Summer




夏の暑さが脳みそを焼き消すようなそれほどまでに今年の夏は暑かった、先程買ったばかりのコンビニアイスは早速溶けて地面に消えた
毎日続く37°以上の気温は普通ではない、怪獣の仕業だと思ってしまうほど
いや実際そうだったのだ、この街では近頃頻繁に怪獣が現れるものだから引っ越してきてから随分と立つため慣れたものだ
家や職場が壊れてもスグに国からの補助もでる、だからこそこの街から出ないでいた

「宇宙先に帰ってろ!!」

「ちょっとガイ!?どこ行くの」

ランチがてら買い物をしようと誘い出した宇宙はガイを連れていた
突然の怪獣の出現にも市民は慣れたように足早に逃げていく中で1人だけ怪獣の足元まで走っていったガイに思わず宇宙も荷物を持ちながら走り出した
こうして怪獣が出現した際ガイと行動をしたことは初めてであった、肝の座った男ではあるが何を考えているのか分からず追いかけることしかできなかった

「光の力お借りします!」

遠く離れた人のいない場所でそう声が聞こえた、宇宙は見違えるわけなかった
彼の手にはリング状の何かがあり、それが光り輝いた、それと同時に見慣れてしまった巨人、ウルトラマンオーブが現れたのだ
宇宙は信じられないというように目を丸くして見つめた

「こんなところにいたら危ないじゃないかハニー」

「知ってたの?」

「知ってた?あぁガイのことか」

突如隣に現れて肩を抱いてきた男、ジャグラスジャグラーをみつめた
今頃知ったのかというように彼は笑い出して宇宙の喉に触れる

「あいつはオーブだ、人類を人間を守る使命を持った光の戦士」

「光の…戦士?どういうことジャグラー…知ってるの?ガイは何者なの」

「お前達人間の言葉を借りるなら、宇宙人だろうな俺もガイも」

まるで頭を鈍器で殴られたような気分だった、ジャグラーの言葉は続いて「お前のことだって正義の一環だ」「あいつは愛なんて言葉だけだ」そんなことは分かっていると宇宙は声が出なかった、幻滅したわけでも怯えた訳でもない、ただ真実を受け入れないのだ
普通の人間として愛していた者が人間ではなかったことが、戦士であることが
ジャグラーはいう「哀れな女だな、宇宙」

気分が悪くなりその場で吐瀉物を吐いた
地面に広がる先程食べた昼食、哀れで面白い生き物を見るようにジャグラーは嗤って地面にひれ伏す女を見た

「俺だってそうだ、だがな宇宙お前を心から愛してる嘘じゃない」

「触らないで今何も考えたくない」

そういった途端に頭上から大きな音を立てて隣のビルが宇宙とジャグラーの方向に倒れたのがわかった

『宇宙…とジャグラー!』

その時のガイの思考は何故宇宙とジャグラーが一緒なのかということだった
それでも必死に手を伸ばしてビルを止めようとするが一瞬遅れた動きは間に合わずに2人の上にビルは倒れた、だが心のどこかでジャグラーが宇宙を守っていると確信した
どこまで悪になろうと非道になろうと弱きものを見捨てるほどでは無いと思っていたからだ
ガイの思考通りにビルは音を立てて更に二人の間を割るように切れた、その間から現れたのは怪人態になったジャグラーの腕に抱かれ気絶した宇宙だった

「そんなにみるなよガイ」

『どういうつもりだ』

「そんなこと後でいいんじゃないか?」

どこまでもニヤリと笑いながらもジャグラーはどこからともなくダークリングを手に持っていた、目の前で暴れる怪獣を今は止めなければならないとどうにか集中させた
ビルが倒れ最後だと言わんばかりにオーブが怪獣を斬りつければ大きな爆発をして怪獣は消えてしまう
胸のカラータイマーが音を立てていることをみて、オーブは元の姿に戻りジャグラーの前に立った

