高橋
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痛々しい程の派手なビビットピンクや黄色、さまざまな派手な色の看板たちの中をすり抜けて店に入る
「おはよう夕日ちゃん、今日は一発目から高橋さんから予約はいってるから」
「はーい」
けだるげに痛んだ茶色の髪を手で梳かしてスタッフルームにはいり着替える、店特有の露出の高い服装にももうなれたものだった
時間はいつの間にか18時を超えていて、店長のオープンの声が聞こえて自身の与えられた部屋に入り用意をする、それから五分も立たないうちか電話がなり、客が来たと言う連絡に急ぎ足で未だになれないピンヒールを履いて出迎える
鼻の下を伸ばしたわけでもなく、見定めするわけでもなく、まるで待ち合わせであって挨拶をするように男はポケットに入れていた右手を出して「よっ」といった
「いらっしゃい高橋さん」
「おう、今日もいいケツしてんなぁ」
そういいながらも触りもしないこの客と出会ってもう1年近くはたつだろうか、時間は二時間半コースの二万八千円
決して安いわけではないこの店に来る客は年々日本の経済事情により減っている気がしなくもない、それでもこの男は月に一度の給料日、安月給だと文句を吐きつつ嬢には決して文句も言わずに金を払う、時には延長をして抜くわけではなく話したいがためにもだ
「あー、もう店でやめてよ」
「堅いこというなよ、どうせこの部屋の臭いなんざほかの客にもスタッフにもわからねぇだろ」
そういいながら小さなかばんに入れていた道具を出して、それは小さく煙を吐き出しながら彼の体の中に侵食する
「体悪くなるよ」
「悪くなんねぇよ」
夕日と高橋の出会いはもちろんこの店だ、最初はもちろん高橋好みの少し派手なような地味なような女だった、物事はなんでも客だろうとはっきりいうタイプで相談に乗りやすいせいか、常連客は大抵彼女についていた
この店ではもう四年目になろうとするのだからまぁまぁの古いスタッフでもあるのだろう、線引きをしっかりとしている彼女に恋をできるほど馬鹿な客はつかず、トラブルもなくここで風俗嬢として仕事ができた
「あんときも、俺がクスリしてたよなぁ」
「本当あんなので私も亜人だなんてわかりたくなかったよ」
許可も取らずに部屋の棚の中に閉まっていたアメリカンスピリッツを取り出して火をつける、肺の中いっぱいに溜まる悪い煙、紫煙が部屋の中を漂い二人をみつめる
ベッドに腰掛ける二人は風呂に入るわけでもローションを塗ることも着ている服を脱ぐこともない、ただ片方はタバコを吸って、片方は薬物を摂取する
「ハイになると人間なにするかわかんねぇんだよ」
「俺と死んでくれねぇか?なんていいながら無理心中図ろうとしてさ...あんたあの時から自分亜人ってわかってたなら意味ないじゃん」
「いやぁ鬱だったんだよ、だから死にてぇってなって死ぬなら好きな女と死にたいしな」
「...うそつき」
この男とこの場所だけの付き合いだがうそをつくのが下手だと思った、そして本音をいうのも苦手で、不器用なんだと思えていた
それでもほかの客と比べても好きな部類でそれははっきりとしているからだろう、好きなことを好きなようにするような男だから、けれど決してルールがないわけでない、この店だって本番営業は禁止されているのだ、それをしっかり守って無理強いも勿論しない
「もう俺もこれなくなるかもな」
「仕事で?」
「どうだろうな、佐藤って人んとこにダチといかねぇかって」
あぁ亜人のあの男かと理解した、確かに高橋がすきそうだななんて見ながら思った、そして亜人として生き辛い自分たちのためにも、死ぬことがないからこそ心配などといっても意味がないことくらい自分でもわかっていた
それなのにこの男がもう二度と帰らないのかと思うと少しだけ苦しくなった、好きだという感情なのか理解しようにも難しいものだった
「私はそのパーティーに誘われないんだ」
「来たいのかよ」
「やだよ、私あと400万貯めて念願の美容室建てるんだから」
「そうだよ、お前はそれでいいんだよ」
まるでその言い方は兄のような父のような言い方で、クスリをキメているくせにえらく今日はまともな思考回路をしているなと思った、短くなったタバコを灰皿にこすり付けて消してしまえば、いつの間にかベッドに横になって気持ちよさそうな顔をする高橋がいた
その上に跨っていう
「私ももう高橋さん来ないならこの店やめるよ...だから、今日は本番していいよ」
前々からこの店から引っ越そうと思っていたのは確かだ、それが今なのか後なのかは考えてもないそれなりに貯金はできているのだから別に遠くに行く事だって出来る
本当は高橋が理由などではないけれど、今ならいいかと思えてそう適当にいった、また彼は優しく笑ったそれでも頭を軽くなでて少しかすれたような声でいうだけだ
「体は大事にしろよ、お前は同じ亜人でも人間だろ?」
まるで何かをしったようにそういうものだからいいたくもなるが、何もいえずに黙ってそれを受け入れる
同じベッドの中に入って腕を足を絡めあって目を閉じる、淡いピンクの壁をオレンジの明かりが照らす、いびきをかきながら眠る高橋の唇を奪う、最初で最後のキスをした客だ
いや、男だろう、この店に来る前からずっと処女だった、だからこそこの男がある意味すべての心の初めてを奪った気もした
電話が鳴って店長の声が聞こえる
「高橋さん、今日どうする?」
「いや、帰るわここにいるとどうも本気で好きになりそうだしな」
「言うことかわんないね」
「まぁな」
靴を履いてドアを開けようとするときどうしても引き止めたくなってしまうのを胸に押さえ込む
「なぁ夕日」
「なに」
「ありがとうな」
最後にそう告げて出て行った彼があまりにも切なく笑うものだから、どうすることも出来なくて大きなため息をついてテーブルに残された分厚い紙封筒をみて「あぁ、本当馬鹿なんだから」なんていいながらまたアメリカンスピリッツに火をつけて、彷徨うだけの煙は部屋の天井を歩いた
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