autumn




肌寒い季節が訪れた、カレンダーは10月の終わりごろで町中カボチャやお化けにまみれて浮かれ騒ぎだ
仕事を終えてビジネスバッグを片手に行きなれた銭湯に行けば閉店時間近くのためか人もおらず、変わらない亭主にタオルが差し出された

「ガイちゃんなら帰ったよ」

「……そうですか」

いつも一番風呂を狙って彼が開店と同じ時間に来ていることは知っていた
酷く疲れた体を湯船の中につけて誰もいない風呂場で天井を見上げた、ガイが消えてから3ヶ月が経った、あの夏の日まるで何も無かったかのように消えた彼を忘れることも出来ずにいた場所を何度も思い出す

「今更だよね」

愛していたわけでもなかった、恋人でも友人でもない、何かではなかった2人だ今更何も思うこともない
人が居らず閉店間際だからと甘えて顔を半分湯船につけた、この3ヶ月ガイを忘れたことは1日もなく、匂いも触れる手も表所も全て消えなかった



「ようやく起きたか」

「なんでいるの、てかなんでおんぶしてるの」

「お前が逆上せて気絶してたからだろ」

「……そっか、ジャグラーって案外おっきい背中してるね」

ふと目を覚ますと冷たい風が心地よく、顔に触れるジャグラーの少し長い癖毛
感じる温もりも匂いもすべてガイとは違う、甘い香水の匂いはこの男の存在を表すような気がして、洗剤やシャンプーの匂いだけのガイとは違う
あの日、ガイが消えてからジャグラス・ジャグラーは宇宙の前に現れて甲斐甲斐しく面倒を見た、怪獣が襲ってくることもなくいつも通りの普通の生活を送って
帰り道に勝手に現れて適当に夕飯に連れていかれたり、風呂を共にしたりするだけのまた違う仲になった

「ガ「ガイなら知らないなぁ」…別にジャグラーに聞いてない」

「ガキかよ」

「あんたに言われたくない」

「どこがだ、というかお前体重減りすぎだ軽すぎて骨かと思ったぞ」

「なんで私の体重知ってんのもう下ろしてよ!」

「バカッ、暴れんなって」

ジャグラーを見る度にガイの顔が更に思い出した何者が知っていて、すべてを知っているくせに宇宙には話もせず知らないふりをする
優しさなのか分からない彼の言動に左右されながらも宇宙は難しく彼の背中を叩いた
歩きなれた道のりを通って家の鍵を勝手に開けたジャグラーに文句も言えずにベッドに下ろされる

「飯は?」

「…食べた」

深いため息を彼に吐かれるのは何回目かと思いながらも食欲がないといってベッドに横になる
ジャグラーの言っていたことは正しくガイが消えてから宇宙は平気なフリをして日常を過ごしてはいたが体重も8キロほど落ちて、生きることへの気力が感じられなかった
冷蔵庫を開けて適当においてある材料で炒飯を作った彼が呆れた声で名前を呼んでリビングテーブルの上にフライパンを置いた

「俺が作ったんだから食えよ」

「やだ、ジャグラーの料理おいしいもん」

「なら文句ねぇだろうが」

「私よりうまいってなんかむかつく」

そういいつつ向かい合って座り、渡されたスプーンでフライパンの中にある炒飯をつつく
彼がいなければ今頃宇宙も仕事も何もかもをやめて生きることへの諦めがついただろう
案外世話焼きな彼のおかげで食事も風呂も仕事もした
夕飯を食べ終えて歯を磨けば23時だというのに寝ると告げる宇宙の手を引いてベッドに連れていく

「ガイより俺の方がお前を見てやってるのにな」

嫌になると言えばそうだが心地よかった、宇宙の縋るべき場所になれればと、逃げる場所になれるならと
狭いベッドの中で2人、ジャグラーの胸の中で子供のように泣く宇宙は3ヶ月間名前を呼び泣き続けた、何をすることも出来ずにその背中を撫でて慰めることしか出来なかった

