フィリップ
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初めはただのモデルとしての彼女が女優へと道を進めて
有名になる主演を務める作品は数しれない、この探偵事務所に来る彼女と画面の奥の彼女は一味も二味も違う
出会ったのは翔太郎と共に過ごし始めた頃、服もなければ何も無い、慕っていた人もいなくなり探偵事務所所ではなく今よりもずっと極貧生活を送っていた
その時に助け舟を出してくれたのが売れたての女優となった西沢葵だった
昔から変わらない顔立ち、雰囲気ばかりは男を惑わせるように年々濃くなる
画面の向こうで雨の中男に後ろから抱きしめられ振り向いた彼女の唇を男が奪った、自分でもわかるほど拳が強く握られ歯を少しばかり食いしばる
「っ…あーちょっと観てぇのあるから変えるぞ」
ぎこちない声でそういった隣の翔太郎もまさかこんなシーンだと思わなかった
新しい主演をすることになったドラマだから見て欲しいと、毎度のことながら送られたメール
友達として見る翔太郎に付き合って第1話でこんなにも刺激的なシーンがあるとは聞いてもなかったものだ
気まずそうな翔太郎を無視して立ち上がりキッチンでココアを入れそれを持ちガレージに向かう
「…ありゃあ相当嫉妬してやがるな」
ハーフボイルドな探偵は友人である彼女のキスシーンに胸を高鳴らせたのを内緒に相棒の心配を傍らでした
戻ってこないことを確認しもう1度チャンネルを変えれば今度は普通の日常シーンであったのをみてホッと胸を撫で下ろした
「こんばんは」
「おー、フィリップならまだ下にいると思うぜ」
「有難う…って何その顔」
「お前さ、フィリップのこと男として見てるよな?」
近頃自分の借りてる家よりも探偵事務所に来ることが増えている葵は今夜もまたやって来た
手には差し入れでもらったであろう有名所のシュークリームがあり奪い取りながら冷蔵庫に片付ける
兎も角、フィリップの元に行く前に色々聞かねばならんとまるで父親面の翔太郎は椅子に座らせて葵にコーヒーをだそうとするがココアがいいと文句を吐かれた
「男として見てるよ?じゃなきゃ付き合いたいなんて私言わないもの」
「ちなみによ、フィリップとはどこまで進んでんだ?」
「て…手つなぐ所まで」
画面の奥の挑発的な妖艶な女を演じていたとは思えないような初心な少女のように紅潮させた頬で嬉しそうに小さく笑った
友人とはいえ女優、顔立ちや話し方、一つ一つの仕草だけでも男心を擽る
幼い子供のような無邪気さを兼ね備えたようなその小さな笑い方にドキリとしたと同時に呆れが生じた
「お前は中学生か」
ぺちりと音を立てて彼女の額を軽く叩いた
「痛いよ翔太郎くん」なんていうがそれはフィリップもあんな顔をしてしまうのも無理はない、恋人でありながらいくら仕事と言えどキスシーン、キスだけで済めばいいもののそれ以上もいつか現れるかもしれない
「フィリップだって男だっていうの理解してやれよ鈍感」
「…えぇ、翔太郎くんには言われたくないな」
「どういうことだよ」
「そのままだよ、ご馳走様何かあったら呼んでね」
立ち上がった葵はそういって少しだけど嬉しそうに笑った
扉を開けて下に降りたのを見て先程言われたことを考えても答えは一向に見える気配はなく、まぁいいか…などと言ってまだ残っている自分のコップの中の甘ったるいココアを飲み干した
フィリップは感情をなにかにぶつけることが多い
それを知ったのは出会って1年ほど経ってからだ、いら立ちや悲しみや嬉しさ全てが全て検索で解決するものだと思っている可能性もある
そう考えれば彼はやはり子供なのかもしれない
そこが愛おしい部分であり、少しだけ人と違う部分だった
「フィリップくん」
名前を呼んでも気づきもせずに階段を降りて彼に近づく
仕事上様々な男性を見るがここまで整った人を見るのも珍しいものだと思える、仕事上でキスをしたりそれ以上を演じる事はあるが、それら全てに彼を重ねていることなど今更恥じて言えなかった
「フィリップ」
そう小さく呟いて彼の時間を奪うように手を取った
ようやく気づいたのか検索を終えた彼が向いたのをみてそれだけで身体の熱が数度上がる、丸っこい猫のような瞳も柔らかそうな唇も綺麗で赤ちゃんのように柔らかな肌も
まるで神様から授けられたものといえるもので、薄開きの薄い赤みのある唇を塞いだ
「…葵さん…?」
思わず自分がしたことだというのに固まって空いている手を唇に重ねた、柔らかい甘い唇
まるで初めてのような感覚の甘さに酔いしれて顔を見ることさえ出来なくなる
名前を呼ばれているのに声も出ずにフィリップを想った
「葵さん」
先程の葵と同じように二度目の名前を呼んだフィリップは彼女の唇を抑える指先を握って、その唇を重ねた
薄くもない厚くもない形のいいそれを重ねて
噛み付くように触れるだけのそれが深くなる、性行為をしているかの如くの音がイヤに耳に張り付いた
いつの間にか押し倒され天井とフィリップが視界を占領する
「…このまま、あなたが欲しい」
熱を孕んだその瞳でそう言われ、言葉も出ずにただ握った手を強くすることしか、いまの葵には出来なかった。
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