宝生永夢


※子供がいます











天使のようだと彼女を溺愛した
出会った時は言葉をかけることも難しく、小さな体で走り回っている忙しい彼女の背中が好きだ

仲良くなりご飯をよく共にするようになった時、意外にもガッツリ食べるのだと知ってまた好きになった

交際を申し出た時、困った顔をした後に「私でいいの?」なんて聞いた後に「あなたしかいません」といった自分の腕の中に飛び込んで満面の笑顔で「私も、永夢くんが好き」なんて言われてこの人のことは一生離さないと誓った

交際をして早2年目、20代の間に結婚していた方がいいと思ったのは彼女が6つも年上な上に早く結婚をしてその指に決して外れない指輪をはめて、一緒の時間を歩みたかったから

結婚式の日、ふわふわのシフォンがたくさんのウェディングドレスに身を包んだ彼女は天使という言葉で表現ができないほど美しかった、白いベールに包まれて色とりどりの花を飾り、指輪をはめた時小さく微笑んだ彼女となら一生僕らを分かつものなど存在しないと確信した

子どもを身ごもったとわかった日、周りの人間全員に言いふらした、女の子か?男の子か?どちらだろうと二人の子なら可愛くてたまらないだろうと分かっていた、病院に来てくれた子供たちや親御さんには申し訳ないがきっと天使が生まれる、そうすればもう死んでもいいほど幸せだ

子供が生まれた日、愛らしい男の子だった3900gくらいの大きな子だった、大きな子で男の子ならきっと愛する僕の奥さんを守ってくれると確信した、名前をどうしようかと悩み続けていればパラドが勝手に「えむ」と名ずけた、日本人だしもっと普通にしようといったがみんなが「えむ」がいいといった、僕の愛する奥さんは「永夢くんの、名前と似てるなら凄くかっこいい男の子になるね」なんて言われたら何も言えなくて、そして少しだけ目頭が熱くなった





なのに、なのに


「ただいまぁ」

「あ!永夢くんおかえりなさい」

「葵さ〜んただいまギューし………」


クタクタの身体をいつだって癒してくれるのは愛する妻だけ、40歳の人妻となった故に字面だけでなく雰囲気も少し妖艶さの増した愛おしい人
鍵を開けてドアを開いてリビングに向かえば夕食のいい匂い、今日は煮込みハンバーグだといっていたのを思い出しながら嬉しく足取りが軽くなる
愛する人の抱擁を楽しみたい、というよりもハグは人のストレスを減らす立派なコミュニケーションである

リビングに入ればそこには愛おしい人
そして自分によく似た息子は妻の膝の上でテレビゲームをしている
「おかえり」とも言わずに母親に甘えて話しかける息子は反抗期中だ、8歳にして反抗期を迎えた息子はもう可愛さもないただのライバルとなってしまった


「えむ、パパ帰ってきたから降りて?」

「…うん、あっでもママご飯終わったら俺とお風呂入ろうね」

「男の子なんだし、もう小学三年生になるんだからママと入らなくていいだろ」

「お父さんこそママに甘えるのやめたら?お父さんとお風呂入ると狭くなるだろうし、僕のがママの頭優しく洗えるしね」

「へぇ生意気いうようになったね、でも残念お父さんの方がママのこと上手く洗えるから、ざーんねーん」


帰ってきたらまずこれだ、言い合いは決して終わらない
6歳あたりまでは可愛らしく「パパ」なんて呼んでいたのに、小学校に入り始めて中学年にもうなろうとしているのに大のマザコン、友達からからかわれたとしても恥ずかしさも感じないのか、いやそれ以上にママが好きなのだろう


「もう二人共やめようよ、晩御飯食べなきゃお腹すいてきちゃった」

「お父さんが大人げないからママが困っちゃうね」

「お前がママを困らせてるんだろ」

「もういいから二人共手を洗って来てください」


手をパンパンと叩かれ二人してにらみ合いをした後に洗面台に向かう、容赦なく走って洗面台で手を洗いウガイをしてタオルで手を拭く、隣でズルイ!なんて声が上がるのを無視してまた走り出す


「葵さん!」

「はい、永夢くんの勝ちー」

「お父さん手洗う時20秒じゃなかった!ずるいじゃんか」

「そうなの?」

「違います、僕はしっかり洗いました葵さん」


憎らしそうに見てきた息子をまるでどうだ!?と言うように笑いながら愛する妻を抱きしめた
もう…と言いつつも優しく抱きしめた手を重ねてくれる彼女にキスをしそうになるもダメだと目で言われて椅子に座る

「えむもおいで」

「はーい!」

「ふふっ、またおっきくなったかもね」

なんて言いながら抱きしめる彼女は聖母のよう、愛らしいはずの息子は彼女の腕の中でまるで悪魔みたいににやりと笑ってこっちを向いて舌を出した
あぁなんて腹ただしいことか、今日はどうやらお手製ミートボールがある…これはまた取り合いだが負けるわけには行かない
また男同士の戦いが小さく始まるのだった。








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