「もう一度聞く、どういうつもりだ宇宙をどうする気だ」

「お前はどこまでも罪深い男だなガイ、こいつの気持ちを踏みにじるくせに簡単に求めて壊していく」

「そんなことはない、それよりも宇宙をどうするつもりだ」

「人間ってのは難しいもんだなぁ、簡単に甘い言葉に落ちちまう」

人間体に戻ったジャグラーの指が宇宙の唇をなぞるように触れた、気絶をした宇宙は反応をせずにジャグラーの腕の中のままだった
ガイの心の内は穏やかではなかった、今すぐにその腕から宇宙を奪い去りたいと思うほどには焦りを抱いた

「まぁいい、最後に言ってやるよガイ、こいつを手放すなら俺が奪う、心と体も俺に染めて食い殺してやる」

「…ジャグラー…」

名前を呼ぶことしか出来ずにジャグラーはガイに宇宙を渡すと消えてしまう
崩れたビルの中で眠る宇宙を見ては情事のように髪を撫でる

「俺は…どうしたらいいんだ教えてくれナターシャ」

「……ガイ?」

「宇宙起きたのか」

「うん、ごめんね助けてくれたんだ」

ゆっくりと起き上がり服のホコリを払った宇宙はガイをみるが、彼はなんとも言えない気まずそうな顔をしていた
ウルトラマンオーブについてを彼が気にしているのかそれともまた別のことを気にしているのか宇宙にはわかる訳もなく言葉も出なかった

「帰ろう、夕飯の支度しなきゃ」

「あぁ」

互いに何も話すことはなく歩き出す

その日の夜宇宙は随分と深い夢をみた、夏の暑さじゃないのに背中までびっしりと汗をかいて、どんな夢であったかはっきりとは言えないが、大切な人を失う夢だった
ガイが目の前で立って、近づいた宇宙を突き飛ばした

『宇宙じゃ、ダメだ』

金縛りにあったように体は動かずに反論しようにも声も出ずにただ心の中で何度も名前を呼んだ、呼び続けてもガイは振り向くこともなくいつの間にか両手足は重たい枷に縛られていた


「ガイ?」

目を覚ました時、窓は空いていた、隣の温もりは消えてまるで何も無かったように





目の前で人を亡くすことが何よりも恐ろしいと感じたのは自分によくしてくれた少女、ナターシャがいたからだろう
あの日あの時彼女を失わずにすんだら今より臆病ではなかっただろうと思った
風呂を終えて狭いベッドの中で自分の腕の中で眠る女性は何とも形容しがたい関係で、それでも大切な人だと認識はしっかりしており、何度も人間同士の愛を育んだつもりだ
甘い声で時に名前を呼ばれ、怒られるように呼ばれて、悲しむように呼ばれて、嬉しそうに呼ばれて、何万回と名前を呼ばれたのだろうかと思っては心はまるで光を当てられたように暖かく心地よかった

狭いベッドを買い換えようと何度も言う宇宙に帰ってくることはそんなにないからと言って断りを入れながら、毎日通いつめる時もあった
温もりを失いたくなくて心地良さに甘えていたのだと今思えば理解してしまう

「愛してる、好きだ…でもわからないんだ」

この愛というものが本当に人間の感情だというならば、何故ここまでも胸を締め付けるのか、何故ここまで悲しいと感じるのか
どんなに厳しい環境にも対応してきたつもりだった、女を知らない訳でもない、それでもその感情をはっきりと知らなかった

「すまない…いつでも俺はお前を見てる、お前を愛してるんだ」

背中に回されていた手を取って口付ける、これが終わりだというならばそれでいいと
人間を知らない訳では無いが、それでも違った、心地良さに怯えてしまう
そっと荷物を持って窓から逃げるように飛び出した、もう二度と思い出さないでほしいと最後まで自分のエゴを彼女に願って、外の蝉は夏の夜空の静けさと反対にうるさい程に泣いていた