ベルトさん












かれこれ何分だろうか
機械でありながら冷や汗のようなものを感じる、目の前で椅子に座って姿勢よく座ってはこちらを見つめる少女
黒いセーラー服に赤色のリボンに長い黒の髪は古き良き日本女性を連想させる、丸いねこのような瞳に小さな赤いグロスの付けられた唇
男ならば愛らしいと思えなくもない少女

『いつまでそこにいるんだい葵』

機械音の混じった音声でそう問い詰める
夏休みに入ったこの期間、外はセミが鳴いて子供は暑い中汗を流して走り回る、子供でなくてもこの場にはいないが特状課に欠かせない泊進ノ介も今頃走り回り汗だくなのだろう
学校がないはずなのに彼女は腕と首以外の白い肌は見せる気もなく、それも外に出る時は黒のカーディガンを羽織るためか余計に肌は晒されなくなる
暑いはずの制服に身を包んでやってくる


「だって、ベルトさんのこと、みていたいんだもん」

ダメだと言えないのは悪い気がしないからか、人間ではない身分でありながらこういった好意は嫌な気持ちにはならない
シフトカーたちが彼女の足を走り回ったりするのも気にすることなく、その黒い瞳はただ一つのベルトに向けられる


『もうすぐで免許も取れるだろう』

「はい、そしたらここにはきちゃダメですか?」

『…いつでも来てくれて構わない』


どうしてこの娘は何事もストレートに物事を言うのか。
人間であれたなら彼女に様々なことを言い、相手をしてやることも可能であるが生憎肉体と呼べるほどではないが今の体は小さく彼女の手に乗るサイズだった


「ベルトさんは私が嫌いですか?」

『嫌いじゃないとも』

「じゃあ、好き?」

『どうしてまぁそんな単純な二択なんだ…嫌いではないよ、そして友愛として君を好きだよ』

「…そうですか、えぇ友愛として」


可笑しい娘
16歳になったばかりの西沢葵といった彼女は人間でもない、機械でありベルトである人工知能を持ったベルトを愛した
見た目も何もあったものではないのに彼女の愛は確かで、全員驚いたものだった、だが真剣な彼女の表情や心をみて悪い気はなかった


『君にはもっといい人がいる、幸せになるべきだ』

「私の幸せはベルトさんと話をすること」

それ以上なんてありえない、嬉しそうに笑うものだから釣られてしまう
愛というものはたいへん難しく、人間とそうでない者同士ならば余計にだろう、見た目の違い中身の違い、人であるかないか
世間から見ても自分から見てもおかしいと思えてしまうのに少女は何もおかしい事など無いという
愛があれば関係ないとはいうが、年若い娘の幸せを今奪ってはならないと自分を咎めた。


「…触って、いいですか?」

『あぁ、だがあまり乱暴はやめてくれたまえ』

「ベルトさんは硝子より繊細だから」


小さく笑いながら細い指先が触れる、心底嬉しそうな彼女に文句も言えずされるがままにみつめた
黒い瞳が細められて頬の筋肉は緩む、熱の籠る瞳に今自分が人間ならばと不思議と考えては自身を嘲笑う
そう考えていれば小さな音がした、確かに触れた柔らかな感触は指ではなく何かと思い、彼女をみつめた
赤い唇が少し薄くなって、チークを施したわけでもない頬が桃色に染まっている


「乱暴は、してないでしょ?」


まるで小悪魔のようだ。といえばいいのか彼女は薄らと笑った
文句も言えずただ黙っていれば彼女の柔らかな手の上でまたいじくり回されるのをショートしそうな思考回路で必死に考えた


『葵…私はだね』

「ベルトさん以外好きになれる人なんて、見つからないんだもん」

言葉を遮って言った彼女はあまりにも嬉し恥ずかしそうに言うものであるためか文句も言えずそっと黙りながら彼女の顔を見つめるだけだった。
あぁそんな恋する乙女の顔で見つめられては、いつか歯止めが効かなくなるじゃないか…なんて考えは幼い少女にはまだわからないことだろう。






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