男達の女性の胸への執着とやらを理解してしまう
というよりも少なからず彼女とて憧れがあった故にこのようなことが起きたのだ、残念ながらサイズに合わせた下着は無いが所詮彼らは金属生命体である為そんなことは気にしないだろうと下着をつけず早速ラチェットに会いに行ったのである

「ねぇねぇ!みてよラチェット、ついに完成したの」
「どうしたんだいアイリス……アイリス?誰だきみは」
「へ?私だよ、アイリスだよ」
「いや私の知る彼女はそんな乳袋を付けていない、私のアイリスはスレンダーでツルペタのまな板なんだ、あっ分かったぞ、さてはそこにボールでも入れてるんだろう」

そういったラチェットの腕は彼女の胸元に伸びて触れた、ふにょん♡と柔らかい効果音と共に感じた感触に彼は自身の指先を見つめ、そして彼女の顔を見たあと口からオイルを出して倒れたのだ「私のアイリスが…」と呟いて
そして丁度入ってきたのは怪我を治しに来たアイアンハイドであった、床に倒れるラチェット、そしてそのそばに居る巨乳でアイリスのそっくりさん

「アイアンハイドいい所に、助けて突然ラチェットが倒れちゃって」
「お前は誰だ?アイリスの皮を被ったアンドロイド…いや、敵だな」
「いや本物ですけど?」
「いいや、本物のアイリスがそんなやわらかくてデカくてコネクタを挟めそうな胸部装甲をしてるわけがない」

サイバトロンもデストロンも変わらないのでは?とふと思いつつ説得を試しみようとするがふと倒れ込んだラチェットが声を出し慌てて駆け寄ったアイアンハイドは聴覚センサーの感度を大きくあげた

「うぅ……貧乳こそ至高」
「クソォ!ラチェット!!必ずお前の仇は取ってやるからな兄弟!」

なんて茶番だと呆れ返り白い目で見つめて入れば鈍い金属音がし、何事かと顔を向ければアイアンハイドはアイリスに銃口を向けていた、苦しそうな表情を浮かべつつ「アイリスを偽るクローンめ、見た目が彼女に似てて心苦しいがデストロンの仕業に過ぎない、仕方ない俺が処分してやる」と呟いた
その本気の眼差しに慌てて逃げだした彼女にサイバトロン基地のアラームが鳴り響く

"アイリスに似た巨乳の不審者が現れた、見つけ次第捕獲しろ"

ということであったがアイリスは壁に背を当て全くもって何なんだと深いため息を吐きつつとっととこの事態を収束させようと考え誰にもバレぬように研究室にて向かった
まるで気分はスパイか忍者か暗殺者か、廊下の角で慌ただしく走り回る仲間たちから逃げる中でもろくな会話しかなかった

ハウンドとリジェの会話
「巨乳のアイリスだって、デストロンの奴も趣味悪いよ」
「本当だ、貧乳のよさって全くわかっちゃいない」

ランボルとサンストリーカー
「そもそも巨乳なんて邪道だぜ」
「あぁそうだ貧乳こそが正義だよな」

ブロードキャストとトラックス
「どうせあのサウンドシステムの面汚しがやったんだよ、あいつ絶対巨乳好きだもん」
「デストロンの奴らはセンスが悪いからな、アイリスみたいなのはまな板だからいいのさ」

本当にろくでもないな…と思いつつようやく辿り着いた研究室にホッと胸を撫で下ろすも研究室には先客がいたようで作業机に向かって何かを懸命にしていた
その背中はホイルジャックとパーセプターである

「これやったら治るんとちゃうか?」
「いや、もういっそこうして」

何かの液体の調合をしている彼らの邪魔はしないようにしようと静かに歩いていたもののそんな時ばかりドジを踏み躓いて転けてしまった彼女に気付いた二人はすぐ様後ろを振り返る
そして視線の先には先程から不審者情報として伝えられていた件の彼女がそこにいたが彼らは決してほかの者とは違い殺伐とした表情ではなく普段通りの姿であった、それならば安心だと自分の作った実験薬でこうなってしまったので元に戻る薬を一緒に作ってくれと頼もうとしたが彼らは彼女を掴み作業台に乗せた

「あ、あのホイルジャック?パーセプター?そのね、私実験薬つくって」
「うーん、吾輩は巨乳もありだと思うんだがね」
「私もなしでは無いけれど貧乳も恋しいというか、美乳派だから」
「あのーおふたり?」
「じゃあこうしよう、これが仮に彼女のクローンだとしたら複製させて五段階のサイズのアイリスくんを作ろう」
「素晴らしいホイルジャック、そうしよう私は大体2段階目の彼女を貰おう」
「吾輩は4段階目にしようかな」
「待って待って、クローンじゃないから本物だから」

さぁ早速実験だ!と嬉しそうに取り掛かる二人に大声をあげれば手を止められる、そして彼らは顔を見合せて一度指先で彼女の胸元を触れては「あ、ガチだわ」と零した
さすれば顔色を変えた彼らはさっきまでの間抜けな話は何処へやら慌ててその胸は?貧乳はどこへ?まさかデストロンにさせたのか?と口早にいうものの彼女の声は届かずに更に身体をまさぐられてしまい、次は命ではなく貞操に近い危機感を感じた時、実験室のドアが開く

