貴方を呪いにきました

あの一件から2週間、人類の滅亡は進んでいた特異点イプルーリバスイナムの魔神柱を倒し終えてボロボロに戻ってきた藤丸達は自分たちのメディカルチェックがてらに澪の話を聞いた

「あれから澪さんはどうなってるんですか」

「…変わらないよ、部屋からも出ないし食事も勿論、あの状態じゃマスター以前に人として機能しなくなる」

「じゃあ澪さんはどうすれば!」

大きく声を張り上げた立香の答えは誰もが思っていた、ロマンにそう怒鳴るように言った彼は一言謝った、今彼にぶつけても飼われないのだ
澪とアーラシュの仲は誰が見ても仲睦まじく、心から繋がっていることが分かっていた、信頼しあい、背中を預け、その為ならば自分を犠牲にしても構わないと本気で思っていたのだ
けれどいざそうなった時、彼女に受け入れられる程のメンタルはなかった、通常の魔術師ならば受け入れたのかもしれない、このカルデアの召喚システムを使えば新たなそして強力なサーヴァントを呼べる、それでも彼女は心に決めたパートナーを選び続けた、それがこの結果で終わるなどと思うはずがなかった
カルデアでの霊機のバグだと知らされた時、彼女も関与していた
それ故にさらに自分を責め続けた

「すまないが、彼女には最後の特異点に向かってもらうよ」

「…ダ・ヴィンチちゃん」

「あんな身で行けるわけ」

「分かってるさ、過酷な環境で若い君たちにしか…もう私たちは縋れない…でも足りないんだ戦力が」

それなら自分たちが全力を出せばいいと言いたかった、けれどそれをするにしても限界があった、2人の心身は澪とはまた違う形でボロボロであった
ダ・ヴィンチの言葉は的を得ていた、ロマンもそれに否定はできない、今の世界でどうすべきか分かっていた、たった一人の少女の体も治せない
サーヴァントたちはそんな幼いマスターたちを心配した、澪は顔を見せるわけでもなく来客を拒むこともなく彼女は静かに過ごした、マリーアントワネットの膝でただひたすら彼女は祈っていた、アーラシュが戻ることを


「傷を開いてでも彼女には立ってもらわなければならないんだよ」

ダ・ヴィンチの言葉に反論もできない、最高権利者になったロマニさえ否定は出来ず、その為に彼らは出来うる限りの行動をし始めた
彼女のマイルームに顔を出して話をして帰る日々を1週間続けた

「澪、私は君に残酷なことを言うかもしれない」

「…」

「もう一度マスターとして立ってほしい、だから召喚をしてもらわなきゃならない」

「…どうして、私なんですか、他にもマスターはいるじゃないですか」

「それでも力が足りないんだ、君だって知ってるはずだろう」

「また、殺したらどうするの」

彼女は幼い18歳の娘だ、人を殺すことを受け入れることも出来ずに泣き喚くだけだ
ダ・ヴィンチは彼女にどこまでも話し続けた、手を引いて召喚室の中に入る
第6特異点が発見された今早く戦力が欲しかった、澪のメンタルで行くことは困難であるがそれでも足りなかった
涙を流しながら召喚室の床に座り込んで彼女は喚いた、召喚をしたくないもう二度と誰も傷つけたくないと

「なら、君が殺したサーヴァントは?敵とはいえ殺してきたサーヴァントや、人間達は?」

「え」

「懺悔したいなら勝手にしたらいい、だが生き残ったんだ君もあのコフィンに眠るマスターたちの代わりに、なら償わなきゃダメなんじゃないかい」

「…そんなこと」

分かってると言葉を出そうとしたが出てこなかった、アーラシュカマンガーの優しい手を温もりも思い出した
声も出ずに泣いて彼女は召喚室に一人きりにされた、簡易結界を貼ったのか出されることもなく、ダ・ヴィンチ達が本気で自分をマスターとして立ち上がらせるのかと思った、手渡された3つの虹色の石が嫌に光り輝いて彼女は部屋の隅に座り込んだ

