-数年前-

キミアに所属している間、人間のアイリスには技術者として以外に一つの任務があった。
それは地球について学ぶことである、元より地球生まれの彼女は今では地球での生活より遥かに宇宙での生活、特にサイバトロニアンとの生活が長いもので自身の生まれた星のことなど知らないに等しいものだった
地球という小さな惑星は想像以上に様々な文化や文明が栄えており学ぶことは多く彼女は毎日数時間みっちりと他のサイバトロニアンを混じえ勉強していた
しかしながら人間の寿命では到底学びきれない知識量故に地球時間や日付から着想を得て様々な国や文化について学んでいた、広いキミアの廊下をデータパッドを眺めつつ今日の日付を確認の上インターネットに接続しアイリスは出てきた文字に小首を傾げた

「ななゆう?しちゆう?」
「…七夕-たなばた-じゃないのか」
「ドリフト、知ってるの?」
「勿論、東の小国ニッポンの事であれば俺に優るサイバトロニアンは居ないだろう」

学び途中の日本語を眺めては呟いていた発言を受け取ったのは丁度武器の新調に来ていたドリフトであった、彼がいるのであればカップやスプリンガーも帰ってきているのかと思うものの彼らは初めにメンテナンスの関係から今はまだ会えないだろうと言われてしまい落胆した表情を見せてしまう

「そうだドリフト、このこと知ってるなら教えて欲しいの、今日の勉強の部分だけど少しでも知ってる人に教えて貰いたくて」
「あぁ勿論、俺でよければ付き合おう」

元ディセプティコンという立場から未だ白い目を向けられるもののアイリスは違う、同じく人間でありながら優秀な科学者達の集うこのキミアに所属している為多少の偏見や差別を持った視線を向けられる故かはたまたレッカーズという特殊なチームにいるからか彼女自身は他者を表面だけでは評価しなかった
ドリフトもそのような彼女に仲間として好意的であり足元にいる彼女を抱き上げリクライニングルームでカップ達を待ちつつ勉強会をしようと声を掛けて歩き始めた…


-現在-

「あっ、今日七夕だ」

カレンダーを見た彼女が珍しく声を上げた為インパクターは手に持っていた電子パッドから視線を外しみつめた
どうやら大きな独り言だったらしい彼女はその視線に気付いては彼を見上げて口元を隠して「おっきい声出ちゃった、ごめん」と零した

「別にでかくはないがなんだまた何か仕事の納期か?」
「違うよ、地球の文化だよ、昔ドリフトに教えて貰ってね」
「ドリフト…?」

聞き慣れない名前だと言いたげなインパクターの表情にそういえば入れ替わりでドリフトは入軍したのだったと思い出しては元デッドロックだと短く告げれば彼は理解した表情を浮かべた

「それでなにがあるんだ、またケーキでも用意するのか、俺は手伝えないぞ」
「ケーキもいいけど七夕だしエナジョンのゼリーにしたりとか」
「だとしても誰かしら加工に詳しい奴を呼べよ、前回みたいになれば俺のスパークが止まりそうだ」

その言葉に苦笑したものの地球の文化を学ぶ度に料理を知った彼女はその好奇心からエナジョンを料理することにハマったのはココ最近のこと、しかしあれらは燃料であり僅かなミスが命取りとなり以前盛大なミスを起こした事からインパクターは一概に拒否出来ないものの二つ返事の了承も出来なかった

「結局七夕ってのはなんなんだ」
「愛する人が会える日だよ」
「…そうか」

ロマンチストなものだなとインパクターは彼女の言葉を聞いては電子パッドに視線を戻した
イベント事があるとデブリ内は騒がしくなる、それもこれも全てアイリスのせいである、元より祝い事があればエンジェックスを飲めると知ってるレッカーズの面々は彼女の誘いがあれば全力で喜び普段は決してしない手伝いをするのだ
メインルームが飾られていき、その横の部屋である補給庫という名のキッチンでロードバスター、アイアンフィスト、ハブキャップを仲間に奮闘する恋人の背を見つつインパクターも言われるがままに用意をしていた

「七夕を祝うのは今回が初めてだからアイリスも随分張り切ってるらしいな」
「毎年してないのか」
「祝えるようなイベントじゃなかったからな」

全員分の食器を並べる向かい側のスプリンガーに声を掛けられ誕生日やクリスマスなど大抵の祝い事はインパクターが不在時でもしていたというのに何故今更なのだと不思議な表情で彼を見つめれば鮮やかな緑をした彼は「七夕のストーリーは知らないのか?」と小さく問いかけた
アイリスから聞かされたように「恋人達が会う日」だということを伝えればスプリンガーは思わずキッチンの彼女の背中を見ては苦笑したあと数秒間黙りこくった後にインパクターをみた

「データ送っといたから後で読んでみろ、たまには地球のことを知るのも悪くないと思うぞ」
「余計な、まぁ…わかった」

そうこうしている間にテーブルの上には次々と普段とは全く異なる液体補給タイプのエナジョンではなく、様々な色形をし加工され料理となったものが並べられる
日に日に腕が上達していくのは彼女の才能なのかと関心を覚えつつ人間用の食事もトレーに用意したアイリスがインパクターの隣に座れば全員が乾杯の音頭と同時にその口の中に運んで行った、全くもってレッカーズに似合わない穏やかな時間だと感じて

