猿渡一海
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いつか終わりが来ることを分かっていた
夢物語は夢物語のままで、世界はゆっくりと変わってしまうのだと、隠してきた過去も全ていつか晒されるのだと
それは桐生戦兎も万丈龍我との出会いも、何よりも石動惣一との生活からもなされたことだろう
「姐さん風邪ひきますよ」
「姐さんとか呼ばれると反応しません」
「葵さんってば」
「もうなによ」
はぁ…と小さくため息をついた、今頃全員が驚いているのだと思いながらも嘘をついた自身を恨んだ
出来るだけ人に嫌われないようにと、誰か一人でも助けれたらそれでいいと願った結果は不幸に落としたのだと後ろ指をさされた
「いや、カシラが呼んでたんで」
「そう…3人ともご飯食べておいで、こっち来てから一海の面倒みさせてたし」
「なにいってんですか、姐さんやカシラがいなきゃ俺たちなんて」
3人のその表情は余計に心を苦しめる、彼らの幸せを願った結果はこんな形にさせたかったわけでもなかった
一海に持たせたGPSを確認しタクシーを捕まえて走らせる、自身の肩書きとなる会社の社長令嬢という重たいそれは世界さえも巻き込む、一見表向きは普通でも裏を見れば戦争の武器を作るだけの会社だった
携帯画面に映るのは桐生戦兎という文字、帰ってきて欲しい、話がしたい、ただその一言ばかりが毎日送られた、電話を取ることもメールを返すことも二度とは出来ないと思った
「何してるの一海」
「びっくりしたじゃねぇか」
「はぁ…そんなことしてないでいこう」
タクシーを降りて公園の中に入れば猫達に囲まれては眠る一海がその場にいた
声をかけて手を伸ばした彼は昔こうではなかった、日本がまだ一つの国だった時も三つになった時も彼は人々の希望だった
誰かを助け手を伸ばし、自分が犠牲になることを厭わない、それがどれだけ普通の人間には耐えようのないものなのか誰にもわかりやしなかった
「葵、抱かせろよ、いつもみたいに」
恐ろしくてたまらないのだと思えた、戦争なんて下らないと言いたい
気丈に振る舞いながら笑っていた彼を救い出した頃にはもう手遅れで何も記憶のない彼を救うことなど何も出来ずに
ただその空っぽの心を満たすふりをして、自身の悲しみを埋め込んだ
「いたっ、一海痛いから」
「消えんだからいいだろうが」
「消えるからって血ぃ出る」
吸血鬼のように首筋に噛み付いて、その美しい白い歯が肉を食らいついた、本当に捕食をされている気持ちになりながら恐ろしく思いつつも心地よさを感じて
背中のファスナーを下ろしていく手も頭を抱く手も心地よく、恋人でもない行為を望む
全部を投げ出してしまえばよかったのにと何度も彼を見て思えた、面倒見がいい性格で済まない彼は騙されるように金を借り、人体実験に加わり兵器にされた
いつかそれが桐生戦兎にもあるのかと思えた時、仮面ライダーとして平和など守らなくていいのだと言いたくなった
人間として生きれなくなるのだと言いたくなる気持ちがありながら、それを利用して生活をしている自分は魔女のように火炙りにされる気がしてたまらずに背中を凍てつかせた
「はぁっ、っぐ」
「っあぁっんっぁ」
広いだけのホテルで声が響いた、虚しいだけのこの行為に愛も憎しみさえもない
欲望さえも消えてしまえば何も残ることはなく、生きている意味さえも消えてしまう
背後から突き上げられる心地よさも、抱きしめられる腕も、耳に当たる吐息も、全てが夢幻だ
「かずっ、あっやっはぁ、あんっゃ」
「もうすぐっ終わっから」
「やっ!ぁっい、んっあふぅ」
枕に顔を埋めて一層の事二人でこのまま繋がりながら死ねたらいいのにと思えてしまうほどには狂いそうになる
「いてぇか」
「え?」
「それ」
そういいながら腕を指したのをみて、赤い手形がくっきりと残っていたのを見て苦笑いをした
痛みは少しだけ残っているが気にもならないもので、反対に心地よかった、これが互いを求めている事だと
「なぁ葵」
「なに?」
「俺が死んだら、笑っててくれよ」
そういいながらコートを羽織って出ていった一海の背中を見つめるだけで、それ以上追いかけることも出来ずに部屋の中で一人居座った
広すぎるキングサイズのベッドに横になればまるで天井に出来た小さなシミは嘲笑っていた気がした
「…なら殺すのは私の役目なのかな」
最初に殺したのはそうだったなら、きっと次もそうありたいのだとエゴを押し付けるように部屋の中に吐きつけた
ベッドの匂いは小さく彼の匂いを残して
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