いつしかそれは普通になる


初めの頃は誰だって躊躇し、迷った、けれどいつしかそれが普通だと感じ始めた時、人間は感情もなく散りゆく英雄を見た

「お前は……間違っちゃいない…」

その言葉を聞くのは何度目か、東方の大英雄アーラシュを召喚したのは今から約7ヶ月前であった、かの魔術王ソロモンの人類史を塗り潰すという事に対してカルデアに残されたのは新人マスター3人だった
元々補助要因であり、魔術という存在さえ知らなかった3人は一人一人サーヴァントと契約した、澪はマスターの前にこのカルデアでは職員のポジションだった、幼いながらも機械のプロであり魔術も知識はあれど能力はからっきし
そんな彼女がある日目を覚まし、寝ぼけ眼をこすった時に見えたのは間違えることもない令呪であった、魔術の心得も何一つないまだ幼い彼女が新人マスターとしてやり始めたのはちょうど特異点セプテムの聖杯回収を終わらせてすぐだった


「そろそろ澪ちゃんにも召喚をしてもらおうかと、戦力は少ないより多いほうがいいからね」

そういったカルデア1の美貌を持つ不思議な天才サーヴァント、ダ・ヴィンチは彼女の尊敬する一人の特別名誉顧問
仲良くなった歳の近い姉弟マスター、藤丸立花と藤丸立香は優しくそして緊張しないようにといった
サーヴァントにもランクがあるらしく、姉である藤丸立花の相棒はインドのマハーバーラタの英雄アルジュナ
もう一方弟である藤丸立香の相棒サーヴァントは日本でも聞いたことのあるであろう、清姫であった
そして、2人を慕う優しい後輩でありデミサーヴァントのマシュ・キリエライト

澪はあまり自分に自信がなかった、いつもサポートに回る彼女が前線でましてや戦争のような場所に放り投げられる等と
それからの日々は自分でも努力し、筋肉をつけるためにトレーニングに勤しんだ
魔術についても調べダ・ヴィンチに教えを乞い、その結果彼女は藤丸たち同等…いや、以上に一般的なマスターとなり、今のカルデアの戦力になりうる存在となった

「心配しなくていい、力を抜いて…そう、じゃあやるからね」

今回は私が用意してあげようと言って渡された3つの虹色の石は、このカルデアの召喚システムに欠かせないもので
これがなければまず召喚機の起動さえ出来ない、ゆっくりと円陣が周り召喚室に3つの線が出された
鋭い風の眩しいほどの光、思わず目を瞑って風を避けようと顔の前にやり、その隙間から覗いた先に見えたのは、褐色の肌に弓を持ち黒い髪をした青年だった

「東方の大英雄、アーラシュとは俺のことだ。よろしくな」

「えっ…ぁ、澪って言いますよろしくお願いします、アーラシュ」

「小さいなぁ食ってるのか?」

ゆっくりと歩いてやってくる彼を日本人である澪が知るわけもない、何せ日本では知名度がほぼ0に等しい存在
そんな彼を召喚し、旅を続けた、アーラシュという英霊は性格がおおらかで兄貴肌で優しく人見知りをして少々怖がりな澪の良きパートナーとなった
彼の宝具はまさに強大であり、そして何より彼を滅ぼした、けれどカルデアのシステム上彼が滅んだとしても戻ればまたすぐに会えた


安心しきっていたのだろう
彼が宝具を解放すれば敵は砕け散る、彼とともに
優しいその笑顔に強いその声に、甘えてしまっていたのかもしれない、つい最近藤丸立香が召喚したというエレシュキガルを強くするために素材を集めに行った時だった
敵はランサーであり不利ではあるが、いつも通り倒せるはずだと思い彼女はいった

「アーラシュ、宝具解放を」

「いいだろう…!」

その大きな咆哮が澪の胸に響いた時、何故か悪い夢を見るように感じたのだ
これはダメだと、してはならない、いつも通りのチームだった、アーラシュにアルトリアリリィにフランケンシュタインという好んで連れていた3人、何か違う宝具を使ってはならない
そんな気がして、彼が宝具を叫び光った時に澪は彼に手を伸ばした

「アーラシュダメっ!!」
「流星一条ァァ!」

澪と彼の声が重なり大きな爆破音が聞こえた、金色の砂のようなものと共に消えようとするアーラシュはいつも通りのセリフを吐いた

「お前は…間違っちゃいない」

その瞬間澪は腰を抜かしたように地面に座り込んだ
貴方は英雄であり、ただ一人の人間だったと彼女は思い出した

「マスター!」

リリィとフランの足音が近づく中で彼女は泣きながら呟いた

「……どうしよう…私、私がアーラシュを……殺したんだ」

どうにか彼女を連れ帰ったアルトリアリリィとフランケンシュタインの2人は早急にドクターロマンの元に彼女を連れていった

「ねぇ、先生…アーラシュはいる?」

「え…彼ならさっきのレイシフトでいなかったかい?まだみてないけど」

ロマンの言葉に澪は顔を青白くさせて走った、いつも戻ってきた時に彼は澪に分かるように彼女のマイルームにいるからだ、今回もそうだと信じてた
息を切らしながら広いカルデアを走った、手足がちぎれるほどに痛いような気がして、ドアロックを解除した、いつも通り彼が出迎えてくれるだろうと予想していた

「…アーラシュ」

誰もそこにはいなかった、互いに契約をしているサーヴァントならばパスが繋がって魔力の気配も感じるはずが感じない
何も無かったように、どれだけデータを調べてもこのカルデアにはアーラシュは居らず、先程の戦闘でカルデアではなく本当の英霊の座に帰ったのだと悟った

「マスター?」

「…ごめんなさいっ…ごめっ…私…あの人を、アーラシュをっ」

殺したんだ

彼女の声はあまりにもその暗い部屋に響くように聞こえた、あとを追いかけてきたロマンにダ・ヴィンチ、藤丸姉弟もそんな彼女を見て何一つ声をかけることも出来ず、生気のない彼女はプツリと糸が切れたように床にひれ伏した
一層の事死ねたらよかったのにと彼女は思えるほどに自分を憎み続けた。