「アンタは聖杯を掴んだら何を願うんだ?」

このカルデアではマスターとサーヴァントの交流がてら質問をし合うことがあった
インタビューのようなもので、聖杯についてを問う彼女にそう聞いたアーラシュはまるでその願望器を知っているような話し方をした

「なんでも願いが叶うんだよね」

「あぁ、億万長者も不老不死も何だってな」

「…それならこれが終わってもアーラシュといたいな、そしたら私の家で家族に紹介するしさ、でもって日本で私の好きなとこいっぱい案内してあげるね」

「いいな、俺も楽しみだ、俺も日本の記憶はうっすらあるが澪のいた場所とはまた違うんだろうな」

楽しそうに笑って教えてくれるアーラシュの言葉に笑う、ベッドに寝転んだ澪の頭を優しく撫でるアーラシュに目を細めて見つめる
愛おしそうに彼の指先が撫でるものだから澪は嬉しく話をして見つめる、この先も傷ついても互いの背中を預けれると信じたから


「アーラシュ」

自分の左手にあるミサンガは自分の学生時代に友達同士で作り合うのだと話していたのを知って互いに送りあったものだ、オレンジに黄色に赤色の3色のミサンガは白い肌を彩った
前を見なければならない、立ち上がり、女だとしても守られてばかりではいけない
詠唱を唱えることもなく澪は立ち上がり、円陣の真ん中に石を投げ落とせばそれはまるで水に飲まれるように落ちていく、光り輝き回転が始まる、三本の線が見える
高鳴る心臓は嬉しさではなく緊張のせいだろう、震える指先で彼女は手を伸ばす

「おねがい…私の召喚に…応えて」

祈るようにそう告げれば大きく風が吹き荒れる、伸ばした令呪のある左手にバチバチと大きな音がなり火花が散る
手首に巻いていたミサンガがゆっくりと千切れていくのをみて澪は必死にそれが壊れないようにと抑えるが意味もなくそれは千切れ、風と共に舞う

黒い髪に褐色の肌にまるで血のようにどす黒い色をした赤色の瞳

「東方の大英雄、アーラシュとは俺のことだ…あぁ、あんたか」

息が止まる
声も何もかも彼だった、アーラシュカマンガー
心臓が止まりそうな程で、男がゆっくりと近づいていく、怯えたように澪は1歩ずつ逃げるように下がる

「久しぶりだなぁ、3週間ぶりか俺のこと忘れたか?酷いなぁマスター」

「やめて…アーラシュのふりをしないで」

「俺のこと、殺してどうだった?」

追い詰められた澪はアーラシュに怯えきった、楽しそうに近づいて彼女を嘲笑う
召喚したためか結界が外れカメラかなにかで見ていたらしいマスター2人とロマンにダ・ヴィンチが走るようにやってきては、信じられないものを見るように目の前にいるアーラシュをみた

「よぉ初めましてだな、東方の大英雄アーラシュだ宜しくな」

「あっあぁ宜しく」

「1つ訂正させてもらおう、お前はアーラシュの反転した姿だろう」

ダ・ヴィンチの神妙な顔つきでそういえばアーラシュは呆気を取られた顔を一瞬したあとに大きく笑った
召喚室に響く彼の声は何も変わらないアーラシュ本人の声だ

「あぁそうだ、俺のクラスはアヴェンジャー…復讐者さ、英雄とアレと願った人間達を心のどこか狙った俺の奥底の一つ」

まぁ能力はそんなに変わらないがな、といいながらどこからともなく現れた弓は確かにアーラシュの弓矢作成の能力であった

「まぁなんだ、そんなに心配することない自分のマスターだから取って食おうなんざ思っちゃいないさ」

澪はロマンの腕の中から彼をひっそりと見た
何も変わらない大英雄アーラシュはそんな彼女と目を合わせて嗤う、まるで彼女を殺しに来たと言わんばかりに。