「いつまでそうするつもりだよガイ」

深夜3時過ぎ、ようやく眠りについた宇宙を確認してそう言えば
ベランダに立っている男が1人、誰とも言わないこの男も3ヶ月間とまでは行かずともいつも来ていた

「お前が宇宙の幸せを作ってくれてるなら、俺は必要ない」

「あぁそうだ、だから失せろお前は捨てたんだろ宇宙を」

「そうじゃない」

「いや違うな、ガイ…お前はオーブに選ばれた、ナターシャを求めた、それ以上に望むものなんてあるのかよ」

贅沢すぎるんじゃないか?と告げるような声だった
ジャグラーの腕にはいつからか宇宙がいて、その場所も温もりも自分だけではないのだと思い知らされた
どれだけ愛を告げても時計は戻るわけもなく二人の距離を開けていくように思えた

「お前の愛はなんだ、クレナイ・ガイ」


そう言われて思い出すのは宇宙だった、よく笑って冗談を言って時折軽く怒らせて手を重ねて愛というものを行為でしか表せず曖昧なまま
まるで雲の上のような関係が今の二人を苦しめる

「俺の愛をお前は知ってるんだろ」

「つまらない事きくなよ…とっとと帰れ俺も眠たいんだ」

追い出すようにそう言ったジャグラーにガイは「宇宙を頼む」とまた告げる



「帰ったの?」

「起きてたのか」

「…そりゃあ何ヶ月もされてたら、嫌でも知るでしょ」

「怒るなら怒れよ」

ふと声を上げた宇宙に驚きつつも不貞腐れた子供のような顔をした、久しぶりに宇宙が嬉しそうな表情であったせいで余計に何も言えなくなる
ジャグラーは悪になろうとしながらもなれないでいた、本気で宇宙を愛しているからだ、彼が1度も宇宙の体を求めたことも無理やり何かをしたこともない、ただ静かに寄り添うだけだった
ワガママを貫く二人の子供に挟まれながらも何一つ文句も言わず受け入れた、それが当たり前だといって

「いつまでいい子ぶってるんだよ」

「いい子じゃないから、ジャグラーに甘えてんの…わかってよ」

「本気でガイが好きなんだろ?今ならまだ間に合うぞ」

「…なんでそういうの、ジャグラーは私が好きなんでしょ」

いつにましてしつこく言うジャグラーに思わず宇宙は問う、当たり前のことだと言いたげな顔をしたが彼はベッドから起き上がり宇宙を見下ろす

「愛してるからだっていったら笑うか?」

「は…」

「ガイなんざどうでもいい、だがな俺だって惚れた女に幸せとやらを見つけろって思うんだよ、あぁちくしょう…ガイめ、あいつはずっと俺のことをどこまでも勝たせてくれねぇんだ」

悔しそうにそう言ったジャグラーに目を丸くした宇宙は起き上がり彼を見た
いつも冗談めかしに愛を語るこの男の気持ちがようやくわかり、そしてそれには答えられないのだ
それ以上に愛してしまった人がいたから

「待っててくれてるかな」

「待ってるんじゃねぇよ迷ってんだ」

「私でいいの、かな?」

「お前しか出来ない、それはお前も同様だろ」

「…ごめんねジャグラー」

「お人好しだなお前もガイも、フラれたって俺がいてやるよ」

宇宙は1度ジャグラーの頬にキスをした、謝ることはこれ以上出来ずに寒い秋空の下走り出した
どこにいるのかも分からないのに無我夢中で簡単なサンダルを履いて街中を走った、ふと足を止めているのかと思いながら家から随分と遠い場所に行って、入口があるのかそもそも人が入れるのか分かりもしない、春に2人で花見に来た場所は紅葉が程よく色づいて咲いていた
小さく聞こえるのは聴き慣れたオーブニカの音だ


