伏見臣




家を飛び出したのは21歳、右も左もわからずに兎に角この街にはいたくないと西から東へ飛んで、わけも分からずに生きていればまぁ悪いようにはならずにいつの間にかいろんな人に出会うものだと思った

「すみません、布地屋月光花の四条小雪です」

「はーい、少し待ってください」

相も変わらずこのMANKAIカンパニーの寮は人が多く忙しそうだと感じながら手に持っている商品を確認しながら待っていた

「お待たせしました」

「あ」

「小雪か、どうした」

「あのいづみさん達に頼まれてた、商品届けに来たんだけど」

「あー、中入ってていから待っててもらえるか?」

ドアを開けた途端に身長の低い小雪は随分と見上げた、190cmというのは日本人にしてはそれなりに大きく外国人程だろう、中に通されてスリッパを借りればもう時期公演がまた始まるためかバタバタとしていた
監督でありこの劇団のリーダーである立花いづみがいない今は基本的によく動いてくれるメンバーも限られることだろう
軽く挨拶をされてはみんなどこかに行ってしまうのを見て商品を全てテーブルの上に置いた

「ごめんな、お待たせ監督に聞いたから大丈夫だ、それでえっといくらだっけ」

「はい、全部で8万と7460円です」

「荷物重たかったろ、細いのに」

「お仕事だから慣れてます」

「えらいな小雪は」

そう言われるたびに小雪は内心年上なのにと思えるが嬉しくもあった、伏見臣は優しく頼りがいもありなんでも器用に卒なくこなすイメージが強くあった

「帰り送ってくよ」

「ありがとうございます」

そんな彼と出会ったのもこの寮でこんな荷物の受け渡し日
告白をされたのも帰り道で小雪からすれば特別な人になった、とはいえからかわれているのだとも初めは思えていたがそこまで性格が悪い訳でもない臣に対して小雪は内心謝った

「手、握っていいか?」

「うん、今度の舞台臣くんも出るんだよね」

「あぁ主役で出るからまたチケット送るよ、また3人で来てくれ」

「うん、お婆ちゃんもおじいちゃんも喜ぶと思う」

小雪は京都の厳しい家の一人娘だった、日本の歴史だと言われた日本舞踏を継ぐ家であり厳しく小雪には世界を見つけられなかった
耐えきれなくなり21歳にして飛び出したこの街で腹を空かせる小雪を拾ったのはその布地屋月光花という店の亭主とその妻だった

「小雪も1人前だな」

「私なんかまだまだ、いつかお婆ちゃんみたいに皆の服を作ることも出来るように…布だって作れたらいいけど」

「これからだろ、だがそうだな…作るなら1番最初は俺にしてほしいな、なんてワガママだよな」

「そっそんわけありません!臣さんのためなら…」

思わず大きな声を出した小雪に驚いた臣と反対に耳まで赤くさせた小雪は心臓を高鳴らせた

「なら俺のためにいつか一張羅を頼む…そうだな、その時の礼は俺が毎日小雪に味噌汁でも作るか」

「…臣さん、それはその」

「ん?あぁうん、今はまだ少し早いがな」

いつかその時が来た時は隣を歩いてほしい、等と言うものだから小雪は言葉も出ずに小さく頷いて握った手を強くした
店の近くで手を離そうと名残惜しく見つめればまた明日も会えると言い聞かせて臣をみた

「今晩また連絡入れるから」

「はい、待ってるね」

ようやく離した手と同時に臣の腰が折られて小雪の顔に近づいた、少しだけ背伸びをした小雪が臣の唇を奪った
最後に1度臣の手が彼女の頭を撫でて気をつけて、と店の前でありながらそういって言ったのを見送り店に入る

「…袴か、タキシードどっちがいいんやろ」

まだまだ先でありながら誰にも聞こえないようにそう呟いたあと「ただいま」とようやく言葉に出来るのだった。


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