「ここに巨乳のアイリスがいると通報を受けてきた」
「観念してもらおうか」

そう言って現れたのはプロールとマイスター、そしてその後ろにはコンボイ司令官が立っており彼らのさらに後ろでバンブルは顔を手で覆い「巨乳のアイリスがここに入っていくのオイラみました…」と呟いていた、彼のそばに立つトレイルブレイカーとジェットファイアーは「巨乳派だったんだな」「可哀想に」と慰めており仲間たちの内そんなバンブルを含めた数名のサイバトロン巨乳派は悲しそうな表情を浮かべ俯いていた

「アイリス…本当に君なのか」
「し、司令官…本物です、私は本物のアイリスです、信じてください」

作業台の上で近付いたコンボイにそう訴えかけた彼女の胸が大きく揺れた事にプロールとマイスターは悲しそうな表情を浮かべた
司令官も同じく酷く辛そうな表情で彼女を見下ろし何故そうなったんだ、デストロンの仕業か?と問いかけた
アイリスはこんな事になるならばしなければ良かった、こんな風にいわれるならばと深い後悔を抱いた、だがしかしここで真実を告げなければ死が待つ可能性があることに気付いた彼女は苦しげに「みんなが貧乳だっていうから」といった
彼らは顔を見合せては何がいけないことなんだと呟いた、その言葉はトランスフォーマーとしては至極真っ当な意見であると感じられた、金属の身体を持つ彼らにとっては所詮脂肪の塊でしかないだろうからだ

「私だって気にしてなかったんです、だけどみんなが胸ことすごくいうから…分かりますよ?私だって温泉とかプール行く時、え?小学生より平たくない?ってなりますもん、だけどみんなまな板とか絶壁とか虚無だとか」

酷いじゃないですか…と思わず涙をこぼす彼女に堪らずコンボイは肩に指を置いてやった、優しく大きく暖かな金属の手に触れられ顔をあげれば曇りなきカメラアイでコンボイは告げた

「安心してくれ、私はこうみえて貧乳派だ」

どうしよう正義の軍団のリーダーってこれでいいの?とアイリスは一度思考を止めた、そして集まっていたサイバトロン兵士達は巨乳派も含めて次々と彼女を慰める言葉を告げるも何一つ響きはしなかった

「アイリスっ」
「ラチェット?!」

そしてそんな騒ぎの中ようやく現れたのはアイアンハイドに肩を借りたラチェットである、彼は口元のオイルを拭い彼女の傍におぼつかない足取りで近付き抱き上げ見つめた
サイバトロンの中では一番彼とよくやってきた、その中でこんな騒動の中突如倒れたものの現れた彼はまさに自分にとっては素敵なトランスフォーマーだと感じ胸ときめく中、言葉を待てば彼は告げる

「貧乳はステータスだ、君が貧乳を気にしているのかもしれないがそれはとても素晴らしいことなんだ、貧乳とは洗礼されたデザインであり人の神が作った完璧な人間なんだ、君はその平らな胸を誇って欲しい、私に乗り込みシートベルトをしてくれる度に触れる真っ平らなその身体…とてつもなくこうふ…っっ!?」
「ラチェット……」
「おい!ラチェットの発生回路が切られたぞ!」

ゆっくりと彼女に顔を寄せるラチェットにアイリスは笑顔で腕を伸ばし彼の首元に抱き着いた、そして突如離れた彼は喉元を抑えるが声が出ずアイアンハイドは普段自分がされたことをされたのだと即座に気付く
アイリスのご乱心だと彼らは騒ぎ立てる中、アイリスがもう二度とこんな基地に来てやるか!と叫ぶ中突如基地内に爆発音が鳴り響く
遠くでアラートのデストロンの襲撃だ!という声に全員が戦闘態勢をとり現れたメガトロンは作業台の彼女を見て不敵に笑みを浮かべた

「フッ、小娘!ようやく儂好みの身体になったな」
「メガトロン貴様、アイリスを狙いに来たのか」
「当然だ、下らん貧乳主義のサイバトロンで巨乳は要らんだろうデストロン軍団は巨乳歓迎、完全週休二日制有給取得率98%社会保険完備ボーナス二回のフレックス性(在宅ワーク有り)だぞ、どうだ小娘、来る気になったか」
「あぁ後半の言葉に揺れちゃうっ!」

さらに科学者手当なんかも付くぞ。という言葉に足が向かってしまう彼女をラチェットは抱き寄せて口を動かすものの何を言っているのかはやはり回路を切られているゆえ分からなかった

「クソっ巨乳のどこがいいんだ、おっぱい星人め!」「黙れ!ロリコン共め!」

そうして戦いの火蓋が切られた
馬鹿らしいと出てきた彼女は基地の外にいたオメガスプリームに挨拶をしてその一連の話を抜きにして巨乳か貧乳どっち派?と聞いた

「私はそもそも足が好きだ」

そっか…と彼女はオメガスプリームに微笑みながらトランスフォーマーってまともなやついないかもしれないと気付きつつ転職サイトを見つめるのだった

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