Velvet Hammer


いつから違えたのかと考えた、圭が自分たちを捨てたからか、海斗が諦めもせずに圭を思っていたからか、自分自身が好きだと思いながら身勝手な圭に嫌悪したからか
何処から歯車は外れて回転を止めたのか、油を指してももう錆び付いた物は戻らない

「ねぇ海斗、意味なんてないよ」

だって圭は行かないと言ったじゃないか、もう私達とは遊ばないと電話越しにそう聞いたのだ
それでも待ち続けた、来てくれないと分かりながらその小さな手を繋いで
圭のことをなんとなく理解したのは高校生になって体、恵里ちゃんのことを思い彼は必死に医者になろうと努力した

「またここにいる」

「夕日か元気そうだな」

「海斗もね、それよりまた…圭を待ってるの?」

いつまでも果たされない約束なのに永遠にそれは叶わないくせにと悪態ついた
いつの間にか三人とも違う高校に通い始めてそれでも家は一緒だから最寄り駅を降りて帰り道のコンビニではよく見かける
きっと圭を探しているんだと理解する、まるで叶わない恋をしているように見えた、裏切りだと大きく声を張り上げれるほどの馬鹿ならよかった
圭が何処までも冷たい人間で残酷な男なのだと言えたならばきっと海斗も嫌悪出来たのかもしれない
永井圭はずるい男だった、何処までも残酷で冷徹で何よりも優しく家族思いで、捨てようとして捨てれなかった


「…うそ」

永井圭が亜人だと報道された時だった、制服なのも忘れて走り出して兄の使うバイクを借りていそうな場所に向かう
きっと海斗の考えなら逃げようとするはずだ、圭だって海斗に助けを求めるのだ

「ねぇ3人で逃げようよ、昔みたいに」

そういった途端に海斗も圭も小さな希望を見つけたように見えたのは結局自分がそう望んだのだと思った
何処までも逃げれるのかと思いながらも必死に三人で逃げ続けた、生傷は増えて危険な目にあってきた


「だから、逃げるの?」

「…迷惑なんだよ、カイも夕日も僕一人で逃げた方が効率がいい」

「私はわかるけど、海斗は違うじゃんか、巻き込みたくないってどうせ思ってるんでしょ」

「勝手にそう解釈したらいい」

何処までも身勝手を演じようとする圭が何処までも自分たちを考えていたのはしっていた、どうせ逃げれないのも分かっていた
行ってしまう圭にそれ以上言っても意味が無いと見つめた、背中が小さくなっていきそれがどうしても怖くなって腕をつかむ


「圭…また、いつかまた三人で戻ろう」

あまりにも泣きそうな顔を圭はしていた、戻れたらよかったのにと行ってしまった圭をみて泣いた
それからだろう海斗のみ逮捕された、離れ離れになった三人が戻れることなんてもう二度とないのだと感じながら


「おはよう海斗、そっちの生活は?」

「まぁまぁ、食事もそんなに悪くないし」

ガラス越しに電話を繋いで話をするなんて考えもしなかった、海斗の優しさが好きだった、圭の決断できるところが好きだった、結局それはいいようにならなかったのだ
悪い方ばかりに全部連れ込まれて、だからこそ何処まで落ちてしまうのかとも思えていた

「ねぇ海斗、私待ってる」

「うん、ごめんな夕日」

「気にしないでよ、また昔みたいに三人でカブトムシ取りに行こう…静かにずっと3人で」

「…なぁ、夕日」

名前を呼ばれて顔を上げる、それはあまりにも優しい顔で泣きそうな程だった、そんな顔をするくらいならやめて欲しいと願ってしまう
ネジはどこかに落ちて消えてしまった、どうしてこうなったんだろうかと考えても結果は出ないことくらい馬鹿でも分かっていたくせに

「もし俺が圭も、夕日も連れ去っちまっても怒らないか?」

「…うん、いいよ…私にもし出来るのならきっと私も二人を連れ去っちゃうもの」

好きだからこそ愛しているからこそ三人でいたかった
面会時間の終わりを告げるベルがけたたましく鳴り響いて外に出る、外はもう暗くなって寒さが足を刺激する
小さく冷えた手を擦りながらバスを待ち空を見る、毎日毎時間二人を想った1度たりとも忘れたことなどない、昔を重ねて星を見つめる


「…いっその事、私が亜人なら…良かったのにね」

そう呟いた
大きなクラクションが聞こえて振り返った時には車がこちらに向かって走った、そんな時でも海斗の笑顔は離れなかった
星はキラキラ輝いて、圭みたいに私を助けてくれるのかな…なんて思わず小さく馬鹿なことを思うのだった。




ベルベットハンマー
「今宵もあなたを想う」