「……ガイ?」

恐る恐る近づいて真ん中にある大きな岩の上に座る男に声をかけた
オーブニカを奏でる音が止んで、彼の口が離れて宇宙を彼の目が捉える

「宇宙、どうしているんだ」

「迎えに来ちゃった、ガイがいないと駄目みたいで」

「…俺は、恐ろしい存在だあの力でたった一人の命も守れなかった、大切だったのに同じように愛していたのに、それを無くすのが怖いんだ」

そう語るガイは怯えていた
ウルトラマンオーブとしての力を持ちながら、一つの大切なナターシャという存在を守れなかった
そして宇宙のことでさえも、ジャグラーがいなければ宇宙も、ましてやほかも助けられなかった、それが何処までもガイの心を締め付ける
ゆっくりとそばに行く宇宙に彼は距離をおこうとする、今手を引かなければもう二度と戻れないような気がした、ジャグラーの言動に背中を押されたのだから

「行かないでガイ」

「…ダメだ、俺じゃ」

「ダメなわけない、ガイがいなきゃ私ダメなの…ジャグラーがそう教えてくれた、きっと私たち臆病なだけなの」

「臆病か…」

どうしようもないほどに心臓が高鳴る、行かないでほしいと宇宙は走りガイを抱きしめる
ここに彼がいるのだと、匂いが体温が感触が全てクレナイ・ガイを表した

「いいんだ、やり直そ…前みたいに」

「…宇宙、俺でいいのか」

「いい加減言わせないでよ、ほら帰ろう」

戸惑いのあるガイにそう告げれば小さく頷かれ手が重ねられる、肌寒さにくしゃみをすればガイの羽織っていたジャケットを渡されて
ゆっくりと2人で歩き始める
もうすぐ出会って1年か…等と柄にもなく思えた
帰宅すれば家の中にはジャグラーがいた形跡も残っておらず少しばかりガッカリとする

「…宇宙、今すぐ抱きたいお前が欲しい」

「は?えっいや…うん、いいけどさ…その前に」

「なんだ」

ドアを開けてすぐにそういったガイに壁に押し付けられ驚きつつもあぁ久しぶりに感じるこの匂いや求められ方に心が躍る
けれど宇宙は1度止めて、見つめたあとに小さく微笑んでいう

「おかえりなさいガイ」

「あぁ、ただいま宇宙…んっ!!」

「3ヶ月も離れてたんだから、埋めてよね」

「あぁ倍にしてやるさ」

そういいながら玄関先でなだれ込んだ2人はもう迷いもなく幸せそうに笑った
薄く開いた窓から入る秋の風はどこまでも2人の熱くなりすぎた熱を冷ますように、そして大きく輝く満月は2人の心を照らし出すように夜空に浮かんでいた。


end








もう互いに無理だとベッドに倒れ込んだのはお昼の12時前だった、夜中から求めあって飲み物を飲んだりしながらもしていた行為に汗はとめどなく流れて、宇宙の声も枯れていた

「…ガイがあんなとこでしたがるから、びっくりした」

「………ジャグラーの匂いがしたから消したかったんだ」

「何それ嫉妬?」

思わぬ言葉に笑って手馴れたように冷蔵庫の中のラムネをとって飲んでいたガイをみれば、少し恥ずかしそうな顔をしていた
実際離れていた期間は気が気ではなかったのだと言えるわけも、宇宙が知るわけもないのだから

「あぁそうかもな、それくらいに愛してる」

「っえ…今ガイなんて」

「聞こえなかったか?」

目を丸くした宇宙の側に寄ってベッドに腰掛けたガイは耳元で囁いた

「この銀河系一、お前を愛してる」

「私も、ガイを愛してるよ心から」

「…あぁ」

宇宙の答えに同じように頬を赤く染めたガイはそれを隠すようにラムネを飲んだ
ラムネの味は分からないほどには顔が熱くなるのを感じながら横を見れば、同じように赤くなる宇宙がいて、顔を見合わせた2人は小さく笑うのだった。