左翔太郎








鳴海荘吉は探偵事務所の人間全員にとって特別だった
尊敬をし、敬愛し、誰よりも何よりも愛され、何よりも人を愛していた、強く気高い男は何かのために命を落とした

相変わらずこの街から浮いたような美しさが独り歩きをしたように、真っ黒なスーツにまとめあげられた髪から覗く項や手元の白い肌
派手ではないメイクなのに肌が白いせいかまるでモノクロの世界に一点だけ色づけられたかのような美しい口紅の赤


「…さみぃ」


バイクから降りて、少しばかり歩いてきたばかりなのに女は寒空の下で両手を合わせていた
目の前の墓石になにを願い、何を頼むのか


「あれ、翔太郎くん」


数年前からおやっさんと呼びしたった人を失くしたあの日からこの場所で会うことが多かった
忙しい仕事をしながらも決してこれだけは忘れないようにと、置かれたピンク色の花をみつめて昔を思い出す。



「翔太郎くん、何になるの」

指定された制服のスカートは風になびいて、黒い染められたことのない髪が流される
屋上の上で学校の勉強が面倒でサボリをして、大好きな風都の街を見渡す、何のために学校に来ているのかもあまりわからずに屋上で寝そべっているのを見に来た女


「パンツ見えんぞ」

「残念、下に短パン履いてるもん」

「色気ねぇなぁ」

「っむ、翔太郎くんの変態」

腕に赤いワッペンを付けてそこには生徒会と書かれ、オマケに胸元の西沢と書かれたネームプレートの下には風紀委員会会長としての証であるバッチが付けてあった
勉強時間でありながら生徒会の身でこんな場所にいていいのかと今更言っても聞かない彼女に呆れて話を良くし始めて仲良くなった
最初から女が得意ともあまり言えないでいた彼に接してきた葵は変わった人間に感じた


「翔太郎くんはさ、好きな人いる?」


隣に座った彼女は恥ずかしそうにそれを聞いた、その頃からほかの女子生徒たちと比べて顔立ちの違いも体の作りも人比べて出来ていた彼女はほかの生徒達からすればある主高嶺の花のように思われてもいた

だが性格故に人は誰もが集まり彼女を囲む、今更彼氏がいたと言われても驚きもしないがそう聞かれるとは思わず、少しだけ目線を向ければ恋をした乙女という言葉の通りに熱い瞳で何かを想う友人がそこにいた


「…お前は?」

「好きだけどきっと叶わないから」

「ンだよそれ、最初から諦めるのかよ」


そういっても悲しそうに眉を下げるだけの彼女があまりにも悲しそうで何も言えなかった

学校帰りに鳴海探偵事務所によく寄った、ヤンチャながらも手を焼いて可愛がってくれた鳴海荘吉は尊敬すべき男でいつかそうなりたいと思った
棚にあるカップとその隣のコーヒー豆を手に取り、適当にいれてみては今日もまた酷い評価を与えられる


「こんにちは、あっ翔太郎君くんも来てる」

「よう」

「遅かったな、今日もまた生徒会か?」

「はい、もうすぐ3年の先輩方が引退ですから引き継ぎとか多くて…」


奥でそう話をしあう二人は年が離れていてもお似合いに思えた
葵の表情は如何にも恋する乙女で、言われるまで気づかなかったかとも思えるほどにわかりやすい表情だ
少しだけ赤らんだ頬も、嬉しそうに緩む表情筋の一つ一つ、たった一人だけを写す瞳
全てが彼女を女に変えて心を締め付けた、そう気づいてから好きだと思って仕方ないことだと自分に言いながら随分と時はたった


鳴海荘吉は居なくなり、フィリップ…そして鳴海亜希子、仮面ライダーWという存在になった今変わったことばかりだ
葵はあんなにも必死に大学の勉強をしたくせに突然スカウトされた事務所で詰めあがって今では一つに収まらないほどだ
国をも飛び出して活躍する女になった、誰も知らない人はいない、美しく愛らしい誰もが羨む女


「なんか私たち被りやすいね」

「かもな、っていうか帰ってきてなら言えよ」

「ごめんごめん、つい数時間前だったからココだけ寄ったらすぐ行こうって思ってたの」


近づいた先で気づいた赤くなった瞳にまた一人で泣いたのだろうと察する
けれど自分は何物でもない左翔太郎であり、元クラスメイトの友達で、恋人でもなんでも話す親友でも家族でもない
連絡がなくても何もおかしくはない、冗談交じりに言ってお互い小さく笑う、このあと食事を行くことも、ましてやまた昔みたいにも行かないことはわかっていた


「じゃあ私帰らなきゃ」

持って来ていた墓参り用の一式と花を手に持っていこうとしてしまうその腕を掴んだ
表情は見えないのに泣きそうな気がした


「今もおやっさんしか、心には入れねぇのかよ」


堪らずに言った言葉に自己嫌悪する
彼女の悲しみも愛もすべて理解していたのにそれでも望んだことが哀れなほど報われずにそれに噛み付いたのだから
振り向いた彼女のその瞳があまりにも悲しく手を離す


「翔太郎くんなら、埋めてくれる?私の寂しさ」

お互い過去ばかり見つめている癖に見ぬ振りをした
心の隙間を埋め合うだけの関係が一番哀れだとどこかで悪魔はきっと言っていると思いながら知らぬふりをして離した手を掴んで抱き寄せる
落ちるなら2人でどこまでもいけばいいと自分の中でいって。









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