「遅れたが用意出来たぞ、全員ちゃんと書いとけよ」

食事を終えてメインルームに全員がまだ離れられずにいる頃、先に席を離していたロードバスターがガズルと共に巨大な金属の棒を持ち込んだ、所々から枝のような分け目を付けて穴が空いておりロールテープが付けられたそれは本物の笹が用意出来ないために仮のものだと告げた

「これでなにするんだ?」
「お願いごとを書いて飾るの、そうすると神様がお願いを叶えてくれるんですって」
「プライマスが?」
「違うよ、織姫っていう人が叶えてくれるんだって」

ローターストームやパイロの言葉に自信満々に答える彼女に全員が我先にと紙を片手に願い事を書き込んでは笹に飾って満足そうにみつめた
テーブルの上で小さな紙を片手にする彼女は何を願うのかと思わず眺めていれば"レッカーズがみんな元気でありますように"と彼女らしい願いをそこに書かれた

「インパクターは書かないの?」
「他の奴らと同じだからな、別にいらん」

生憎神も信じないタチなのだと言いたげにすれば彼女は納得をした表情を浮かべ「それじゃあ連名にしてお願いしとくよ」といい笑みを浮かべた

普段よりもはるかにエネルギー補給をしたと僅かばかりに機体の重みを感じつつ二人の自室に帰って直ぐに彼女はまたデータパッドを片手に仕事をこなしていこうとする
こうしたイベント事があってもゆっくりしていられないのかと思う反面自分は仕事を巻き取る訳でもない故そうしたことを安易に口にはできなかった

「そういえば」

しかしながら僅かな興味からインパクターはふと声を出して問いかけた、あんな願い事ではなく自分自身の願い事は無いのかと
なにか叶えられるのであれば叶えてやりたいと思うからこそ出た言葉だ、元よりアイリスはそうした自己主張はあまり強くない、多くを求めずにただその環境で十分だというような女ではある
それ故に彼女の誕生日や何か祝い事で物を渡す度に多少悩んでしまうことも常であった、そんなインパクターの考えも知らずに彼女は視線をあげて彼を見つめた

「何も無いよ」
「何も無い…って多少あるだろう、誰だって欲望はあるもんだいい子ちゃんでいなくていい」
「本当だよ、私はインパクターがそばに居てくれたらいいの」

その言葉に彼は言葉が出なくなってしまうのは先程のパーティの準備時にスプリンガーから見せられた資料や話のせいだった
年に一度織姫と彦星という引き裂かれた男女はその日だけ会うことが出来たのだというがアイリスは違った、どれだけ願っても一年に一度だって会うことは出来なかった、面会も通話も何もかもが出来ない、互いに生きているのかすら分からずただ目の前の生に執着し続けただけのことだ

「それ以上の願いなんてないし、これ以上お願いしたらきっと怒られちゃうよ」
「誰に怒られるんだ」
「誰だろ、けどあんまり欲ばかりを強請っちゃ罰が下るって地球の本にはたまに書いてるから」

そんなことを言われれば俺はどうなるんだとインパクターは思いながらも口にはしなかった、彼女のいう欲というものが何かは理解できないもののインパクターは一度顎に手を添えた後直ぐに彼女を優しく掴みあげその手の中に抱き込んだ

「お前は罰されることが怖いというが俺はもう怖いもんはないからな、自分の欲に素直に生きていくぜ」
「…因みに、その欲ってのは?」
「こういうことだろ」

小さな彼女の頬に唇を押し付けてやれば赤く染っていくため気分が良くなり堪らずもう一度としていけばアイリスは手を伸ばしインパクターの唇を封じ込めた
これ以上遊ぶ事は駄目なのかと残念がれば彼女は顔を俯かせて呟いた

「願い事をもうひとつしていいの?」
「ん?あぁ」

自分の為のことなら多少いい子ちゃんをしていた彼女の願い事も叶えてくれるだろうさと返事をしてやればアイリスは堪らずに彼の大きな首に腕を回して呟いた

「唇がいい」

その言葉にインパクターのあらゆる回路が一時的にフリーズしてしまい、思わず手に抱いていた彼女の顔を見るために胸元まで下げてやれば案の定彼女は顔を俯かせたまま動かなくなった

「やっぱり聞かなかったことに」
「悪いが一度聞いた頼み事だから無理だな、それと…」

それ以上になるのも仕方がないことだとインパクターは思いながらも彼女に顔を寄せれば温もりのあるその手が頬に触れゆっくりと唇に何かが触れたことに気付く
オプティックカメラを調整し彼女をみつめれば照れくさそうに笑う彼女は「もう七夕にお願いはしなくてもいいね」と笑った、それもそうだ叶えられない願い事など互いにないのだからと思いインパクターは自分から唇を押し付ければ彼女は照れくさそうに嬉しそうにほほ笑みを浮かべるのだった。


2024.07.07 七夕夢

-

- 85 -

←前 次→
top