詩島剛
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小さな頃からひよこみたいに後ろをついてくる、どれだけ早く走ってもどれだけ遠くに行っても置いていかれても、後になって来てはいつも笑顔で名前を呼んだ
小さな頃はよかった、成長し始めたら周りにからかわれて姉には妹のようだ。なんて言われて恥ずかしくなった
だから、だから、突き放したのに
「剛くん怒った?」
数年ぶりの再会はアメリカだった、昔と変わらないと思っていた仕草も表情も全てが大人に変わり色っぽくなった
伸びた髪や、少しおっとりとした雰囲気、男なら守ってやりたいと思えるような年下の女になって
男だってみんな見ているのにそんな事も気づきもせずに隣をついてまわった彼女から日本に帰った
「……博士が教えてくれたの、だから」
「だからって来なくていいだろ」
「怒った?」
「怒ってない」
そう言いながらもクルクルと椅子を落ち着きなく回す彼に一つ下の幼馴染である葵は元から下がっているような眉を更に下げた
奥にいた進ノ介と霧子はヒソヒソと話してはいるが少し楽しそうにも見える、葵は自身のワンピースの裾を掴みながら何かを言いたいらしいが何も言えずにただ剛を見つめるだけで、当人の剛はイライラとした様子で椅子を回したり足踏みをしたりしている
「でっ、でも剛くんが心配だったから」
「別に葵に心配されることなんかねぇし、それより向こうで勉強どうしたんだよ」
「飛び級して、卒業してから来たよ?」
「有り得ねぇ」
いろんな意味でハイスペックだと分かってはいるがまさかたったの数ヶ月で帰ってくるとは思いもよらなかった、ため息を吐きながらもいつもの調子が崩されるのはこの人だけだ
剛からしてみれば葵は幼馴染で妹のようにも思える存在だが隣同士でいると周りは恋人と勘違いする
それが嫌ではないが葵の気持ち、そして自分自身が浮かれたくはなかったからだ
「剛くんコッチでも無茶してるんでしょ、博士に見といてって言われたんだもん」
「別に俺のことなんかより自分のことしろよ」
「嫌だよ、私剛くんのそばに居たいもん」
「…っ俺はもうお前といたくねぇって何千回も言ってんだろ!」
強く怒鳴った後に行ってしまった剛に悲しそうな顔をしながら椅子に座り込んだ葵に思わず遠目でみていた二人がやってきて何とか励ましてやる
二人からしてみれば剛の気持ちはわかる、それ故に遠くに追いやろうとするが葵はただ嫌われ続けてると思い悲しみに暮れている
「剛だって葵ちゃんのこと好きよ?じゃなきゃ側に居させないし、ねっ?」
「私が剛くんのひっつき虫で嫌われることなんてわかってるんです」
「ンなことないってあいつはなんて言うか照れ隠しみたいなもんだろうし」
「進ノ介お兄さんも霧子さんも大丈夫ですから」
そう笑った葵は今にも泣き出しそうで、そのまま出ていってしまった
小さな背中はもっと小さくなり今にも消え入りそうになっていた。
小さな頃から守っていたかった、ずっとそばにいて好きにならないはずがなく見守るだけでいた
なのに相手はそれを気にもせずに毎度自分を乱しては変わらずに笑うものだから少しだけむかっ腹を立ててしまう時があった
男の意地というものもあってかつまらぬ事で怒っては悲しませることが多い、そんなことを終わってから毎日反省した
「…まぁ関係ねぇか」
ため息を漏らしながら街をひとりで歩く、カップルに家族に友達同士に男女で歩く2人組が嫌に目に付く
あぁもうすぐでクリスマスか、と進ノ介が嘆いていることを思い出す、今年は姉である霧子は一緒に祝えないと思いながら寂しいイルミネーションが光り始めた街を歩む
「剛くん、捕まえた!」
はや数分でその手を捕まれ言われる、肩で息をしながらそういった彼女の額は薄らと汗をかいていて、特状課から走ってきたのだろうか
あれからどうせ二人に慰め続けられたのがわかって、今更なんのようだとまた冷たく当たりそうになる
「ねぇ剛くん」
「なんだよ」
まっすぐした瞳が子供のように純粋で輝いていた、毎日その瞳の中に映る自分だけが好きで同じだと思っていたかった
中学時代に告白されたりしたのを見たからだ、あれから女と改めて思い知らされて突き放し始めた
なのに変わらずにまたみつめる
「嫌なら、私もう離れるから…だから、剛くん話聞いてよ」
泣きそうな声で自分がこうさせたのかと思うと心が痛み始める
とにかく苛立ちや高ぶった感情を少しだけ落ち着かせて葵を見つめた
「剛くんが好きだからそばにいたかったの…迷惑だったのわかってたけど…でももう離れるから、ごめんなさい」
今にも零れそうな涙でそういって手を離した彼女の背中は丸められて帰ろうと足を進めようとする前に腕をつかみ向けさせる
何か言う前にその唇を静かにさせる
「俺も好きだから、ずっと昔っから葵しか思ってない」
真っ赤になる彼女が面白くて笑ってるのを見られぬように身長差のある彼女に合わせて腰を曲げて耳元でいう
いつの間にか繋いでいた手に少しだけ力が込められた
「……ズルいよ」
そう言われたとしても今のその表情が見たかったからなんて言いそうになって顔を逸らした
「でも、私も好きだよ剛くん」
そういって柔らかく笑う彼女に思わず勝てないか。と思いながらつられて笑う、もう二度と離さないと決めて
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